ようこそ人間讃歌の楽園へ   作:gigantus

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夏は終わり、秋が始まる。

 

 

 

 9月1日。夏休みは終わりを告げ、生徒が再び授業に明け暮れる日々が始まった。

 今日は二学期初日ということもあり、仏心か午後の授業に関しては2時間ホームルームに割り振られている。現在は午前の授業が終わり、生徒たちは昼休みを取っている最中だ。

 

「つまり干支の順番と各グループに割り振られた生徒の苗字が優待者を探すためのポイントだったってことなんだね」

 

「クラスって括りを外してメンバー全員を五十音順に並べる。そこにグループ名になっている干支の動物が示す順番を当てはめる……こうやって種明かしされると、とっても単純な法則だよね」

 

 敷地内のカフェの一席にいるのはDクラスの中心人物である平田と櫛田、そして夏休みの間に行われた特別試験で動いていた堀北、柚椰、綾小路。最後に平田の彼女である軽井沢だ。

 

「うちが抱えていた優待者は南と桔梗。最後の一人は結局沈黙していたわけだけど……」

 

 敢えて言葉を濁しながら、柚椰はチラリと軽井沢を見る。

 先の特別試験中において、唯一本人の口から優待者であることを知らされていた平田は軽井沢が責められているのではと思い、割って入る。

 

「黛君、それは──」

 

「分かっているよ。別に責めているわけじゃないんだ。優待者は選び取れる選択肢が多い。故に沈黙を貫くこともおかしなことじゃない。それは試験中の話し合いでも言っただろう? だから彼女の選択に対してとやかく言うつもりはないよ」

 

 柚椰の言葉に嘘がないことが見て取れたことで平田は胸を撫で下ろす。

 そこで綾小路が再び試験についての話へ矛先を向けた。

 

「高円寺が言っていた、『気づいてしまえばなんてことはない。実に詰まらない問題だ』って意味がここにきてようやく分かったな」

 

「そうね。終わってみれば実にシンプルな問題よ。けれど試験の最中、それも初日の段階でこの法則に行き着くことはそう簡単な話じゃないわ。悔しいけれど高円寺君は優秀と言わざるを得ないわね」

 

 堀北は心底悔しそうに高円寺を褒めた。

 自分勝手、唯我独尊ではあるものの、その実力は目を見張るものがあることはいい加減認めなくてはならないのだと思っているのだろう。

 

「現に俺と鈴音も、この法則の確証を得たのは苦肉の策に出てようやくだったからね。自分の考えを疑わずに実行できた彼は肝が据わっているというか、恐れ知らずというか……」

 

「彼には守るべきものがないからでしょう。クラスを勝たせるため、なんて目的は最初から持ち合わせていないでしょうし」

 

 柚椰の言葉に堀北が毒を以って同意する。

 

「あはは……で、でも結果的に正解だったんだし、高円寺君も凄いってことだよね!」

 

「ま、まぁ高円寺君に関しては僕たちが言って無理に協力させるよりも、自由にしてもらったほうがいいかもしれないから……」

 

 櫛田と平田に関しては、なんとか高円寺を良い方へフォローしようとしていた。

 

「でも引っ掛かるのはやっぱりCクラスだよね。龍園君は早々にこの法則に辿り着いてたことを匂わせてた」

 

 平田が思い返しているのは二日目以降のグループディスカッションでの龍園の言動。彼はその時点で優待者の法則について確証を得ていることをちらつかせていた。

 

「そうね。彼の言葉がハッタリではなかったことは試験の結果を見れば明らかよ」

 

「柚椰君から聞いたけど、Cクラスのスパイがいるかもしれないんだよね? その……私たちのクラスにも」

 

 聞かされた話があまりにも悲しいことなのか櫛田が影を落としている。そんな彼女を気遣ってか柚椰がフォローを入れる。

 

「勿論確証はないよ。でも自クラスの優待者3人だけを判断材料にしているにしては、彼はあまりに堂々とし過ぎていたように感じる。なにか別の要因があっても不思議じゃない」

 

「私たちDクラスではなくても、AやBから情報を得ていた可能性だってあるわ。クラスの方針に不満がある生徒が情報を売っていた、なんてこともあるかもしれない」

 

