炎々と生きる   作:たぬきち祭り

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時透無一郎 上

霞柱 時透無一郎の朝は早い。

 

 

外はまだ暗く、日の出まではもうしばし時がかかる時分に無一郎はのそりと寝台から起き、緩慢な動作で伸びをした後両頬を『ぴしゃり』と叩いた。

 

「………眠い」

 

常、その行為は行われるがこれで眠気が覚めた試しはない。

そうしたあと無一郎は寝惚け眼で台所へと移動する。ふらふらと左右に揺れながら歩く姿はどこか危うい。

 

「えっと……どこだったかな」

 

台所に立ち、しばし右往左往、片端から引き出しを開けて中のものを物色する。

どうやら記憶を無くす以前の自分はこの手の型の台所を使った覚えがないようで、耀哉より柱としての住処を与えられてはや十日_未だにどこに何があるのか把握出来ていない。

 

「面倒だなぁ」

 

__包丁は……どこに仕舞ったかな?

 

無一郎はぼやきつつ食材を取り出しながら調理に取り掛かる。その手つきは慣れたもので、あっという間に下拵えを終わらせた。

 

__昔も、こんな風に過ごしてたのかな。

 

設備には不慣れなれど調理をする時は勝手に手が動く、それは恐らく過去の経験から来るものだ。

 

欠けた、というよりはある時を境にぷつんと『無い』自身の過去。

ただ己の名前と、何かに襲われた記憶だけは確かに覚えていた。

 

その何かは、鬼という『らしい』。

 

どうやら自分はソレに襲われた『らしい』。

 

そして鬼殺隊に拾われ、お館様に出会い、その存在の醜悪さを知った。

 

そして己はどうやら始まりの呼吸とやらを使う剣士の子孫『らしい』。

 

 

だが。

 

 

「……どうでもいいや、そんなこと」

 

浮かんできた判然としない思いを無一郎は一蹴する。それはあまり『今』の自分には関係が無いと考えているからだ。

 

__なんであれ、僕はお館様に命を救われた。

 

分かっているのはそれだけで十分だ。

 

 

鬼だというのならば切って捨てよう。

 

 

強い剣士の子孫だというのならば才能はあるだろう。

 

 

無一郎には記憶が無い故の諦観が常日頃からつきまとっている。それは心を守ろうと防衛本能がそうさせたのか、無一郎は酷く物忘れが激しかった。

より正確に言うならば記憶の有無で重要度を判断していた。

 

自分が覚えていないことならば、それはきっと些細なことなのだろう。

 

それが時透無一郎、十三歳の在り方だった。

不思議と剣は手に馴染み、風の呼吸から入り気づけば『霞の呼吸』という己独自の型へと変化させあれよあれよと霞柱。

この間僅か二ヶ月である。

それが一般的に見れば異常な速度の躍進であることに無一郎は気がついてはいなかったが、当然他の隊士に良い顔はされなかった。

 

妬み、嫉みの類の罵詈雑言を浴びせられたこともままあったし、それは柱に就任してからも数は少なくなれど消えることは無かった。

 

「………別に気にしていないけど」

 

あらかた調理を終え火のついた竃をじっと見ながら無一郎は個性豊かな同僚達のことを思い返していた。

 

 

__気にすることはないぞ時透!君は立派に務めを果たしている、俺がそれを保障しよう‼︎

 

意気軒昂にして自他共に認める快男児である『炎柱』煉獄杏寿郎。

 

__放っておけよ瑣末なことさ、大事なのは手前がどう生きるかだ。無論、男なれば俺の様に派手になりな!

 

経験豊富にして派手を司る神を自称する元忍び『音柱』宇髄天元。

 

__無一郎君は頑張り屋さんですね、貴方を見ていると私もまだまだ…日々精進です。

 

化学(ばけがく)に精通し、毒をもって鬼を制す『蟲柱』胡蝶しのぶ。

 

__その歳で柱に成れるなんて、凄いことだわ。カッコいいわ、無一郎君。

 

摩訶不思議な異彩を放つ日輪刀をつかい、怪力無双にして恋する乙女『恋柱』甘露寺蜜璃。

 

__ンな雑魚の言うことなんざ屁みたいなもんだ…余計なこと考えてんじゃねえよ。

 

