短いかつ雑だけど描写パート投下するから見とけよ見とけよ~。
春、多くの新人冒険者達がこの辺境の街に訪れる季節。
三つ編みが特徴的な受付嬢は今日も冒険者の対応に追われていた。通常業務に加えて、新人の登録、その他雑務諸々をこなさなければならず、多忙ではあったが疲労の色を見せず、今日も営業スマイルで仕事に励んでいた。そんな一応ベテランの域に入る彼女はバケツヘルムを被った不審者の登場に久々に頬をひきつらせていた。毎年多くの冒険者志望を見てきたが、ここまで異様な風体をした者を見るのははじめてかもしれない。
「ようこそ冒険者ギルドへ!本日はどのようなご用件でしょうか?」
「冒険者登録がしたいのだが」
「字は書けますか?」
「書けるぞ」
「ではこちらの冒険者シートに記入を」
「わかった」
字は書ける。冒険者シートの記入にも淀みがない。なんとなく育ちが良いことは分かった。身なりはまだ小綺麗な装備からして新人であるとは推測できる。声は籠って判別し辛いが青年のものだ。だがその妙に使用感のあるバケツヘルムが気になって仕方がなかった。なぜ冒険者登録時にバケツヘルムで顔を隠すのか、理解が及ばなかった。
「書けたぞ」
疾走戦士と名乗る彼の書類を確認するが、やけに達筆で書かれた冒険者シートに不備はない。書類の作成に慣れている。商人の出か?だとすると家業を継げない次男坊か三男坊あたりだろうか。あまり詮索するものでもないが、異様な雰囲気の彼にはいろんな意味で注意が必要だった。ぶっきらぼうな喋り方や素顔の見えないその姿が、なんとなくあのゴブリンゴブリンとうるさい彼を彷彿とさせた。
「はい、書類に不備はありません。今後のご予定は?」
「考え中だ」
「そうですか。ではまたご用があれば遠慮なく受付にいらしてください」
疾走戦士はクエストボードの手前に立ち、微動だにしなくなった。たまに唸り声が聞こえるあたり本当に考え中なのだろう。気にはなるがあまり構う余裕もない。受付嬢は一応気に留めつつ、仕事に戻った。
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突然横から話しかけられ、そちらを見るとバケツを被った変な人がいた、というのが女神官の彼への第一印象だ。冒険者登録をする前から受付横のクエストボードでうんうん唸っている人がいるなぁ、くらいには認識していたが、改めて話しかけられるとその異様さに思わず後退りしてしまった。
「貴公も新人か?今後の予定は決まったかね」
「私ですか?いいえ。まだです」
「そうなのか。私も
「
「特にどの神を信仰しているという訳でもないのだが、ある日突然冒険者になれと啓示を受けてな。何か意味があるに違いないと勢いで冒険者になった。特に立派な理由など無いよ」
それって覚知神とかの外なる神とか邪神の類では?という一言を女神官は飲み込んだ。特に強制されたような様子もなく本当に勢いで冒険者になったようだ。疾走戦士と名乗る彼はどこかのんびりとした性格のようで、戦士を名乗るにしては穏やかな人だと女神官は感じた。
「勢いって……ご家族は?」
「実家は弟や妹に任せてきた。私などよりよほどうまくやるだろうさ」
この男、本来なら家督を継ぐべき立場なのにそれをあっさり放り捨てて冒険者になったらしい。なんというか、ずいぶん気楽な生き方をしているようだ。それに
「なぁ、君たち新人だろ?」
「は、はい!」
「そうだが」
「なら丁度いい!今からゴブリン退治に行くんだけど人手が足りなくてさ。良かったら君たちも来てくれないか?」
横から声をかけてきたのは同じく駆け出しらしき三人組。村から出てきたばかりだという青年の剣士、その幼なじみだという武闘家の少女、都の賢者の学院の出だという女魔術師の一党だ。どうやら近隣の村娘がゴブリンに拐われたのをきっかけに退治のクエストが出されたらしい。拐われた者がいるという緊急性のあるクエストだ。断る理由もない疾走戦士と女神官は一党に加わり、ゴブリン退治へ出発する。
