がっこうぐらし!ver2.0_RTA 『一人ぼっちの留年』ルート≪参考記録≫ 作:ゆキチ
(びっくりするほど期間が空いて、申し訳なさ過ぎて)初投稿です。
(待たせたお詫びに前後編を混ぜて一つにしたのでボリュームがとんでもないので)初投稿です。
(ちなみに私が密かに悩んでた「文字数からしてRTAじゃねぇんだよなぁ!?おめぇなぁ!?」問題は、時間とともに吹っ切れたので)初投稿です。
完走の為に安定を取ったぜ(結果的)なRTAはーじまーるよー!
前 回 ま で の あ ら す じ 。
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・VSふぁみりーさん。
・要約:「お前も家族だ」「家族じゃねぇし!」「お前も家族だ」「だからちがっ「お前も家族だ」「話聞けよ!」
・慟哭、苦痛、洗脳、希望、陵辱、感動――全てを乗り越えた先に待っていたものとは―――!!
「くにへ かえるんだな。おまえにも かぞくが――は?もう一回だけお姉ちゃんって呼んで?……………は?」
は????
――ラウンド2……ファイッッ!!
ゴリラ一行「なにやってんだあいつら……(ドン引き)」
ーーーーーーーーーーーーーーー
――はい。
まあ、ラウンド2は無いんですけどね。初見さん(無慈悲)
昨日の最後のドタバタは流石にイベント扱いなので暗転します。
(あんな状態で収拾つくわけ)ないです。
なんやかんやあってなんとかなります。なんやかんや。
さて。
イベント連打流し中に、えんそく組が帰ってきたのも確認出来ました。
とりあえず、無事えんそくは成功したと見ていいでしょう。
うーん……みーくん達を助けられたでしょうか。特にけーちゃん。駅からの救出は結構難しいですからねぇ。
「――あっ。……おはよう、やなぎくん。よく眠れた?」
――ぬっ。
目を開けると、そこにはめぐねぇのドアップ。どうやら起きるのを待ってたみたいですね。
ショタの枕元から見下ろす状態で、垂れる髪で陰る優しげな顔も良――髪が顔に当たって邪魔だおらァ!
場所は寝室で、朝日が覗いています。どうやら十日目に移行したようです。
「やっと起きたぁ……ふふっ、お寝坊さんだね」
――ぬッッッッ!!!……ふぅ。
ゆきちゃんが、ひょこりと顔を出してきました。一緒に待っててくれたようですね。
――あぁ〜……!(浄化の音)
このスチル、この……ねっ!
髪先がかすかに顔を擽るこの距離感、少し空いた窓から覗くお日様に照らされ、少し陰る顔には、優しげに緩む瞳と悪戯な口許……!!
最高やで。めぐねぇと比べるまでもねぇ。
りーさんの蕩け笑顔とは大違いで心が落ち着くなぁ!!(小声)
「……まだぼうっとしてるの?朝ですよ、そろそろ起きましょ?」
「そーだよやーくん!ほらぁ、起きないとほっぺ、くにくに〜ってするよ?」
う゛う゛……!!クニクニシテェ(断末魔)
「ありゃ。……もう!二度寝はだーめぇ!起きるの起きるのおーきーてぇ!」
――起きます(げんきのかたまり)(ザオリク)(フェニックスの尾)(リザレクション)(メダパニ)(メロメロ)(パフパフ)(アニメ版だと意外にセクシー曲線が輝くゆきちゃん)(ニフラム)
二人とも、おはよう(すっきり)。
「うん!おはよーやーくん!」
「……ええ、おはよう。ゆきちゃんも、おはようね。……さっきもやったかしら」
「したよめぐねぇ。もー、こーねんきはまだ早いよ?」
めぐねぇがキレそうな事をさらっと言うゆきちゃんはマジゆきちゃん。
と、いう訳で。
前回、無事に……無!事!に!
ふぁみりーさんを突破する事が出来た訳ですが気を抜いてはいけません。
――RTAは続いています。
RTAは続いています(固辞)。
RTAは……続いて、いるんです……!(切実)。
ですので、今日は皆様に「あっ、そういえばこれRTAだったな……(懐古)」と思わせるムーヴを徹底していこうと思います!ロスと引き替えに切り札を一つ増やせたと思えばいいんですよ昨日のは!
昨日は――タイムを犠牲にRTAの安定を取ったんですよ。
……てぇ、事はですよ?
これ以降は――安定を犠牲にタイムを取ればプラマイゼロでイーブンになると思いません?(単細胞思考)
チャートは逐次、組み直して進んでいきましょう!
……だって、本チャートがどっかのバール泥棒で崩壊して、残骸から作った補完チャートもふぁみりーさんが蹴散らしやがりましたからね!
高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変なRTAです(これを、行き当たりガバったりと言います)。
とはいえ、今日に関しては短縮要素は少ないです。処理と外せない好感度稼ぎが控えています。
……午後くらいですかねカットできるの。幸いな事に、ふぁみりーさんのせいでショタの疲労は留まる事を知りませんからね。
「やなぎくん……」
ん?何やら心配げなめぐねぇが。
どうしたどうし――おや、ふにふにと頬を挟み込んできました。
おっ、これは……?
「ごめんなさい」
なんのこったよ。
「ゆうりさんの事……気づかなくて」
まあ、アレは私も予測してなかったですからね。しょうがないね。
隠れ発狂枠としての実力を遺憾なく発揮した形です(白目)。
……くそっ。気づいてたら、上京する恋人を乗せた電車を無謀にも追いかける田舎少年ムーヴで無理矢理着いてったものを……!
「こんなに……っ、傷ついて」
めぐねぇが潤んだ目でショタを見つめてきてます。顔も少しクシャついて泣く一歩手前ですね。
あー、てかこれは――
「ごめんなさい、ごめんなさい……怖かったよね?痛かったよね?私がちゃんと見てなかったばっかりに、また貴方を傷つけて……!」
――責任、感じてますよね?
腕の傷や手の平の火傷を撫でる手先が震えて悲壮感パないです。
いや、めぐねぇは悪くないと思いますよ正直。大体ふぁみりーさんが悪いと思うよ?だってショタを家族だと勝手に思いこんでるってどう考えても気付ねぇって。しょうがな、……しょうが、うん?
……いや、ちょっと待ってほしい。
そもそもあの場面で学校に残るという選択肢を選んだのは、めぐねぇがバールを盗んだからでは?ショタが戦闘員になれなかったからでは?
