「ゾンビメーカー討伐?」
「ああ、そうなんだよ。俺たちのパーティーで一応重要なアクアのレベルをあげるためにアンデッド系のモンスター討伐をしようってことになって」
なるほどねぇ。たしかにアクアのアークプリーストという役職は回復も補助もできる重要な役職。レベルをあげたくなるのはあたりまえ。でも一番苦労するのもアークプリースト、アークプリーストはレベルが上がりにくいらしい。
実はそれよりは上がりにくいものもあるんだけどね。私のとか。
「それで出来れば付き添いみたいな感じに一緒に来てくれると有難いんだけど」
「うーん、まあいいわよ」
「よっしゃ!あざっす!ユカリさん!」
私もゾンビメーカーってのがどんな奴なのかちょっと気になるしね。見た目は某ドラゴンな感じのクエストみたいなやつの嘆きの亡霊的なやつかしら?
紫苑と女苑にも来るかどうか聞いておくとしましょう。
◆◆
という訳でやって来た共同墓地。場所は街から外れた丘の上、この共同墓地はお金のない人や身寄りのない人がまとめて埋葬されているらしい。
カズマたちは既に到着していたらしく墓地から少し離れた場所にいる。私も一人カズマ達の方へと歩みを進める。そう、一人でね。
紫苑と女苑も誘ったんだけど女苑はキッパリ「行かない」と紫苑は「今日はお休みの日~」と言ってベッドに横になっていた。
という訳で私一人である。
カズマに「いいわよ」と言ってしまった手前、やっぱりやめたとも言うわけにもいかないしぶっちゃけ暇だからいいんだけどね。
カズマ達の方へ向かっている私だけど今とても気になっていることがある。
ここは共同墓地、つまるところお墓。そしてカズマ達は離れているもののこのお墓の近くにいる。なのに......私の目には彼らがバーベキューしてるように見えるんだけど。なんというか肝が据わっているというべきなのか、なにも考えていないのか、罰当たりな気はするのだけど....。
ちなみに目的のモンスターのゾンビメーカーは夜に出てくるらしい。だからって墓でバーベキューは罰当たり過ぎない?
「あっ、ユカリも呼んだんですか?カズマ」
「ああ、一応な。もしものことがあったら対応してもらうためにな」
「大丈夫!平気よ平気!この女神アクア様がいるんだからもしものことなんて起きないし起きたって楽勝なんだから!!もぐもご」
「そうですよカズマ!なにが出てこようとこの最強の爆裂魔法の使い手の私がすべて灰塵にしてやります!」
「わ、わたしだってっ....!,,えっと」
と、言っている自称女神様。肉を口一杯に頬張っている、既に心配なんだけど。
「ほぉー、この駄女神が平気ねぇ。そういうときが一番信用ならないんだ。それにめぐみん、こんな場所で爆裂魔法は絶対に撃つんじゃないぞ。どう考えても墓地が壊れる未来しか見えない。ダクネスは....まあいいか」
「んんッ!..私だけ....なにも言われないなんて..やはりカズマは私の扱い方をわかっているな!!」
「なぁッ!?駄女神っていったわね!駄女神ってぇ!!」
「何でですか!カズマ!私ほどのアークウィザードになれば墓地を破壊せずに爆裂魔法を放つことくらい楽勝ですよ!」
わーわー、ぎゃーぎゃーと騒ぎだす問題児達。ここ墓地の近くってこと忘れてない?一応亡き者達の安らぎの場だけどこれ祟られても何も言えないわよ。
騒がしい問題児を無視して空いている席に腰かけぱぱぱっと肉と野菜を取り分ける。
「ああー!!ちょっとユカリ!それ私が育ててた肉なんだけどぉー!」
喧しい水色がなにか言っているけど無視しましょ。そんなに大切だったら名前でも書いておきなさいよ。
ささっと二人分を用意、勿論肉と野菜のバランスを考えて均等に。そうしたらスキマ(魔方陣偽装)を開いて上半身を突っ込む。繋がっている場所は私たちの屋敷。
という訳で....
