全部私でダークエルフ   作:政田正彦

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 >>①<<

 

 

 

 私達は寒さに身を震わせながら目を覚ました。一人が寝ている間にもう片方が見張りをする作戦だったが、いつの間にか両方眠ってしまっていたらしい。

 

 何が居るかもわからない森の中でずいぶんと無防備を晒してしまったようだが、突然森に現れた人間を警戒してか、動物も、ファンタジーチックな何かも私達に危害を加えようとはしなかったらしい。たまたまかもしれないが。

 

 なんにせよ、だ……。

 

 

 ……猛烈に空腹である。

 

 

 魔法っぽい何かで食べ物を生み出せれば良いのに、と思ったが、どうも上手くいかない。せいぜい、食べたいと思った物の美味しそうな香りがフワッと辺りを漂うだけという、とても悲しい結果に終わる。

 

 レベルか……?レベルが足りないのか?

 

 なんにせよ、このままでは飢え死に待ったなしである。私達は迅速にこの空腹を満たす為に行動を開始した。

 

 

 

 魔法らしき何かのおかげで、昨日よりずっと森の中が進みやすい。昨日までは、行く手を塞いでいる草木を掻き分けながらだったのが、今では邪魔なら強引に叩き切る事が可能である。

 

 また、木が作り出す影のせいで昼間だというのに薄暗く、時に全く光が通っていない場所すらあったが、松明の魔法のおかげで十分に視覚を確保出来るのも有難かった。

 

 

 そうして森の中を進んでいると、女性個体……。

 

 

 ……女性個体、と言うのも面倒だし、私達は自分に何か名前でもつけるべきだろうか。まあ、それは後にしよう。

 

 ともかく、女の方が何か音を聞いた。それは、何かが羽ばたくような音だ。サイズは虫程度で、蝶にしては羽ばたく音が大きいし、蜂や蚊に比べると間隔が長すぎる、ぱたっぱたっ、と言うような羽音だった。

 

 もしこれが危険な生物のものであった場合、下手に刺激してしまうと痛い目を見る可能性がある。息を潜め、私達はその羽音のする方へと進んでいく。

 

 

 そこは、赤紫色の、プチトマト位の大きさの、イボイボした表面を持つ果実の成る植物の群生地らしく、どこを見ても同じ果実が成っていた。この羽音の持ち主は、この果実の花の香りにつられてやってきたのだろう。

 気付けば同じような羽音がそこかしこから聞こえていた。

 

 そして、注意深く周囲を観察していると、ついにその羽音の持ち主の姿を視認する事に成功する。ここに来て初めての生物との遭遇である。

 

 

 それは、一言でいえば、羽の生えた妖精であった。

 

 160mlのコーヒー缶よりも一回り小さい位の、精巧に作られた人形のような身体と、背中に対となるハート形の羽が生えた小人。

 

 ぱたっぱたっ、という羽音を立てながら、一生懸命に果実を採ろうとしている姿があちらこちらで見え、そして彼らは採った果実をどこかへと運んでいるらしかった。

 

 

 この果実は、食べることが出来るのだろうか……?勿論、彼らが毒性のあるものでも食べられるような身体の持ち主である可能性も否定出来なかったが、今の私達にそれを考えるだけの余裕もなく、彼らに見つからないよう、ひっそりとその果実をいくつか採取し、こっそりとそれを持ち帰った。

 

 羽音が聞こえなくなるまで離れた後、私達は果実を見つめて喉を鳴らし……ひとまず、体が丈夫そうな男が皮を剥いて、白く、そしてねちゃっとした果実の部分をひと思いに口に含んだ。

 

 

 ……味を何かに例えるとすると……ざらっとした舌ざわりの林檎のグミ……とでもいったところだろうか?……そこそこ美味であった。

 

 

 さすがに空腹が紛れる程の量は採れず、精々小腹を満たす位の量だったが、それでも今の私達には有難い、実に一日ぶりの食事。感激に涙さえ流しそうになる。

 

 あとは、まあ、後になって眩暈が出たり身体に発疹が出たり熱が出たりしなければ万々歳だ。

 

