全部私でダークエルフ   作:政田正彦

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 通称“どっちつかずの国”エフィ・カティ王国。

 

 世界規模で見れば……大きくもなければ小さくもなく。平和かどうかと聞かれれば、上流層だけ見ればそこそこに平和だし、下流層はそれなりに危機に瀕してもいた。国の位置が山か、海かで問われれば……少し北上すれば山が、南へ進めば大きな海が広がっている。

 

 可もなく不可もないこの国には、そこそこにある目玉の一つとして、王都から東へ真っすぐ進んだ先に広がる、攻略難度レベル70を超える超難関ダンジョン……名を、【エクタ大迷宮森林】という鬱蒼とした森が広がっていた。

 

 

 曰く、この森には希少な薬草が群生しており、1キロ持ち帰れれば遊んで暮らせる。

 曰く、この森には森を守護する妖精が住んでおり、彼らが作り出す魔法の霧に捕らわれると、生きて帰ってこれなくなる。

 

 曰く、この森には……近年まで伝説上の存在だと思われていた、精霊と共に戦う闘霊術を駆使するダークエルフが、ひっそりと暮らしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 エルフと聞けば貴方はどんなイメージを思い浮かべるだろうか。

 

 人間とごく近い存在だが、エルフ特有の外見的特徴として、耳の先が長い。そして、美しい姿。作品によっては、長身でつり目がち等といった特徴もあるとされているエルフ。

 

 

 早朝、私が目を覚ますと、目の前には褐色肌の耳の尖った男が、そして女が居た。

 どちらも「アイドルか何かで?」と言いたくなるような整ったルックスの持ち主で、ポカンとした顔で男は女を、女も男を見つめていた。

 

 そして、意識が明瞭になっていくにつれて分かる、驚愕の事実。

 

 それは、男は私であり、女もまた私であり、意識が共有され、それはまるで、とてもリアルな一人称視点のゲームでありながら、複数のキャラクターを同時に操作しているかのような感覚。

 

 

 ダークエルフの男女。

 

 それが私の転生した姿だった。

 

 

 

 目覚めて身体が二つに、しかも男女に分かれてしまった事、そして、ゲームや本で登場するエルフ、それも褐色肌な事からダークエルフっぽい何かになってしまった事をひとしきり驚いた私達だったが、すぐに「驚くのは後にした方がいいかもしれない」という状況だと察する。

 

 というのも、目覚めた場所が鬱蒼とした森の中だった為である。

 

 まず私達は落ち着いて辺りを見回す事から始めた。

 手荷物は、民族的なデザインの施されたエキゾチックな服のみ。

 周囲に目線を移すも、じめっとした黒い土と鬱蒼とした草が生い茂り、私達が目覚めた場所は木の根にびっしりと生えた苔が作り出す天然の芝生の上である事が分かる。

 

 耳を澄ませると、女性側の個体が何やら水の流れるさらさらとした音を聞けた。

 

 水があるかもしれない。そう思い、男性個体を前にして、虫を警戒しながら、草木や枝を掻き分け、恐る恐る進む。

 

 すると、土が泥に代わり、先ほどより足が沈むところに出た。

 だがここから先は崖になっており、行き止まりだった。

 上を見上げると、岩壁から木々が生えており、その隙間からは空が見え、鳥が飛んでいるのが見えた。

 

 再び耳を澄ませ、視線を目の前の壁に戻す。

 

 よく見れば、その崖の所々から、湧き水らしい、冷たくて透明な水がちょろちょろと湧き出ているのが見え、それを辿ると、岩の裂け目に水が溜まっている場所があった。

 

 そこから更にたどれば、小川なんかがあるのかもしれない。

 

 上空に鳥が居るという事は、彼らもこれを飲んでいるのではないだろうか。

 

 

 私達は、ひとまず覚悟を決めてその水を口にし、喉を潤すことにした。

 

 

 次に私達はどうにか火を起こせないか、と周囲を見るも……この辺りはじめじめとしていて、枯れ枝や枯れ葉といった、火を起こせそうな物は無さそうだと悟る。

 

 ここの夜がどれだけ冷えるかは分からないが……とりあえずの拠点に、この岩壁から突き出た大きな木の陰を目印に、二人で枝や葉っぱ*1を集め、夜に備えることにした。

 

 木には見たこともない木の実が成っていたり、青紫色のキノコなんかも同時に複数見つけられたが……毒があっても困るので、これは、本当の本当に最後の手段とする。都合よく鳥の食べ残しなんかがあれば、有毒か無毒かが分かるかもしれないが……いや、むしろそれが無いという事は、つまりはそういう事なのだという位には警戒してていいのかもしれない。

 

 時間が分からないが、昼過ぎくらいだろうか。結構な量の枝と草が確保できた。

 

 正直言って寝心地の良い場所とは言えないが、幸い身体が二つあるので寝る時はお互いでお互いを暖めながら寝るという、はたから見ればバカップル間違いなし(なお実際には自分で自分の寒さを紛らわせるというなんとも言い難い行為)である。

 

 

 

 さて、空腹を紛らわせるために、そろそろここがどこなのかについて考えようと思う。

 