――やっぱりめぐねぇのせいじゃないか!責任感じてろおまえ!(手のひらクルー)
「ごめんね、本当にごめんね……!」
「めぐねぇ……」
とはいえ、このまま落ち込ませているのは悪手です。
めぐねぇはただでさえメンタルよわよわなので、こういうちっちゃな事ですーぐ行動不能になりますからね。(普通めぐねぇならともかく、覚醒めぐねぇにくよくよさせる時間は)ないです。
横で、ゆきちゃんもアワアワしているので、さっくりケツを蹴り上げましょう。
……なんで慰められる側のショタが慰める必要があるのだ?(疑問)
ええっと。そうですね。変化球飛ばすとあらぬ球が飛んできそうだし……。
――大丈夫だよ。結果的に皆無事だったじゃん。ヘーキヘーキ。
まあ、こんなんで大丈――
「――大丈夫じゃないっ!」
えっ。
「大丈夫なんかじゃない!貴方が……貴方が無事でなければ何の意味もない!!貴方を守る為に、守る……なのに、また、また私は……!!」
「えっ……あっ、め、めぐねぇ?」
「ねぇ、ねぇお願い約束して次こんな事あったら自分の身を守る事だけを考えて周りなんてどうでもいい貴方さえっ、貴方さえ無事なら私は――っ!!」
あっ、なんか地雷踏んだ。
なして?いや、普通に悪くない返答だったじゃん!?
だっ、大丈夫です。こういう時は、奥の手をですね!猫の手を!
――ゆっ、ゆきちゃんヘルプ!
「――――」
「あわ、あわわ……あの、めぐねぇ?し、心配してくれるのはありがたいけど、おちついてほしーなぁって。ほら!あんまり騒ぐと近所めーわくだし?」
「………
「あの、えっと、心配かけたのはやーくんが百パー悪いし、あとでわたしからもお説教しとくから、ねっ?ねっ?落ち着いて……怒らないで……」
えっ、なにそれ聞いてない。
「まだ言ってなかったからですー!もぉー、りーさんの為とはいえ頑張り過ぎ!やり過ぎ!帰ってきたと思ったら包帯まみれだったのを見たわたし達の気持ちになってよもう!」
でっ、でも乗り越えなかったらガメオベラだったし、そもそも私のせいではなく勝手に発狂したりーさんのせいでは……?
「いいわけむよーっ!むがぁーっ!」
ひぃ!牙を剥き出しにして襲いかかってきました!
ゆきちゃんフレンズです!タタリガミです!鎮まりたまえ!
さざかし名のあるゆきちゃんと見受けたが何故そのように荒ぶるのかは分かってますが鎮まりたまえーッ!
……ここで、めぐねぇを盾に。
そうするとぉ……?
「っ。……。……ゆきちゃん、落ち着いて。突然取り乱した私が悪かったです。だから喧嘩しちゃだめよ」
ヨシッ!なし崩しに落ち着きましたね。
流石、空気清浄機YUKI=TYAN。修羅場に混ぜるとあら不思議。途端に和むんで場が落ち着きます。こういうとこは本当に有能ですね。尚、本人大体特大爆弾皆死終。
「うーっ、うーっ」
「ともかく。やなぎくん、次は絶対に危険な事はしないで。私と……ゆきちゃんに約束して」
「そーだそーだっ!」
おう、考えてやるよ(危険な事しないと短縮にならないからね。しょうがないね)。
「やーくん!」
「もう……まあ、次は絶対にありませんから。ゆきちゃんもしっかりやなぎくんを見ていてね?」
「はぁーい!」
わぁい嬉しいなぁ(正直、邪魔になる)。
……にしても、めぐねぇのショタへの依存が強いな。
いえ、庇護対象に対してはそうなる傾向にはありますが……好感度を稼ぎ過ぎましたかね?後衛要員ってのもあるんでしょうが。
メイン盾にはなってほしいんですが、モンペにはなってほしくないんだよなぁ……(わがまま)。
「それじゃ、ご飯にしましょう?ゆうりさんの事もそうだけど、“外”で助けたやなぎくんのお友達も紹介し――」
「――わんっ!」
ん?
「えっ…?」
「およ?」
「……わぅん?」
おや。
気づけば、近くにちっこいのがいますね。
何者でしょう。
この――終盤に視聴者の涙腺を根こそぎ奪い去る、愛らしくも憎らしい、まるでゆきちゃんの愛をかっさらう為に産まれてきたような、アンポンタンふぁっきん子犬は。
「わぁ〜!ワンちゃん〜!!」
…………チッ。
おっと、失礼。つい条件反射で。
淑女の前でなんて下品な……。
紳士たるもの。
淑女が子犬と戯れる光景には笑みを浮かべ……――そのまま舌打ちしましょう。
ニコチッニコチッ。ニチッコニチッコ。チッチッチッチッチッチッ。
「かわいいねぇ〜!」
「わん!」
「んぅ〜?こっち向かないねぇ。照れ屋さんなのかな?むふふっ、かあいい」
「わん!わん!」
……ッッッチィィィィ!!!(霹靂一閃)
こっ、このイヌガキ……!
恐れ多くもゆきちゃんに構われているというのに、何故ショタをガン見しやがる……!?ゆきちゃんが可哀想だと思わんのか……!
チッ!!!!
……ともかく。
この犬っころがいるという事は――
「あっ……」
「あちゃー……太郎丸……」
加入していればこの二人がいるという事です。
まだ知り合って一日も経っていないので、この犬っころはどちらかの側を離れないんですよ。
二人とも顔色も悪くないですし、目立った外傷も無さそうですね。特にイベントも起こらずに事が運んだようです。
……救出できててよかったぁ……。
これでダメだったらダメダメのダメでダメがじsglんj(動揺)。
「……美紀さん、圭さん」
「あっ、えっと……佐倉先生、その……覗き見のつもりは……えっとですね、出るタイミングと、言いますか、あの」
「……いえ、大丈夫。むしろ、丁度良かったです。正式な自己紹介は後でやるつもりだったけど……やなぎくん、二人は昨日おでかけ先で見つけたの」
ええ、見つけさせましたからね(黒幕並感)。
気さくに挨拶をして、無事を喜びましょう。
ゆきちゃん幼なじみルートのおかげで二人とも友達関係ですからね。ほんと、こういう場面では刺さる有能恩恵です。尚、本人(以下略)。
「はい、なぎ先輩も無事で何よりです!」
「………」
「……ほら、美紀」
「……元気そうで、えっと……良かったです」
うん?みーくんの方はやけに気まずそ――ははーん(閃き)。
さては私とめぐねぇが絡み合ってるシーン(意味浅)が複雑なんですね。端から見れば禁断の恋だからね。しょうがないね。
「……っ…」
「あー、っと。太郎丸ー、こっち来なさい」
「わんっ!」
「あ〜!太郎丸〜!行かないでぇ……」
こっ、このイヌガ(以下略)。
にしても。
この二人も朝起こしに来るとは珍しいですね。こういう時は既存のメンバーが来るのが大半なんですが……。
『合流イベント』前ですしぃ……?
「それにしてもどうしたの?なにかありました?」
「あっ!そっ、そうでした!」
――あっ、そっかぁ(天啓)。
昨日はふぁみりーさんの件が――また、りーさんか……!
