炎々と生きる   作:たぬきち祭り

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まさかこれほどまでに目にしてくださる方々がいるとは…有難いやら恥ずかしいやらでいっぱいです。

お気に入り登録、評価、本当にありがとうございます。

どうかこれからもお付き合いいただけると幸いです。


耀哉と景寿郎 上

「やあ……はじめまして、景寿郎」

 

その人は母に似ていた。

圧倒的弱者…一度(ひとたび)私が刀を振るえばその命は容易く消え去るだろう、蝋燭の火が如き儚さ。

しかし何においても優先すべき信念がある。

ああ…自身の為すべき事を知っている眼だ。

命の【使い方】を分かっている眼だ。

 

「わたしの友になってくれないか」

 

_なんと、まあ。

 

そう言ってそっと手を差し伸べてくる。

 

「わたしは君を知りたいんだ」

 

__。

 

 

その言葉が。

 

その言葉がどうにも気に入らなくて。

 

 

 

 

 

 

「……必要ない」

 

半ば無意識に、私はその手を払っていた。

 

 

 

診療所から逃げ帰って三月(みつき)が経った。何か用向きがあったはずの父からそれ以後催促はない。

 

_いったい何なのだろうか。

 

あの日…父に哀願されて以来どうにも胸の痛みが治まらない私は、それを振り払うように鬼殺に明け暮れていた。

鬼は広く民衆に知れ渡っているわけではないが、それなりの数跋扈しており隊士不足によって任務には事欠かなかった。

だがいくら鬼を斬ろうが私のこの痛みが消えることはなく、医者にも診せたが特別異常は無いというのだからいよいよ持って原因が分からない。

東奔西走して頸を落とした鬼は数知れず、気づけば階級は(きのえ)になっていた。

 

 

 

 

 

切る。__許してくれ!もう人は喰わないっ

 

斬る。__化け物が……俺なんかより貴様の方が余程…

 

ただひたすらにきる。__この、鬼めっ!

 

最期の言葉はいつだって私への怨嗟の発露だ。人を喰い、闇に生き、太陽を捨てた末路だというのに彼等は皆一様に己が行いを顧みることは無い。

 

理解できない、何故我がこのような仕打ちを受けねばならぬと嘯く鬼達に、私はいつしか問うていた。

 

「お前は何の為に生きている」

 

_知らない。偶々こうなっただけだ!

 

下らん……死ね。

 

_復讐だ!俺を馬鹿にした連中への‼︎

 

取るに足らんな、頸を置いていけ。

 

_無論食らう為、人の血肉は美味いからなぁ…

 

度し難い…滅びろ、一切の跡形もなく。

 

どれだけ喚こうが殺した、それが正しいことだと信じて。

 

私は鬼殺の隊士。背中に滅の字を背負い、日輪刀を繰り、鬼を滅ぼす剣士だ。

 

__次の鬼だ、次の獲物を私に寄越せ。

 

それが正しいのだ。

 

_こいつでは駄目だ。

 

私は正義の元に戦っている。

 

_外れだ。

 

鬼は醜い化け物だ。

 

_さあ、お前はどうだ。

 

衆生の敵だ。

 

_次。

 

そう教えられた(きいている)

 

だから狩る、日々手を血に染める。

 

「私は間違っていない…」

 

惡鬼滅殺、惡鬼滅殺、惡鬼滅殺、尽く死に去らせ。お前達は存在してはならないのだろう?

なあ、どうなのだ。

だれか私に教えてくれ。

 

この行為に意味はあるのか。

 

確信は期待へと変わり、いつしか疑心へと成長していく。

 

身体は動き、頭は働く。

 

それで良いのではないか、いったい何が不満だというのか、痛みは消えないどころか日に日に増していく。

 

夜毎に殺した数は増えていく。夜毎にこたえは遠ざかる。

 

自分が何をしているか、いよいよ分からなくなってきた時、私はお館様に謁見することとなる。

 

 

それは唐突だった。

 

「あの、お客さんにお手紙です」

 

いつもの様に任務を終え、拠点にしている宿へ帰り、部屋で休んでいると女中が訪ねてくる。ここに滞在して数日が過ぎたが未だに顔が【覚えられない】。

 

「…誰からだ?」

 

「えらく怖い顔した男の方ですよう。なんだか店の前でうろうろしてらしたんでね、お客かと思って声を掛けたら無理矢理これを渡されて」

 