「確かにその可能性だとAやBにスパイがいてもおかしくないな。Aは激しい派閥争い、Bは一致団結の穏健派。少数の不満があったという推測は浮かぶ」

 

 柚椰に続くように堀北と綾小路がAクラスやBクラスにスパイがいる可能性を提示した。要は現段階ではスパイがどのクラスにいるのか、あるいはどこのクラスにもいるのかは分からないのだ。

 

「試験が終わった後にも話したけれど、龍園君の目的はクラス間のポイント差を縮めることでこういった疑心暗鬼に陥らせること。他クラスと同盟や協力体制を敷かれないようにするための予防策、といった面が考えられるわ」

 

「お互いがお互いを疑って、気を張り続けさせることでボロを出させる。そしてそこをすかさず刺す、か……漁夫の利ってやつだな」

 

「じゃあ私たちがここでウンウン頭捻ってるのも向こうの思う壺ってことじゃん。考えてたって仕方なくない?」

 

 ここに来て初めて軽井沢がそんな発言をした。今まで蚊帳の外だったからかその表情はどこか不満気だ。

 しかし全くの無関係だった彼女の言葉だったからこそ、皆は一度冷静になることが出来た。

 

「確かにそうだね。軽井沢さんの言う通り、いるかも分からない存在に頭を悩ませるのは龍園君の作戦通りだ」

 

「今後の特別試験でも、彼が奇策に打って出る可能性は高いわ。何があっても対処できるような体制を整える必要があるわね」

 

 暗にこのメンバーで今まで以上に盤石な布陣を形成する必要があると言う堀北に綾小路は温かい目を向けた。

 

「……なにかしら綾小路君? その顔は」

 

「いや、別に。お前も随分優しくなったなと思っただけだ」

 

「話を聞いていたのかしら? 私は事に当たるための体制を強化する必要があると言っているの。馴れ合おうだなんて言ったつもりはないわ」

 

 綾小路の言葉が癪に障ったのか或いは不本意だったのか、堀北はバッサリと切り捨てる。

 しかし心底不快といった態度ではなく、どこか悪態をつく子どものような雰囲気があるため、実際は面と向かって変わったと言われるのが気恥ずかしいだけなのだろう。

 それが周りでやり取りを見ていた平田たちにも伝わったのか、どこか微笑ましい空気が広がっている。

 

「じゃあ今まで以上に協力していかないとね! 私もクラスのために出来ることがあれば頑張るよ!」

 

 場の雰囲気を盛り上げようと思ったのか、櫛田が快活な笑みを浮かべて拳を握っていた。

 彼女に同調するように平田も頷く。

 

「そうだね。僕も精一杯やらせてもらうよ。皆で協力して頑張っていこう」

 

「まぁここまで話聞いちゃったら無視するってのも気分悪いし、私も出来ることならやるわ」

 

 この場に同席した以上非協力的な姿勢を見せるのはデメリットでしかないと思ったのか、軽井沢もそんなことを言った。Dクラスの主要なメンバーが揃って協力的になったというのは今後のことを踏まえれば最上の結果だろう。

 堀北もそれを理解しているのか、それ以上なにか悪態をつくことはなかった。

 だが、そこで素直に大人しくならないのが彼女である。

 

「他人事のような顔をしているけれど、当然貴方にも協力してもらうわよ綾小路君?」

 

「……お、おう」

 

 最早ただのサンドバッグのような扱いに綾小路は苦笑した。

 しかし彼は堀北とのやり取りの傍ら、彼女の隣に座る少女が目に留まった。

 

「ふふっ……」

 

 彼の視線の先にいる少女、櫛田桔梗は微笑ましいものを見るように温かく笑っていた。それは傍から見れば堀北の変化やこの場の雰囲気を好ましく思っているが故の笑みだと分かるだろう。綾小路も彼女の笑みをそう解釈していた。

 しかし同時に、彼はその笑みがやけに印象深く脳に張り付く感覚を覚えていた。

 それが何故なのかは分からないままに──

 

 

 

 

 

 

 午後の授業、つまりホームルームの時間。担任である茶柱先生が教室へ入って来ると淡々と説明を始めた。

 

「今日から改めて授業が始まった。お前たち、早々に夏休み気分は払拭しておくことだ。でなければ5月の頃に逆戻りすることになるぞ」

 