内に宿る怒り全てを原動力に、ただ鏖殺する。そのさま狂気なれどその忠義は誰より厚い『風柱』不死川実弥。

 

__どだい気にするたちではないだろう?お前はただ鬼を殺せばいいんだ。

 

異様な風体、高圧的な態度の裏にあるのは確かな実力『蛇柱』伊黒小芭内。

 

__………気にするな。彼等も悪気があるわけではない。

 

朴訥で、いまいち考えが読めない『水柱』冨岡義勇。

 

__ただ己に問え、周囲を構うのはその後でいい。時透…我等は柱、揺らがず、慌てず、倒れない。そうした心持ちで常に居るといい。

 

名実共に隊士の頂点であり柱を長く務め、上記の曲者達の纏め役でもある『岩柱』悲鳴嶼行冥。

 

彼等は無一郎の置かれた現状に大なり小なり気遣う言葉を投げかけてくる。それがなんとも居心地悪くどうにも空回っている様な気がしてならない。

 

__そんなに、落ち込んでいる様に見えるのかな。

 

なんせ柱達からそう言われ、漸くそのことに気がついたくらいだ。無一郎にとってそれらの悪口は記憶にすら残らないもので、それを吐く彼等もまた柱と違い『どうでもいい』存在だった。

 

極論、弱者の哀れな主張である。

 

「そんなに言うなら成ればいいのに」

 

無一郎から言わせれば誰かを恨む時間があれば、その分鍛錬する方がよほど効率が良いと思っていた。

 

__結局、弱いから嫉妬するんだよ。

 

ならば強く成ればいい、別に自分はそれを咎めたりしないし気にも留めない。自分よりも柱に相応しいなら喜んで席を空け渡そう。

 

無一郎はそう考えている。

 

残念ながらそういった雰囲気が相手にも伝わり、余計に反感を買っていることに本人は気づいていない。

 

と、そんなことを考えていたら随分と時間が経っていたらしく竃にかけた鍋が沸騰していた。

 

「あれ……ああ、また間違えた」

 

鍋蓋を開け、中の様子を確認するとよく食材が煮えて食べ頃になってはいるが明らかに無一郎一人で食べるには量が多かった。

 

__なんでかなぁ、気をつけてはいるんだけど。

 

時折、ソレはおこった。

 

家周りで何事かをする際によく無一郎は数を間違えることがあった。客もいないのに複数人の食器や料理を用意してしまったり、一応予備として仕舞われている布団を何故か自分の横に敷いた時もある。

 

__何故だろう。

 

その度に無一郎は胸がずきずきと痛む気がした、身体には柱という立場上人一倍気を使っている筈なのにどうしてからえも言われぬ寂寥感と共にそれが襲い掛かってくる。

 

「僕は誰かと一緒に暮らしていたのかな?」

 

皿に鍋の中身をよそいながら無一郎はぽつりと呟いた。

 

普通に考えれば、この時世僅か十を少し過ぎたばかりの少年が一人で生きていくのは些か厳しいものがある。故に自分は恐らくは家族と暮らしていたはずなのだ。

 

「………全く、思い出せないや」

 

席に着き、朝食を食べながら誰にいうわけでもなく独白は続く。

 

きっとその思い出は自分には何の関係もない事で、仮に家族が居たとしても今此処で一人こうしているということはつまるところもう__。

 

「それとも僕はある日唐突に生まれた…とか?」

 

若干の嘲りを含み、そんな荒唐無稽なことを口に出す。

 

__そんなに間違っていないのかもしれない。

 

果たして今の自分は過去の時透無一郎と同一人物だと言えるのだろうか。

記憶が人を形作(かたちづく)るモノだとすれば己はほんの少し前に生まれただけの存在に過ぎないのではないだろうか?

