全てを守れるほど強くなりたい   作:ジェームズ・リッチマン

20 / 70
案外、受け入れてもらえるのかも

 

「……」

 

 先頭を歩くのはほむら。

 

「……」

 

 すぐ後ろにマミさん。

 

「今日もまた遅くなるって連絡入れないと……」

「あー、だったら早めの方がいいよ。あたしんちも最近それで良く言われちゃうからさー」

「だよね……」

 

 そのまた後ろには私たちがいる。

 マミさん曰く、何をしでかすかわからないほむらを前に置き、それをマミさんが見張りつつも、私とまどかは後方で構える。これが現状では一番なのだという。

 いや、普通は剣を持ってる私が前にいるべきなんだけどね……ちょっとほむらを警戒しすぎなんじゃないですかね?

 

 まぁでも、一応ほむらの腕にある武器は盾のようだし?

 最初にほむらが防いで、後ろから私たちが……っていう考え方ができなくもない……かな? いや、どう考えても強引な理屈なんだけどね。

 

 そんな屁理屈に納得をしたのかは知らないけど、マミさんが出した布陣の条件を、ほむらはあっさりと飲んだのである。

 

 

 

 四人組とはいえ、我々はかよわい中学生の少女達だ。

 夜ともなれば、さぞ無防備に映ることだろう。

 

 男達からのナンパは面倒臭いし、警察に補導されたくもない。びっくりするよね、中学の制服着ててもナンパされるんだもん。正気かよって話だわ。

 だから普通はそういう物騒な場所は避けるべきだ。

 けど魔法少女の役柄として繁華街も立派なパトロール地域。

 なるべく人通りの少ない道を選ぶとはいえ、目立つといえば目立つ。

 

 長く続けていくなら、世間体も気にする必要はあるかもしれない。

 

 

 

 私たちは歩き出してすぐに魔女の微弱な反応を察知し、標的をより詳細に探すことになった。

 まずは街中を歩こうとマミさんや私が提案して、この流れで街中散策とな……るかと思ったのだけど、ほむらはきっぱり、静かに反対した。

 

「工場地帯へ行くわよ」

 

 そう真正面から毅然と反対する意図が私たちには理解できず、少しの間ぽかんと口を開いたままだった。

 

「あのね暁美さん……」

「あたりをつけるならどこを探しても同じ。私が先頭を行くのだから、舵取りまで任せてほしいわ」

 

 だがそれは先頭を歩かされるほむらの、全く正しい主張だ。

 どうせ探す方向は最初こそ当てずっぽうになってしまうのだ。こう言われては、マミさんも渋々と了承するしかなかった。

 

 もっと仲良くして欲しいのに……まぁでも、ほむらも主導権をマミさんに握らせたくはないんだろうな……。

 

 そう。私はこれを、ほむらの仕返しだと考えていたのだけども。

 

 そんな半分彼女を疑うような私の考えは、すぐに間違いであると気付かされることになる。

 

 

 

「……反応が」

 

 ほむらの提案するルートを歩いてすぐに、マミさんのソウルジェムが目立った明滅を始めたのだ。

 

「これって、どんどん近くなってるの?」

「みたいね。あたしのも反応してる」

 

 ほむらはソウルジェムを左手に持ってはいるが、その光を見ようともしていない。

 

 最初から魔女の居場所がわかっているかのように、彼女は工場地帯へ歩き続けている。

 歩き進むごとに、人の気配は少なくなる。

 反対に、ソウルジェムの輝きは強くなる。

 

 

 

 人気のない夕時の工場群は、どこかノスタルジックにさせる情景だった。

 私はこんな時間にこんな場所にまで来たことはない。

 十四歳にもなって初めて見る、親しみきれていなかった新鮮な見滝原の顔だった。

 

「……近いわね」

「弱そうな魔女だわ。急ぎましょう」

「そんなことまでわかるの?」

「大体ね」

「……」

 

 マミさんの背中を見ればわかる。ちょっと悔しそうな顔をしてるに違いない。

 

「マミさん。ソウルジェムの光で使い魔か魔女かを判別できるんですか?」

 

 こもった空気を換気しようと訊いてみた。

 

「そうね……感覚的なことだから言葉じゃ良い難いんだけど、出会ってみれば美樹さんにもわかると思うわよ」

「感覚かー」

 

