全てを守れるほど強くなりたい   作:ジェームズ・リッチマン

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こっちに行けば接触できるかしら

 

 なんとか、なんとか降りないと……! 

 

 煤子さんの特訓を受けたであろう杏子に対し、上から攻撃を仕掛けたのは大失敗だった。

 何度も言われていたのに私はほんとバカか! 

 

 跳ぶということは、真っ直ぐ動きますと言うこと。

 跳んでいる間は動きませんと言うこと。

 あんなに「派手なだけの動きはダメ」と言われていたのに私は……! 

 

 一応、魔法少女の能力として、一応空中を蹴る能力はあるみたいだけど、それではあまりにも遅いし、隙も大きい。

 展開している間に、それこそ串刺しにされてしまうだろう。

 

 なら、杏子の槍を側面から叩いて、真下でなくても離れた位置に落下するようにすれば? 

 

 私は剣の一本を大きく構えた。

 

「おおっと!? ダメダメ! 許さないよ!」

「ぐ!?」

 

 しかし私の動きを読んだ杏子は、すかさず離れた位置に鋭い突きを繰り出す。

 私はその防御のために、大振りを断念し、防御に回った。

 

 私の体は、またしても浮く。

 

「オイさやかァ! 昨日聞きそびれたことを今聞かせてもらうよ!」

「はぁ!?」

 

 今はそれどころじゃないってーの! 

 

「ほむらって名乗った女! あのほむらって奴は、煤子さんの妹なのか!?」

「違うッ……!」

 

 話しかけている隙を突き、昨日と同様に切っ先の衝突による間合い取りを試みる。

 が、今度は相手も油断なんぞしてくれないらしく、あっさりかわされ、断念せざるを得なくなった。

 

「……と思うッ!」

「なんだそりゃ!」

「本人はッ、煤子さんのこと、ちっとも知らないッ、風だったけど! 私には、わからない!」

 

 あと少し……少しでも高く浮くことができれば……! 

 ほんの少しでも攻防に合間を作れれば……! 

 

「にしたって似すぎってやつだろうが! アタシはあの人の姿を覚えてるぞ!」

「へえ! あんたも、慕ってるんだ!?」

「当ったり前だ! 煤子さんはたった一人……!」

 

 今だッ! 

 

 杏子の槍の動きに力が込められた。

 それはほんの少しの加減の揺らぎ。

 

 動きは正確でも、力が大きければ結果もかなり変わってくる。

 私の剣は、そんな杏子の“違う一発”に合わせ、それ相応に強い剣戟を加える。

 

 私の体は、通常の攻防の時よりも高く宙に浮かんだ。

 

 

「あ」

「“アンデルセン”ッ!」

「しまっ──」

 

 二本の剣を重ね、巨大な一本の大剣を成す。

 空中で稼いだ僅かな隙は、剣を生み出す時間となった。

 

「はぁっ!」

「うぐおっ……!」

 

 槍と同等のリーチに変化した武器を振りかざす。

 力任せの一撃を受けようとした杏子は、路地に沿って吹き飛ばされていった。

 

 がこん、と鉄管がへこみ、朱色のタイルがぱらりと落ちる。

 

 地面に降りてから、ようやく自分の体の無茶に気付いた。

 

「ぐぅ……!」

 

 空中での全身を使った気の抜けない攻防は、魔法少女とはいえ私の全身に多大な疲労を溜め込んでいたようだ。

 追撃に出ようと踏み出す体が鉛のように重い。

 

 このままでは杏子の下へたどり着く前に事切れてしまいそうだ。

 

「て~……めぇ~……!」

 

 そうこうしている間に、髪飾りをより強く燃やした杏子が起き上がってくる。

 槍の柄を支えにもせず、腕一本で立ち上がるそのスタミナには敬意を表したいところだけど。

 

 ……私の体力を回復させるために、時間を稼がなくてはならない。

 

「杏子……あんたの魔法の能力、見破ったよ」

「!」

 

 しばらく口車に乗ってくれれば、私のふくらはぎは大いに助かるのだが……。

 

「ほぉ……で?」

「あんたの魔法は……願いとかは知らない……ただ能力だけはわかる」

 

 震えを隠し、素早く無駄のない動きで右腕を上げ、杏子を指差す。

 