 

「なんて……馬鹿みたいだ」

 

味も分からぬまま、食事を終え身支度を整える頃にはそんな下らない想いはとうに頭の中から消えていた。

 

玄関を開け、空を見ると朝日が昇っていた。

腰にさした日輪刀の重みを確認すると無一郎は歩を進める、目指すは旧産屋敷邸。

 

 

 

 

そこに彼がいる。

 

 

 

 

先程隊士の頂点に立つ者が行冥だと己は評していたが『剣士』としては別の人物に軍配があがるだろうと思っている。

そもそも岩柱の扱う武器はどう形容しても日輪『刀』とは言い難く、戦士として一流なれど剣士としては正確な評価はくだせない。

 

だからこと剣技に限り、およそ自分の知る中でもっとも強き者は別に居た。

 

そしてその男は柱ではなかった。

 

詳しい事情は知らないが元炎柱であり、現在は一時療養という形で任務にもでておらず隠匿のため産屋敷一族が住処を数年に一度変えた際に取り壊さなかった屋敷の一つに住んでいる。

 

その人物のことを無一郎が知ったのは初めて霞柱として柱合会議に参加した時である。

 

#

 

「無一郎、皆に挨拶を」

 

そう告げた耀哉の傍に控える無一郎は一歩前へ出て眼前の猛者達、柱へと挨拶する。

 

「ご紹介に預かりました…時透無一郎です。未だ若輩者では御座いますが…これから、何卒、宜しくお願い致し、ます」

 

__こんな感じ…かな?

 

慣れぬ口調で辿々しく言葉を紡ぎ一礼すると不意に頭を撫でられた。無一郎の長く、艶のある髪が痛まぬように絶妙な力加減で撫でる耀哉は後に続くように言葉を発した。

 

「と、いうわけでこの子が以前皆に話していた時透無一郎だ。どうかよろしくやってほしい」

 

「「「「御意に」」」」

 

柱達に嫌は無い、未だ幼い子供言えどお館様が認めた人物ならば此方がとやかく言うことでは無い。

 

「うん…さて、悪いがわたしは一足先に中へ戻るよ。無一郎はしばらく他の子らと歓談するといい」

 

そう言って体調が優れなかった中無理をしていた耀哉は妻、あまねの付添いの元、奥へと足早に去って行った。

 

__どうしようかな。

 

撫でられた頭がどうにも擽ったい。無一郎はさてここから自分はどうすれば良いのだろうと考える。

そして上体を起こして視線の先を見やると思いきり一人の男と目が合った。

 

「……ふむ。ううん、うん?ううむ……これは」

 

金糸の如き髪を靡かせ、鋭くも暖かな目付きをした男__煉獄杏寿郎は唸っている。

その杏寿郎の様子に横にいた図体の大きな、様々な装飾品を下品にならない程度に身につけた男__宇髄天元が口を挟んだ。

 

「どうした杏寿郎?この坊主に何か思うところでもあんのかよ」

 

「いや、そうではなくて…時透だったな!俺は炎柱煉獄杏寿郎、これから宜しく頼むぞ‼︎」

 

そういったずかずかと無一郎の方へ近付くと無遠慮に手を取り握手を交わしてくる。

 

「……どうも。あと態々名乗らなくていいよ、お館様から大体素性は聞いてるから」

 

__暑苦しいひとだな。

 

その態度が現れていたのか杏寿郎は手をぱっと離して大きく笑う。

 

「いや、すまんな!どうにも構いたくなってしまう雰囲気が時透にはある……歳はいくつだ?」

 

「……十三だけど、文句あるの?」

 

無一郎は少々棘のある言い方になっていることを自覚しながらも自身の心根を偽ることはなく杏寿郎へと応えた。

内心別段怒っているわけでは無かったが、今まで散々奇異の目で見られてきた無一郎はその探るような態度に辟易としていた。

 

気に留めているわけでは無いがこうも毎回似たような対応をされるのは嫌気がさす。

 

「若い!……うん若いな、これは…将来が楽しみだ‼︎」

 

「………え」

 

その言葉にぽかんとした顔をする己をよそに杏寿郎は任務があるからとすたすたと去って行った。

 

__なんだあれ、騒がしいな。

 

杏寿郎が去っていった方向を見ながらそう考えていると自分に影が差した。

振り返ると天元が此方を見下ろしている。

と、突然無一郎の脇に手を入れた天元はそのまま幼子に親がやるように持ち上げた。両者の身長差はかなりのもので無一郎は普段の自分では見慣れない視線の高さに驚きつつも冷静に天元へ語りかける。

 

「あの……なんで僕を持ち上げたの?」

 

「小さいな坊主…いや、時透。ちゃんと飯食ってんのか?軽いなあ、おい」

 

「いや、僕の話聞いてるの?」

 