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ゴブリン退治に向かった一党は、皆これが初の冒険であった。期待に胸を膨らませ、いつか竜ですら倒して見せると笑いの絶えない道中であったが、疾走戦士だけはやけに気を張っていた。彼がギルドで見せたのんびりとした雰囲気は鳴りを潜め、周囲に気を配り警戒を強めている。
緊張のし過ぎだと剣士に茶化されても気を緩めることをせず、ゴブリンの巣に到着してからも退路の確保だと言い最後尾で背後からの強襲に備えていた。周りも初めての冒険で緊張しているだけだと思い込んだ。魔術師などは臆病風に吹かれたかと疾走戦士を揶揄ったが、自分はひどく臆病なのだと逆に言い張る始末であった。そして、それは臆病などではなく慎重さだったと気付くのに時間はかからなかった。
「む」
最後尾を進んでいた疾走戦士がピタリと止まり、壁を睨み始めた。彼は一党の中でも重武装故、歩くとがちゃりという音がするのだが、その音が途絶えたことに気づいた魔術師が苛立たしげに声をかける。ただでさえ不気味なトーテムに反応して前衛の2人が先行しているのだ。素人考えながらも、不要な戦力の分断が悪手というのは明白なことだった。
「ちょっと、置いていくわよ」
「どうかしましたか?」
灯りが1つだけでは足りぬと疾走戦士に預けられた松明を片手に女神官が近寄ると、疾走戦士はなにかを確信したのか盾を構えさっきまでの穏和な喋り方からは想像もできないほどドスの効いた重低音で叫んだ。
「下がれッ!横穴だ!」
「え?」
大声に身を縮める女神官を尻目に疾走戦士は腰を落としたかと思うと、周囲の空気を巻き込むような勢いで盾を突き出した。
「GOBUO!?」
するとどうだろう、少し土をかけて偽装された横穴からゴブリンが飛び出してきたではないか。しかしそこへ疾走戦士が繰り出したシールドバッシュがぶち当たり、首がおかしな向きにねじ曲がって押し返されていく。その横穴からも続々とゴブリンが湧いて来ている。
「このッ!このおぉぉッ!」
「ちょっ、危ない!」
正面からもゴブリンが来ているようで、先行している2人も戦闘に突入したようだが、剣士が長剣を振り回すせいで武闘家が近寄れず戦力を遊ばせてしまっている。それに構うほど一党には余裕も冷静さもなかった。
疾走戦士は女神官と魔術師を守るべく、どっしりと盾を構えてゴブリンを迎え撃っている。その様は壁の如し。決して前に出ず、油断など微塵もなく、容赦なく確実にゴブリンを倒していく堅実なその戦法は、後ろに控える2人を守るには不足ないものだったが、同時に正面の剣士への援護が間に合わなくなることも意味していた。
そして、鈍く響く金属音が死神の来訪を告げた。
「がっ、あああ!やめっ!ああああああぁぁ!!」
大振りになった長剣が洞窟の天井へとぶつかり、反動で武器を手放してしまった剣士へと複数のゴブリンが覆い被さり、棍棒を、短剣を、容赦なく叩きつける。急所を一撃、などという生易しい死に方など望めるはずもない。ゴブリンは相手が動かなくなるまで執拗に攻撃を加え続ける。結果として、生前の見た目を保てていないぐちゃぐちゃの死体が出来上がった。
追い打ちをかけるように奥から大柄なホブゴブリンが現れ、武闘家が捕まって慰み者にされていく様に戦慄する女神官と魔術師。そこへ横穴からのゴブリンを退けた疾走戦士が、ホブゴブリンの率いる一団の間へと割って入り、叫ぶ。
「逃げるぞ!」
「え?で、でも」
「前衛が壊滅したのだ!貴公らまでやられる気か!」
その言葉は遠回しに武闘家を見捨てると言っているように女神官は聞こえたが、事実そうだ。本来彼女らを守るはずの剣士は殺され、武闘家も戦闘不能。2人を守りつつ武闘家を救出するのは不可能だと判断した疾走戦士が憎まれ役を買って出て、言外に彼女を囮にすると冷酷ながらも判断したのだ。聡明な魔術師はその意図を読み取り、女神官の手を引いた。
