「……」
先頭を歩くのはほむら。
「……」
すぐ後ろにマミさん。
「今日もまた遅くなるって連絡入れないと……」
「あー、だったら早めの方がいいよ。あたしんちも最近それで良く言われちゃうからさー」
「だよね……」
そのまた後ろには私たちがいる。
マミさん曰く、何をしでかすかわからないほむらを前に置き、それをマミさんが見張りつつも、私とまどかは後方で構える。これが現状では一番なのだという。
いや、普通は剣を持ってる私が前にいるべきなんだけどね……ちょっとほむらを警戒しすぎなんじゃないですかね?
まぁでも、一応ほむらの腕にある武器は盾のようだし?
最初にほむらが防いで、後ろから私たちが……っていう考え方ができなくもない……かな? いや、どう考えても強引な理屈なんだけどね。
そんな屁理屈に納得をしたのかは知らないけど、マミさんが出した布陣の条件を、ほむらはあっさりと飲んだのである。
四人組とはいえ、我々はかよわい中学生の少女達だ。
夜ともなれば、さぞ無防備に映ることだろう。
男達からのナンパは面倒臭いし、警察に補導されたくもない。びっくりするよね、中学の制服着ててもナンパされるんだもん。正気かよって話だわ。
だから普通はそういう物騒な場所は避けるべきだ。
けど魔法少女の役柄として繁華街も立派なパトロール地域。
なるべく人通りの少ない道を選ぶとはいえ、目立つといえば目立つ。
長く続けていくなら、世間体も気にする必要はあるかもしれない。
私たちは歩き出してすぐに魔女の微弱な反応を察知し、標的をより詳細に探すことになった。
まずは街中を歩こうとマミさんや私が提案して、この流れで街中散策とな……るかと思ったのだけど、ほむらはきっぱり、静かに反対した。
「工場地帯へ行くわよ」
そう真正面から毅然と反対する意図が私たちには理解できず、少しの間ぽかんと口を開いたままだった。
「あのね暁美さん……」
「あたりをつけるならどこを探しても同じ。私が先頭を行くのだから、舵取りまで任せてほしいわ」
だがそれは先頭を歩かされるほむらの、全く正しい主張だ。
どうせ探す方向は最初こそ当てずっぽうになってしまうのだ。こう言われては、マミさんも渋々と了承するしかなかった。
もっと仲良くして欲しいのに……まぁでも、ほむらも主導権をマミさんに握らせたくはないんだろうな……。
そう。私はこれを、ほむらの仕返しだと考えていたのだけども。
そんな半分彼女を疑うような私の考えは、すぐに間違いであると気付かされることになる。
「……反応が」
ほむらの提案するルートを歩いてすぐに、マミさんのソウルジェムが目立った明滅を始めたのだ。
「これって、どんどん近くなってるの?」
「みたいね。あたしのも反応してる」
ほむらはソウルジェムを左手に持ってはいるが、その光を見ようともしていない。
最初から魔女の居場所がわかっているかのように、彼女は工場地帯へ歩き続けている。
歩き進むごとに、人の気配は少なくなる。
反対に、ソウルジェムの輝きは強くなる。
人気のない夕時の工場群は、どこかノスタルジックにさせる情景だった。
私はこんな時間にこんな場所にまで来たことはない。
十四歳にもなって初めて見る、親しみきれていなかった新鮮な見滝原の顔だった。
「……近いわね」
「弱そうな魔女だわ。急ぎましょう」
「そんなことまでわかるの?」
「大体ね」
「……」
マミさんの背中を見ればわかる。ちょっと悔しそうな顔をしてるに違いない。
「マミさん。ソウルジェムの光で使い魔か魔女かを判別できるんですか?」
こもった空気を換気しようと訊いてみた。
「そうね……感覚的なことだから言葉じゃ良い難いんだけど、出会ってみれば美樹さんにもわかると思うわよ」
「感覚かー」