八雲紫があのカズマっていうやつの付き添いで出ていったから今日はゆっくりとしていられる。なんか私も一緒に来るかどうか聞かれたけどわざわざそんなめんどくさいことしてられないっての。それに姉さんも行かないらしいし行く必要ないわよ。
それに紫のやつも大袈裟なのよ。私と姉さんが疫病神と貧乏神だからって現状余るほどお金もあるんだから。前にそう言ったら「もしもの時のため」って言ってたけどそのもしもは嫌気がさして私たちを捨てた後のためって最初は思ってたけど100%善意ってのが、私たちのためってのがなんか知らないけど無性に腹がたつのよね。
あいつ本当に八雲紫なの?八雲紫っていったら胡散臭くてあのスキマってやつの中から一方的にこっちを覗いて突然ぽっと出て湧いたみたく出てくるそんなやつだったと思うんだけど。
「女苑ッ!!」
「ひゃうっ!?いきなりなによッ!!」
くっ....コイツ!やっぱりどこかで見てたの?見計らったかのように背後からいきなり出て来て!変な声出ちゃったじゃんか!一発殴ってやんなきゃ気がすまないっての。スッと拳を構える。
「....女苑?なんで拳なんて構えてるのかしら?」
「あんたがいきなり出てくるからでしょ!わざとやったんじゃないわよね」
「そんな..私が女苑を意図的に脅かすようなことすると思ってるの?....でも結構可愛い悲鳴だったわねぇ」
反射的に紫の顔面目掛けて拳を振るう。
「おっと、危ない」
「ッチ」
紫は器用に上半身をくねらせ回避。
「はぁ、それでなんのようなのよ..まさか用もないのに出てきたんじゃないでしょうね?」
それだったら意地でも一発、いや二、三発殴ってやらないと気がすまない。
「そんな訳ないじゃない。はいこれ」
そう言って紫が渡してきたのは肉と野菜が乗った皿二枚。
「なにこれ」
「何って、差し入れ?」
「....差し入れ?」
こいつ何しに行ってんの?たしかモンスター討伐って言ってなかった?目でどういうことか説明しろと訴える。
「えっと、カズマ達のモンスター討伐を手伝ってくれってので行ったのはいいんだけどそのモンスター夜に現れるらしくてそれまで時間潰しでバーベキューしてるんですって」
....バーベキュー。
「場所は墓地のすぐそばね」
....墓地で..バーベキュー..すごいとこでやってんのね。
「それで差し入れってわけ。二人で食べて私はこっちにいるから」
「え、ええ..わかったわよ。姉さんと――」
「もぐもぐもぐもぐ、紫ありがとうもぐもぐ」
姉さんッ!?いつの間に!?既に口一杯に頬張って幸せそうにしている姉さん。流石は姉さんこういうときは行動が一番早い。
「んきゃ!?誰がッ!」
「ん?なにいきなり変な声あげてんのよ」
「い、いえ別になんでもないのよ。それじゃあ私戻るけど何かあったら陰陽玉使って連絡して。それじゃ」
そう言ってスキマに戻っていく紫。....せっかくだし食べよう。
あっ、結構美味しい....これならついていけばよかったかもしれない。まあいいわ、食べたらまたゆっくりしていよう。
そう思い食べ進める女苑だった。
紫苑と女苑に皿を渡して戻ってきた紫。だが今は少し怒っていた。目の前にはカズマが正座している。
「さて、カズマ。覚悟は出来ているんでしょうね」
「いやちょっと待ってくれ。何故、俺はユカリさんの前で正座させられているのでしょうか?」
ほぉ、この少年。この期に及んでなにも知らぬととぼけるつもりのご様子。いいでしょう、そっちがその気ならこちらは現実を突きつけるまで。
「私が魔法陣に上半身突っ込んでるとき..その、私のお尻鷲掴みにしたでしょ!気づかないとでも思ったのかしら?」
「お、おい!ちょっと待ってくれ!それは俺じゃない。たしかにこの中で男は俺だけだけどさすがにそんなことはしない!!」
「でも本当は?」
「出来ればやってみたいです」
「有罪」
「だぁぁぁッ!待ってくれ!犯人はわかってるんだ!」
....この必死さは本当にカズマじゃないのかもしれない。でもかなりの演技派という線も捨てきれない。ひとまずカズマの意見を聞いてみましょう。それが信用できなければ刑を執行します。それでは被告人、証言を。
「えっと、ユカリがあの魔法陣に頭を突っ込んでるときアクアがこっそり近づいておもいっきり鷲掴みにしてました。私の肉の敵!っていいながら」
「ちょっとッ!?カズマあんたなにいってるのよ!」
ほぉ、アクアがね。
「どうなの、やったのかしら?アクア」
「そ、そんなこと..す、する訳ないじゃない。ふ~、ふひゅ~、ひゅ~...チラ」
目をそらし明後日の方向へと顔を向け吹けもしない口笛を吹いてこちらの様子を伺っているアクア。ダクネスとめぐみんに視線を向けるとなんとも言えぬ表情で顔をそらされた。これは....犯人が決まったわね。
「ねえ、アクア?本当にやってないのよね?」
「あ、あたりまえじゃない!そんなことするわけないじゃないの~!」
「....そうね、アクアはそんなことしないわよね。あっ!そうそうあなたの肉を盗ったりして悪かったわね。お詫びとしてはなんだけど秘蔵の高級品を焼いてあげるわ」
「そ、そう!ほらみなさいよカズマ!ユカリは誰を敬うべきかちゃーんと理解してるみたいよ。カズマも見習いなさいよね!それから――」
アクアは上機嫌になってペラペラと自分が如何に敬われる存在かを話し始める。ゆえに気づかない、紫の目が完全に獲物を見据える獣のように鋭かったことに。カズマは気づいていたがここはあえて黙っておくべきだと判断した。何よりも駄女神にイラッとした、黙っておくには十分すぎる理由だ。