えっと。
仲間が仲間に殺傷沙汰を起こすと発生する、イベントがありまして。
「そのっ、実はくるみ先輩たちが、若狭先輩の事を囲んで問い詰めてて……!ねっ、美紀!」
「……そうだね」
ゲーム内で言うと――『尋問イベント』。
ざっくり言えば、吊し上げです。
そりゃあ刃物持って仲間を切り刻んで殺しかけたからね。しょうがないね。残当だね。
「えっと……私たちは当事者じゃなかったので外れてたんですが――ちょっとよくない雰囲気で。圭と話して、先生を呼ぼう、と」
「あー……」
「たっ、たいへんだよ!やーくん、二人を止めなきゃ……!」
まあ、今までの関係性や好感度的にやんべぇ事にはならないと思いますが、このままボケボケする時間がもったいないです。
急いで向かいましょう。ダッシュで!
こちら現場です。
部室前に来ましたが、実に物々しいオーラが漂っていますね。
「あわわ……!」
ゆきちゃんのこのくそかわ慌て姿を見れば、雰囲気が如実に伝わってくることでしょう。
腕を前に抱えるブリっ子ポーズでも、ゆきちゃんにさせればタイっ子ポーズ……――王の中の王と言えるんじゃないでしょうか(追いメダパニ)。
現場からは以上です。
「えっと、大丈夫そうですか?なぎ先輩」
――大丈夫だ。問題ない。
………いや、フラグではなくガチで。
吊し上げって言っても大した事は起きないです。流石にこれまでの好感度と正気度は信用出来ます。りーさんとかいう隠れ発狂専門家とは違いますからね。
それに、万が一にもやべぇなら、めぐねぇが近寄らせる訳はないので。
ではぁ、行きつけのラーメン屋に入るように気軽にドアを開けましょう。
ちわーっ。
「いふぁい……いふぁいわ、ふるみ。ほっぺのひちゃう……」
「おーおー延びとけ延びとけ、このバカりーさんが。やなぎにあんな怪我させやがって……世が世なら極刑だぞこの野郎」
「おんななんらけど……」
「この女郎!」
「いちいち律儀か。……よし、悠里。今日から少しの間このボード提げてな」
「……?なぁにこれ」
「お前の悪行が目に見えるようにしたんだ。これを時々見て反省しなよ」
「……たかえちゃん」
「どう?やっぱ、文字にすると客観的に見れ」「これ、女じゃなくておねえちゃんって直し――いっっ!?」
「ごめん、腕抓っていい?」
「抓りながら、いふぁない……ふるみ。やめふぇ、きゃぱおーふぁーになっふぁ――いっっふぁあ!?!」
「……どういう状況?」
――私が積み重ねた成果です(ドヤァ)。
はい。部室に入ると、りーさんのほっぺを千切らんとばかりに引っ張るくるみと、手作りボードで戒めを与えようとしているチョーカーさんがいました。
ボードには……『わたしは ひれつなてで やなぎくん を きずつけた さいていおんな です』。
うん、しめやかに悔い改めろ。
――と、まあ。このように。
互いの好感度が高い状態であれば、殺しや悪辣な事をしなければたいていは温い方向になります。
後は被害者本人が許す選択をすればいいだけです。
次やったら、これで済みませんが――ふぁみりーさんに関しては“次”なんてないので問題ありません。
皆も出来れば、仲間内で殺傷は嫌だからね。しょうがないね。
……ちなみに。
これで好感度が低いと仲違いや幽閉は勿論――極論、処刑です。
『がっこうぐらし!』は好感度激低状態だと、途端に現実的で生々しくなるんですよね。
きららの絵でウォーキング・デッドはやめてくれよなぁ〜頼むよぉ〜。温度差で風邪引くわ。
「んんっ!!」
めぐねぇが咳払いすると思い思いに虐めてたいじめっ子(残当)が、いじめられっ子(残当)から手を離してこっちに――ええい!心配しながら頭を撫でるな!両手が塞がってて逃げれん!さっさと次行かせろ!!
「えっと。美紀さん、圭さん。昨日の事の話し合いをするので、もうちょっとだけ待ってもらってもいい?」
「はい。重要な事ですもんね」
「……問題ないです」
「ありがとう。さっ、やなぎくん」
めぐねぇに促されますが……うぅ、昨日の悪夢が蘇ってマジ手が震えてきやがった……!(恐怖)。
ちなみに震えているのは、私だけでショタは平静としてます。マジかお前。
「なぎくん」
ひえぇぇ(萎縮)。
「昨日の事、本当にごめんなさい。おねっ………、……私、どうかしてたわ」
今もどうかしてるみたいですね。
「こんな事言うのは恥知らずかもしれない。でも……どうか、私を許して……」
「……さっき、皆でゆうりさんとお話したの。もう、大丈夫だと思……おも、……思うわ」
「半ば反省してねぇしな」
「なっ……!傷付けた事は反省してるわ!」
「“は”って言ってんじゃんか」
せめて嘘でも断定して。
とはいえ、大丈夫か大丈夫でないかと言えば――大丈夫ではありません。
先ほどまでの言動の通り、あの鬼畜クソ展開を切り抜けたとしても、目の前にいるりーさんは――ふぁみりーさんですから。
「……やなぎ、無理はすんなよ。私たちは大丈夫だからな」
「右に同じく、柳に従うよ」
「……あなたが決めて、やなぎくん。……安心して?決して――悪いようにはしないから」
囁きが物騒で引く。隣ではゆきちゃんが死ぬほど不安そうに見てきます。
当然ですが――即答で赦します。
いやだって、ここで赦さないって選択したらいったいあのホラーはみjfSNwかいんlんくdn(発狂)。
「……そう」
「なぎくん……」
「ゆうりさん。やなぎくんがこう言っているから今回だけは水に流します。でも――
「……わかってます、めぐねぇ」
めぐねぇの声がクソ低くて怖いゾ。
許したい気持ちも勿論あるけど――ショタが許すから許してるが大半だってはっきりわかんだね。……依存、手遅れくせぇなこれ?