ひらひらと目の前で文を揺らす彼女は得意げに語る。

 

「そしたらそのままそそくさ去ってしまうんですもの。あたしはてっきり恋文かと」

 

からからと笑う女中をよそに文へと目をやると『景寿郎へ』とだけ書かれていた。

 

「これ、お客さんですよね?」

 

「ああ…私だ」

 

差し出された文を受け取ると女中は出て行った。

封を開けるとそれは父からのものだった。

 

 

 

_景寿郎へ

 

この間は取り乱してすまなかった。

お前の気持ちも考えずただ喚き、あまつさえ泣き付くなどさぞかし驚いただろう。あれが偽らざる本心とは言え、親が子に吐く言葉ではなかった…すまない。

 

だが今こうして筆を執ったのはその話をする為ではなく、前回話す予定だった『柱就任』の件だ。

 

お前は気づいているかも知れないが俺が下弦の壱との戦闘で負った傷は深く、復帰しても以前の様には戦えないだろう。

無論そこらの雑魚鬼に遅れをとるつもりは微塵もないが、もう俺には……遺憾だが十二鬼月を相手取る力は残っていない。

 

この話を持ちかけようとした時お前の階級は丁だった為、いくら下弦の鬼を斃したとは言え他の柱からの反発は出るだろうと思っていたが今なら別だ。

 

景寿郎、お前に次代炎柱を頼みたい。

 

俺が柱から退き、後任に甲のお前を推薦するのに邪魔は入らないだろう。

もうお館様には話を通してあるゆえに、あとはお前が了承するかどうかだけだ。

 

俺はお前の存在が、長らく膠着していた鬼殺隊に変化をもたらすと信じている。

 

景寿郎……お前は恐らく、否、これから先誰よりも強い剣士へとなるだろう。

 

その磨き抜かれた技は上弦の鬼共を超え、あるいは鬼舞辻無惨にすら届きうるかもしれない。

 

だが…唯一懸念があるとすれば、その精神性の歪さだ。

なんといったらいいか……お前は聡い子だ。

よく鍛え、技を磨き、鬼殺隊にも貢献してくれている。しかし、それはお前にとってはさして意義のあるものではないのだろう。

 

お前は剣の腕に比べ、内面は驚く程に成長していない、そもそもその【余地】がない。

だがこれから柱として人の上に立つ以上そのままでは色々と差し障りがある。

 

景寿郎には心を磨いてほしい。

 

そしてそれは父として不甲斐ないが、俺にはどうすることもできない。

 

だが、代わりといってはなんだが、一度お館様がお前に会って話がしたいと言ってきた。あの方の住む産屋敷へは俺も同行する。

 

移動には隠達を手配してあるから準備が整い次第声をかけるといい。これを読んでいる頃には其方へ着いているはずだ。

 

では、屋敷でな……。

 

 

_煉獄槇寿郎より

 

文は所々墨が滲んだ様子から見てとるに、随分と時間をかけて書いたらしいソレを横へ放り、布団へと倒れ込む。

 

「柱……か」

 

鬼殺隊を支える剣士…文字通りの柱。他の階級の隊士とは一線を画す実力者達だと聞いている。

 

__それを私に?

 

父は断られるとは考えなかったのだろうか。それとも期待しているのだろうか……こんなどうしようもない男に。

 

まあなんにせよ先代(ちち)に比べれば任を果たせる自負はあるが……それよりも気になるのは【お館様】だ。

 

恐らく誰よりも人の死を看取ってきた人物、鬼殺隊の長。夥しい数の亡者の上に立つ者ならば或いは望んだ答えが見つかるかもしれない。

 

 

__名前は確か…

 

「産屋敷耀哉。うぶやしき……かがや」

 

瞼を閉じ、小さく呟き、繰り返す。

忘れないように脳内に刻み込む、ゆっくりと、しかし確実に。

 

「かがや……かがや、かがや」

 

__さあ、お前はどうだ。

 

産屋敷耀哉(あなた)は何の為に生きている」

 

_ああ……痛みでどうにかなりそうだ。

 

 

 

 

 

願わくば貴方が、私の答え(すくい)にならんことを。




作中で言及する機会がないのでここに書きますが、現在の景寿郎は15歳です。
原作の柱合会議の時点で22歳になる予定です。
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