クソGMのせいで「ゴブリン狩り、いいよね!」と目を輝かせるようになった高レベル冒険者が子鬼殺しと出会う前日談
数十年の昔。普段は協力して知識神の役目をしている『叡智』と『知恵』が諍いを起こしたことから始まる。
諍いは神々が注目していた世界の片隅で知識神の加護を受け、聖女が付き添った勇者が出目にも恵まれ、時の魔王を倒し偉業をなした事が切欠だった。
姫に化けて魔王の根城、その寝室まで入り込んだ勇者の聖剣が魔王の弱点たるサークレットを破壊する判定(ロール)の時までは2神とも良い出目が出ますようにと祈っていたが。
しかし、勇者がサークレットを破壊し、そのまま魔王を討ち取ると2神は似ているようで、決定的に違う言葉を口に出したのだ。
『流石は私達の勇者だ、その機転を産み出す叡智こそが勝利の鍵だったな』
『流石私達の勇者ね。魔王の狙いや弱点を調べ、知りえた知恵こそが栄光をつかみ取ったのです』
その時周囲で同じものを見ていた神々の心境は一つになった。
『あっ(察し)』
これは面倒な事になると。
それ以来、知識神は信徒に『叡智こそが重要』『知恵があなたの人生を決める』と若干方向性の違う神託を授けるようになった。
『叡智』と『知恵』がお互いの髪を引っ張りあい、顔にひっかき傷をつけあった盤外キャットファイト事が原因ではないと、目を逸らした神々は証言している。
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『で、私の出番という訳ですか』
神々の世界に招かれた異世界の魂―――日本で学生時代からファンタジーやTRPGに傾倒し、ちょっとした事故で不幸にも命を散らした記憶を持つ魂は溜息をついた。
その前では『知恵』が知識の蓄積と運用がいかに重要な事か説明している。
曰く、この世界に近く、『わたし』が期待するほど広く深い知識を持っている魂がいなかった。
曰く、その魂を異世界から貰い受けるのにとても大きな対価を支払った。
曰く、貴方の知恵で正しさを証明してくれたら、生まれ変わり先での加護と祝福を約束する。
異世界の魂―――私は考えた。
前世名前や家族の記憶は塗りつぶされたように思い出せず、特に未練が無い。都合の良いことだ。
それ以外の記憶は、十全かつ鮮明に思い出せる。特にファンタジー系の本を読んだりゲームをしていた場面は特に。
中世かその前くらいの文明レベルの世界はサブカルチャーが無くて辛いが、ファンタジー要素があれば大丈夫じゃないか? 魔法の研究をしているだけで割と楽しそうだ。
考えた結果、その話を受けると『知恵』に答えた。
その時は神々が悪辣なほど人間で楽しむのが好きだとは知らずに。
『知恵』が若干中二病を煩っていたのを知らずに。
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転生して「自分」の記憶と意識をはっきりと自覚したのは15歳の誕生日。
生まれ育った地方の港町から、都へと旅をしてそこで冒険者になる旅に出る前日の事だった。
そして私は頭を抱えている。
「どうして、そうなる。どうしてこうなった……っ!」
今世の私は容貌を随分と『知恵』に恵んで貰ったようだ。神の加護とでも言えばいいのか。
白磁のようなつややかな白い肌色、綺麗なプラチナブランドの金髪の長い髪と、神秘的な青い瞳。
そして少年とも少女とも取れる中性的な可愛らしい外見。
外見こそ美少女でも通りそうだが、股間にしっかり慣れ親しんだモノがあったのは心底助かった。外見が男の娘でも股間のモノがあるのはとても安心感があるものだ。
まあ、ここまではいい。
まず故郷の記憶が無い。
だが、私は徳の高い僧侶の父と、外界に憧れて旅をするハイエルフの母の間に生まれたハーフエルフだという事を何故か知っている。
しかも赤ん坊の頃に怪しげな宗教組織―――あからさまに邪教徒の集団―――に親元から攫われている始末だ。
そこで巫女か聖女みたいな扱いを受けて、人形のような幼い子供時代を過ごしていた。
さらにその宗教組織が邪神を降臨させる生け贄として私を使おうとしていた。
聖女扱いしていたのだからもう少し大切に扱ってくれと声を大にして言いたい。
生け贄として儀式剣で胸を貫かれる前に助けられた。
助けてくれたのは邪神教徒達と敵対する盗賊組織の特殊部隊的なグループだった。せめて冒険者に助けて貰いたかった。
そのまま子供の居ない盗賊組織の幹部夫婦に引き取られ、使い捨てではない暗殺者として英才教育を受けた。
この世界の常識、盗賊の技術から剣やナイフを使った戦闘、魔術師の魔法の使い方、さらには『私の美貌』を使って諜報活動をする手段まで教え込まれた。
後ろの貞操を気にしないといけないような実地訓練をさせた教育係のクソ爺はいつか復讐しよう。
まだ私の意識が覚醒してなかった頃とはいえ、何で私の体はそんな従順に命令を遂行していたのか理解に苦しむ。
そして「このまま暗殺者として育てると優秀になりすぎて自分達の命が危ない」と判断した盗賊組織の幹部ご一行の意向により、盗賊技能を持つ冒険者になるように―――盗賊組織から放逐される事が決まって今に至る。
15歳の誕生日に冒険者になる運命というのはいいだろう。
だが、今の私の心境は一言で言うと「こんな身の上(キャラクターシート)持って冒険者になるの!?というか神の加護がある割に人生が波瀾万丈すぎない? 過ぎるよね!?」というものだ。
そもそもだ。死ぬ前の名前や家族を思い出せないとはいえ、それ以外の記憶はほぼ完璧に残っている。
前世だけでも35歳のおっさんだぞ、私は! こんな、きゃるーん♪という効果音が似合いそうな男の娘として冒険者になるのか!?