 開口一番生徒たちに辛辣な言葉をぶつけるが、最早慣れたのかDクラスの面々は素直に彼女の言葉を受け止めた。その反応がお気に召したのか茶柱先生は僅かに雰囲気を柔らかくすると、再び口を開く。

 

「さて、では連絡事項だ。2学期は10月に体育祭がある関係で、来月初週までの一か月は体育の授業が増えることになる。これから新しい時間割を配布するので各々しっかりと保管しておけ。それから体育祭に関する資料も合わせて配っていく。先頭の生徒はプリントを後ろに回せ」

 

 体育祭という言葉を聞いた生徒たちの反応は十人十色だ。

 運動が得意な生徒は見せ場が来たと奮い立ち、反対に運動が苦手な生徒は苦悶の表情を浮かべている。また一部の生徒は、ただの体育祭ではないことを薄々察しているからか顔を引き締めていた。

 

「体育祭の詳細については学校のホームページにも詳細が公開されている。必要があれば見ておくように」

 

「先生、これも特別試験の一つなんですか?」

 

 クラスを代表して平田が挙手した後に質問をする。

 その問いには肯定が返ってくると誰もが思っていたが……

 

「受け止め方はお前たちの自由だ。尤も、この行事は各クラスに大きな影響を与えることは確かだがな」

 

 茶柱先生の言葉を悪い方へ捉えたのか、運動が苦手な生徒からは悲鳴が上がる。普通の学校の体育祭であれば、もし嫌であれば手を抜くかサボるなどの選択が出来ただろう。

 しかしクラスの命運を左右すると言われればたとえ苦手であっても参加せざるを得ない。

 一方運動が得意な生徒、特に須藤などはまたとない活躍の機会に今からやる気に満ち溢れていた。

 

「綾小路君、これ──」

 

 周囲の喧騒を気にせず資料に目を通していた堀北が何かに気づき綾小路を呼んで資料を指差す。

 彼女に促されるように綾小路も指差された箇所を確認して自分の資料の該当箇所に目を通した。

 二人の動きが見えたのか茶柱先生が全員に向けて話し出す。

 

「既に目を通して気づいている者もいるだろうが、体育祭は全学年を二つの組に分けて勝負を行う。お前たちDクラスは赤組だ。そしてAクラスも同様に赤組。この体育祭の間はAクラスは味方ということだな」

 

 AクラスとDクラスが赤組。ということは戦うことになる白組はBクラスとCクラスということだ。

 

「ってことは今回はマジで他所のクラスと協力するってことっすか!? それに先輩たちとも!?」

 

「そうだな。上のクラスであるAクラスや上級生と協力する機会は貴重だぞ。色々と学ぶこともあるだろう」

 

 驚く池に対して茶柱先生は淡々と語る。

 つまり自分達より優れている者達と交流を深める過程で色々と吸収しろと言っているのだろう。

 

「説明を再開するが、まずは体育祭が齎す結果に目を通せ。一度しか説明しないからよく聞いておくように」

 

 茶柱先生はプリントをペシぺシと叩きながらチェックする箇所を伝えていく。

 その言葉に耳を傾けつつ、生徒たちはプリントへ視線を落とす。

 

 

 ・体育祭におけるルール及び組分け

 全学年を赤組と白組の2組に分け行われる対戦方式の体育祭。

 内訳は赤組がAクラスとDクラス。白組がBクラスとCクラスで構成される。

 

 ・全員参加競技の点数配分(個人競技)

 結果に応じて1位15点。2位12点、3位10点、4位8点が組に与えられる。

 5位以下は1点ずつ下がっていく。団体戦の場合は勝利した組に500点が与えられる。

 

 ・推薦参加競技の点数配分

 結果に応じて1位50点、2位30点、3位15点、4位10点が組に与えられる。

 5位以下は2点ずつ下がっていく。(最終競技のリレーは3倍の点数が与えられる)

 

 ・赤組対白組の結果が与える影響

 全学年の総合点で負けた組は全学年等しくクラスポイントが100引かれる。

 

