「あ、さやかちゃん!」
「おーっす、まどかぁー」
待ち合わせの高架下には、まどかの姿があった。
約束の二十分前、まだほむらやマミさんの姿は見えない。
「一緒に誘われてるだろうなぁとは思ってたけど、早いねえ」
「えへへ……遅れちゃいけないかなあって」
魔法少女に対してはまだ悩むこともあるんだろう。
杏子の一件もあって乗り気は随分と殺がれている様子ではあるが、まだまだまどかの選択肢から外れてはいないようだ。
「あ、そうだまどか」
「うん?」
「メール、誰から来た?」
「え、っと、マミさんとほむらちゃ……あっ」
「あ、やっぱり思った!? ほむらのメール」
「う、うんうん! すごい意外だなって!」
「だよねー!」
その後、約束の時間になるまでの話には事欠かなかった。
「あら、暁美さん」
「おや。奇遇だね」
「!」
二人と一匹は約束の場所へと続く道で偶然出会った。
「一緒に行きましょうか」
「……ええ」
ぎこちなくなりそうだと内心地雷を踏んだつもりでいたほむらだったが、マミの意外な積極性に追従することにした。
肩に乗った白い宇宙人が目障りだが、それ以上に今は、先を歩く巴マミの姿を懐かしく思う。
そして思い出すのは、彼女は先輩であり、先輩であろうとする人物だということだった。
「暁美さんも銃を使うのね?」
「え? ええ、まあ」
「そういえば使ってたね」
あなたにね。そう言ってやりたかったが、マミがいる手前口には出せなかった。
「でも見た感じでは、暁美さんの使っているものは実銃なのかしら?」
「ええ……」
あまり根掘り葉掘り聞かれると、肩の上の邪魔者にいらぬ情報を渡すことになってしまう。
曖昧に受け答えしたいものだ。
「変な意味じゃないけど、実銃の弾と私の魔法で出した銃の弾って、どっちの方が強力なのかしらね」
「……どっちかしら。弾の性質が違うから、精度や貫通力、色々なところで得手不得手はありそうね」
話題は変な方向へと飛んでいったが、自分の魔法からは路線が逸れたようなので一安心である。
これから目的地へ到着するまでの数分間、しばらく魔法と実銃についての高度な談話が繰り広げられるのであった。
マミさんとほむらは一緒にやってきた。
先頭をマミさんが歩いていたところを見るに、二人きりでもほむらに背中を見せる余裕はあるらしい。
もう二人に距離について気にすることはないかもしれない。
「早速これから、魔女退治に行こうと思うんだけど……」
「何かあるんですか?」
「ええ」
魔女退治の他にやる事?
なんだろう。思い当たらない。
「これからちょっと、魔法の弾と実際の弾を比較する実験をやろうかと思うのよ」
「はあ、実験ですか」
「来る途中で、魔法の弾の実弾の違いについて話していたの。その流れよ」
「ふーん。でもなんか、面白そう」
魔法の実験。色々できそうだ。
実弾ってことはほむらが使ってる武器のことだよね。
科学と魔法が交差しちゃうわけか。
「ほむらちゃんが使っているのは、本物の鉄砲なんだね?」
「……ええ」
モニターの魔女の結界の中でほむらが使っていたものは、魔法による生成物ではない。実弾とも言ってたし、間違いはなさそうだ。
ふむ、なるほど。
「けど、変わったところに興味を持つのね」
「これからの魔女との戦いで役に立つかもしれないでしょ?」
「……確かにそうね」
誰も渋らなかったし、何より面白いなと思ったので、実験はすぐ始まることになった。
「おー」
「これが私の使っているマスケット銃」
「綺麗……」
魔法少女に変身したマミさんが四十センチ程度のリボンを出現させると、それはすぐにマスケット銃に変化した。
白い本体には金色のレリーフが施され、あとはえっと、魔法だからよくわからない。
撃鉄部分はエメラルドのような宝石がついていて、それらが叩き合わされることによって、何が起こるのか、一発が発射される仕組みらしい。
まじまじと観察したことはなかったので、ちょっと新鮮。
「一発しか出ないけれど、威力はあるわ……狙いも付けやすいし、使い魔なら一撃よ」
「銃をモチーフにした魔法で戦う魔法少女は結構いるんだけど、その中でもマミは特に高い技術を持っているよ」
「ふふ、下調べとかしたからね」
「下調べとかして、魔法を作るんですか」
「イメージが大事だからね。私は専門家じゃないから銃に詳しくはないけど、銃を使ってみたかったから、ちょっとだけ調べてみたの」
「へぇー……」
私もイメージすれば、新しい武器とかを手に入れられるんだろうか。けど、今のサーベルが扱いやすい気もして、うーん。
「えっと、ほむらちゃんの鉄砲は……」
「これよ」
魔法少女に変身したほむらは何の音沙汰もなく、一メートル以上の大きなライフルを抱えてみせた。