「そんななりでこの先やってけるか、不安だねえ全く」

 

言葉は悪しかれどそこに含まれた感情はどこか嬉しそうだった。呵々と笑いながらひとしきり満足したのか天元は無一郎を降ろすと他の柱へと話しかける。

 

「どうだお前ら、煉獄は忙しそうだったが此奴の歓迎会でもしようじゃねえか」

 

お館様とは打って変わってぐしゃぐしゃと乱暴に髪を撫でられる、思わず手を払い無一郎は抗議する。

 

「…髪が跳ねるだろ」

 

「おお、悪いな」

 

悪びれず、口だけそう言った天元はそれでどうだと言わんばかりの視線を周囲にはしらせる。

 

と、そこで小柄な女_胡蝶しのぶが手を挙げた。

 

「私はこの後特に予定はありませんから構いませんよ、宇髄さん」

 

「私も、私も!時透……いいえ、無一郎君のこともっと知りたいわ!」

 

その流れに乗ってもう一人、桜色の髪をしたどこか慌ただしい雰囲気を感じる女__甘露寺蜜璃も参加の意思を告げる。

 

「僕は別にそんなのやらなくてもいいよ」

 

__面倒だな。

 

「馬鹿野郎、よく分からねえ相手と一緒に『仕事』が出来るか。これは勿論お前さんの為に開くもんだが俺達にだって利はあるぜ」

 

愚図る自分に向かって天元が諭す、流石にそこまで言われれば参加せざるを得ないと大人しく無一郎は待つことにした。

 

「俺は興味ねえな、柱同士の合同任務なんざ滅多にあるもんじゃねえ。お互いよろしくやってりゃ文句はねえさ」

 

「不死川と同じく、不参加だ。そこの童がどんな人間であれ、ようは実力があるからこそ柱に選ばれたのだろう?今更そんなものは不要だ」

 

そう言って二人の柱_不死川実弥と伊黒小芭内は去っていく。その様子を溜息をつきながら天元は残った人物へ問いかける。

 

「まあ、彼奴らが参加するとはかけらも考えちゃいなかったが……そんであんたはどうする?」

 

「すまない……宇髄、私も煉獄と同様にこれから任務が入っている」

 

低く、そう告げるのは悲鳴嶼行冥だった。両眼から滂沱の涙を流しながらその巨躯を折り視線を無一郎へと合わせる。

 

「え、と…なんでしょう?」

 

無一郎はその異様な雰囲気にのまれ自然と敬語になっていた。そして目を合わされたと同時にある事に気づくと戦慄した。

 

__この人、(めしい)だ。

 

よくよく見れば瞳は白濁しており、その目に無一郎の姿は写っていない。

 

__柱の中で在籍期間が一番長い人だとは聞いていたけれど…。

 

どれだけの研鑽を積めば、目に頼らずに戦うことが出来るのだろうか。

そもそも盲目にも関わらずいつ死ぬとも分からない鬼殺隊の中で、頂点の位である柱として君臨するその技量、胆力、精神性に無一郎は恐れに近い感情を抱いた。

 

__狂っているとしか思えない。

 

それは正しく狂気だった。無論、無一郎とて柱に選ばれた者として任務の中で命を散らす覚悟は出来ている。だが、それはあくまでも心体が健常であればこそ思うことだ。

 

ある日唐突に身体の一部を失うことがあるやも知れぬ、だが通常そうなればそこで『終わり』だ。

少なくとも隊士としてはやっていけないだろう、と思う。

 

__それをこの人は。

 

「時透無一郎……一つだけ、助言をしよう」

 

「なんですか?」

 

「君は幼くも柱としての責務を負うだけの『力』がある。……私としてはともかく、それは鬼殺隊にとってはきっと喜ばしいことなのだろう。だが過ぎたる才能はそれを繰る心が備わっていなければ自らを滅ぼす要因になりかねない」

 

行冥は無一郎がその言葉を理解できるようにゆっくりと、だが否定することは許さないとばかりに重々しく語る。

 

「私はかつて、その一歩手前まで辿り着いて『しまった』男のことを知っている」

 

__なんの話だ、これは。

 