 ・学年別順位が与える影響

 総合点で1位を取ったクラスにはクラスポイントが50与えられる。

 総合点で2位を取ったクラスのクラスポイントは変動しない。

 総合点で3位を取ったクラスはクラスポイントが50引かれる。

 総合点で4位を取ったクラスはクラスポイントが100引かれる。

 

 

 

「簡単な話、運動が得意だろうが苦手だろうが気を抜かず全力で競技する必要があるということだ。負けた組が受けるペナルティは決して軽くないからな」

 

「あの先生、勝った組は何ポイント貰えるんですか? 記載がないみたいですが」

 

 平田の疑問は尤もだった。資料には負けた組に科せられるペナルティは書かれていても勝った組については何も触れられていないのだから。

 

「何もない。マイナスという措置を受けないというだけだ」

 

「えー、マジっすかー? 全然おいしくないじゃないっすか」

 

 勝ったところで組全体での旨味はないということが明かされ教室内は落胆した空気が広がる。

 

「クラス別のポイントもしっかりと計算されているから注意するように。たとえ組自体が勝ったとしても、お前たちが総合点で最下位だった場合は100ポイントのマイナスを受けることになるからな」

 

 つまり結果的に赤組が勝ったとしても、総合点で振るわなければ損をする仕組みだということ。だからこそ茶柱先生は気を抜かず全力で競技しろと言ったのだ。

 かと言ってDクラスだけが活躍して総合点で1位を取り50ポイントを獲得したとしても、白組に負けてしまえばマイナス100ポイントのペナルティを受け、せっかく得たポイントが消えるだけでなく損をすることになる。

 最悪の結果は白組に負け、さらに総合点でも4位だった場合だ。

 この場合、組の敗北によって科せられるマイナス100と学年別総合点最下位によるマイナス100で合計マイナス200ポイントのペナルティとなる。

 マイナス200という数値は先の無人島試験や優待者試験でのマイナスよりも大きい。絶対に避けなければならない結果であることは明らかだ。

 教室が暗い雰囲気になったのを見てか、茶柱先生は飴玉を与えるように説明を始める。

 

「そう悲観することは無い。クラスや組の結果によるクラスポイントのマイナスは大きいが、各競技で優秀な結果を出せばそれ相応の旨味は用意してある。特別報酬の欄を見ろ」

 

 茶柱先生の言うように資料にはペナルティ以外にも特別ボーナスと言えるようなルールも記載されていた。

 

 

 ・個人競技報酬(次回中間試験にて使用可能)

 各個人競技で1位を取った生徒には5000プライベートポイントの贈与もしくは筆記試験で3点に相当する点数を与える(点数を選んだ場合、他者への譲渡は出来ない)

 

 各個人競技で2位を取った生徒には3000プライベートポイントの贈与もしくは筆記試験で2点に相当する点数を与える(点数を選んだ場合、他者への譲渡は出来ない)

 

 各個人競技で3位を取った生徒には1000プライベートポイントの贈与もしくは筆記試験で1点に相当する点数を与える(点数を選んだ場合、他者への譲渡は出来ない)

 

 各個人競技で最下位を取った生徒にはマイナス1000プライベートポイント。(所持するポイントが1000未満だった場合は筆記試験でマイナス1点を受ける)

 

 ・反則事項について

 各競技のルールを熟読の上遵守すること。違反した者は失格同様の扱いを受ける。

 悪質な者については退場処分にする場合有。それまでの獲得点数の剥奪も検討される。

 

 ・最優秀生徒報酬

 全競技で最も高い得点を得た生徒には10万プライベートポイントを贈与する。

 

 ・クラス別最優秀生徒報酬

 全競技で最も高い得点を得た学年別生徒3名には各1万プライベートポイントを贈与する。

 

 

 今までの特別試験ほどではないものの、条件の厳しいものから手軽なものまで、幅広い得点が用意されていた。

 そして注目すべきは個人競技報酬のメリットとデメリット。そこには今までにない項目が追加されていた。

 

「先生先生! この筆記試験の点数を得るってなんすか!?」

 

 興奮気味に尋ねる池の様子がおかしかったのか、茶柱先生珍しく少し笑った。

 

「お前の想像通りだ。体育祭で入賞するごとに筆記試験に補填できる点数を得ることが出来る。お前は特に英語や数学が苦手だったな。得た点数は好きに使って構わない。点数を持っているだけ、次回のテストで大いに役立ってくれるだろうな」