「その燃える髪留め……それが効果を発揮するのか、効果がそこに現れているのかは知らない。けどそれを見て答えは出た!」

「……だから?」

「魔法少女のあんたは、状況に合わせて髪留めの炎が強まる。そして動きの速さ、力が強化さ……」

「だぁぁああからァ! それが理解(わか)ったからって何なんだってぇ────の!」

「!」

 

 私のまるっとお見通し推理を最後まで聞かずに、全快した杏子が襲い掛かってきた。

 髪留めの炎は迸り、火の粉を振りまいてこちらへ接近する。

 時間稼ぎは失敗だ。

 

「ああ、もうッ……!」

 

 体は万全ではないけど、大剣アンデルセンのリーチを信じるしかない。

 

「やってやる!」

 

 相手に勢いがあるからといって、すぐに防御に徹するわけがない。

 こちらも負けじとアンデルセンを突き出し、突撃する。

 

「おらおらァ! アタシが強いのがわかりましたーってハイだからどーしたってぇ!?」

「うわっ!」

 

 力任せの一直線な槍の一突きかと思いきや、私の剣に当たる前にグンと後ろへ引き戻され、再び素早く、別の位置から突いてきた。

 剣の先端から中心までを鮮やかにかわした槍の先が向くのは、きっと私の心臓だ。

 

「うおおぉおッ!」

 

 こちらも大剣を引いて、根本でなんとか槍を受け止める。

 が、槍は簡単に受け流すことはできなかった。

 

 その逆、平たい大剣の面に深く刺さり、尚もこちらに向かって突き進んでくるのだ。

 槍のチャージは、止まらない。

 

「おらおらおらおら! このまま貫いてやるよっ!」

「んな無茶な……!」

 

 槍の先端が大剣を貫き、私の腹に狙いを定めている。

 そして恐ろしいことに、杏子は槍を引き抜こうとはせず、地面をがりがりと削るように走り、槍を押し込んでくる。

 

 ほ、本気だ……この子は本気で、大剣ごと私を貫こうとしてる……! 

 

「くっ……と、ま、れ……!」

 

 杏子の尋常でないパワーに圧され、踏ん張る靴もむなしく地面を擦り、後退してゆく。

 まずい。壁際まで追い詰められたら本当に……“貫かれる”! 

 

「らぁああああぁあッ!」

 

 絶望的な予想の恐怖から、杏子の髪留めの猛火が暴走列車の機関部にも見えてきた。

 

 いや、抜け出さないと! 

 不要なイメージを振り払い、頭を冷やす。

 

 どうする!? 

 アンデルセンでは戦えない。

 

 リーチも威力もある、いざという時には“フェルマータ”も放てる必殺武器だが……今の燃える杏子を相手にしては、単純にスピードやパワーで劣ってしまう。

 

 リーチと打ち合いの力強さを犠牲にしても……速さに賭けるしかない! 

 

 突撃を続ける杏子の片足が浮いたタイミングを見計らって、大剣アンデルセンを分解する。

 

「!」

「もっかい、二刀流だ!」

 

 アンデルセンは槍を中心に二つに分かれ、元の二本のサーベルへと変化した。

 素早く二本の柄を握りこみ、未だ突進体勢のままの杏子に肉薄する。

 

「おっとテメ……」

「っらァ!」

「ぐほぉ!?」

 

 相手は私のサーベルでの切り返しが間に合わないであろうことを笑おうとしたのだろうが、それは大きな読み間違いだ。

 

 確かに、アンデルセンを解除してサーベルに戻しても、相手の意表をついているとはいえ、髪留めの炎で能力を強化した杏子に切りかかる隙があるかといえば……ない。

 サーベルを構えてからでは、斬るにも突くにも僅かなロスが生じるからだ。

 

 だから……ハンドガードで、殴る! 