りーさんも反省したのか、神妙な顔して怖々とショタを抱きしめます。
ショタもひしっと友情のハグを返しました。これにはオーディエンスも「しょうがねぇな(悟空)」と苦笑い。
みーくん達もなんか丸く収まったのをほっとしています。
うーん、感動的。
これで満面解決ハッピーエンドってはっき――
「これからもよろしくね。
やっぱ反省してねぇなこの偽姉。
――はい。
という訳で、『尋問イベント』と、ふぁみりーさんイベント『YOU MAY CALL ME SISTER』をクリアしたので――これからりーさんはふぁみりーさんとして行動を始めます。
ふぁみりーさんは、普通のりーさんとは違い、戦闘にも積極的に参加してくれるようになります。
さらに、これが霞むレベルで有用能力が二点追加されます。
まずは、正気度がこれ以上変動しない事。
そして――
正気度に関しては、隠れ発狂しなくなるのがいいですね。他の場面でもいちいち止まらない点も素晴らしい。……まあ、これ以上変動しない、という事は――ずっとこのままなんですけどね。
そして、命令を拒まない。これが凄いですよ。
例えば。今この場で「ゆきちゃん以外皆殺しにして?」と言うと、戸惑いながらも結局実行するというトンデモさです。これってぇ勲章ですよぉ?(首級的な意味で)
つまりは、ふぁみりーさんは“言いなりーさん”になりました。
RTAの為、存分に使って行きましょうふぇっへっへっへっへ(ゲス)。
イベント終了と同時に
そのまま朝食に入ります。
皆で机を囲んで、仲良くいただききます!ですね。メンバーが二人と一匹増えたのでちょっと手狭です。
メニューは、昨日キッチンで発見していたカレーです。コーン付きでゆきちゃん受けもいいのが二重丸。特に、新顔の二人にはクリーンヒットでしょう!ええ!
「……カレーだよ、圭」
「そう、だね……ぐずっ」
ほかほかのカレーを前に、みーくんとけーちゃんは震えていますね。
うるうると涙目で――感動に浸ってます。
「……?やーくんやーくん、二人ともカレーが大好きなのかな?」
察しの悪いゆきちゃん(かあいい)が疑問に思うのは無理もないでしょう。我々は、食事に関しては二日目辺りから潤っていますからね。
「――いただきます」
「うぅ……いだだぎまず……」
察しの良い面々の暖かな視線の中。
二人はカレーを一口。ポロリと零れる涙も飲み込みながらがっつき始めました。その姿は悲哀、そのものです。
ただのカレーでなぜに?――と思う初見ニキネキもいると思うので……。
食事風景を流しながら、ざっと情報の開示をしましょうか。
みーくんとけーちゃんは、例のショッピングモールでアウトブレイクを迎えた訳ですが、なんやかんやあって――ある一室で籠城生活を始めます。
運良くそこは、トイレ・シャワー完備。さらには当面の水と食料がありました。
――
それに食料っつっても缶詰・レトルト、それが無くなれば乾パンオンリー。
……初日くらいですかね?言ったと思うんですが、腹が満たされるからといって粗食以下の餌を貪ると――正気度が下がります。
ずぶずぶと精神がヤラれていくのです。
一歩出れば地獄絵図。しかし、此処に留まっていてもジリ貧になっていくだけ。
我々とは違い、ゴリラを飼っていないか弱いJKには、絶望的な状況。
――仲良しだったはずの二人の絆は亀裂が走っていくのです。
んでまあ、けーちゃんは現状が嫌になって喧嘩別れな形で“外”に出て、駅でゲームオーバー。
みーくんも孤独に耐えきれなくなって部屋から出て、『かれら』に囲まれたところを“学園生活部”に救われるが、心は荒んでしまっている………。
――というのが本編の流れ。
けーちゃんの『生きているだけでいいの?』――は名言であり至言でありながら悲しい言葉ですよねぇ。
まあ、ゲーム内では如何様にも出来ます。
今回は、けーちゃんを駅でガメオベラ寸前に救出させたんで此処にいますし、みーくんの心も合流したおかげでそこまで傷にはなっていないでしょう。
「……っぐ」
「おいひぃ……おいひぃよぉ……!」
壮絶な展開からこの学校に来るまで――つまりはアウトブレイクからこの十日間、二人はマトモな飯を食べていないのです。
十日ですよ十日。暖かい食事の有り難みが身に染みて溢れ出すのも無理はありません。
今の二人は食事で特効がぶっ刺さってるのも当然。些細なことでも好感度があがりやすくなっています。
ですので。
――ふ た り の た め に ぃ 〜 。
ニコリと笑顔を浮かべ「おいしい?」と優しく囁きかけ!
さらには、「もっとお食べ?」とせっせと自分の分も与えましょう!
これで好感度があがります(必勝)。
そう、気分は――拙い手料理をご馳走する恥ずかしげな同級生……!!
……あ?
これ作ったの、たぶんりーさんだろって?
…………お姉ちゃんのやった事って、実質的に家族である弟の物だったりもしません?(ここぞとばかり利用する反抗期の鑑)。
「二人ともお腹空いてたんだねぇ。はーい、おすそわけー。ほいほい」
「ありがどうでずぜんばいっっ……やざじい、ずぎですぅ!」
「あっ、一夫一妻派なんでぇ。お気持ちだけでぇー」
「……ほんとに、優しいのは変わらないですね先輩。……少しだけ安心しました」
「そーでしょう!えらいんだよー?……チラ?チラチラ?」
なっ……!
本編で空気を読まずに食い意地張ってたゆきちゃんがお裾分け……だと……!?しかも自発的に!?(アピールスルー)
馬鹿な……!これはいったい――あっ、ただの先輩風吹かせたいだけだこれ。
「はいはい、えらいえらい。……やなぎくん?二人にあげたいのも分かるけど、自分の分も取っときなさい?お腹空いちゃうわよ?」
えー。
でも、もうこれ以上ショタに飯食わすメリットもないんですよねぇ。あとは好感度上げてぇ、さくっと最終日に感染するだけなんで。
まあ、無視してゆきちゃんにでも上げましょうかね。
はい、ゆきちゃん。
いっぱいお裾分けえらいねー。ごほうびあげますよー。
「――
「わぁい!ありがと、やーくん!あーん」
うぅーん。ゆきちゃんの大口……せくしぃ。
サメってぇ口を開けるのが求愛の証らしいっすよ(雑学の開示)。
はい、あーん。
カレーはゆきちゃんの好感度上げやすいので一石二鳥でありがた――
「あら、ありがとなぎくん。んむっ」
……は?(半ギレ)
「んー!おいしい。なぎくんの愛を感じるわ」
は?(全ギレ)
「なっ…なっ…!!」
「でも、このカレーは元々なぎくん用に作ったから、なぎくんに食べてほしいなーって。はい、お返しのあーんっ」
は?えっ?あーん。
あっ、正気度の回復幅やば。もうこれショタ専用メニューじゃ――なくて!!
「なんで取るのー!やーくんの愛ー!」
「ふふふ?美味しいでしょう?……思い出は嘘だったけど、なぎくんを思って作ったのは間違いないから、遠慮なく食べてね?はい、あーん」
ちょっ。追いあーんはやめろ!好み過ぎてショタが拒めない!
すぐ横でお冠のゆきちゃんが見えないの!?これだからはお姉ちゃんは!?
畜生っ。えんそくで減ったゆきちゃんの好感度を取り戻そうと思ったのに!