助言というからにはさぞ含蓄のある話をされるかと思えばどうにも雰囲気がおかしい。行冥の話を聞いていた周囲の人は何やら苦虫を噛み潰した表情でじっとその言葉に耳を傾けていた。

唯一普段通り、というか先程と同様に何ともないように見えるのは柱最後の一人_冨岡義勇だけだった。

 

宇髄天元は忌々しそうに眉間にしわ寄せ。

 

甘露寺蜜璃は悲しそうに目を伏せて。

 

 

胡蝶しのぶは怒りを堪えるように震えていた。

 

「すまんな、時透。要領を得ないだろう」

 

目の前の行冥はそう言って苦笑すると背を伸ばし皆が出て行った方へと歩いて行く。

無一郎達からその姿が見えなくなる直前に立ち止まり、振り返って一言だけ呟いた。

 

「だから君は景寿郎のようにはなってくれるな……あんな思いはもう懲り懲りだ」

 

そうして行冥は去って行った。

 

__何だったんだろうか、今のは。

 

「景寿郎って……誰のこと?」

 

一番近くにいた天元にそう尋ねると歯切れの悪い返事が返ってくる。

 

「何というか……煉獄の兄貴でな。今はちょいとばかし休んではいるが、元柱でそりゃあ腕が立つのなんのって……まあ、色々あんだわ俺達にもよ」

 

__元柱?

 

少なくとも無一郎はそんな話を耀哉から聞いたことはなかった。休んでいるということは何れは柱として復帰するということだろうか?

 

「先生だ」

 

そんなことを思っていたら急に凛とした声が響いた。出元は少し遠くに立つ男、義勇からだった。

 

「お、おお……そういやお前さんも居たな。すっかり忘れてたわ、つか此奴の歓迎会に来んのか?」

 

意外だ、と言わんばかりに天元は義勇に話しかけた。それを皮切りに周囲の雰囲気は先程と同時に明るいものへ変わっていく。

 

「まさか参加するおつもりですか冨岡さん。貴方普段の会議ですらろくに人と話せないくせに初対面の時透君とまともに会話できるんですか?」

 

どこか揶揄うようにしのぶは義勇へ口を挟む。

 

「話せないんじゃない、俺は必要とあらば普通に会話することだって苦ではない」

 

「だったら日頃からもう少し口数を増やしてくれますか、朴訥も人によっては愛嬌ですが度が過ぎれば嫌われるんですよ」

 

「俺は嫌われていない」

 

「あらあら気づいてはいなかったんですね。それともあれですか?景寿郎さんに憧れてでもいるんですか?あの人はそれでやっていけてましたけど冨岡さんはどうですかねえ」

 

「先生とはよく話すぞ」

 

「どうせお互い『ああ……』とか『うん……』とかしか言ってないんでしょう前から思ってましたけどよくそれで会話が成立しますね、なんですか?長年連れ添った夫婦か何かですか?」

 

「もしかして胡蝶は俺が先生と通じ合っているのが羨ましいのか?」

 

「語弊を招く言い方をしないでくれますか、冨岡さん。だいたい年月で言えば私の方が遥かにあの人といた時間は長いんですからどちらかといえば私が妻です」

 

「しのぶちゃん、論点がすり替わっている上に願望が漏れているわ!」

 

喧喧諤諤、とまではいかないが場がにわかに騒がしくなるのを無一郎はぼうっと眺めていると横の天元が可笑しそうに笑う。

 

「どうだ…中々面白い奴らだろう?」

 

「まあ、悪くないんじゃない」

 

少なくとも先の雰囲気よりかは此方のほうがいい。

 

__うるさいのは、そんなに好きじゃないんだけど。

 

兎にも角にもどうやら参加人数は決まったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後の無一郎の歓迎会はつつがなく終わった。

無一郎自体そう口数が多い方ではなく、どちらかといえば天元や蜜璃の方が余程話していたが、聞き上手なしのぶのおかげでそう退屈することもなく会はそこそこに盛り上がった。

 

「……疲れたけど、まあ偶にはいいか」

 

自分の家へ着く帰路で無一郎はそれなりの充足感と僅かな疲労を感じながら冨岡義勇より『渡された』地図を見る。

 

 

 

 

 

__先生について気になるのなら、其処へ行くといい。

 

 

 

 

 

 

そこには赤字で旧産屋敷邸と書かれていた。

 

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