光とともに現れた様子もない。唐突に出てきた感じだ。
「それはどうやって出したんだい?」
「魔法よ」
「それは解るのだが……」
「あなたが知る必要はないわ」
まともに受け答えするはずがないの、無駄だってわかってるくせに。
「マミさん。音とか、大丈夫なんですか」
「ある程度の音は結界の応用で抑えられるから、気兼ねなくできるわよ」
丁度良く転がっていたドラム缶を横倒しにして、その上に二つの銃が固定される。
リボンでしっかり固定された銃の引き金にもリボンが括られている。
マミさんが同時にトリガーを引く算段である。
銃口の先にはおしるこ缶と、ココア缶が据えられている。サイズも材質も同じだ。
更にその後ろにはコンクリートブロックが何枚か立てられ、威力も測ることができるようになっている。
じゃあ缶いらないじゃんって思うかもしれないけど、それは雰囲気作りだ。特に誰も反対はしなかったから問題なし。
ちなみに缶は二つともほむらが用意したものです。
「なんだかわくわくしますね。どうなるんだろ」
「僕としてもマミの銃と現代の銃の違いを観るのは興味深いよ」
「速さとか威力とかに違いが出るのかな」
「観てのお楽しみだね」
私はキュゥべえを頭の上に乗せつつ、開始を待つ。
キュウべえはこんな見た目をしているが、結構理知的な生き物である。魔法少女よりも科学者についてた方が良かったんじゃないかって時々思っちゃうくらい。
「それじゃあ同時にトリガーを引くわよ」
「ええ」
「わー……」
さあ、実験開始だ。
固唾を呑む静寂の中、くい、とリボンが引っ張られた。
マスケットの抜けるように静かな音と、ライフルの弾けるような爆音が同時に響き、橋にぶつかって木霊した。
コンクリートブロックが灰色の煙を引き、結果が表れる。
「……缶は、二つとも木っ端微塵ね」
実弾は缶に大穴を開けて本体を潰し、魔弾はどういう原理か、缶を粉々にしてみせた。
「なるほど、どちらも威力はあるね」
「性質はやはり、違うわね」
マミさんのマスケット銃は缶の後ろのコンクリートブロックに円形の破壊痕を残した。
ほむらの実弾はそれよりももうちょっと荒っぽく、コンクリートの上半分を根こそぎ砕いていった感じだ。
「マミさんの弾は綺麗にコンクリートを壊しましたね」
「そうね、普通ならこうはならないんでしょうけど……」
「実弾とは違うね。衝突の際のエネルギーの加わり方に違いがあるみたいだ」
「でも、どっちもちゃんと後ろのブロックを壊したんだね。音すごかったぁ……」
コンクリートに近づき、両方を間近で観察してみる。
「お?」
すると、マミさんの弾による痕跡は面白いものだった
「ブロック、丸く抉れてる所がちゃんと螺旋状になってる」
「あ、本当だ」
「ちゃんと魔力の弾が回転してる証ね」
面白い痕跡だ。まるで精密な巨大ドリルで抉ったみたい。
ブロックの後ろ側に行くにつれて多少は減衰はしてるようだけど、凄まじい威力だ。
「ふーん……」
螺旋を描く痕跡を指でなぞる。熱くはない。
この傷跡を見るに、回転しながら射出された魔法の弾が、コンクリートに直撃してもまだ、その回転を維持していることがわかる。
コンクリートに衝突して魔弾が潰れ、マッシュルームのように先端を押しつぶされ、径が広がり、ブロックを両断するほど大きな穴になった。
が、弾が潰れて薄く広がっても、威力は大きくは減衰しなかった。これが一番すごい。
魔弾は回転力をほとんど衰えさせることなく、破壊のエネルギーを収束させたままにコンクリートを捻り、抉り抜いた。
破壊のエネルギーは実弾ほど拡散しなかった。コンクリートに無駄な破壊の帯を残すことなく、美しい傷跡だけを残したのだ。
実弾では再現しようのない、まさに神秘の力だろう。
……魔法の力は、周りの環境には左右され難いってことなのかな?
それだけ強いエネルギーであるとも言い換えられる。
だから私のサーベルの切れ味も、ただの刃物と思ってはいけないんだろう。
現存する史上最高の名刀なんかよりも、遥かに切れ味があるに違いない……。
先入観が強くあるせいで、上手くイメージできないけども。
「なるほど、やっぱり実際の銃とは違うんだ……うん……」
口元に手を当てながら、マミさんは何事かを考えているようだ。
結果から何か、得るものでもあったのかもしれない。
「何か気になることでもあったの?」
ほむらはマミさんの様子を見て、素直に訊ねた。
「え? あ、ああ、そうね……ええ」
マミさんは上の空で考えていたようだが、訊ねられたほむらの言葉の残響に反応した。
「私の魔丸って、回転の力が想像していたよりも強いみたい……ちょっと参考になったわ」
「? そう」
実験終了。収穫は、あったみたい。