全てを守れるほど強くなりたい   作:ジェームズ・リッチマン

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戦線に復帰しなきゃ

 

 杏子の怒号に応じてか、空に浮かぶワルプルギスも一際に大きな声でせせら笑った。

 黒い靄が周囲に渦巻き、そこから暗い影が、雨のように産み落とされる。

 

『ピュイィィイイ』

『キィイイイィッ!』

『ケロケロケロケロ……』

「あれは……魔女か!」

 

 ワルプルギスの近くに発生した異形の生物。ソウルジェムの反応が、それらは使い魔ではなく魔女であることを警告している。

 いずれもコウモリ、鳥などの翼のある魔女たちだ。空を飛び攻撃できるタイプであることは、見た目からもわかる。

 

「いいよ、すぐに執行してやる……まずはお前達からだ、金魚のフン共……!」

 

 杏子は八重歯を剥き出しにして、獰猛に笑っている。

 私もマミさんも、彼女を止めることはできない。

 止めなければ、一人で飛び込むのは危険だ……なんて。そうは、全く思えなかったから。

 

「まとめて相手してやらァ! “ロッソ・カルーパ”ァ!」

 

 髪留めの炎が噴火し、長く、大きな龍を成す。

 

『ガァアアアアァアアッ!』

 

 火炎の龍は慟哭ように不吉な叫び声を上げ、鎌首をもたげた後、一番近くの魔女へ向かって炎を延ばした。

 

『ギェァァァアッ!』

『ォオオオォオオオォッ!』

 

 巨大な炎の龍はしっかりと魔女の腹へ噛み付き、灼熱の牙をその内部へと食い込ませる。

 

「アタシに喧嘩を売って、ただで済むと思うんじゃねーぞ!?」

 

 

 魔女へ噛み付いた龍を基点にして、槍を携えた杏子が中へと持ち上げられた。

 そしてそのまま……なるほど、これが杏子の空中戦のやり方か……! 

 

 髪留めで燃える炎の龍、ロッソ・カルーパ。

 あれは私との戦いで見せたような、ただ噛み付き、燃やし、爆発するだけの龍ではないのだ。

 操る自分自身をも持ち上げて運べる、空中での動きの要となる魔法だったんだ。

 

「どうしたノロマ共! 一発くらい決めてみなッ!」

 

 空をうねうねと動きまわる杏子の軌道には、どの魔女も追いつけない。

 鳥と龍の戦いの結果などは明白だ。龍が相手に有無を言わさず噛み付いて、身動きを取れなくしてしまう。

 

「だりゃぁッ!」

 

 そして龍の尾として、杏子の槍は周辺の魔女を次々に貫き、龍以上に多くの相手を引き裂いてゆく。

 無双だ。空中でも杏子の闘いぶりが翳ることは一切なかった。

 

「嘘……ロッソ・カルーパは、戦いの中では一度きりしか使えない魔法のはずなのに……」

 

 マミさんは空でうねる龍を見上げながら、呆然と呟いた。

 火炎龍は暗雲の中で暴れ周り、杏子の身体を運んで魔女を殲滅している。

 こちらが手出しするまでもなく。

 

「……ワルプルギスの夜が、あまりに強力だから」

「え?」

「ワルプルギスの夜の力が強すぎるから……杏子の炎が燃えきっていないんだ」

「! だからあの炎を、何度も使えるのね」

「ええ、多分……」

 

 噛み付いても噛み付いても、炎の龍に消滅の気配は見られない。

 いつまでも杏子の体の一部のように動きまわり、術者と同じように大暴れしている。

 

「最初から思ってたことなんですけど……」

「うん……」

「杏子……怖いな……」

 

 荒れ狂うワルプルギスを目の前に、複数の魔女を相手に圧倒している。

 鬼神だ。

 戦闘狂、この二つ名はこの時今まさに、最もしっくり来るものだった。

 

「……でも」

「?」

「佐倉さん……きっと、形は違うかもしれないけど……間違いなく彼女も、正義の味方だと思うの……」

「……」

 

 現場へ急行する時に聞いた、杏子のテレパシー。

 先ほど気絶したほむらを抱き抱えた時の、慈愛に満ちた仕草。そして義憤。

 

「今まで私は、彼女を誤解し続けていたのね……」

 

 殺気に満ちた形相で槍を振り回す、一人の少女。

 怒り。闘志。敵意を剥き出しに荒れ狂う彼女の姿は、ヒーローと呼ぶにはちょっとキツいものがある。

 

 けど私もマミさんと同じように、彼女の中にある“正義”の表情をしっかり目撃した。

 

 戦闘狂バトルシスター。

 戦いに傾倒する彼女は、すべてこの時のためのものだったのかもしれない。

 

『……杏子! ワルプルギスの夜は、背中の結界に無数の魔女を保管している!』

「!」

『魔女のエネルギー総数がワルプルギスの命だ! それまではいくら傷つけても再生してくよ!』

「へぇ、希望のある話じゃん……良いことを聞いた」

 

