話は十分程遡る。春休みの間、アサギとさくらの家に泊まることになった俺は、終業式の次の日に着替えなどを持って彼女達の家にと訪れた。
……そしてそんな俺の隣には何故か銀華の姿もあった。
「えっと……銀華? 何で君まで一緒についてきているんだ?」
「そ、その……。私も学園長の家に泊まることにしまして……。ちゃ、ちゃんと許可はもらっていますよ?」
俺が質問すると銀華は顔を横に向けて言い辛そうに答える。
いや、アサギ達の許可をもらっているのだったら別にいいけど、何で銀華までアサギ達の家に泊まろうと思ったんだ? それにどうしてそんなに気まずそうに顔をそらすんだ?
「……まあ、いいか。それじゃあ、呼び鈴押すぞ?」
「はい」
多分これ以上銀華に聞いてもアサギ達の家に泊まろうと思った理由は話してくれないと感じた俺は、一先ず疑問を置いておくことにして、玄関のチャイムを押した。するとすぐに、まるで家の人間が俺達が来るのを中で待っていたかのように玄関が開いた。
「………」
玄関を開いて俺と銀華を出迎えたのはアサギでもさくらでもなく、俺より少し年下といった感じの少年だった。その少年は顔立ちが中々に整っていて、爽やかに笑えばさぞ絵になったと思うが、今の彼は完全な無表情でどこか敵意を感じられる目を俺のみに向けていた。
「……五月女頼人、先輩ですね? 俺は沢木浩介って言います」
少年、沢木浩介は俺の名前を呼んで自己紹介をしてくれたが、何というか俺の名前に無理矢理「先輩」をつけた感じがした。
「君が沢木浩介君か。君のことは学園長から聞いているよ。五月女頼人だ。今日からしばらくお世話になる」
「……どうも」
「獅子神自斎です。わたしも今日からしばらくお世話になります」
「………」
俺が自己紹介すると、浩介は相変わらず無表情で小さく返事をして相変わらずこちらを探るような目で見てきて、銀華のことは眼中にないのか彼女の挨拶を無視していた。
……なんか感じ悪いな。何で浩介の奴、初対面の筈の俺に対してここまで警戒しているんだ。
『『………』』
とりあえず全員の自己紹介は終わったのだが、浩介はまるで俺達……というか俺を家に入れたくないかのように最初の位置から動こうとせず、俺達はしばらくの間お互いを見つめあうことになった。本当に何なんだ、この状況?
「コウ君? 誰か来たの……って、五月女君に獅子神さん。いらっしゃ「あの!」……え?」
一体これはどういう状況なんだと俺と銀華が困惑していると、家の奥から私服姿のアサギが姿を現した。そして彼女が俺と銀華に気づいて声をかけようとした時、突然意を決した表情になった浩介が声をあげた。
どうやら浩介は俺しか視界に入っていないみたいで、銀華にも今現れたアサギにも気づいておらず、こちらを指差して叫んだ。
「五月女先輩! 俺と勝負してください!」
……………ハイ?
浩介の奴、今何て言った? 俺と勝負しろって? 何故? というか何で俺ってば初対面の浩介にここまで敵視されているんだ? 俺、後輩に恨まれるようなことしたっけ?
「ええっと……? ちょっと落ち着いてくれ浩介君。何でいきなり勝負なんか……」
俺は頭の中で大量のハテナマークを浮かべながら、とりあえず浩介を落ち着かせて勝負を挑んできた理由を聞こうとしたのだが、興奮している彼は俺の言葉なんか聞きもせずに言葉を続ける。
「それで俺が勝ったら……アサギ姉さんとの子作りは諦めてください!」
「ナヌ?」
「………」
浩介の口から出た予想だにしなかった言葉に、俺は思わず間の抜けた声を出し、隣にいる銀華は何故か責めるような目でこちらを見てきた。
いやいや、待って? ちょっと待って? 銀華、何でそんな汚物を見るような視線を俺に向けるの? バイザーで分り辛いけど、これでも結構付き合いが長いからそれくらい分かるんだからね?
というか浩介君? 俺はただ君に会って欲しいとアサギに頼まれたからこの家に泊まりに来たのに、それが何でアサギと子作りすることになっているんだ?