 まず、ほとんど確定的なのだが、私は俗にいう異世界転生とやらをしてしまったのだろうと思う。神様には会っていないが。ここまですべて夢でした、で終わるならそれはそれで良しとして。

 

 だがあまりにも感覚が明瞭過ぎる。むしろ、こうなる前の私よりも感覚が鋭い。特に女性個体は、クトゥルフなTRPGなら大活躍出来るだろう。湧き水の音を聞いたのも、上空に飛んでいる鳥を見たのもすべて女性個体である。

 

 一方で男性個体は、エルフというよりオーガか何かでは?と言いたくなるような筋肉質で長身、抜群のプロポーションとそれに見合うフィジカルの持ち主で、草木のほとんどは彼が集めた物だ。

 

 もしこの世界が魔法有のモンスター有の世界だったならば、戦闘面どうにかするのは殆ど男の個体になりそうだ。女が魔法でも使えればまた違うのかもしれないが。

 

 その魔法に関して言えば、まだ試してすらいないのが現状である。

 というか試すのが恥ずかしい。誰もいないところで「ステータス!」とか言う勇気が持てない小心者なのである。私は。私達は。

 

 しかし、実際問題こうして耳の先が尖ったエルフのような身体になったのだから、魔法の一つや二つ、使えてもおかしくは無いだろう。なんせ異世界転生というそれ以上にあり得ない出来事がすでに起こってしまっているのだから。

 

 

 ……まあ、折角だし。他にやることもないので、仕方ない。本当に仕方ない。誰も見ていないよな?大丈夫だよな?

 

 

 

「……ステータス」

 

 

 

 しん。と辺りを静寂が包んだ……ような気がした。実際には森の草木が風に揺れしゃわしゃわと音が鳴っているのだが。

 

 ……なるほどね。ステータスが出ないタイプの異世界転生ですか、そうですか。ふーん。いや、別に恥ずかしくなんてないが。全然。全く。これっぽっちも。大体人も見てないし。

 

 何気にこの世界に来てから初めて言葉を発した瞬間だったが、それは悲しい結果を生んで終わったのだった。

 

 ……といいつつ、それからも私達は魔法の練習を、冗談半分、本気半分で続けた。できないだろうけど、出来たらいいな、程度の軽い気持ちで。

 

 そう、そんな軽い気持ちだったのだが、日が暮れ始めた頃である。

 

 

 その頃は既に「体の中に意識を向けて~」とか「呪文を唱えて~」といった考えつく限りのことはやり尽くしてしまっており、女性個体の方が「マッチでもあれば火が起こせるかもしれないのに」と、エアギターならぬエアマッチでしゅっしゅっ、と火を起こす真似をしていた。

 

 するとどうだろう。彼女の手の先の延長線上で、しゅぼっと火が灯ったのである。

 

 ぽかん、としてそれを眺めているとほんの数秒でぷすっとそれは消え、白い煙が空気に解けていく。

 

 もう一度試すと、やはり同じことが起こった。

 

 もしかして、と思い、今度は「マッチの先に、油が染み込んだ松明がある」という設定で、エア着火をしてみることにした。

 

 すると、それはまさにファンタジー物でいうところの初級炎魔法。某有名ゲームでいうところのファイア、またはメ〇。

 

 火の玉が空中で燃え上がり、ぱちっぱちっ、と辺りを照らしていた。

 ……物語でよくあるようなカッコいいポーズではなく、透明な棒状の何かを持ち、その棒の先が燃えている、ような、あまり恰好のつかない魔法だったが、十分すぎる程に、それこそ今の私達にとっては希望の光であった。

 

 

 興奮していろいろと試してみたところ、どうやら、想像力を働かせることが重要だったようで「実際にそこにある」と仮定し、その通りの行動をすれば、例えば筒から水を取り出すように想像して、エア水筒をすれば、空中からびちゃびちゃと水が滴り落ちたし、ナイフを手に持っている、と仮定し、想像力を働かせて手を振れば、木の枝にカツッ、と切れ目が入った。

 

 

 では、「自分にはゲームや小説のような魔法が実際に使える」と仮定した場合はどうなるのだろう、と考えたところで、異変に気付いた。

 

 やけに、精神的疲労感が激しいのだ。

 

 ようやく異世界転生らしくなってきて、気分的にはまだまだ試したいことばかりなのに、精神は「残業明け直後、ベッドにダイブしたい」といった感じの疲労感に見舞われている。

 

 ……恐らく、感じていられていないだけで、この力を使うことで、MP的な何かを消費してしまったのだろう。

 

 幸い、火力に物を言わせて焚き木を作り、暖をとれる状態にしてあったのは幸いであった。

 

 特に女性の方が酷く疲れており、暗くなるころには横になって動けなくなってしまうほどだった。一晩寝て、起きた時には元気になればよいのだが。

 

 

 

 

 こうして私達は、襲われている女の子を助ける訳でもなく、ステータスを見て外れスキルにがっかりすることも、逆にぶっ壊れ性能にドン引きすることもなく……それはそれは静かに転生初日を終えたのだった。

 

 

 

 

 

 ……寒い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 >>②<<

 

*1
断熱材替わり




主人公(前世)

年齢:?
性別:?
職業:会社員
趣味:サブカルチャー、アニメ鑑賞、ゲームプレイ、なろう。
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