 残る鳥の魔女は五体。

 距離も高さもバラバラな場所から、杏子にターゲットを絞って迫っている。

 

 さて、私達もそろそろボーッと見ているわけにはいかない。休憩は終わりだ。

 

『佐倉さん、今助太刀にいくわ!』

『ぁあ!? 引っ込んでな!』

『あんただけじゃ手のかかる相手でしょうが! 私達と一緒に、さっさと終わらせるよ!』

 

 マミさんと共に地上から飛び立つ。

 お互いに狙いは、杏子から離れた場所にいる魔女だ。

 

「鳥を撃つなんて、私にとっては簡単すぎる作業よ」

 

 輝く弾丸は一番左の魔女を狙い、翼を貫いているようだった。

 ということは、私は反対側の魔女を狙うべきだろう。

 

「杏子! そこらの三体は任せたよ!」

「だからいらねえって言ってるだろ!」

「いいから!」

 

 強情だなぁもう! 

 

「“五芒の斬”!」

 

 セルバンテスによる急接近からの乱切り。

 翼、首、胴、脚、なんでもいい。とにかく相手に動く間を与えず、斬り裂き続ける。

 

『ギェ……』

 

 刃の嵐に揉まれた魔女は細切れになり、風の中に散っていった。

 

「チッ、引っ込んでろってのに……!」

『これは杏子だけの戦いじゃないんだよ!』

『ぁあ!?』

 

 燃え盛る龍の顎が、灼熱の牙をコウモリに突き立てる。

 もがき暴れる魔女をその場で微動だにさせず、杏子の槍はまた別に迫る魔女の首を刎ねていた。

 

『私達はすでに決心したんだ。危険は承知、顧みずにここにいる』

『アタシより弱いくせに……』

『見くびるな、あんときドローだったでしょ!』

『はぁ!? ドローだぁ? よく言うぜ、本気でやってりゃあの戦いは……』

『ちょっとよそ見しないで! 上から魔女が!』

 

 つい念話での言い合いに没頭してしまった。

 気づけば、大鷲の鋭い鉤爪は私と杏子、二人の頭を狙っている。

 

 が、その爪がこちらまで届くことはなかった。

 大鷲は突如、爆炎に包まれ消滅してしまったのだ。

 

「っ……!」

「うぇ、けほっ、けほっ……!」

 

 うっへ、酷い煙。助かったといえば助かったけど……現代兵器は、なかなかクるね。相変わらず。

 

『さっき起きたわ……手間をかけさせちゃったみたいだけど、今のでチャラということでいいかしら』

 

 地上を見ると、そこにはRPGを構えるほむらが立っていた。

 

『……ほむら、起きたんだ。無事で良かったよ』

『こっちの台詞でもあるけど。余所見している暇は無いでしょう』

『チッ……』

『……本気で、全力をもって挑みましょう。ほんの少しでも余力を残しておこうだとか、思わないで』

 

 今まで何度も戦い続けてきた彼女が言うからこその、重みのある言葉だった。

 杏子がそれを感じ取ったのかはわからない。渋々でも、承諾の意志を沈黙で示しているようだ。

 

 ……杏子と一緒に戦う、か。良い展開じゃん。

 

『佐倉さん。……遅くなっちゃったけど、また一緒に戦えて嬉しいわ』

『止せよマミ、あんたのそういう所が不吉だから距離を置いたんだぞ』

『えっ……?』

『どういうこと?』

 

 マミさんとは、ワルプルギスの事があって別行動を取っていたんじゃなかったのだろうか。

 

『マミの言葉はいちいち縁起がわりーんだよ。古い洋画の台詞聞いてるみたいで気が滅入るんだよ』

『えっ、えっ!? そ、そうなの?』

『ぶふっ』

 

 私が噴き出した丁度その時、ほぼ同時にワルプルギスの夜の周囲に異変が現れる。

 魔女を呼び出す黒い靄だ。

 

 

 

Brynhild

王騎の魔女・ブリュンヒルデ

 

 

 

Sieglinde

反旗の魔女・ジークリンデ

 

 

 

Valentina

黄銅の魔女・ヴァレンティーネ

 

 

 

Adelheid

斬鬼の魔女・アーデルハイド

 

 

 

Leopoldine

孤高の魔女・レオポルディーネ

 

 

 

Wilhelmina

一騎の魔女・ヴィルヘルミーナ

 

 

 

 ……ついに騎士の魔女まで、結界の外に出てきたか! 

 

『ほれみろ、厄介そうな奴らのお出ましだ。マミ、あんたのせいだからな』

『え、ええっ!? なんでなんで!?』

『狼狽えていないで、迎え撃つわよ!』

 

 そうだ。本気にならなくては。

 奴らは、冗談交じりに戦って勝てる魔女達ではないのだから。

 

 

 

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