 

 

 その後も私達は探索を続けた。

 

 

 そして分かった事は、前世の世界では絶対に見られないような生物がかなりの数住んでいるらしい事が分かった。

 

 草みたいな体毛の猪のような生物であったり、先ほど見た羽の生えた小人、目が四つあるカエル……そして、それらの生物が残していったであろう、足跡や糞といった痕跡がちらほらと見受けられた。

 

 ……だが、人間が残していったと思われる痕跡は全くと言っていいほど見つけられない。

 

 

 水は、今朝の場所から近い場所に補給できる場所があるからまだいいとして……食料が無い。今のところ、食べて大丈夫だと確信が持てるのがあの木の実しかないというのが現状だ。

 

 そしてその木の実で誤魔化せる空腹も限界に近い。

 

 ならばやはり、今私達にとれる選択肢は一つしかないだろう。

 

 

 きっと最初は失敗するだろう。もしかしたら今日中には成功しないかもしれない。ずっと成功しなければ……飢え死にする未来しかない。

 

 だが、こちらには魔法もある。何も無いより成功確率は高い筈だ。

 

 

 私達は、身を潜め、息を潜め、より一層周囲を警戒しながら森の中を進んでいった……。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 グレスボア。別名、草原猪。その名の通り、草原のような体毛が生えた猪である。最もこの世界でいう猪は、体長が1m以上あったり、鉄のような硬さの皮膚で覆われている事もあるのがこの世界の猪である。

 

 このグレスボアもまたそんな異世界の生態系に準じた生物の一種であり、体長は大きくて1m以上、主な生息地は森の中、それも深部、彼らが好む特定の草木が生い茂った場所で多く見られる。

 

 性格は比較的臆病で、大きな音や生物に敏感に反応し、刺激に驚くと鼻息で凄まじい強風を発生させ、外敵を吹き飛ばす習性を持っている。

 

 

 その日、森の一角、草木が生い茂った場所に彼は居た。

 

 このあたり一帯は彼らを害する敵があまり居ない。比較的安心して食事が出来る場所の一つだ。

 

 彼はいつものように、足元に生えているふかふかした草を貪っていた。

 

 

 刹那、がさりと遠くの草が揺れ動く。

 

 敏感にそれを察知した彼は、草を貪るのをやめ、その方向を一瞥すると、すぐさまその場を去ろうとする。

 

 すると、物音が一気に大きくなり、物凄い速さでこちらへ近づいてきたのが分かった為、彼は大慌てでその場から駆け出す。

 

 

 姿は見えないが、がさがさと鳴る音は確実に自分を追ってきている事が分かった。

 

 

 彼は恐怖と怒りを覚え、威嚇の意味も含め、鼻に空気を送り込み……急カーブして物音のする先を見据え、追ってきている何かへ向かって必殺のブレスを放つ。

 

 

 対角線上の木の枝や草木からバキバキと音が鳴り土煙が巻き上がる程の威力を持ったそれが放ち終わった後、ぱらぱらと草木が地面に落ちる音が響く。

 

 ……それからしばらくしても、ガサガサという自分を追う音は聞こえなかった。

 

 静かになった場所を尻目に、少しばかりの安心を覚えた彼は、その場から離れようと、何かが追ってきていたと思われる方向から目をそらす。

 

 

 その瞬間、彼の胸の辺りに凄まじい衝撃が襲う。

 

 ズン、と全身に、内臓に、心臓に響くような衝撃は痛みを伴い、気付けば彼は地面を転がっていた。

 

 再び、ガサガサという音が聞こえるも、最早彼にそれに反応出来るだけの体力は失われており、胸からどくどくと流れており、死は免れないだろう。

 

 

 少しして、音の正体であろう者()の正体が露わになる。

 

 

 

 どちらも、褐色肌で黒い髪、金色の瞳と、ピンと尖った耳を持つ人間の男女だった。

 

 女は肩程まで髪を伸ばしており、凛として整った顔立ちであり、女性らしい身体の持ち主で、服から垣間見える身体は健康的であったが、おそらく彼を追っていたのは彼女ではなくもう片方だろう。