「ていうかぁ!やーくんにあーんするのもわたしの役目なんですけどー!?」
和気藹々な朝食が終わり、自由行動になりました。
今日は“えんそく”もないので適当に、散らばって過ごしています。
……あれ?『合流イベント』は?あだ名決めるやつは?と思ったニキネキもいる事でしょう。
なんで発生しないのか。それはみーくんのキャラクターの影響です。
みーくんってこう……アレです。物静かっていうか……内気でしょう?(気遣い)
本編でも、本当の意味での合流には一悶着ありましたし。
それゲームにも反映されていて――最低でも一日はこちらのグループとして属した事にならないんです。
まあ、ゆきちゃんルートだし、カレーもありましたから。明日にはイベントが起きる事でしょう。
そんな事より!
私はこの時を待っていました!
前に言った通り、みーくんは主要キャラ随一の頭脳キャラ。
彼女一人いるだけで、勝手にフォローしてくれたり、戦闘・探索の際には高度な作戦を建ててくれる有and能な訳ですが――いかんせん、ズバズバ言いすぎて不和を呼び起こしかねないのが難点。
ですが、その難点はけーちゃんがいる事で緩和される…………のは!
私のチャートじゃあ、あまり重要な事ではありません!
二人……というか、みーくんに求めるのは一つ!
――“みーくんの自己分析”です!!
なんぞそれ?という方に説明しましょう。
これはみーくんが加入直後にのみ使えるコマンドで、みーくんと二人きりの状態で「ぼくたちの事どう思う?」と尋ねると、今の状況を忌憚なく語ってくれるというものです。
ざっくりまとめると“総集編”。あるいは、“これまでのあらすじ”といったとこでしょうか。
……そんくらいなら別にいらなくね?、と思います?思うでしょう?
侮るなかれ!
みーくんの語る“今の状況”は、建物の未開放箇所や充実度・満足度の具合。果ては、キャラの隠しステータスまで詳らかに教えてくれます!
ええ!ええ!――本当ならりーさんの正気度知りたかったんですよこれで!
ですが、起きた事はしょうがないです。
それ以外の情報を知りたいですし。是が非でも聞いておきたい……の、ですが。
「さあ、やなぎくん?今日はわたしとゆっくり過ごしましょうね?」
「むぅ。やーくん?わたしも忘れちゃいやだよ?」
この二人が邪魔です(明け透け)。
……本チャートだったらゆきちゃんを切り離すだけで簡単に聞けたはずなのに、余計なめぐねぇもショタに張り付いています。
今朝の通り、依存が強いせいでしょうね。
きっと目を離したら死ぬとでも思われてるのでしょう。はっ!要介護が笑わせてくれる……!
ですが、朝の時点で依存には気づいていたので、対策済みです!
では、二人を連れて寝室に向かいましょう。
「んー?もう寝るのー?」
「おひるね、ですか?……そうね、昨日は大変だったもの」
昨日、ふぁみりーさんと戦った傷がここで生きてきます。
元々、負傷状態のまま体を酷使したので、睡眠時間が足りていないので、こんな朝っぱらから『休む』コマンドを選択する事が出来るのです。
おやつの時間くらいまで、がっつり休みましょう。
はい、ここ。短縮要素ですね(黒板びしっ)。
最終日に向けての小細工とかやっておきたかったですが、そこは明日以降に持ち込めば問題無くいけるでしょう。
数時間くらい経てば、依存めぐねぇも違う事しだすので。
その隙に、適当にキャラを誘導して、二人きりになるだけです。ふぁみりーさんもここぞとばかりに利用しましょう。
さぁて。寝ようねー疲れたなー。ごろーん、うわぁ布団の柔らかさやべぇなぁ。
こりゃぁぐっすり寝れそうだなぁー?目ぇ離してもこのまま寝てそうなくらいだなー?
「やーくんが寝るなら、わたしもねるー」
「そうね。ゆっくり休みなさい?私が、ちゃんと側にいますからね」
いるな。どっか行け(反抗期)。
「もうっ。気にしなくていいの。側にいさせて?」
気遣いじゃねぇんだよなぁ……。
さぁて。寝ましょう寝ましょう。
めぐねぇが側にいるなら、前みたいに二段構えでの睡眠妨害も無いでしょう。
「ふふふ、あったかいね。やーくん」
そだねー。
「よしよし、大丈夫だよ。皆が側にいるからね。さみしくないよ」
うぅ、ゆきちゃんの睡眠誘導ASMR……!
………。
………。
………。
よし!
ふぅー!やっぱゆきちゃんのASMRは効くぜー!
朝ご飯食い終わってすぐ寝て、おやつの時間までなのでぇ……大体8時間くらい?
疲労が溜まり具合によっては、いっぺん寝ると起きないっすからね。今の負傷を考えるといい塩梅かと!
「……んぅ?」
おっ、起きましたね。
さて、もうめぐねぇはいなっ――――?
「やぁくん、よく寝……た……?あれぇ?」
あれ?なんで――
えっ?はっ……?
じっ、……じっ、時刻は!?今の時間は――七時?えっ?十九時じゃなくて?
は?
「あはは……気持ちよすぎて寝過ぎちゃったね、やーくん」
いや寝過ぎィ!?!?!?!
ありえねぇありえねぇざっと二十四時間だぞ!?どんだけ疲労まみれなんだよ!?いやおかしいおかしいおかしいおかしい!
流石にない!これはガバじゃない!ガバ以上のなんかだぞこれ!
待て待て待てまてめてめにめにまにまにどんな無茶ぶりも!(やけくそホイッスル)
「むっ。くるみちゃんもめぐねぇもやーくんにちかいっ……はーなーれーろー……!」
まって?まって?――
いや、重傷とはいえただの外傷だぞ?
頭の怪我は下手すれば意識障害併発するけど……?
依存めぐねぇが延々と寝かしつけた?……いや、少なくとも起きた描写は混じるはず。
いやぁこれはぁ――もっと重傷だぞ。
「……なんかりーさんが簀巻きで転がされてる」
移動に問題ないから骨は折れてない。痛みが酷くないから傷が膿んで感染症を引き起こしてる訳でもない。
頭。やっぱ、障害―――?
重度だと“昏睡”の行動不能状態も付与されるから、もしかして。
「あれ?ねぇ、やーくん」
ゆきちゃん。まって。
今ちょっと考えて――
「みきちゃんがいないよ?おトイレかな?」
みきちゃん?
………?……あっ、みーくんの事か。
ああ、『合流イベント』前だから、まだあだ名じゃないんだった。聞き慣れなくて誰かと――はっ!
――“みーくんの自己分析”ィィ!!?