 なんとも感覚で覚えることの多い世界だ。

 マミさんのように親切に教えてくれる先輩がいなければ、この魔法少女という仕事、随分最初に辛い思いをしそうである……。

 

 ……まどかは特に危なっかしい。私も釘は刺しておこう……。

 

「この中よ」

「!」

 

 話している間に、寂しげな工場の前に到着した。

 辺りに人はいない。

 

「さて……まだ、誘い込まれた人はいないようね」

「ちょ、ちょっとほむらちゃん……」

 

 ほむらは先導らしく、堂々ずかずかと暗い工場の中へ踏み込んでゆく。

 広い……整備工場だろうか。工具のようなものもあれば、大きな機械のようなものがある。ああ、自動車整備工場か。

 

 そこを通り過ぎ倉庫らしき部屋に踏み込むと、埃臭そうな灰色の壁の上に結界の紋章が大人しく発光していた。

 

 不吉な結界を背に、ほむらは私たちへ向き返る。

 

「さあ、倒すなら今のうち。けどまだ時間に余裕はある……ここでも、私が先陣を行くべきなのかしら」

 

 制服のポケットに両手を突っ込み、片足に体重をかけ、感情の無い目はマミさんを射止める。

 

「さやかの言う共闘ならば私としては本望よ……だけど、私だってまだ完全にあなたを信用できないわ。特に巴マミ」

「!」

「正直に告白すると、私は貴女の銃が怖い……後ろに立たれ、絶えず後頭部に視線を受けるのも不本意よ。張り付かれる感触は好きではないわ……」

 

 そこで初めて、ほむらが結界を背にする理由がわかった。

 

「……ここから共闘する以上、疑いっこ無しで、か」

「ええ。いつまでもこんなことを続けていたくはない……それは貴方達だってそうでしょう?」

「まあね」

 

 私としてはもっと早い段階から仲良く共闘したかったんだけどね。うん。

 

「一つどうかしら、私は……魔女を探す能力に長けている。そこを買って、私を平等な仲間として扱って欲しいのだけれど……」

 

 この結界の先から、より一歩踏み込んだ共闘を結び直そうということだ。

 ほとんどマミさんだけに向けられたほむらの言葉である。

 当のマミさん自身はというと、ちらりとキュゥべえを見て少し悩む素振りを見せた。

 

「駄目?」

 

 それはほむらの毅然とした態度、そしてキメの一言なんだけど、頭を傾けながらの言い方は不覚にもちょっと可愛かった。

 少し噴いちゃったのはナイショだ。

 

「……確かに、ここに来るまでのあなたの歩みには無駄も迷いもなかったわ……」

 

 可愛げのある言い方も、マミさんには伝わっていないらしい。

 神妙な顔つきで、差し出された条件を吟味しているようだ。

 

 結局、ほむらの言い方にツボっていたのは私だけで、そう考えると途端に冷静になれた。

 

「いいわ、飲んであげる……けどこれは、貴女のことを“魔女退治で使えるから”という理由で引き入れるわけじゃない。自分の能力のひとつを私たちに見せた、その真摯さを汲み取ってのことだから……決して気を悪くしないで」

 

 マミさんが大人の微笑を向けると、ほむらも口元をわずかに釣り上げた。

 

「気にしないわ……まだ私にも隠し事はある。その上で付き合ってもらえるなら」

「少しは大目に見ましょう」

 

 二人は握手した。

 するとマミさんの微笑みは“ぱあっ”と花のように咲いて、身にまとう緊張感すらも解けたように見えた。

 

「ふふ……いつまでもピリピリするの、私も好きじゃないから」

「へへ」

 

 私が考えているよりも、マミさんはずっとずっと、大人だった。

 私は彼女のことを心のどこかで、融通の利かない人だと思い込んでいたんだろう。まずはそれを恥じて、心の中で詫びよう。

 やっぱり上級生は違うや。

 

「さ! それじゃあ早速、結界の中に入ろう! まどかは私の後ろに……」

「まどかは私が守るわ。後ろについていなさい」

「えっ? あ、はいっ」

「……よーし、さやかちゃん先陣切っちゃうぞぉ~」

 

 そんなこんなで、うん。

 

 とにかく良し!

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。