GOD EATER「Past you and Now I」 作:Pumpghost
とにかく白、という印象しか与えない部屋。ベッドに寝ている俺ははもう汗だくだった。息も上がり、額から流れた汗が目をチクチク刺していた。
「稀羅さん、大丈夫ですか?」
安否を尋ねる、とても慣れ親しんだ声。
「め……がね。」
情けながら全然答えに適しないことを言ってる。
「あ、眼鏡。えーと、どうぞ。」
それでも声主は俺に眼鏡をかけてくれた。レンズが赤黒く汚れてる。そういや……途中で捨てたよな?そんな眼鏡越しに映る人は、短い金髪の少女だ。
「……フラン……さん?」
「はい、フランです。よかった、人の認識には問題がないみたいです。具合はどうです?」
起き上がろうとしても体が言うことを聞かなかった。
「動けないんですけど……」
「身体が衰弱状態に至りました。急に動くのはお辞めになさった方が。」
疲れ切って……ああ、5体のガルムとノンストップで戦ったっけ。そんで終わった後に意識が消えて……そうか、その後に救出されたのか。
「あの……俺が奴らを狩り終わって、どうなりました?」
「はい。その……戻ったブラッド隊が、稀羅さんを回収しました。ガルム全滅から約1分後です。稀羅さんが意識不明だったので急遽フライアの医務室へ搬送しましたけど。」
「……そうですか。ここ医務室なんだ……フライアは……無事なんですね。」
「はい、貴方のおかげです。」
「俺、どれくらい寝てました?」
「今日で二日目です。」
「二日も?」
想定以上に疲れたみたいだ。二日ぶっ続けて寝るのも初めてかもな。
「フランさんは……」
「はい。」
「いつからここに?」
「稀羅さんが入院してほぼずっと……でしょうか。」
「え?あ、あれ、オペレーターの業務は?」
「する必要がなくなりました。」
いやいや、仕事の放棄は流石に良くないですよ。じゃなくて何があったんだ?
「フェンリル本部の方針により、アラガミに攻撃された支部は、全ての討伐任務の撤回、及び防衛が義務化されます。さらに、移動中のフライアは防衛がうまくできないため、あえて言うと戦闘員は待機を命じられています。」
「その防衛ってのはどれくらい続くんですか?」
「基本1周間です。」
「で、今日はその二日目だと。」
「はい。でもよかったです。今日稀羅さんが起きたことで、フェンリル本部の病院に搬送せずに済みました。これでフライアも進路を元に変更できます。」
「……寝てる間にもすごいことになってたんですね。まあ、でも欠ける人が誰もいなくてよかったです。」
「私はむしろ稀羅さんのお葬式をせずに済んで何よりです。」
「……なんでそんなに覚えてるんですか?」
「お葬式を……幼い頃から散々やってきたから……でしょうか。」
ひょっとして家族を全員失ったのか。だとしたら……俺とゆう似てるかもな。そう思うと余計にさっきの夢がまた脳裏に写ってくる。
「っ?」
そんな俺の額をフランさんがハンカチで軽くふいてくれた。
「ベットに寝かされてから、何度も悶えてましたけど、さぞかし辛い夢でも見ました?」
見え見えか。そりゃあ、ずっとここにいたって言うのなら……当然気付くよな。
「ちょっと……昔のことを……」
「でしたら聞かずに黙ります。今はゆっくり休んでください。まだ時間はありますから。」
「…………。」
「稀羅さん?」
「……あ……ありがとうございます。」
「へ?」
「看病、の事です。」
ずっとここにいたくれた上に、心の傷をさらけるのではなく、包み込もうとしてくれた。こんな人に優しくされたのはいつぶりかな。
「……や、やだなあ。稀羅さん。当然のことをしただけです。」
「すみません、人の情に触れるのは久しぶりで。」
「も、もういいです。とにかく、休んでください。」
何で彼女がこんなに慌てるのかよくわからないけど、そのせい俺も次に言うことがなくなった。
「……」
「……」
そのおまけにこの気まずさ……俺なんかまずいことでも言ったか?