「……行くわよ!」
「ごめんなさい……ごめんなさい!」
「走れッ!」
2人が走り出したのを確認した疾走戦士も後方を警戒して盾を掲げながら後を追う。時折追い付いてきたゴブリンを迎撃し、異様に長く感じる洞窟をひた走る。暗闇から襲いかかるゴブリンにどうにか対処していた疾走戦士だったが、暗闇より放たれた矢を受け損なってしまい、その矢は手を引かれていた女神官の肩に命中し、痛みからよろけた女神官に巻き込まれる形で魔術師ごと転んでしまう。後ろからはゴブリンの声。立ち上がらなくては、と痛みを堪えながら女神官が上体を起こしたときであった。
「ほう、そこそこ持ち堪えていたか」
聞き覚えのないくぐもった声が洞窟に響く。松明の灯りがこちらに向かって来ている。他の冒険者に間違いない。それだけ確認した疾走戦士は足を止め、こちらを追って来ていたゴブリンへ痛烈な盾の一撃を打ち込み、闖入者に驚き立ち止まっていたゴブリンの喉元へ小剣を突き込んだ。自分の喉から迸る血によって溺れるゴブリンを蹴飛ばし、血払いをして周囲を警戒するが追ってはいない。お楽しみに食いついてあまり追って来なかったか。
矢を容赦なく引き抜き、悲鳴をあげ倒れる女神官に治癒の秘薬を渡しながら、油断なく周囲を見回す薄汚れた鎧姿の冒険者。一見すると
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ゴブリンスレイヤーは手慣れた様子で短剣とも小剣とも言えぬ中途半端な長さの数打ちの剣でゴブリンを数匹切り倒し、血糊で滑るようになったと見るや躊躇なくそれを投擲し使い捨ててはゴブリンどもの粗末な剣や棍棒を奪うのを繰り返した。
罠にかけ、合理的にゴブリンを殺していく。それは戦いなどという大したものではなく、駆除と称するに相応しいまで効率化された作業だった。そこには慢心など欠片も有りはしない。ただただゴブリンを殺すという明確な殺意の具現化したような冒険者だった。
そのやり方にもっとも順応したのは疾走戦士だった。短時間で効率的に如何に安定して素早くゴブリンを仕留めるか。彼の戦い方は突き詰めればそこに源流がある。効率的であるなら罠だろうが待ち伏せだろうが躊躇なく実行する。今回はその対象がゴブリンだったというだけだ。
その歪さに女神官が気づいたのは、ゴブリンシャーマンの巣食っていた奥の広間での戦いが終わった後だった。生き残りや死んだフリをしたゴブリンがいないか、一体ずつ喉笛に奪った錆まみれの剣を突き立てているゴブリンスレイヤーを傍目に、疾走戦士はまっすぐに人骨で作られた椅子へ向かうと、唐突に盾でそれを打ち払い、裏に隠されていた粗末な木板を蹴り倒した。
そこにはゴブリンの成長前の個体がぞろぞろと両手では足りぬほどの数が身を寄せあっていた。命乞いをするようにか細く鳴き、小さな手で身を庇っている。そこへ死亡確認の終わったゴブリンスレイヤーもずかずかと棍棒片手に歩み寄っていく。
「子供も……殺すんですか?」
その返事は打撃音と悲鳴で返された。洞窟に鈍い音が木霊する中、血糊で滑るのか小剣を鞘に叩き込んだ疾走戦士は取り外した盾の縁で容赦なく頭蓋を叩き割り続け、ほどなくしてゴブリンスレイヤーと疾走戦士は全てのゴブリンを殺した。そして殺し終えると疾走戦士は血塗れでこう言ったのだ。
「これで一段落。疾く終わってなによりだ」
これで村は安心だ、とか拐われた娘が助かって良かった、ではなく、『はやく』終わったことに何よりも安心している。まるで、それが最重要の事柄であるかのように。
何かが決定的にズレている。
仲間を守ろうと奮闘したその姿を間近で見ていた女神官は、それを演技だとか偽善だとは思わない。それくらいに疾走戦士は必死で彼女たちを守ろうとしていたし、実直な人柄をしているのは今日出会ったばかりの彼女でも理解できるほどだ。
だがその根底が他人とは掛け離れた、ひどく歪なものではないかと感じてしまったのだ。
じゃあ、俺感想(燃料)もらって帰るから……