 

 順位に応じた筆記試験点数の増減。それは人によってはまたとない救済措置となるが、同時に重い枷にもなるということだ。

 しかし旨い話には当然裏がある。

 

 

 ・全競技終了後、学年内での点数の集計をして下位10名にペナルティを科す。

 ペナルティの詳細は学年ごとに異なる場合があるため担任教師に確認すること。

 

 

 それはあまりに不穏な文面だった。

 

「先生、このペナルティってどんなものなんですか?」

 

「お前たち1年生に科せられるのは次回筆記試験におけるテストの減点だ。総合成績下位10名の生徒は10点の減点を受けるから注意するようにな。減点方法は筆記試験が近づいたときに改めて説明するためここでは質問は一切受け付けない。また、ペナルティを受ける生徒の発表も試験説明の際に通告することになっている」

 

「げぇ! マジ!?」

 

 明かされた情報に池は仰天している。仮に彼が学年で最下位の成績を取れば、次の筆記試験ではいつもより10点分余計に取る必要があるということなのだから。元々勉強が不得手な彼にとってそれは相当苦しい条件になることは想像に難くない。

 一通りの説明を終えると、次は体育祭の競技の詳細を確認していく。

 体育祭の種目は大きく分けて『全員参加』と『推薦参加』の二つに分類される。全員参加は文字通りクラス全員が参加しなければならない種目。個別競技である100メートル走、団体競技である綱引きなどがこれに該当する。

 対する推薦参加はクラスから選ばれた一部の生徒が参加する競技だ。推薦と言っても自薦他薦は問わない。また一人が複数の推薦競技に参加することもできる。要はクラス内で話し合って決めろということだろう。内容は借り物競走や男女混合二人三脚、1200メートルリレーなどだ。

 個人戦と団体戦が入り乱れ、且つ最終的な結果はクラスの総合点であるということはこの行事の忘れてはならない事柄だろう。敵となるBクラスやCクラスに負けないことは当然として、味方であるAクラスよりも良い成績を残さなければDクラスとして勝つことは出来ないのだから。

 

「体育祭で行われる種目の詳細は全て資料の通りだ。変更はない」

 

「うげぇ、これめっちゃハードじゃん!」

 

 競技一覧に目を通していた篠原が苦い声を漏らした。彼女の言う通り、用意されている競技は多い。

 

 

 ・全員参加種目

 ①100メートル走

 ②ハードル競走

 ③棒倒し(男子のみ)

 ④玉入れ(女子のみ)

 ⑤男女別綱引き

 ⑥障害物競走

 ⑦二人三脚

 ⑧騎馬戦

 ⑨200メートル走

 ・推薦参加種目

 ⑩借り物競走

 ⑪四方綱引き

 ⑫男女混合二人三脚

 ⑬3学年合同1200メートルリレー

 

 

 並んでいるのは全13種の競技。番号はそのまま競技が執り行われる順番を示している。そして現在クラス内で不満が出ているのは全員参加種目の多さだ。

 

「普通3つとか4つとかじゃないんですか? 一日でこんなにあるなんて……」

 

「心配するな。普通の学校とは違い応援合戦やダンス、組体操などといった種目は一切存在しない。この学校の体育祭とは純粋な体力、運動神経を競い合うものだからな」

 

 運動が苦手な生徒の抵抗もむなしく簡単にあしらわれる。

 

「それから非常に重要なことだが、ここに参加表と呼ばれるものがある。参加表には全種目の詳細が記載されている。お前たちはこの参加表に自分達で各種目にどの順番で参加するかを決めて記入し、私に提出してもらう。これは必要事項だから忘れないように」

 

「自分たちで参加する順番を決めるって、一体どこまでですか……?」

 

「全てだ。当日に行われる競技の全て、何組目に誰が走るかまで全部お前たちが話し合って決めろ。締め切り以降は如何なる理由があっても入れ替えることは出来ない。それがこの体育祭の重要なルールだ。提出は前日の午後5時まで。期限を過ぎても提出がされなければランダムで振り分けられるので注意するように」

 