「そ、それでは私は医者の方に報告してきます。」
「あ、はい。お願いします。」
「それでは、」
ドアへ向かうフランさんが急に止まってはこっちに振り向いた。
「……そ、その。また看病に参りますので。お困りでしたら遠慮なく呼んでください。」
「は、はい。どうも。」
フランさんが逃げるみたいに部屋を出たのは……俺が悪いのかそうでないなら何が悪いのか……わかんねえ。
* * *
それからいろんな人が病室を訪れた。最初はまあ、担当の医者がリンガー液の調節と様子見にいらっしゃり、その後はブラッド隊が訪れた。
「本当に良くやった。まさか一人であれだけの数を。」
ジュリウス隊長からの惜しみない褒め言葉にどんな顔すればいいのか。
「ねえねえ稀羅、ガルムってどんな感じだった?やっぱ速いかなー?」
「こら、ナナ、稀羅はまだ治療中だぞ。今は安静した方が。」
ずいぶん大人っぽい発言をするロミオさんですけど、多人数で病人の部屋にやってくるの自体どうかと。
「流石に俺は無理だぜ、あんな量。稀羅お前が新人なのか到底信じられねえ。」
「運が良かっただけだよ。あの5体が一斉にかかってきたらひとたまりなかったし。」
キャリアではこっちの倍以上はあるギルさえ褒めてくる。嬉しいけどそこらへんにしてくれよ。
「ところで稀羅、一つ聞きたいんだが。」
「はい、なんでしょう?」
「ガルムを倒す際、あんなに死体をバラバラにした理由はなんだ?」
「首を落としても死んでくれなかったんで。」
「コアは回収したか?」
「コア……ですか。多分してないと、あ、そのせいかな。」
「なるほど。しかし、あれほど深く切られてもなお立ち上がるなんて、何か心あたりはないか?」
「自分じゃわかりません。普通なら即死ですよね?」
「その筈だが。」
じゃあ、やっぱコアか。回収しないだけであれだけ動けるのか。怖いもんだ。
「おそらくは神機のステータスが関連してるかもしれません。」
フランさんがまた来てくれた。手に食事が少し盛られたプレートを持っていた。
「神機のステータス?」
「どうも、フランさん。」
「どういたしまして。後でゆっくり食べてください。」
フランさんはベッド付近のテーブルにプレートを置くと、近くの椅子を出した。
「稀羅さんの神機がどんな状態かご存知ですか、隊長。」
「損傷が激しかったな。」
「え、本当ですか?」
「案ずるな。スタッフが総動員されたから。が、それがどうしたフラン?」
「あれほど神機がボロボロになることは滅多にないです。第一、神機は多少ながら自己修復能力も備えています。に対してあの損傷具合はおかしくないですか?」
「……焦らされるのは得意ではない。」
「今回稀羅さんが討伐したガルムは、フェンリル公式基準上、危険度4から6に置かれるアラガミです。既に身体的に進化を遂げています。」
「危険度?」
「フェンリルでは各神機使いへ、それぞれの器量に合わせたミッションを提示します。まだ新人の稀羅さんは、比較的弱いアラガミ、すなわち危険度1から3に入るアラガミが討伐対象となっています。」
「結構厳しんですね。」
考慮されてたのはアラガミの種別だけではなかったのか。
「稀羅の神機は?」
「はい。未だ高危険度のアラガミと対するための強化が施されていません。」
「強化一つで大きく変わるもんですか?」
「一度の攻撃で吸収できるオラクル細胞と、またそれを活用させる発展回路の数が圧倒的に差が出ます。」
「……ごめんなさい、わかりません。」
「長く説明するのは控えよう。要するに、君の神機が少しあのアラガミに向いていないため、一撃で殺せる筈が、一変したという事だ。」
「つまり弱い……と。」
答えはわかってたものの、いざ自分の口で言うとかなり辛い。
「そう気を落とさないでください。朗報もあります。」
「朗報?」
「稀羅さんの実績に、神機をさらに強化できる素材がわざわざフェンリル本部から支給されました。少しは役に立つでしょう。」
「ほお、良かったな。稀羅。」
え、やった。マジかよ、ただでくれるのか、あんな大量の素材を。
「ご褒美と思っていいですかね?」
「ご自由にどうぞ。ただし、その分命も危機にさらされると自覚なさってください。」
「そうだな。強い者は更に前に出なきゃいけない。それで段々と一人前になっていく。」
一人前の神機使い。うん、これは自分としても入りたい領域だ。
「私からの知らせは以上です。稀羅さん、何か質問は?」
「あー……飯いただきます。」
「では、失礼します。」
「ご苦労、フラン。」
食事は卵のおかゆと、幾つかの野菜付け。すごく気を使われてるんだなあ。
「後でお礼でもしないと。」
「体を治してからでも遅くはない。」
「そうですね。」
「それでは、ブラッド隊、俺らも引き上げるぞ。」
「え、もう?」
「えー、まだ稀羅とあんま話してないよお」
「彼は療養中だ。少しほっといてやれよ。」
ギルの一言に、湧き出しそうだった騒ぎが一気に沈んだ。
「うー、ギルがそこまで言ったら、稀羅ーまた来るねー」
「近々退院できるから、そう心配しなくていいよ。」
「程々に頑張れよ。稀羅。」