 

「もう一発!」

「ぐぁ!」

 

 一発は顔面、二発目は怯んだ隙を狙ったが、逸れて肩を強打できた。相当痛いに違いない。

 魔法少女の強烈なパンチは、杏子を大きく吹っ飛ばした。

 

「ハンドガード……使えるな」

 

 遠距離はアンデルセン。

 近距離はサーベル二刀流。

 最接近はハンドガード。

 

 この三種類を上手く扱うことが出来れば、杏子相手でも互角に戦えそうだ。

 

「なかなか強いじゃんか……今のは効いたよ、さやか」

 

 壁にめり込みかけた杏子がタイルを零しながら復帰する。

 

「ダウンしてる振りして不意打ちしようなんて考える前に、もっかい正面から来なよ」

「!」

 

 手を煽って挑発する。

 いわゆる指の“チョイチョイ”だ。

 

 ……剣道じゃこんな真似できないから、一度やってみたかった。

 

「……いいぜぇさやか! 乗ってやるよ……私の次の攻撃を凌ぎ切れたら、アンタの勝ちにしてやる!」

「おっ、気前がいいじゃん! ならそっちにも同じ勝利条件をあげようか!?」

「いらねーよ、んなもん」

「……!」

 

 杏子は槍を右手に預けると、左手にも同じ槍を出現させた。

 

 嫌な予感がした。

 

「“これ”を使って生きてた魔女はいねーんだ……悪いがさやか、“良くて病院送り”に変更な」

 

 燃え盛る髪留め。

 両手の中で自在に取り回される二本の槍。

 

「槍の、二刀流……!?」

「んな器用なマネはしねえ、小細工なしのパワーゲームさ」

 

 鮮やかに舞っていた二本の槍が、杏子の手の中で重なり合う。

 すると槍は赤いオーラを零しながら溶け、輝く靄は一本の得物に変化した。

 

 それは、武器だ。けど一般的ではない。

 

 私はその武器をあらわす正式な名前を知らなかった。

 

 たとえるならばそれは、カヌーなどで使われるような、カヤックパドルに近い。

 2つのオールを組み合わせたような、そんな槍。

 

 両剣。両槍。

 

 アンデルセンを二つ繋げたような無骨で巨大なその武器を、杏子は頭の上で三回転させ、力強くガシリと構えた。

 向けられる赤黒い不吉な刃に、不覚ながら、私の脚は一歩退いた。

 

「さあ! ガツンと行くよ!」

 

 見たことも聞いたこともない、つまり対処法なんてこれっぽっちもわからない武器を振りかぶって、杏子が突進してくる。

 

 

 ──来る! いや、落ち着け! 

 

 

 相手にしたことの無い、全く未知な形状の武器だ。

 何も知らない武器を持った相手と戦うことが恐ろしいと言っているわけではない。事はそう単純ではない。

 

 扱う相手が杏子だから不味いのだ。

 

 素人相手ならいざ知らず、同じ煤子さんの特訓を受けた彼女が扱う武器ならば、それを扱う技術が達人級であることは疑いようがない。

 だから私は、その対応が、同じ達人級でなくてはならない。でないと防ぎきれないのだ。

 

 達人相手に素人では太刀打ちできない。

 だから私はすぐに、この武器を扱う杏子と対等に渡り合う技術を習得しなければならない……! 

 

 瞬時に分析しろ! あいつの武器を! 戦い方を! 

 

 ……リーチは槍よりも短い! 柄は両端の刃に挟まれている! 

 

 両手武器! 巨大で重く片手では扱えないが威力は高い! 

 

 そして手数はおそらく私の二刀流以上! 

 

 おーけーわかった。まず、あの武器の範囲内に近づかないことだ。リーチに入ればおしまいだ。

 そして不用意に打ち合わないこと。私のサーベルが破壊されても可笑しくないような……そんな力強さを感じるから。

 

「おらおらっ!」

「うわっ!」

 

 予想通り二本の刃はパドルのように振るわれ、コンクリの地面を水面のように削り斬った。

 

「逃げるなよ、そっちだって二刀流だろ?」

「……」

 

 威力が想定を超えている。不用意どころか絶対に打ち合えない。

 

「おいおいしらけるだろーが! どんどんいくぞ!?」

 

 武器は重いらしく両手でしか扱えないようだが、それとは関係無しに攻め難い。

 たとえ一本の刃を防いだとしても、隙を突くための反対側に、もう一つの刃があるのだ。

 

「ほら脚なくなんぞ!」

「うわっ!」

 

 相手が攻勢のときはもっとタチが悪い。

 二本の刃で水面を漕ぐように、しかし不規則に暴れまわって私を追い詰めようとする。

 

 左右から二刀流のように飛び出してくる刃を相手に、情けないが私は、どうしようもなかった。

 

