炎々と生きる   作:たぬきち祭り

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正直この時代の医療関係とか苗字の扱いは分かりません…


親の心子知らず

私は昼頃父の元を訪ねた。

診療所の待合室にそれほど人は多くはなく時折話が聞こえる程度だ。

 

「もし……煉獄槇寿郎殿に面会願いたい」

 

受付で父へ私が来たことを知らせる。

 

「はい。お名前は…」

 

どうやら始めて対応する者だったらしく私の名前を尋ねてくる。

 

「景寿郎だ」

 

そこで口を閉じると、困惑した表情で再度受付嬢が話しかけてくる。

 

「えと、姓のほうは…」

 

「名乗る姓は無い。只の景寿郎だ」

 

あの日煉獄家から放逐された私は人前で煉獄の姓を出したことはない。別段他人に呼ばれることに対して思うところはなかったが私自身が口にすることは滅多にない。

父に言われた訳でも無く、ただそうするべきだと考えたからだ。

 

_自由に生きなさい。

 

__わかっております母上、自由とは束縛から逃れ、本能赴くままに流れること。

 

故に煉獄の名は邪魔になる。

 

「いや…そうは言われましても。此方として患者の安全面を考えまして素性がわからない人を通すわけには…」

 

「だが私は景寿郎だ。生まれてこのかたこの名前以外は使ったことがない」

 

「いえ、お名前は分かりました。ですから……えと、あの」

 

「景寿郎だ」

 

「わかりました!それはもうわかってるんですよ貴方の苗字ですよ苗字!」

 

「言いたくない」

 

「何ですかソレ!はっきり言わないでください‼︎」

 

しばらく押し問答を続けていたが、どうやら他の者の耳にも入ったらしく父へ取り次いでくれた。

 

程なくして許可は下りた。

 

「………どうぞ、奥の部屋です」

 

「ああ」

 

心なしか疲れた表情の受付嬢から視線を外し奥へ行こうとすると、何故だかは知らんが彼女は他の者等に羽交い締めにされていた。どうやら先の会話が気に障ったらしい。

 

__血の気が多い娘だ。

 

私は騒ぎ聞きつけて患者やら医者が此方に集まってくるのを横目に父の病室へ足を進めた。

 

 

#

 

 

_コンコン

 

「父上、景寿郎です」

 

 

「………入れ」

 

父のか細い声が聞こえた。

 

扉を開け中へ入ると寝台の上で胡座をかいている父がいる。部屋の外の喧騒を煩わしいようで父は早く閉めろと言ってきた。

 

「えらく騒がしいな」

 

鼻を鳴らし、不機嫌そうに此方に話しかけてくる。

 

「申し訳ありません…少々、揉め事をおこしまして」

 

「……お前が、か?」

 

どうやら父には意外そうだったらしく目を丸くして私を凝視してくる。

 

「実は__」

 

私が先程の騒ぎの訳を話すと今度はぷつりと黙り込んでしまった。一体どうしたのだろう、もしや五月蝿くしてしまったばかりに傷に響いたのだろうか。

 

「……座れ」

 

やがて一言呟いた。指で示した場所は父の隣である、即ち寝台だ。

 

「いえ……私は」

 

「いいから、此方へこい景寿郎っ」

 

やや強引に肩を掴むと私を無理矢理横に座らせた。

 

_父はどうしたというのだろう?

 

いくら用があるとはいえ基本的に父は私に一定以上近づく事はなかった。それは稽古をつけられた時も寝食を共にしていた時もだ。

怒鳴りもせずに私を側に置く父の心境は、蒙昧なこの身には皆目検討がつかなかった。

 

隣を向くとそこには眉根を寄せ口を閉じて唸っている父がいる。

 

「景寿郎……」

 

__はい?

 

「別に構わない……いや…これからのことを考えるならむしろ名乗るべきだ」

 

なんのことを言っているのか分からないが私にはやはり必要があるとは思えない。

 

__…先程も言いましたが私は負い目を感じている訳でも、父に気を遣っている訳でもありません。

 

「ああ…」

 

何処を見るわけでもなくただ曖昧に父は頷いていた。

その姿は何かを確認するようでもあり、話を促している様にも見えた。

 

 

_私は私の信ずるままに生きていこうと思っています。

 

気がつけば私は言葉を紡いでいた。

きっと失望させてしまう独白を。

内に抱えるこの(ざま)を。

 

「ああ」

 

___本当は。

 

 

_ほん…とう…は

 

 

_ほんとうに。

 

_鬼殺など、どうでもよいのです。たまさか剣士の家系に生まれ落ち、人より多少優れた腕を持っているだけです。

 

 

「…嗚呼っ‼︎」

 

_母の遺言の本当の意味も、恐らくは理解できていません。

 

轟、と音が鳴った気がした。

 

 

 

「ああわかっているさっ!そのぐらい!お前が何も感じていないことも、人の猿真似しか出来ないことも‼︎」

 

そして(ちち)は猛った。

 

「それでもお前は……おれの…俺達の息子だ‼︎煉獄槇寿郎と瑠火の子だ‼︎」

 

__それ、は。

 

未だに目を合わせず、苦痛の表情で訴えかけてくる父は。

 

「正直に言おう…景寿郎。俺はお前が怖いっ…怖くて堪らないのだ‼︎」

 

療養で筋肉は落ち、瘦せ衰え、剣士として復帰したとしても全盛期ほどの活躍は望めないはずの男が。

 

「誰よりも外見は瑠火に似ている……いや瓜二つだ!そんなお前はなんの悲劇か神々の寵愛と……その代わりといわんばかりに人としての心が欠けているっ‼︎」

 

父上が泣きながら此方に顔を埋めてくる。その姿は情けないの一言で済ませられるはずなのに、不思議とそうは思わなかった。

 

「駄目なのだ…それではいつか本当に壊れてしまう‼︎そうなればお前はもう本当に取り返しがつかなくなってしまう‼︎行くな景寿郎…いかないでくれ……後生だ…」

 

__なにを、言っているのでしょう?

 

広い背中に手を伸ばす。

 

俯いて表情は見えないが私には金糸のような髪が視界一面に広がっている。

 

光の角度によっては所々朱色に変化するその髪はまるで煉獄の炎のようだ。

 

夜明けの…浄化の日輪の色。

 

_もう少し…砕いて、教えて…ください。

 

「……弱い父を許してくれ」

 

私にはかけらも遺伝しなかったモノ。

 

「すまない……」

 

それ以後、父はなにも言わなかった。ただ私に蹲り嗚咽を漏らすばかりで、結局その日は逃げ出すように帰ってしまった。

 

どうやって宿に戻ったかは定かではない。

 

どうしてか物を考える気力もない。

 

 

__私、は、無知蒙昧ないかれなのです。

 

_阿呆なのです…愚図なのです…間抜けなのです。

 

_…父上の言葉は、景寿郎(わたし)には分かりませぬ。

 

 

あの時私はどうすればよかったのだろうか?

 

一つ確かなものは

 

 

 

 

 

 

この胸に走る痛みだけだ。




鬼滅はギャグ調の絵も好きです。
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