それに私が好きなのは……こう、無難なキャラなのだ!
田舎出の純朴だが体力自慢の青年とか、魔術の研究以外には興味がないが冒険を通して人間味を増していく学者肌の青年とか。
冒険のスタイルだって無難かつ石橋を渡るようなものだ。
2d6(6面体ダイス2つ)の期待値はおおよそ5以下と信じて疑わない。
だからこそ、サイコロを転がす以外のところで知恵を振り絞ったり、明らかに余裕がありすぎる依頼を受けて余裕にこなして「冒険者ってのは本当に大切な時以外冒険をしないものさ」なんて酒場で若者に言うようなスタイルなんだ。
無難に……この外見とキャラ性で無難な冒険者になれるのか!?
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最初の冒険に出かけた。
数人規模の盗賊退治との事だったが、数十人規模の盗賊団だった上に黒幕が悪魔を使役していた。
何とか生還したが、あのクソ神、いやもう私と同じく不本意なおっさん転生をした先人にならって存在Xと呼称しよう。
滅びろ存在X!
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この所雑な魔神や悪魔的なものの討伐が多い。
迷子の犬を探しに行ったら、空き地で魔神が封印されていた壺を犬が掘り出して出て来た魔神を討伐するとかクソな脚本(ハンドアウト)を書いたのはどこのクソ神だ!
あきらかに町1つを暇つぶしに滅ぼせそうな魔神倒して報酬が子供の笑顔1つ? そして使った消耗品で当分私は極貧生活だと!?
冒険の目標は穏やかな隠退生活と神殺しの武器探しだ。
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悪戯げな男の娘な愛想笑いが板についてきた自分が憎い。
八方美人な酒場のウェイトレスみたいなキャラで通しているが、これは自己防衛だ。
酒場のお姉さんのああいうキャラ性は実際手を出し辛いと痛感している。
真面目ぶったキャラだったら今頃ケツを掘られていただろう。
こんな外見にされた身だが、それでも恋愛対象、ぶっちゃけて言えば肉体関係になるなら女性がいい。
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おそらくメインヒロインだろう女性を独房にたたき込んだ件について。
知識神に啓示を受けた元聖女の女神官というから、恐らく存在Xが設定したメインヒロイン枠だろう女性と遭遇した時は不覚にも存在Xに感謝をしかけた。
だが小一時間会話しただけで、公共の場で発情して襲いかかってくるとかどうかしているだろう!?
通りが掛かった顔見知りの衛兵に助けを求めて聖女……痴女を独房にたたき込んだ私は悪く無い。
女性が20代の眼鏡が似合う知的な女性だったからオネショタ枠か、外見百合枠の姉側だろうと思うが、もう少し女性に夢を見たっていいじゃなかいか。
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もう、魔神や悪魔でもいいじゃないか。
メインヒロイン(笑)を豚箱に送って女っ気に飢えていた私は、滅ぼした魔神に仕えていた、下級悪魔的な少女達が命乞いをしている時に魔が差した。
瞳が虚ろで絶対服従する程度に怯えられているけど恋人が5人くらい一気にできました。
私のファンタジー知識を総動員してガチガチに私有利な契約を結んだから浮気の心配もない。
そもそも魂を代価にする契約はおかしいでしょう? 私の死後に彼女達解放されるけど、それまで全力で私のお世話をしないといけない契約にしました。
この爛れた倒錯的な生活が私が求めていた安寧です!
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「だから、どうして、こうなった……!」
いまわたしは上位魔神をたおすたびに出るところです。
旅のなかまは全部で4人。
皮肉屋でイケメンの盗賊勇者。
温和で盗賊勇者の幼馴染みのイケメンの知識神司祭。
俺様系の知的なイケメン魔術師。
そして私。
依頼人はおうさま。ことわれません。
何で乙女ゲーみたいな冒険者パーティを、組むことに、なってるんだ、私は!