「……忠告として頂く。」
時間は短かったものの、ブラット隊も病室を出て行った。
* * *
夜。寝るのが多少嫌になった。また、あの夢を見ることになりそうで。
「と言っても時間潰しにできそうなもんがねえわ。」
さすがは病室、ほんとに何もない。リンガー液の効果が薄れ、体が少し動けるようになったせいで、余計目が冴える。
「コーヒーか紅茶でもくれよ。」
最初にあそこで飲んだ紅茶すごく美味しかったんだがな。だけどポット1つ見当たらない。どうしようか。半分諦めてベッドに寝転ぶ……寝るか?しょうもなく布団を掴んだところで、自動ドアの開く音がした。
「誰ですか?」
「あ……稀羅さん。私です。」
「フランさん?」
病室は電気が消えれば暗黒そのもので、物陰一つもうまく区別できない。
「どうしたんですか?」
「い、いえ、看病……というかお見舞いです。」
「……電気つけましょうか?」
「お願いします。」
白い壁と天井に反射した光が、病室とまだ制服姿のフランさんを照らした。
「ま、まだ、起きてたんですね。」
「楽には寝れませんね。」
「……また嫌な夢を?」
「はい。それなら寝ずに過ごした方がいいかな、と。」
「……」
ちょ、フランさん黙らないでください。俺人との会話は大の苦手なんっすよ。特に女の子とは。
「……す、座ればどうですか?」
「は、はい。」
いざ彼女が近づくと、その手にちょっと厚い本が1冊握られていた。
「それはフランさんの?」
「本のことですか?はい……そういうことになりますね。」
「そういうことって……?」
自分の本だと言うには何か不自然な言い方だと思うけど。
「それで、お眠りになさらず夜を過ごせる方法はありましたか?」
「ノーですけど?」
「なら、持ってきた甲斐があるかもしれませんね。読みます?」
「あ、いいんですか?」
群青色の、傷があまりついてない古い本だった。何度もページをめくった跡がある。タイトルは……
「六つの宝……」
「稀羅さん、この文字読めるんですか?」
ここフライアで話す言葉とは違う言語だ。彼女が驚くのも無理はない。
「え?あ、はい。結構馴染みある文字です。」
「そうですか。この文字知らない方が殆どで。」
「昔はEnglishという言語だったらしいです。国がなくなった今の世界じゃ名無しの言語ですが……。」
「イングリッシュ……なんですね。」
「実はこの本も馴染み深いです。」
「え?」
「いつ読んだかは曖昧ですけど……確かある王国から出て旅をする魔法使い話でしたっけ?」
「は、はい。正にそのままです。」
表紙も最初に読んだ当時の物と似ている。いやあ、でもいつ読んだっけな。
「内容はもう全部覚えてるんですか?」
「んー、多分かなり忘れたと。」
「じゃあ、印象深い内容とかは?」
フランさん、本が好きなんだな。こっちを見つめるキラキラとした目が、本当の彼女の歳にあった女の子にさせてくれる。事務員を離れた、未成年の女の子へ。
「3番目に見つけた宝で大きな紫の薔薇。あとは、最後の宝、青い鳥と白い鳥、ですね。」
「わあ、最後の宝は私も気に入りました。青い鳥が幸運の妖精、白いのはなんだか分かりますか?」
「……幸福の妖精でしたね。」
「はい、少し微妙ですよね。でもその理由が分からないんです。」
「後半に書かれてましたよ?」
「そこまで読めてないんです。私、この本の言語がまだ未熟で、いつも厚い辞書をもって読んでたので。」
「が、頑張りましたね。」
相当の根性がいるだろうに。いちいちめくらないといけないって、想像以上に面倒くさそう。
「んじゃ、後半だけ、俺が解説しましょうか?」
「……嬉しいですけど少し待ってもらえませんか?自分で最後まで読みきりたいです。」
「それじゃ待ってますんで。」
「はい。あのーところで、稀羅さん、この本ご存知でしたらまた読むのはやっぱり……」
「貸してもらえますか?」
「へっ?」
「もう一度読みたいです。明日くらいに返したいんですが……ダメですか?」
「い、いいえ、どうぞ。でも少しは眠ってくださいね?」
「本に没頭しちまったら無理ですけど……」
フランさんが渡した本の一枚一枚をゆっくり眺める。保存状態がとてもいい。新品ほどとは言えないけど、古いもんとしてはすごく手がかかったのだろうと印象をくれた。
「大事に扱います。」
「ありがとうございます。それでは私は……」
本にうっとりしちゃった俺は拍子遅れて気づいた。フランさんがこっちをむいてぼーっとしている。
「……どうかしました?」
「へっ?い、いいえ。すみません。ちょっと考えごとを……こ、ここで失礼します!」
「本、どうも。」
かなり慌てた様で、椅子から転げ落ちそうだったが、何とかフランさんはドアまで辿りついた。ペコっと会釈してはさっさと部屋を出て行っちまった。昼間といい、今といい、どうしたんだろう。またなにかやらかしたのか俺。結局答えは出なかったので、本に目を移した。
甘ったれた雰囲気が嫌いな方にはどうも申し訳ない内容でしたね。多少個人的な理想を盛ってしまいました。
次はちゃんとゴッドイーターの仕事に戻せねば…