…………。
……。
…。
――うめき声が響く。
聞き慣れてしまった在りし日の隣人たちの声。
よだれと血にまみれた粘ついた音を、耳が拾う度に身が軋む。目頭は熱くなって、背筋は冷える。精神をがなる、吐き気がする、気持ち悪い。
それが何もかも塗り潰した。
そのせいで。
自分の呻きすら、掻き消える。
「美紀……!美紀、起きて……!」
私を呼ぶ声で、目が覚める。
視界いっぱいに広がるのは――親友である圭の顔。
いつもは勝ち気な表情と悪戯な笑みを浮かべていた……と思う。確信が持てない。持てなくなってしまった。
汗で張り付いた髪、ひきつった口元。恐怖と怖気を混ぜ合わせた表情が、“いつも”だ。
「……圭?」
「起きたなら早く手伝ってッ!――奴らが入ってきちゃう!!」
圭は私が起きたのを確認するや否や、一目散に駆け出す。
その際に蹴飛ばされたお気に入りのCDプレイヤーはきっと、邪魔なものになってきていた。
冷たい部屋と薄い布団。積み上げられた無機質な
そんな物が今の私達の全て。
必死に、命を削って。守らなくちゃいけない。こんなのを。
布団を抜け出して、部屋のドアへと向かう。
唯一の出入り口にはたくさんのダンボールを積み上げてある。奴らを通さないように。
でも、来る度に二人で抑えなければ意味もないような軽いものだった。
「美紀ぃ!!」
「あっ……う、うん!!」
圭の金切り声で我に返る。
急いでダンボールを抑えるが、奴らがドアを叩く力が勝っている。
――ドォンッ!ドォンッ!
響く度に、私達の体を揺れる。積み上げたダンボールが一つ転げ落ちる。ゆっくりと剥がれていく様は、命のカウントダウンに等しかった。
「もっとちゃんと抑えてよッ!」
「やってる!やってるってばッ!!」
親友の苛立ちに苛立ちで返す。
こんなひどい声、喧嘩した時ですら出したことなかったのにね。
――ドォンッ!ドォンッ!
ダンボールが転げ落ちる。
隠されていたガラス越しに――白く濁った目と、視線が重なった。
すぐに反らしたがもう遅く。叩く力は一層苛烈になった。
――ドォンッ!ドォンッ!
「……っ!圭!わたしが抑えてるから、新しいダンボールを!」
――ドォンッ!ドォンッ!
「圭!圭!早くして!」
――ドォンッ!ドォンッ!
「っ!ねぇ聞いてるの!?いいから早くやってよっ!!?」
隣に叫ぶ。
だけど――
「えぁ……?」
部屋を見渡す。居ない。居るはずがない。
だって――
私を置いて。一番の友達であるはずの私を。
二人で聞いていたCDプレーヤーは――使えないから、と残されていた。
――ドォンッ!ドォンッ!
「くっ……んっ!ぃやぁ…!!」
――ドォンッ!ドォンッ!
「だっ、誰か……!」
――ドォンッ!ドォンッ!
「誰か助けてっ!!お願い!誰かぁ!誰かぁあ!!!?」
助ける人は居ない。助かる道は無い。
でも、縋って――私は叫ぶ。喉が痛んでも切れても血がこぼれても。
きっと、うめき声しか上げれなくなっても。
『生きていればそれでいいの?』
――消えた親友の声が聞こえる。私を責める言葉。泣いてうずくまる私に向けた嘲り。
しらない。なんなの。いみわかんない。
わたしは、ただ。
けいと。いっしょに。
それが、それが。
そんなに だめな こと なの ?
「――美紀、起きて」
ーーーーーーーーーーー
――目が覚める。
荒れた呼吸、汗に塗れる背中。真っ暗な見慣れない天井に、困惑が勝った。もがくように勝手に動く体は――誰かが抑えている。
きっと奴らだ。
「……っ!」
反射的にはねのけようと体をよじる。
もうだめだ、と頭でわかっているも嫌悪が神経を駆けめぐっていた。
「美紀、美紀……!」
「やめっ…やめて、お願い…!」
「美紀、落ち着いて……!私、私だよ……!」
「――んっ?……えっ、あっ…?」
聞き慣れた声に、背けていた首を動かす。
そこには――見慣れた親友の顔があった。
「ねぇ、大丈夫……?」
そこに苛立ちも何もない――ただ、心配だけが伝わってくる。
圭。私の親友。
私を置いて行った。絶望の中に置き去りにした。
でも――それは決して苛立ちだけが全てじゃない。考えればわかる事が分からなかった。再会するまで。
ふと、沈黙が広がった。
荒れた呼吸を整え、混乱する頭を落ち着いていく。
「……ごめんね」
一呼吸を置いて、こぼれたのはそんな言葉だった。
圭は、私の言葉に目を閉じる。
――こつんっと額がぶつけてきた。汗で塗れる額から、かすかに震えが伝わってくる。
「……ううん。私の方こそごめんね」
圭は言葉を返してくれた。
それだけ――もう十分だった。
「起きる?」
「うん……このまま寝たら、地獄に逆戻りしそう」
「……どんな夢か聞いてもいい?」
「圭が私を置いてった後に奴らが来た時の夢」
「うっ。……それはぁ、どうもご迷惑を……」
「ほんとだよ。あの時が一番の地獄だった」
あの夢には続きがある。
とはいえ、なんてことはない。突破されるよりも前に、奴らが飽きたのかどこかへ行って終わっただけの話。
……でも、あんなに絶望的な状況じゃなかったし。そもそも私はあんな子供みたいに喚かないし。CDプレーヤーは大切だし。圭ともあそこまで険悪じゃなかったし。
私とはいえ酷い風評被害だ。訴えたい。裁判所機能してないけど。
「わっ、私だって地獄だったよ?外じゃ、もうひっきりなし」
「ふーん?」
「あ、自分が一番だって顔してる。へーんだ、そうやって井の中の蛙してなさいな。真の恐怖を知らないままでねっ」
「ちなみに私が一番怖いと思ったのは、水の為に便器に顔を突っ込むのを躊躇わなくなった自分だな」
「「ぇ……」」
「よし。誰が一番地獄かな選手権は私の勝ちで終わったところで――声抑えて。柳が起きる」
「「あっ……」」
ふと、辺りを見渡せば。
そういえば、と。
自分たちは助けてくれた恩人達と一緒に雑魚寝してたのを思い出した。
――
お腹いっぱいごはんを食べて、恐怖とは無縁な……こんな状況になって、初めて。
寝ることが怖くなかった。そんな時間を過ごした。
恩人の一人、たかえ先輩が布団の中から頬杖をついて。
苦笑気味に私達を見つめていた。
「……すみません、騒いじゃって」
「んーや、しょうがないって。私も経験あるし。……それにしても、友情って感じで素敵だな二人って」
その言葉に首を傾げて……ややして、額を重ねていた場面であると思い至った。かぁ、と頬に熱がこもる。
「あっ、いやあれは……」
「謙遜しない。大切にしなよ――失ってからじゃあ、遅いんだ」
たかえ先輩の言葉には嫌なくらい実感が籠もっていた。
その視線は――万寿先輩に注がれていた。
「……結局、起きませんでしたね先輩」
「ああ、どっかのアホンダラのせいでな」
「あはは……」
先輩がゲシゲシと蹴っているのは――添い寝かまそうとして、先輩たちに毛布で簀巻きにされて放置された悠里先輩。結構な力で蹴られてるのに、俄然せずスピスピと寝ていた。
――万寿先輩は、朝に昼寝したと思ったらそのままずっと眠ったままだった。トイレや食事で起きる事もなく、言葉は悪いが……いっそ死んでいるのではないかと思うくらいに。
皆が言うには、疲れが出てしまったのだ言っていたけど。
