炎々と生きる   作:たぬきち祭り

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書き手になると評価されることの嬉しさがわかる。


邂逅 上

__俺などよりも適任がおります。

 

そう言って紹介してきた槇寿郎は、連れてきた息子の方に一度も顔を向けることはなかった。

 

 

 

 

 

 

産屋敷耀哉が初めて煉獄景寿郎を【知った】のは数年前の話だ。

 

事の発端は炎柱の煉獄槇寿郎の妻の瑠火が亡くなってからというもの、あの快活とした情に厚い男はすっかりとなりを潜め、今は任務には出てくれるがどこか無気力になり傷を作って帰ってくる事も多くなっていた為柱合会議で話題に上がったのだ。

いくら慢性的に人手不足の鬼殺隊と言っても上の空で討伐を続ける槇寿郎にいつしか他の柱達から不満が漏れるようになっていた。

尤も、その多くは彼を心配するが故の諫言だったのだが。

 

 

__現状の煉獄殿は確かに鬼を狩れている。しかしながらそれは今まで培ってきた技術があるが故の綱渡りだ、だんだんと負傷も増えているのがその証拠。いくら柱といえど気力と体力が十全でなければいつか鬼の前に斃れる。お館様……何卒炎柱に休息をっ。

 

 

柱の半数ほどが膝を折りわたしに頼み込んで来た、あの子はやはり慕われている。

 

その嘆願を子供達から聞いて申し訳ないがわたしは嬉しくなってしまった。喜ばしいことに槇寿郎が炎柱に就任してから柱は一人も欠けておらず其々の仲もまた良好であると改めて感じだからだ。

そうだ、あの子の妻は残念ながらもういないが彼等がいる。時間は掛かるかもしれないけれどまた立ち上がってくれるだろう。

 

そんな希望が脆くも崩れ去ったのはそれから数日経った時だった。

 

 

 

十二鬼月との会敵。

 

 

 

__炎柱 煉獄槇寿郎 下弦の壱との戦闘で重傷

 

そんな隊士の報告を受けたわたしは急いであまねに付き添ってもらい槇寿郎の見舞いに行った。

 

医者から聞いた話によれば幸いにして命に別状はなくしっかりと療養すれば剣士として復帰することもできるそうだ。

 

だが、これは、もう。

 

 

 

耀哉が病室を訪ねると丁度目覚めた槇寿郎が此方を見つめていた。見舞い品の果物を机に置き、備え付けの椅子へと座る。

 

「具合はどうだい」

 

返事はたどたどしかった。

 

「ええ……なんとか。ご足労いただいき有難うございます」

 

弱々しく一礼する槇寿郎の目には光がなかった。あえていうなら、枯れているという表現が適切だろうか。

 

ああ…この子はもう駄目だ。諦めてしまっている。

 

思わず拳を握ってしまう。あれほど強かったこの子もこんなにも擦り切れてしまった。

この身が健康であればいの一番に鬼へと駆けていくというのに…なんて不甲斐ないのだろう。病に蝕まれたこの身体ではそんなことは夢にも等しく、なればこそせめて自分ができることに死力を尽くすのみ。

 

そんな耀哉の決意を感じ取ったのか、槇寿郎がぽつぽつと語り出す。

 

「あの日…下弦の壱を斃したのは俺ではありません」

 

まるで思い出すのすら苦痛を伴うといわんばかりに苦々しい表情をする槇寿郎に耀哉は言葉を返していく。

 

「ああ…報告は聞いているよ。なんでも偶々任務の帰りで現場に居合わせた隊士と協力して討伐したんだろう?…後輩に花を持たせるのは良いが流石に謙遜が過ぎるよ」

 

大体の顛末は報告を受けた為、耀哉も知っている。なんでも討伐にあたった隊士の階級は(ひのと)。決して低いわけではないが十二鬼月を相手取るには心許ない。

故に件の隊士が援護に回り、主戦力として矢面に立ったのは槇寿郎だろうと思っていた。

 

そう、思っていた。

 

 

 

それを伝えた瞬間、槇寿郎は絶叫した。

 

 

 

 

「そんなわけがあるかっ!彼奴に手心など加えるわけがないっ‼︎あんな…あんなおぞましい奴などに……うっ、うっぁあ…瑠火…瑠火。俺では駄目なのだっ……あの子を愛することが出来ないのだっ…許してくれ…許して、くれ」

 

 

 

 

 

一瞬のうちに爆発しては冷めるその態度に耀哉は酷く困惑していた。そのあまりの豹変ぶりにあまねを下がらせた程である。

 

_どういうことだ?

 

泣き喚いている槇寿郎を落ち着かせ、話の続きを促す。

 

「あの子とは一体誰の事だい?」

 

「……景寿郎といいます。俺の息子で長男坊です」

 

__初めて聞く名だ。

 

煉獄家は古くから鬼狩を生業とする一族で、産屋敷とも関わりが深いにも関わらず、耀哉には景寿郎という名前に聞き覚えがなかった。

それに長男は確か杏寿郎ではなかっただろうか?

 

「いえ……杏寿郎は次男です。景寿郎は、俺が存在をひた隠しにしていたため、お館様も存じ上げないのでしょう」

 

「それはまた……どうして」

 

…この明け透けな男にそんな暗い事情があったとは。

とてもではないが、そんなことをする理由も思いつかなかった。

 

「あれは忌子です」

 

忌々しそうに槇寿郎はそう言った。

その只ならぬ様子に耀哉は聞いても良いものかと逡巡した。

 

__槇寿郎がここまで嫌悪感を表すような子とは一体。

 

そしてどのくらいの時間が経ったのか定かではないが、少なくとも槇寿郎がその言葉を吐くのに多大な労力を伴っているのは見てとれた。

 

 

 

 

口を開いて

 

 

 

 

__分かりませぬ。

 

閉じる。

 

_皆目見当もつきませぬ。

 

開いては

 

__父上は何を言っているのでしょう?

 

閉じる。

 

_母上は頭がおかしいのでしょうか?

 

指先が震えている。

 

__成る程、全ては景寿郎の不徳の致すところ。

 

呼吸もまばらだ。

 

_ようやく分かりました。私は【いかれ】だ。

 

目の焦点は合わず。

 

__しかしながら…父上。私はどうしたらいいのか分からないのです。

 

耀哉を介して誰かをみていた。

 

_私には……これだけなのです。

 

そしてようやく。

 

_父上。

 

 

やがて長い溜息をつくと。

 

__私に答えを教えてください。

 

 

 

 

罪を告白するかの如く、重い口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

「あの子は……人の心が無いのです」

 




仕事ばかりの父親は、案外子供の成長に気がつかなかったりします。
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