炎々と生きる   作:たぬきち祭り

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一話で5000文字とか書ける人はどうなってるんだ……


邂逅 下

右薙、突き、袈裟斬り。

 

「クソっ何で当たらないんだ!死ねっ!鬼狩がぁっ‼︎」

 

竹林に紅がぬらりと光る。紅い軌跡は周囲の竹を断ち、笹が舞い乱れくる。

斬れ味鋭く触れたものは悉く両断されその領域に踏みいれようものなら、何人も生きては帰れないだろう。

 

その中に、男がいた。

 

「いい加減にくたばれやぁっ‼︎この化け物めっ」

 

月光が照らす顔は精巧なビスクドールを連想させる顔立ち。この悪夢の中を事も無げに歩く存在の表情に陰りはない。

 

僅かに体を傾けて紅刃を躱す、躱す、躱す。いとも容易く行われるその行為に鬼の理解は振り切れる。

そして悟る、この男が一度刀を抜けば死ぬのは己であると。

 

「クソぉおお‼︎」

 

己に唯一できることがあるとすれば時間稼ぎ。

 

この命の刻限を少しでも延ばそうと我武者羅に腕を振るうことだけであると。

 

#

 

観察しろ。

 

奴の動きを、瞬き、発汗、筋肉の流動、視線の先を。

 

ヒュオッ。

 

__ここだ。

 

首を狙った一撃を皮一枚の差で躱す。

 

これで血鬼術の範囲は分かった。

 

大仰な回避動作は必要ない、最低限の動きで攻撃から逃れろ。

呼吸術は身体能力を引き上げるが有限だ、鬼の様に長時間も戦えるわけではない。

 

したがって力を入れるのは動きの【おこり】。

 

静と動の切れ間は脱力して体力を温存する。躱す時と型を使う瞬間だけ呼吸を行えば余計な力の消費は抑えられる。

 

眼前の鬼の血鬼術は手持ちの刀に己の血を付着させる事によって、刀身の長さを自由自在に変化させる異能。

 

_さほど脅威ではない。

 

武術の経験、有らず。瞳に特殊な文様、有らず。鬼殺隊との交戦経験、有らず。戦闘経験、数回程度。周辺に他の鬼……在らず。

 

真夜中の竹林で見つけた鬼はどうやら只の野良のようだ。動きは鬼故に俊敏だが、刀を繰る所作に繋がりがない。

焦っている様子からも奴の血鬼術にこれ以上の手の内はない。

 

ならば。

 

日輪刀に手をかける。

 

「なっ……させるかっ」

 

あからさまに動揺した鬼は血鬼術の範囲を狭めて一点を狙い始める。此方を捉える動きから仕留める動きへ。

 

_だが遅い。

 

脱力。

前傾姿勢、そして脚のみに力を入れ、地を【掴む】。

 

ヒュオッ。

 

直前に自分の首があった位置に刃が走る。

丹田に力を入れ、独特の呼吸を行う。

 

炎の呼吸 壱ノ型

 

踏込み、前へ。

 

「不知火__及び」

 

絶えず切れ間に更に深く呼吸をする。懐に潜り込み鬼の顔を見やると、何が起きたか分からず惚けたような顔をしていた。

 

炎の呼吸 弐ノ型

 

「__昇り炎天」

 

刃はすんなりと頸を飛ばした。

 

 

 

 

__カァ…カァ…討伐完了、帰投セリ、帰投セリ…

 

 

#

 

下弦の壱を討伐してから十日が経った。

 

私は父よりも軽傷であったが故に復帰も早く日々鬼狩に勤しんでおり、最近では型から別の型へと接続の際無駄な動きを極限まで減らすことができる様になっていた。

 

__今なら余計な硬直も無く壱ノ型から玖ノ型まで繋げられるだろうか?

 

ぼんやりと空を見上げて考えみる。

 

煉獄の家を出て以来、自分の力量は随分と上がった気がする。

しかし肝心要の本来の求めるものにはより一層遠ざかっているような気もする。

 

視線を下ろし掌を見やる。

 

何百何千何万と刀を振るった手は白魚の様に透き通っており、何匹もの鬼を葬ってきたとは感じさせない。

 

_杏寿郎の手は傷だらけだったな。

 

不意に、もう何年も会っていない弟のことを思い出した。

 

#

 

討伐を終え泊まっている宿に帰ると部屋に父の鎹鴉が待機していた。

 

_何用だ?

 

鴉によると『話がある、会いに来い』とのことだった。

父の方は未だに傷が癒えず本格的に治療を施すため腕のよい医者がいる医療施設へと移った。

当初は様子を見に行っていたのだが_

 

 

 

__見舞いなどいらぬっ!貴様の顔など見たくはないっ‼︎

 

 

 

毎度のように怒鳴られるので最近は足を運んではいない。

 

_母が死んでから数年が経つというのに、未だにそのことが尾を引いているのだろうか?

 

どうやら父は相変わらず私のことが嫌いなようで、藤の家紋の家で昔母がやっていた様に父に対して看病を試みたが、只々逆上させてしまった。

 

「……関係を修復する必要がある」

 

宿へ帰る途中に楽しげな家族連れを観察して思ったのだ。

大概の人々は親と子の関係は良好であり、余計な軋轢を抱えたままだと有事の際に行動に迷いが生じる危険がある。

 

__私達は鬼殺隊だ。

 

炎柱の父との合同任務などそうそうあるとは思えないが…鬼との戦いで動きが鈍ることだけは避けておきたい。

 

__前回は助けられたが、いつも私が父の側にいられるわけではない。

 

_それにあの人は………煉獄槇寿郎は衰えた。

 

それが景寿郎が出した結論であった。

 

昔僅かばかりの稽古をつけてもらった時と下弦の壱との動きを【照らし合わせる】とやはり弱くなっている。

 

__昔日の技の冴えはとうに失せ、たかだかあの程度の鬼との戦闘であれほど傷を負ったのだ……これを退化と言わずしてなんなのだろう。

 

鴉に明日にでも其方へ向かうと言付けて就寝の支度をする。

床に入ると次第に微睡んでいく。今日は柄にも無く色々と思いを巡らせた。

 

 

_父上…

 

___明日は…普通に、会話が…できると……良い、な。

 

意識が途切れる前に浮かんだ言葉は、朝になる頃にはすっかりと忘れていた。

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