無言で悠里先輩を見つめる佐倉先生が怖かった。
「んむぅ……?なぁんだぁ、敵襲かぁ?」
ふと、万寿先輩に添い寝していた胡桃先輩が体を起こした。むにむにと動く口元が完全に寝ぼけている。
からんっ、と握るシャベルを床に擦りながら奴らのように蠢いてた。
「違うから寝てな。ほら、柳が寒がってるぞ」
「ん、やなぎぃ……大丈夫、あたしが…んにゅっ……」
たかえ先輩の言葉を聞くと、そのまま万寿先輩のほっぺに頬ずりをしながら覆い被さるようにまた寝入った。
……胡桃先輩は悠里先輩を非難してたけど――先輩も先輩で、結構大概だと思うのが私と圭の見解だった。
かち、かち、と鳴るのは時計の音。
小さな寝息しか響かない時間が少しだけ流れた。
「あの……」
ふと、圭が口を開く。
ためらいがちな口調でなにを言おうとしているのかわかった。……それは、たかえ先輩も同じだろう。
「なぎ先輩は――
万寿先輩は――圭の友達で、私の数少ない友達でもある。
男子じゃなければ、きっと気負わず名前呼びくらいはしてるほどの友達。
だから、助かっていると聞いた時は嬉しかったし、素直に無事を喜び合いたいと思った。
だから。だから。
――
誰も居ない空間に話しかけ、何もない空間と手を繋いで、宙に向かってカレーを差し出した……あの姿。
私達に向けてごはんを分けてくれたあの言葉も、今思えば――
どれもこれも異常だった。
ぎこちなく話を合わせる皆の姿も相余って。
そして、その理由は。
あの人の隣にいつもいた、あの小柄な先輩が居ない事でーーなんとなくわかってはいた。
たかえ先輩は、ややして小さく、声を出した。
「二人が地獄を見てきたように――私達も地獄を見た。競うつもりは欠片もないけど、辛かったよ。友人が化け物になって襲ってくるなんてな」
思い出すのは、奴らが溢れて大混乱になったショッピングモール。その似たような事がこの学校でも起こったんだろう。
まさしくーー地獄。
「私達は耐えれた。柳と……ゆきがいたおかげで」
でも、と。先輩は続けた。
喉に詰まった物を吐き出すように、苦しげにーー続けた。
「柳は耐えられなかった。ほんと、それだけの話なんだ」
先輩は顔を隠すようにうずくまった。
こちらに聞こえてくる大きな呼吸はなにかを堪えている。
何も言えない空気の中。
ひょこりと布団から出てきた先輩は、へらりと嗤った。
「まあ、なんだ。
ふと、思い出したのは――さっきの夢。
圭がいなくなって、奴らに追い立てられる……あの夢。
もし。もしだ。先輩達がショッピングモールに来なかったら。
私は。万寿先輩のように――
「そうだ。まだ眠るつもりがないなら、めぐねぇのとこに行ってくればどうだ?」
たかえ先輩は空気を変えるように、明るげにそう言ってきた。
見渡せば、確かに一つ布団が空いていてーー特徴的なピンク色の髪が無い。
「きっと、職員室にいる。……ついでだ。きっと、めぐねぇからも話したい事があると思うし、分かっていた方がいいでしょ?」
私は圭と顔を見合わせて、頷き合うと――立ち上がる。
何も言わず、手を握ってくれた親友の温もりが、とてもありがたい。
そうして廊下に出る直前。
「なぁ」
ふと、声がかかってきた。
「私たちの事はいい。でも――めぐねぇを責めないでやってほしい。もう、いっぱいいっぱいなんだ」
その言葉に、嫌な予感が沸き上がった。
佐倉先生は、確かに職員室にいた。
「………」
月明かりの差す職員室は、私の知っていた姿ではなかった。
投げ出された机、折られた椅子。壁には消し切れない暗い赤が走っていて、乱雑に破られたカーテンからは割れた窓ガラスが覗き、深い闇を通している。
先生はそんな中で、ひっそりと座っていた。
うず高く積まれた机の奥にある、
側に置かれたコーヒーの暖かな湯気が、ひどく場違いだった。
「あら?」
入り口で立ち尽くす私達に気づいた先生は、“前”に見た柔らかな笑みを浮かべた。
ほんわかと優しいけど少し頼りない先生の――
「どうしたの二人とも、眠れない?」
「あっ……えっと……」
「夜更かしはだめよ。ぐっすり寝ないと身体によくないわ」
「………」
「さっ、寝室に戻りましょうね。安心して休んでちょうだい」
先生は笑顔のまま、私たちを窘めるとゆっくりと近づいてくる。
どうして、なのか。
――背筋がすごい寒い。
「……あ、あのっ!」
このままじゃ埒が明かない。なんのかんの連れ戻されそうだった。
圭の温もりを盾に――声を絞る。
「さっき、たかえ先輩から。話を、聞きました。万寿先輩の事」
「……そう。そうなのね」
すとん、と先生から表情が抜けた。
元の椅子に腰掛け、コーヒーを一口を飲むと――静かにこちらを見つめてきた。
「やなぎくんの事は気づいているわね。それで、私たちのやっている事はなんとなく分かってるでしょう?貴女たちにも……それを、お願いしたいの」
「えっと、それは……」
「ゆきちゃ……丈槍さん、覚えてる?やなぎくんの隣にいた女の子」
「……はい」
「
矢継ぎ早に語られるソレに、私たちは反応を鈍らせた。
だって、万寿先輩はどう考えても――
そんなの、そんなの。
「……治そうとは、思わないのですか?」
ふと、吐けたのはそんな在り来たりな言葉。
先生は、薄く笑った。
「治して、なんになるって言うの」
「……」
「ねぇ、見て?この部屋。全部グシャグシャ。職員室だったなんて思えないくらい。学校全体も“外”だって似たような有り様だったわね?化け物がいっぱい。ご飯だって集めるのが一苦労だわ。電気も水も、いつ切れるかわかったものじゃない」
「……それが、なんだと」
「……んー、わからない?」
しゃらんと揺れるピンクの髪。
陰った顔には、軽薄な笑みを浮かべた。
「――こんな世界にやなぎくんを連れ戻す意味があるの?」
その言葉に――私たちは言葉を紡げなかった。
なにか言いたい感情は胸に沸き起こっている。でも、それが言葉になる前に押し留まる感覚があった。
先生の言葉を、否定出来ない自分がいた。
「やなぎくんは今幸せなの。大切な子と一緒で、懸命に生きてる。それでいいじゃない。そこから引き離してどうなるの?あの子はただゆきちゃんと一緒にいたいだけ。ねぇ、ねぇ――
ふと、頭の中を過ったのは夢の中の自分。
泣いて、泣いて。ただ親友を置いてかれたことを嘆いていた――前の私。
何も言えなかった。
それを知っているからこそ――私にそれに対して何かを言う事が出来なかった。
「それにーーゆきちゃんは、ちゃんといるもの」
先生は囁くように呟いた。
怪訝な表情を浮かべているであろう私たちに、ある場所を指差した――校長室。
しばらくして……聞こえてくるものがあった。微かに、小さく、だが決して――幻聴じゃない。
だって、だって。聞き慣れてしまったものだから。
ドアを、叩く、うめき声。
「ひ……!」
全て思い至った。
どうして万寿先輩がああなってしまったのか、この学校で何があったのか、そして――どういう結末を迎えてしまったのか。
たかえ先輩の言う通りだ。
皆が皆――地獄を見てしまっていた。
「ねぇ、二人とも。貴女達を歓迎してるのは本当よ?皆と仲良くしてほしいし、苦しんだ分少しでも幸せになってもらいたい」
でもね?