「げっ」

 

 かつん、と呆気ない音に、私のサーベルの一本は遥か彼方へ飛ばされていった。

 杏子が大振りしたカヤックパドルが、ほんの少しだけサーベルの刃を掠めた、ただそれだけで。

 たったのそれだけで、サーベルは弾かれ、見えないところまで吹き飛んでしまった。

 

 そして、私の手が痺れている。

 

 杏子の扱う武器の威力を悟ると共に、“良くて病院送り”が嫌な真実味を帯びてきた。

 

「くぅうう……!」

「へい、リーチだぞ!」

 

 一本になったサーベルを両手で握り締め、私は路地を駆けた。

 一時撤退だ! 

 

「なんてやつ……! あれじゃ隙なんて無いよ!」

 

 隙はあるかもしれないが、未だにそれを見出せていない。

 まさか遠く離れてからフェルマータで狙い撃ちなんて、そんな生ぬるい方法が通じる相手とも思えないし。

 

 だから今は逃げるしかなかった。逃げて、逃げて、対処法を考えるしかないのだ。

 

 と、思っていたけれど。

 

「……!」

 

 目の前に立ちはだかる“KEEP OUT”の落書き。

 高い壁、三方向全部壁、つまり行き止まり。

 

「おっ? おおっ? お~良いねぇ神様、祈ってる甲斐があるってもんだよ」

「嘘っ……」

「上手く都合良く戦えるような場所まで出ようと思っていたみたいだが……へへ、こいつは、どうも……」

 

 そして唯一引き返すことができる路地の先には、両剣を構える杏子の姿が。

 

「悪いね、大当たりだ」

「……へへ、ほんとだよ……」

 

 覚悟を決め、サーベルを構える。

 

「ホント、大当たり」

「!」

 

 相手がこちらへ踏み出したのを見て、背中に手を伸ばす。

 マントの裏側に隠したもう一本のサーベルを掴み、二本を合わせて頭上へ掲げる。

 

「こいつ、最初から──!」

 

 路地裏の行き止まりへ走り出した杏子、その勢いは簡単に止まるものではない。

 そりゃあもちろん左右にだったら軌道修正も容易かもしれないけど、その左右が封じられているとなれば、あと退避できるのは真後ろだけ。

 

 でも勢いをつけた前傾姿勢から切り替えるのは至難の業だ。

 重い武器なんて抱えてたら尚のこと。

 

「“アンデルセン”──」

 

 つまりどういうことかって? 

 簡単だ。

 

 十分な距離と、左右に逃げない相手がいれば、この技はきっと最強だということなのだ。

 それだけだ。

 

「“フェル・”──」

「“ロッソ・”──」

 

 解き放て。それで全てが終わる。

 全力を、今この時に乗せて──! 

 

「そこまで!」

 

 その瞬間、二人の間をリボンの結界が遮った。

 

 

 

「……」

 

 私の大剣アンデルセンは、振り下ろす前にその柄を固定され、

 

「おい離せ! マミ!」

「離さない」

 

 杏子の両剣も、蜘蛛の巣に絡め取られた蛾のように、空中に縛り付けられていた。

 現れたのは、マミさんだった。

 

「二人とも何をしているのよ……特に佐倉さん。あなたはどうしていつもいつも、そうやって戦おうとするの!」

「はっ、強くなることが私の願いだ。強くなるために戦って何が悪い」

「わ、私たちはもっと手を取り合って、魔女と戦うべきなのよっ」

「魔女なんかお手て繋いでやりあう程のもんでもねーだろうが」

「それは、あなたにとっては──」

「さやかちゃん!」

 

 慣れ親しんだ声も、路地の向こうから響いてきた。

 まどかだ。

 

「まどか! ってことは、えっと、マミさんと一緒に魔女退治見学を……」

「さやかちゃん、無事!?」

「う、うん、まぁね、なんとか」

「よかったぁ……」

 

 本当はフェルマータを叩き込もうとした寸前だったのだけれど、マミさんやまどかから見たら、私が追い詰められているように見えたらしい。

 

「……チッ、弱いくせに割り込みやがって。つまんねーの」

 

 固く拘束された両剣を引き抜くことはできず、杏子は魔法少女状態を解除し、元のシスターの姿へと戻った。

 不機嫌そうな杏子の目つきに戦闘終了を悟った私も変身を解く。

 