 平田からの質問は想定済みだったからか茶柱先生はスラスラと説明をしていった。

 つまり体育祭に向けてこれからやらなければならないこと、それは自分たちで計画を立て、どうやって勝ちにいくかを考えるということだ。

 体育祭において参加表の存在はクラスの戦略を立てる上で重要な要素であることは明白だった。

 

「先生、質問してもいいですか?」

 

 と、これまで淡々と資料を読んでいた柚椰が手を挙げた。

 同じタイミングで堀北も手を挙げていた。

 

「ふむ、恐らく二人とも同じ質問だろうから……黛、言ってみろ」

 

 二人が聞きたい事柄が一致していることを読んだ茶柱先生は柚椰を指名した。

 柚椰は堀北の方を一瞥し、彼女が頷いたのを確認すると質問を始めた。

 

「参加表は一度受理されれば以降の変更は出来ないとのことですが、仮に当日に生徒が体調不良や負傷などで競技参加が不可能となった場合はどうなりますか? 全員参加競技の中にはペアやグループを作らなければならないものも存在する以上、生徒が欠ければ競技が成立しないと思いますが」

 

「『全員参加』の競技においては最低限の人数を下回った場合は失格だ。騎馬戦の場合は一人欠席すれば騎馬が一つ少ない状態で競技を行ってもらう。二人三脚も同様だな。パートナーを選ぶ競技は頑丈な生徒を選ぶことだ」

 

 つまり共に競技を戦うパートナーを選ぶ際にもその点を念頭に置く必要があるということだ。

 

「だが救済措置も存在する。花形競技である『推薦競技』に関しては代役を立てることが許されている。しかし好き勝手に代役を立てられては参加表の意味がなくなるからな。特別な条件が存在する。それはポイントを支払うことだ」

 

「そのポイントの額は?」

 

「各競技につきプライベートポイントが10万。これを高いと見るか安いと見るかは自由だ」

 

「体調不良や負傷に関して、学校側が判断を下すことはありますか?」

 

「基本的に生徒の自主性に任せている。自己管理は社会に出れば基本だからな。だが傍観できない状況になればその限りではないとだけ言っておく」

 

 そこまで聞き、柚椰は再び堀北を見た。彼女が聞きたい事柄が全て聞けたかどうかの確認だろう。

 柚椰と目が合った堀北はコクリと頷く。それを肯定と捉えた柚椰は再び茶柱先生に向き直る。

 

「では、最後に一つだけいいですか」

 

「なんだ?」

 

「参加表を締め切った後の変更は出来ないとのことでしたが、それは()()()()()()を講じても不可能ですか? たとえば何十、何百とポイントを積まれたとしても、学校側は変更の申し出を受諾することは無いと捉えていいのですか?」

 

「ほう……」

 

 早くも抜け道を探そうとしている柚椰に茶柱先生は感心していた。夏の優待者試験でもそうだったが、やはりDクラスが勝ちあがるファクターとして彼を選んだのは間違いではなかったと彼女は思った。

 茶柱先生だけでなく、その質問の意図を理解した平田や堀北、綾小路もまた柚椰の抜け目の無さに瞠目している。

 

「過去にポイントを積んで変更を申し出た生徒は存在した。しかし結果的に変更は成されなかった。この体育祭においてこのルールは前提であり絶対だ。変更を認めればこの行事の意義そのものが揺らぐことになる。故に学校側はこの点においてはポイントを積もうが判断を変えないと思っていいぞ」

 

「なるほど……ありがとうございました」

 

「他に質問者がいなければ話はここで打ち切るぞ」

 

 茶柱先生はグルリと教室を見回す。幾人かの生徒はまだ何かあったのかコソコソと小声で何か話し合っているが、実際に確認しようとはしない。

 それを茶柱先生は問題なしと判断した。

 

「次の時間は第一体育館で各クラス他学年との顔合わせだ。遅れずに行くように」

 

 彼女は時計を確認するが、ホームルームの時間は少し残っている。

 

「まだ20分ほど残っているな。残りの時間は好きに使うといい。雑談するのも真面目に話し合うのも自由だ」

 

 改めて教室を見回して彼女はそう締め括った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがきです。体育祭編開始です。

まーたどうせロクでもないこと考えてるよコイツと思いながら楽しんでいただければ。
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