鎧の勇者の成り上がり   作:JOKER1011

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63話

エスノバルトの船で急行した俺達が見たのは破壊された城だった。

 

「行くぞ!!!」

 

俺達が船から飛び降りて城の中に入ると1人の男に胸倉を掴まれて持ち上げられているラルクがいた。

 

「ラルク!!!」

 

「おやおや、また新たな勇者が来たな。それに1人は見たことのない勇者だな。」

 

そいつはラルクを地面に落とし、俺たちの方に向き直る。

 

しかし、グラスと絆は男の手を見て驚いた。

 

「その鎌‥」

 

「なんで‥!」

 

その男の手には鎌が握られていた。俺はラルクの鎌をはっきりとは見ちゃいない。だがあれは勇者武器の鎌だ。奪ったのか‥?アイツが?

 

「波の尖兵って訳か。」

 

「その通り。この男の鎌は頂いた。次は‥お前らから取ってもいいな。」

 

「そうはさせない!!!」

 

絆がナイフを構えて突進するが、アイツが強いのは魔物相手であって、人間相手ではない。

 

それをアイツは一番分かっているが、自分が勇者ゆえに突撃した。

 

しかし、絆はナイフを持つ手と首を掴まれて動きを止められてしまった。

 

「ほう、最後の四聖勇者か。お前は連れて帰らせてもらう。」

 

「な!?ダメ!!!!」

 

グラスが扇を構えて攻撃を仕掛けるが、奴はそのまま謎の転移系スキルを唱えて姿を消してしまった。

 

奪った鎌と絆を連れて。

 

「絆ァァァァァァ!!!!!!!!!!」

 

そこにはボロボロになった城と絆を失ってしまったグラスの慟哭しか残されていなかった。

 

「ラルク!!!しっかりしろ!!!」

 

俺はラルクを抱えてすぐに医務室に連れて行った。

 

「不覚だったぜ‥まさか襲われるなんてな‥」

 

「若!お気を確かに!」

 

「大臣。頼みがある。''あの''部屋を開放しろ。頭数は多い方がいい。」

 

「‥分かりました!お任せください!」

 

大臣は準備があるのか、ラルクを俺達に任せて走って行ってしまった。

 

「おい、何があるんだ?」

 

「ああ、明日になれば分かる。エクレール。明日はアンタも参加したらいい。俺が許可を出す。」

 

ラルクの治療に集中すると言うことで部屋から追い出された俺達は廊下を歩く。

 

クリスがいた。

 

「ペン‥」

 

壁に手‥いや羽根を突いて項垂れていた。

 

「クリス、あなたのせいではないわ。あの時は誰にもどうする事はできなかったの。」

 

グラスがクリスを慰めて抱き上げると部屋に連れて行った。

 

「俺達も部屋に戻ろっか。」

 

「ええ‥そうだな。」

 

城の執事に案内された俺とエクレールは部屋に行き、扉を開ける。

 

だが、俺達は部屋を見て固まってしまった。

 

なんと‥ダブルベッドだったのだ。

 

「は‥?」

 

「え‥?」

 

「どうしましたか?お気に召しませんでしたか?」

 

「いやいやいやいやいや!!!何でダブルなんだよ!」

 

「はい?お二人はそういう関係ではないのですか?」

 

「‥違うのだが‥」

 

「そうですか。しかし、今日はもう部屋がここしか残っていません。」

 

「仕方ない。ここで。」

 

さっきから俺しか喋ってないが、エクレールはダブルベッドを見て固まっていた。

 

そして執事が出ていき、俺達2人だけとなった。

 

「すぅー‥俺床で寝るから。」

 

「何を言う!私は騎士だ!遠征任務の時には地べたで寝る事だってあった!だから私が寝る!」

 

「何言ってんだ!お前は騎士かも知れねえが女を床に寝させて1人ベッドでねるなんてマネできるか!」

 

そのまま俺はエクレールと睨み合うが、エクレールが諦めたように言った。

 

「分かった。2人で寝よう。」

 

俺は右端、エクレールは左端に寝転び、お互いに背を向ける。

 

やべぇ‥俺女性と寝るの初めてだ‥しかも歳上。

 

いや、別に歳上が嫌いって訳じゃねえ。そこは誤解しないでほしい。

 

いいか、ライト。横に寝ている女性は仲間だ。変な気は起こすな。

 

「ライト。」

 

「ひゃい!」

 

「クスクス。何今の。」

 

いきなり声をかけられた事で俺は声が裏返りながら返事をした。

 

「ライトは‥召喚されてこの世界に来たんだったね。前の世界ではどんな風に暮らしてたの?」

 

「ああ、普通に学校通って友達と遊んでたな。平和だった。」

 

「そっか。前の世界に戻りたいって思う?」

 

「そうだなぁ‥あんまり思わねえな。前の世界では毎日毎日おんなじことの繰り返し。それよりはこの世界は毎日面白い。飽きないな。」

 

それから俺達はたわいもない話をし続けた。

 

「そうだ。エクレールは‥エクレール?」

 

返事が無い。寝たか。

 

俺も寝ようとした時、何かが俺の腕に触れた。

 

腕に全ての神経を集中させて確認する。腕だ。

 

「う〜ん‥」

 

エクレールが寝返りをしてきた。俺の方に。つまり俺の顔のすぐ近くにエクレールの顔がある。

 

マジマジと顔を見たことがなかったが、コイツ‥

 

「整ってやがる。」

 

少し右に移動しようとしたが動けない。

 

いつのまにか俺の左腕はエクレールに抱きしめられていたようだ。

 

フヨン!

 

柔らか‥

 

ダメだ!!俺とエクレールは仲間‥俺とエクレールは仲間‥

 

こうして人生初の眠れない夜が始まったのであった。


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