 

 男は短髪で、キリッとした顔立ちであり、筋肉質で男らしい身体の持ち主で、服や肌のところどころに傷や泥の汚れが垣間見えた。

 

 男は 「ごめんよ」 何事か呟くと、手に持っていた透明な何かを振りかぶり、勢いよくそれを振り下ろした。

 

 

 それが彼が見た最後の景色だった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 お肉、おいしい。

 

 

 

 何度か獲物を見つけるも、失敗、失敗して、失敗を繰り返し、失敗を重ねる事5回目にしてようやく成功。

 

 なお、この凄い鼻息の猪には何度か遭遇し、そして逃げられていたのだが、2回目に彼らに遭遇した時、彼らは過度なストレスを感じるとあのブレスを放つらしい事と、彼らが鼻息を出している間は、その場からしばらく動かない事に気付いたのだ。

 

 故に、男で彼らを追いかけ、そして立ち止まり鼻息のブレスが終わったタイミングで心臓*1を狙って、女の魔法で仕留める。

 

 ちなみにこの女の魔法というのは、何回か繰り返して一番威力が高く仕留める事が出来ると確信した、弓の魔法を使用している。

 

 威力は今使える魔法の中でも一番。弓矢を作る必要が無く、弓を引く真似事(ポーズ)をすると、腕に強い抵抗感を感じ、放つと狙った場所に風穴が開くという魔法だ。

 

 一見有用な魔法だが、実はかなり消耗が激しい。弓を射る真似事をしているだけなのだが、使う力も威力もスピードもまんま弓矢で、実際の弓矢に比べればまだ命中率が高い方だろうかという程度の物。

 

 お陰で既に女の腕は悲鳴を上げていた。

 

 何回か試しているうちに魔法の練度がぐんぐん上昇していったのは嬉しかったが。

 

 

 

 油断した瞬間を狙う事の難しさ。

 あの鼻息のブレスの厄介さ。

 警戒心の強さ。

 一重に身体能力の高さ。

 

 

 

 そうして、ようやっと狩りに成功して手に入れた彼の身体を持ち帰り……解体作業に入る。といっても素人知識なので、食べれるかわからない内臓を抜き、蔓を重ねた物で縛って吊るして血抜きを行い、そして少ししたら食べれそうな部位を頂く。

 

 骨から切り外した肉を食べやすいサイズまで切り、それを木の枝を削って作った棒で肉を刺し、魚を焼くような要領で、焚き木にかざして火を通していく。

 

 じゅわじゅわと肉汁が溢れ滴り、少し焼き色がついたあたりで火から外す。

 

 ぐう、と同時に私達のお腹が鳴り響く。

 

 

 

 

 ああ、もう、辛抱出来ない。

 

 

 いただきます。

 

 

 

 

 

 そして冒頭まで戻る。

 

 なんというか……肉とはこんなにも美味しい物だっただろうか。調味料どころか塩も無いというのに、満たされるというか、なんというか……勿論あるに越したことはないのだろうけど。

 

 ……しかし生の肉は腐りやすく保存する方法が今のところ無いので、出来る限り腹に入れておきたい。水分を飛ばして塩漬けしたり出来ればまだ可能性はあるのだが……贅沢はいっていられない。

 

 私達は出来る限り彼を無駄にしないように食べていった。

 

 

 

 そしてふと、肉が無くなった彼の亡骸に目がいった。

 

 この世界で、この方法で弔いになるかどうかは分からない。

 

 だが、君のおかげで私達はこれからも生きていける。

 感謝の意味を込めて……自己満足かもしれないが、私達は彼の亡骸を、穴を掘って埋めた。

 

 その頃にはすっかり夜になってしまっていた。

 

 

 

 私達は、明日も生きていけるように願いながら、また昨日と同じように眠りについたのだった。

 

 

 

 そんな私達を、見ているものが居るとも知らずに。

*1
多くの動物は前足の脇辺りが心臓、つまり急所に該当する。海外では動物型の的を使う際、この場所に近ければ近い程得点が高いというルールも存在する

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