「勝負はお預けだ。また今度、邪魔の無い時に仕切り直しだ」

 

 どこからか取り出したスペアのヴェールを頭に被り、その姿に似合わない荒っぽい語気で私に宣言する。

 

「命と周りが無事で済むなら、やぶさかじゃないんだけどね」

「温室育ちが。試合ごっこでやってるわけじゃねーんだよ、こっちはな」

「だ、だめだよ……」

「ぁあ? 誰だよテメーは。いきなり出てきて好き勝手言ってんじゃねーぞ」

「ひっ」

 

 シスターにあるまじきドスの聞いた脅し声に、耐性ゼロのまどかは一瞬で小動物のように縮こまった。

 完全に怯えきっているぞ、この戦闘狂め。これ以上やるなら私が許さん。

 

「……そうだな……アタシも冷めた。また次に会う時に、色々と聞かせてもらうぞ」

「……」

 

 色々と。それは一体、何を聞かれるのか。ろくなことではないのは確かだ。

 

「お互い相手をダウンさせる毎に情報がもらえる、ま、質問ごっこの予定があるよっつー話だ」

「質問ごっこ、ね」

 

 洋画じゃないんだから。

 

「アタシに呼ばれたら予定を空けておけよ、じゃあな」

 

 シスター少女はそのままの格好で手を振り、私達の一団から抜け出していった。

 

 ……佐倉、杏子。私以外で煤子さんを知ってる、唯一の子。

 

 私も杏子も、同じ魔法少女だ。

 それは果たして、偶然なのだろうか? 

 

 煤子さんに良く似た暁美ほむらという美少女転校生にしたってそうだ。

 どうにも最近、煤子さんと魔法少女、この二つがやけに絡み合いすぎている気がしてならない。

 

 偶然なのだろうか。私にはそうは思えない。

 

「ふわぁーん!」

「怖かったー!」

「って、ええ!?」

 

 路地裏から杏子が去ってゆくのを見届けると、途端に二人はへたり込んでしまった。

 まどかはともかく、普段は気丈に冷静に振舞っているマミさんまで。

 

「杏子ちゃん怖いよぉ……なんであんなことするのぉ……」

「もう佐倉さんを正面から見るのは嫌……絶対に嫌……うん、絶対にしない……もう二度と……」

「……」

 

 どうやら私への助太刀は、かなり無理を押してのものだったようだ。

 あのマミさんですらこの調子だ……。

 

「うう、ごめんなさいね、美樹さん……私、どうしても佐倉さんだけは苦手なのよ……」

「いやー得意な奴はいませんよ、あれは……普通って人がいても私、そいつの正気を疑いますもん」

 

 マミさんとまどかに手を貸して、二人を起こす。

 ……ともかく、病院送りにされなくて良かった。今日の戦いを振り返り、深くそう思うのだった。

 

 

 

「本当に怪我ない? 大丈夫?」

「いや、まぁなんとかね……怪我しそうになったけど」

「次からは絶対に相手にしちゃだめよ、本当に危ないんだから」

 

 時間はすっかり夕時だ。

 まどかとマミさんと一緒に並び、帰路を歩いている。

 

 二人は魔女退治に興じていたらしいのだが、途中で使い魔の反応を追っている最中で私を見つけたのだという。

 使い魔を追いかけていたら、魔女よりも危険な魔法少女にバッタリ出くわした、というわけだ。災難すぎる。

 

「魔法少女って、大変なんだね……」

「うん、魔法少女同士の付き合っていうのも、すごく大変なの……まぁ、佐倉さんの場合はかなり特殊な気もするんだけどね」

「やっぱり、縄張り争いとか?」

「ええ、私も何度か経験したことがあるわ……穏便に済ませたいとは思っているんだけどね」

 

 相手がそうしてくれない、か。

 

「ほむらちゃんが契約するなって言ってくれる理由、ちょっとだけわかった……かも」

「確かに、ね」

 

 もちろんそれもあるだろう。

 

 けどそれ以上に、彼女が魔法少女にさせたくないという言葉に包み隠した部分には、より大きな負の理由が隠されていそうだ。

 

 ほむらの口から早めに聞けると、こっちも情報が多くて助かるんだけど……。


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