聖女を痴女扱いで独房にたたき込んだ腹いせか!
悪魔っ娘5人と爛れた日々を送っていた罰のつもりか!
クソが、クソが、クソがッッ!
私の安寧と倒錯に満ちた日々を返せ存在Xぅぅぅっっ!
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えー……今討伐したので11体目の上位魔神だったっけ。魔将だっけ?
延々と続く魔神討伐の日々、心安まる暇が無い。
ファンタジー知識や前世からの繰り越しである戦略や戦術知識、幼い頃に自動的に仕込まれた盗賊や暗殺技術だけじゃ生き延びれなくて、盗賊勇者に戦闘技術、俺様魔術師に魔術、後から仲間になったイケメンエルフ♂に精霊術を習って必死に生き延びてます。
私は地道な仕事をして「たまには冒険らしい冒険に出ないんですか?」なんて受付嬢に茶化される冒険者になりたいと言ってただろう……!
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自称・魔神の王を倒すのも3人目だ。
既に伝説の魔神討伐パーティとか、魔神討滅者とか呼ばれているが不本意きわまりない。
お人好しなリーダーが無謀な仕事ばかり受ける、このパーティが全滅しないように私がどれだけ気を払っているか、冒険譚に浮かされた連中には理解できないらしい。
そして私達の冒険者パーティでカップリング作って妄想しては黄色い声を上げてる貴族の女性達には妄想料金とか徴収できませんかね!?!?!?!?
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魔神やら自称魔王やらのねぐらに乗り込むたびに魔術書や魔導書を集めていた成果が形になりそうだ。
こんなにも私が存在Xの玩具にされているのも、転生した魂、神が用意した肉体と神との繋がりが深すぎるから色々干渉されている事がわかった。
魂はどうしようもないので、神の用意した肉体を魔神のものに変化させる事にした。
何度なく殴り合ったり殺し合ったら滅ぼし合ったりして何故か友情が生まれて、兄弟と呼び合う程度に顔なじみになった魔神の王に儀式を頼んで、あちこちの魔神の王や将からぶんどった素材を使って儀式をする。
魔神の王に「うちの娘にならないか?」と言われたので遠慮しておいた。今更TS属性までつけられるのは簡便願いたい。
まあ、魔神の王に魔神変性の儀式して貰って、やんちゃすぎて蛮神状態だった魔神の王の妹(討伐済)の肉体素材をふんだんに使っているから、実質魔神王兄妹の息子みたいなものになるけどね!
魔神王の臣下達は、既にご子息様扱いされてるけど気にしたら負けだ!
そして私の魔神としての能力は神や超越存在からの隠蔽、擬態能力に特化するから対して強くもならないけどこれでいい!
これで私は……自由だ!
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まるで生まれわかったような新鮮な気分に浸る私は船の上にいる。
実際魔神に生まれ変わったが、それはそれ。
我思う故に我あり、自分を人間だと定義して人間らしい感覚を大事にしていれば人間だ。
ちょっと魔神の肉体をしている程度些細な事だ。
神の玩具よりずっといい。
外見に変化はないので、今までいた国では顔バレするために大陸脱出する事にした。
お隣の大陸も冒険者の需要がある程度に物騒という話だから仕事に困る事は無いだろう。
存在Xと縁が切れた今度こそ理想の冒険生活をしてみせる……!
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別の大陸に入り、辺境まで出歩いて見知らぬ冒険者ギルドに入った。
周囲から突き刺さる「このお嬢ちゃんは居る場所間違えているんじゃないか」という視線が実に心地良い。
もう私はこの世界でも年齢が30超えているだろうか。
時空系魔法特化な魔神の心臓を食い殺した時に老化が止まったので、実年齢も15歳程度で止まっているし、童顔男の娘な外見年齢はロリと少女の境界線上だから仕方ない。
そんな事よりもだ。
どんな冒険をしようとしても、何故か封印された魔神が出て来たり野良魔神に遭遇したり遺跡の魔神が原因だったりした神に呪われていた頃の私はもういない。
つまりチンピラとかスケルトンとかをぷちぷち潰して日銭を稼ぐ憧れの冒険者生活ができるという事だ!
おや、先に受け付けに戦士風の男性がいるな。
「ゴブリンだ」
わかってるね、君!
深く深く頷いてから私は前の戦士に声をかける。
「ゴブリン退治かな? これから登録なのだけど、私も連れて行ってくれないかな」
何故だろう。存在Xの同類が発狂したような声を上げたような気がする。
この戦士も神の玩具だったのだろうか?
まだ名前の出てない主人公。剣世界TRPG基準でネームドのアークデーモンLv13(幼体)/冒険者lv2(偽装)程度の模様
カッとして書いた、反省はしてない。
連載予定は今の所ありません_(:3 」∠ )_