紫は魔法陣に手を突っ込み骨のついた肉を取り出す。アクアはそれを嬉しそうに見ている。
「アクアなんだか嬉しそうな顔ね」
「えへへぇ~あたりまえじゃない。ところでそのお肉はおいくら万円位するのかしら~?」
「そうねぇ....最初の数字の後にゼロが5つくらいかしらねぇ」
それを聞いたアクアの表情は顔の筋力が失くなったように緩みきったようになっている。もちろんカズマやめぐみん、ダクネスもその言葉を聞いて目が点になっている。
「さて、それじゃあ焼いてあげるわねアクア」
「お願いねー!ユカリ!あっ、勿論焦がしたりしちゃダメよ!」
ええ、わかっていますとも。この超高級肉(ただのカエル肉)をいまからアクアのためにしっかりじっくり一瞬で焼いてあげるわ。
片手にカエル肉を持ち空いたもう片方の指先から魔力を使って炎を出す紫。ただその炎は明らかにおかしかった。普通ならば赤く揺らめいているであろう炎は紫色、さらにおかしい部分は火力。
紫の指先から現れた、というよりも吹き出した紫色の炎は天高くまで上りごうごうと音をたて燃え盛りカエル肉を一瞬で真っ黒に焼き尽くしてしまった。真っ黒になったもはや肉とは呼べない物体はプスプスと音をたて異常な熱気を放っている。
「ユ、ユカリさん..?えっと、その..それどうするの?」
一歩一歩アクアへと近づいていく紫。表情はとても晴れやかないい笑顔。だが今はその笑顔が一番不気味に見える。
「ね、ねぇ..ちょ、ちょっと!待って待ってよ!ユカリさんそんなの持って近づいて来ないでよ!なになになにッ!?怒ったの?嘘ついたこと?それともお尻鷲掴みにしたこと?謝る、謝るから!だから無言で近づいてこないでぇぇぇッ!!イ゛ヤ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!?」
なんだろう..さっきまでおもいっきりこの超高温の物体X押し付けてやろうと思ってたのにこの情けない自称女神を見ててやる気が完全に失せたわ....なんか復讐はなにも生まないっていうのは本当にその通りな気がする。ただただ虚しい....なにやってんだろ私。
「ユカリさん?ゆ、許してくれるの?も、もうしないから――あう!?」
でも一応嘘ついた罰としてデコピンだけはしておいた。これくらいは問題ないでしょう。
「へっ!いい気味だなアクア。俺に罪を被せようとするからそうなるんだぞ」
「しょうがないでしょ!せっかく育ててた肉取られちゃったんだし、それにカズマさんだってユカリのお尻ガン見してたじゃない!!」
「なっ!?おま、おま、お前!?何言ってんだ!そ、そんなこと..するわけないじゃないか..」
............やっぱりアクアとカズマ両方に一度この物体X押し付けておこうかしら。
「「すみませんでした。それは勘弁してください」」
おっとどうやら思っていたことが口から出てしまっていたらしい。アクアとカズマにすごい綺麗な土下座をされてしまった。ただダクネスだけは「はぁ..はぁ、なんて羨ましい..私もユカリに地獄のような責苦を..ンンッ!」と一人で頬を染めていた。ここまでぶれないって一種の才能だと思うの。
といっても私にも今回は非がある。アクアの肉を取ってしまったわけだし追加の肉はきっちり用意してあげましょう。
◆◆
肉を補充してカズマとアクアにデコピンをして少し。
「なあ、ユカリ。さっきの魔法陣みたいなのってなんなんだ?レベルが上がれば俺にも使えるようになるものなのか?」
「それは私も気になっていました。私は爆裂魔法を極めていますがそれ以外の魔法を知らないというわけではありません。ですがユカリの魔法は見たことも聞いたこともありません」
「ああ、それは私も気になっていたんだ。それなりにパーティーを転々とした私も見たことがない」
うーん、たしかに他で見ることはないでしょうね。これはあくまでスキマを魔法陣に見せてるだけだし。とりあえずはウィズの時と同じように固有スキル、固有魔法とでも言っておきましょうか。
......そういえばあれ以来ウィズとあってないわ。死んでないかしら?いやもうウィズって死んではいるのよね。リッチーてだけで。
今度会いに行こう菓子折りでも持って。
「私のこれは何て言うか、固有スキルというか固有魔法みたいなものよ。私だけしか使えない」
「固有魔法!?マジかよ..そんなもんまであるのか」
「ユカリだけにしか使えない魔法ってなんだかカッコいいです!!あとずるいです」
「というと職業専用スキルというよりはユカリ専用ということになるのか?」
「ダクネスの言うとおり。そうなるわね」
カズマ達は私の謎の一つが解けたというように話し合っている。ただアクアは今だに一心不乱に肉を貪っているけど。あれで女神っていってるらしいですわよ。
「そうかぁ..固有スキルなんてものまで..いいよなぁ、俺も欲しい。さっきの炎も上級魔法だろ、レベル上げればおれでも出来るようにならないもんだろうか。俺なんて初級魔法をやっと覚えたってのに....道が険しすぎる」
そういいながらマグカップに茶色っぽい粉を入れて魔法で水を注ぎ底を炙り始めた。ん?この漂ってくる芳ばしい香りは....コーヒー?紅茶があるのは知ってた、それに最高の紅茶を出す喫茶店も知ってる。でもコーