今回の話は正直言って読んで下さらなくても支障はありません、あえて状況をぼかして曖昧な描写にしています。人によってはこれまでで一番、酷く読みづらいものとなっていますので予めご了承ください。
なお前回から唐突に(最初の鬼を除けば)出てきたオリキャラですが基本的に覚えていただく必要はありません。唯一物語で続投するのは今回の人物だけですが…やはり読み飛ばしていただいて結構です。
その昔童が、いた。
その村にしては小さな頃から見目麗しく、将来は引く手数多だろうと噂の童。
百姓の生まれで辺りの田畑の大部分を所有する豪農の子。名を『さね』といった。
父は朴訥だが優しく、母は早くに亡くしたが下の弟と合わせ三人で穏やかな日々を送っていた。
そんな幸せが壊れたのは、些細な悪意によってだった。
__あそこの家はなぜあんなに裕福なんじゃろう。
__ずるいのう、ずるいのう。
__ちょいと、困らせたろう。
どれだけ清廉に暮らそうと、どれだけ潔癖に生きようと、何処にでも妬む人間というものは存在する。
__
それは村でもあまり裕福でない子供の只の嫉妬。誰しもが一度は思い、その浅ましさを恥じ、心から消し去る気の迷い。
だが、その日はたまたま虫の居所が悪かった。
箍は外れかかっていた。
__あれ…?うわっ!
その日はたまたま風が強かった。
__火がっ!いや、違う。わしはただ……そうじゃ、わしじゃない、知らんっ!
助けを呼ぶこともせず、我関せずと下手人は去り、たちまち火は勢いを増していく。
ごうごうと炎は猛り、火の粉を撒き散らし風に乗りとぐろを巻く。田畑を焼き尽くし果ては住処に、その火は家族を飲み込んだ。
__なんだ…?火事か?
はじめに気がついたのは父だった。季節外れの蒸し暑さに目を覚ますと視界には地獄が顕現していた。
寝台を取り囲む火、火、火。呼吸をするたび喉が干上がる。
__……なんという、ことだ。子供達はっ!
黒煙で明瞭とはいえない家の中を火傷を負うこと厭わず、ただ必死に駆ける。苦労して建てた広い家が今はただ煩わしかった。
__あついねぇ、姉ちゃん。
__そうだね、◼︎◼︎。
子供達は父より先に目覚めていた、だが幼い弟を抱えた姉はどうすることもできず、ただじっと助けが来るのを待っていた。
この時、弟は三歳。さねは十を迎えたばかりである。
__おふろより、あっついねぇ。
__そう、だね。
火はますます強くなっていく。
__父ちゃんは?
__さあ……どこだろうね。
__なんだか怖いよう、姉ちゃん。
__大丈夫だから、ね。
次第に弟は幼心にも事態を把握しかけているようでだんだんと愚図りだした。
__ほんとう?ほんとうにだいじょうぶなの?
背中が、焼ける。
__なんだかくらいよう、あついよう。
髪が、燃えている。
__目がいたいよう、くらくらするよう。
それでも、弟だけは。
__あついよう、姉ちゃん。
嗚呼、熱い。
火は、炎は、焔は、悪意は、嫉妬は、無自覚な殺意となって襲い来る。
遠く、百年も昔の話。
私の終わりと始まりの日だ。
「それで?」
__結局、弟は死んでいて、父も私達の元に辿り着く前にくたばっていました。
「なら何故お前は生きている」
__……っ…あのお方は『戯れ』と。
「とくに意味はない、か」
__『
「
__ええ……その解釈で合っているかと。
「くだらん験担ぎだ。お前が生き残ったのはただの偶然に過ぎん」
__………はい。
「事実日光を克服したわけではないだろう」
__はい。
「存外に人【くさい】な。鬼舞辻も」
__あの方は寂しそうでした……誰かの温もりを求めて、彷徨っているような。
「………」
__だから私は鬼になった、もう何も残っていなかったから。家族は死に、家は焼け、食い扶持も失った。だからせめてどんな形でもいいから誰かと繋がりが欲しかった…優しくもなく、細く弱い糸でしたがそれで十分でした。
「救えんな……この、蒙昧が」
__どうして、そんなことを仰るのですか。
「細く、弱いだと?聞いて呆れる。お前が無惨の事を口に出すことができるのはな、私がこうして【血抜き】をしているからだ」
__なに、を。
「再生限界の寸前まで斬り刻み、内包する鬼舞辻無惨の血を抜く。そうすることによって一時的だが呪いが外れる……まあ正しくは存在を把握させないほど弱らせているのだがな」
__…だからこうして、敵に屈しているのではありませんかっ!
「方法の話でも、結果でもない。問題なのはそこまでしなければこの状況を作れないという一点。……なんとも太く、強くて、粘着な糸だが?」
__なれば、なれば私がそれ程までに信用されているという証拠ではないですか!
「逆だ阿呆、信用されてもいないし信頼されてもいない。どうしよもうなく、疑い深いから軛を負わすのだろうが」
__そんな……ことは、ない。
「だいたい先のお前が鬼になった発端の火事……放火の件だが、やったのが村の子供だと確認しての発言だろうな?」
__それは……無惨様が。
「奴が言っただけか。頼りない……細い根拠だ、当人は?」
__その火事で、結局村そのものが焼け落ちましたから……生存者は、私だけです。
「…………馬鹿、が。私なら、私が無惨でお前のことを『戯れ』だと言うのならば自分でする」
__うそ、です。そんな、こと、あるはずが御座いません。
「いいや、そうする。必ずする、奴ならば…あの神経質な男ならば【偶然】など頼らない。人を見下し、他者を嘲笑い、民草を食料としてしか見ていない男が自身の手が介入していない事象へ頼るものか」
__そんな…そんな、鬼の様な所業が許されて良い筈がありません!
「…忘るるなかれよ。お前は、何だ?」
__え……あ、ああ。
「紛れもなく、鬼。そしてお前をそんな【ざま】にしたのもまた鬼だろう?」
__嘘だ。
「嘘なものか、本当だとも。虚飾にまみれているのはお前の百年間だ、いくつ殺した?いくつ命を弄んできた?巫山戯るのも大概にしろよ化物が、ああ気持ちが悪い、醜悪な鬼め。お前なんかさっさと死ねば良いのだ、世のため人のため【あの人】の為にならんのなら死んでしまえよ、今すぐに」
__私は……わた、しは。いや…違うのです、嘘でしょう、無惨様。
「どうした、どうした?なあ鬼よ。今更後悔か?今更懺悔かよ呆れる愚鈍さだな……けど、まあ良いよ。許そうじゃないか」
__そんな、こと。こんな、なら私は何のためにここまで…
「聞けよ」
刀が、閃く。眼前の鬼の肩を抉る。
__あぐっ……ぁあっあ。
「貴女は運が良い。だって役に立てるのだから、だってあの人の糧になるのだから。かはは…あははは、ああ、笑えないな」
ぐじぐじと、嬲る様に傷を広げる。
__いっ!ぇあ、ぐ、ぁ。
「なあ何であたしが【側付き】から外されなきゃいけないんだ?……お館様の命だからしようがないんだけどな」
___やっ、ぎぃぐぁ、あ!
「些細で瑣末なこと、だよな。あたしはもっと見ていたいのに焼き付けていたいのにあの人の側に居なけりゃいけないのに……!」
__やめ、て。
「はい?」
手を止める。右手の日輪刀は真紅に濡れている。その刀身には【碧】が見え隠れしていた。
___もう、堪忍して、ください。
鬼は、懇願する。
__もう、分かりました…から。
おびただしいほどの血を撒き散らし、今なお身体から、傷口から流れ出ずる赤を被り、齢百十の童は懇願する。
__痛い、のは、嫌です。
人として生きた時間は十年。いくら口調を正しても、いくら知識を習得しようと結局
__なんでもします、から。
鬼としての時間は心を成長させなかった、命を喰らおうとも、他者を取り込もうともそれは永劫変わることはない。
永遠の童。それが港を騒がす鬼の正体だった。
「なんでも、か。じゃあ今から言うことをよく聞くこと」
ぴん、と指を三本立てる。
「一、貴女はこれより三日後までの命です」
一つ、折る。
「二、貴女はその日まで人を喰ってはいけません……外出するのは別に構わないよ」
一つ、折る。
「三、生きるか死ぬかは貴女次第……三日後に宇髄天元という隊士が鬼狩に来ます、それを全力で殺しにかかること。見事その男を降すことが出来たら見逃してあげます」
一つ、折る。
【少女】が、折る。
「以上、御質問はありませんか?」
鬼__さねはゆっくりと頷いた。
聞きたいことは山ほどある、だがそれを許す雰囲気は眼前の少女から微塵も感じられなかった。
__今この時をやり過ごせるのならば、未来の自分なぞ知ったことか。
例え三日後に死ぬとしても、例え見逃すという話が嘘だとしても、今のさねにはただ首を縦に振ること以外はできはしなかった。
「では、今日のところはこれまで。あたしも事後処理がありますので……ああ、それとも此奴らも【使い】ますか?」
そう言って少女は隊士の【亡骸】に指を指す。
「甲が聞いて呆れます。貴女の様な雑魚鬼に遅れを取るなんて……まあどうでもいいことですけど」
__い、頂けるのならば。
「いいですよ、あげます。処理が省けますし、何よりあたし弱い人は大嫌いなので……同士の亡骸ですが、有効活用できるのならばそれで良し」
あっさりと少女は了承し、機嫌良さげに言葉紡ぐ。
「これで後は宇髄天元の見定め…あの人が近くにいるとはいえ索敵能力、状況判断、その他の客観的な評価を……って面倒くさいですがそれはそれ、遠くからでも御姿を拝見できるのならば僥倖、むしろそれが本命です」
笑う、少女は笑う。
かんらかんらと血に濡れて、眼はどろりと濁っている。
「あははは、うははは、かは、は……違うな…きゃはははは?」
鬼と、少女と、死体がふたつ。
「気分が良いなあ。雑魚は死んで、目的は達成し、あの人をまた【感じられる】……ああ今日は、なんという」
__なんという。
「吉日だ」
_凶日だ。
少女は、
絶望より救いし彼の人に焦がれ、追い求め、縋り【付ける】モノ。
その神域に指を掛けるものであり、人として唯一煉獄景寿郎に傷を負わせた者である。
なぞり、模倣し、取り込み、吸収し、糧とし、陶酔し、崇拝し、傾倒し、そして何より愛していた。
蓮華は、愛している。
どうしようもないほどに、煉獄景寿郎を愛していた。
景寿郎の強さですが、心技体を10段階として継国縁壱を10.10.10とするならば彼は現時点では1.10.6です。
ですので半ば意地なのですがオリ主最強タグは付けたくはないですしこれから付くこともありません。
ちなみに蓮華は4.7.4。技だけは瞬間的に9.5くらいにいく感覚です(景寿郎が近くにいる場合)
前書き後書き共にだらだらと書いてしまいましたが今回のタイトルは二つの候補から選んだものでもう片方は『誰も彼もが見誤る』でした。それはさねに対する無惨への感情であり、蓮華の景寿郎とは違った話の通じなさであったり。全体を通して『無意味』がテーマでした(読まなくてもいい事を含め)