「――あの子の幸せを奪う事だけは絶対に許さない」
そうして、ゆるりと私たちを抱き締めた。
「――ようこそ、“学園生活部”へ。私達は貴女たちを歓迎するわ」
先生――めぐねぇの浮かべた笑顔はどこまでも綺麗で暖かみがあった。
心の底から、私達を歓迎してくれているのが伝わってくる。嬉しい、と感じた。
でもそれ以上に。
――
※解説byWiki
・みーくんの自己分析
別名『良くあるギャルゲーの友人キャラ(攻略不可)の嗜み』
直樹美紀……みーくんが仲間に加わった際に“しばらくの間”使用する事が出来るコマンド。みーくんに、二人きりの状態で尋ねれば発生する。
仲間の好感度・正気度。使用している拠点の状況など――今を取り巻く状況を教えてくれる。
客観的、かつ隠しステータスについても語ってくれる。
その為、今の状態がいいのか悪いのかの良い判断材料になる。ゲーム内一の頭脳派は伊達ではない。
このゲームは中盤を過ぎると――色々な所が、徐々に綻びを見せる。
だからこそ、はっきりと状況整理出来る機会は、本当に……本当にありがたいの塊なのである。
因みに、“しばらくの間”とは、出会って一日経過するか、好感度一定値を超えない間の事を指す。
さしものみーくんでも、仲良くなった相手に対してズバズバ言うのは流石に憚られるようだ。かわいい。
――おう!よく見つけられたな!じゃあ、教えてやるぜ――これが無駄骨って奴だぜ!!(赤さん)。
えっ、先輩達をどう思うか……ですか?
うーん……言っちゃっていいのかな……ああ、確かに。まだ私達は新入りですからね。外からわかる事があるかも。
いいですよ、私で良ければ。……怒らないで下さいね?
えっと……。
皆さんとても良い状態だと思います。
なんだか親友……というか、家族みたいで。とても優しい雰囲気。
……こんな状況でもそうしていられるなんて、ちょっと羨ましいです。
ご飯も豊富ですし、ちゃんとした寝る所、シャワー、電気だって天気依存ですがきちんと使えていますし。
此処はとても安定してますね。……三階しか安全でないのがネックですが。二階の図書室とか使えるようになると便利かも。
全体的に鑑みれば、こんな状況でも最良と言える居場所です。……ここに来れたのは本当に奇跡でした。
ああ、でも先輩。
佐倉先生……なんですが。
時々暗い目をして先輩を見てますよ。……唯一の大人ですし、気苦労が多いんじゃないんですか?
えっ?悠里先輩?……ノーコメントです。
だっ、大丈夫ですよっ!あれはあれでいいんじゃないですか!……たぶん。
……その……えっとあの。先輩。
――ちゃんと休めてますか?正直、ちょっとどころじゃない隈が。
あと。
少し……皆さんが怖いです。
先輩が望んだから。先輩だったらやるだろうから、先輩が嫌がるだろうから――――
ただの贔屓だけ……ならいいんですが。
私の目には――
……こんな状況です。
皆少しおかしくなってもしょうがないと思います。悠里先輩みたいに。
でも、健全、じゃないのは確か……です。
このままだと取り返しの付かない事に……私達だって……!
もっ、元はと言えば全部先輩が悪いんです!どうしていつも通りなんですか!どうしてそんな傷ついても壊れても、いつも通り優しいままでいられるんですか!?
皆、化け物になったんですよ!?
今までの生活がめちゃくちゃになって……!
お願いします……見てて辛いんです……はっ、はっ……腹だって立つんですよっ!
……目を覚ましてください!
貴方の隣には、誰も居ないんです!
「(なんて……言えたら良かったんだけど)」
私は益体の無い妄想にため息を吐いた。
翌朝。
結局めぐねぇに導かれるまま寝室に戻った私は――無論、ろくに寝る事が出来なかった。
あらゆることが衝撃的だった。
この世界が、どれほどひどくて最低なのかも、はっきり分かった。
まだ誰も起きていない早朝で、「学園生活部」の部室で、私はぼんやりと時を過ごしていた。圭は疲れていたからかぐっすりだった。……ああいう切り替えの良さは、憧れる。
――ドアが開く音が響く。
誰が起きたのかと振り向けば――万寿先輩がそこにいた。
昨日に比べれば良い顔色と、どこかへ延びる腕は何かを掴んでいる。
……目を凝らしても、私には“彼女”は見えなかった。
「……おはようございます、先輩」
「おっ、おはよう!みきちゃん、えっと」
やけに緊張した面持ち。
どうしたのだ、と首を傾げる。
恐る恐ると言った感じで先輩が口を開いた。
「あの……えっとね?ぼくたちの事どう思ってるのかなーって。率直な意見をね!聞きたくて」
頭を過ったのは――先程までの妄想だった。
嘘ではない。本当の事だ。
このままでいい訳はない。気持ちは分かるがおかしいままでいる理由はない。
「……」
「……っ……っ」
縋るような視線に、喉奥から言葉が押される。
言え、言ってしまえ。
ゆきちゃんは死んだんだと。化け物になって校長室にいるんだと。
ほんとの事を言う――それが正しい、
ふと、開かれたドアの端から、
「―――」
「……?」
ゆっくりと熱が冷める。言葉がお腹の中に消えていく。
そうだ。昨日、あんな事を言った人が――この人を一人にするはずがない。
言おうとしたら、きっと止められるだろう。それこそ、手段を選ばずに。
じっと先輩の瞳を見つめる。
そして――
「悪くないと思いますよ?特に言う事はないです」
そう、嘘を付いた。
もうわからない手の温もりを求めるこの人の夢を、軽率に奪う事。
それは――きっと、間違いだから。
なのに。