なんとも感覚で覚えることの多い世界だ。
マミさんのように親切に教えてくれる先輩がいなければ、この魔法少女という仕事、随分最初に辛い思いをしそうである……。
……まどかは特に危なっかしい。私も釘は刺しておこう……。
「この中よ」
「!」
話している間に、寂しげな工場の前に到着した。
辺りに人はいない。
「さて……まだ、誘い込まれた人はいないようね」
「ちょ、ちょっとほむらちゃん……」
ほむらは先導らしく、堂々ずかずかと暗い工場の中へ踏み込んでゆく。
広い……整備工場だろうか。工具のようなものもあれば、大きな機械のようなものがある。ああ、自動車整備工場か。
そこを通り過ぎ倉庫らしき部屋に踏み込むと、埃臭そうな灰色の壁の上に結界の紋章が大人しく発光していた。
不吉な結界を背に、ほむらは私たちへ向き返る。
「さあ、倒すなら今のうち。けどまだ時間に余裕はある……ここでも、私が先陣を行くべきなのかしら」
制服のポケットに両手を突っ込み、片足に体重をかけ、感情の無い目はマミさんを射止める。
「さやかの言う共闘ならば私としては本望よ……だけど、私だってまだ完全にあなたを信用できないわ。特に巴マミ」
「!」
「正直に告白すると、私は貴女の銃が怖い……後ろに立たれ、絶えず後頭部に視線を受けるのも不本意よ。張り付かれる感触は好きではないわ……」
そこで初めて、ほむらが結界を背にする理由がわかった。
「……ここから共闘する以上、疑いっこ無しで、か」
「ええ。いつまでもこんなことを続けていたくはない……それは貴方達だってそうでしょう?」
「まあね」
私としてはもっと早い段階から仲良く共闘したかったんだけどね。うん。
「一つどうかしら、私は……魔女を探す能力に長けている。そこを買って、私を平等な仲間として扱って欲しいのだけれど……」
この結界の先から、より一歩踏み込んだ共闘を結び直そうということだ。
ほとんどマミさんだけに向けられたほむらの言葉である。
当のマミさん自身はというと、ちらりとキュゥべえを見て少し悩む素振りを見せた。
「駄目?」
それはほむらの毅然とした態度、そしてキメの一言なんだけど、頭を傾けながらの言い方は不覚にもちょっと可愛かった。
少し噴いちゃったのはナイショだ。
「……確かに、ここに来るまでのあなたの歩みには無駄も迷いもなかったわ……」
可愛げのある言い方も、マミさんには伝わっていないらしい。
神妙な顔つきで、差し出された条件を吟味しているようだ。
結局、ほむらの言い方にツボっていたのは私だけで、そう考えると途端に冷静になれた。
「いいわ、飲んであげる……けどこれは、貴女のことを“魔女退治で使えるから”という理由で引き入れるわけじゃない。自分の能力のひとつを私たちに見せた、その真摯さを汲み取ってのことだから……決して気を悪くしないで」
マミさんが大人の微笑を向けると、ほむらも口元をわずかに釣り上げた。
「気にしないわ……まだ私にも隠し事はある。その上で付き合ってもらえるなら」
「少しは大目に見ましょう」
二人は握手した。
するとマミさんの微笑みは“ぱあっ”と花のように咲いて、身にまとう緊張感すらも解けたように見えた。
「ふふ……いつまでもピリピリするの、私も好きじゃないから」
「へへ」
私が考えているよりも、マミさんはずっとずっと、大人だった。
私は彼女のことを心のどこかで、融通の利かない人だと思い込んでいたんだろう。まずはそれを恥じて、心の中で詫びよう。
やっぱり上級生は違うや。
「さ! それじゃあ早速、結界の中に入ろう! まどかは私の後ろに……」
「まどかは私が守るわ。後ろについていなさい」
「えっ? あ、はいっ」
「……よーし、さやかちゃん先陣切っちゃうぞぉ~」
そんなこんなで、うん。
とにかく良し!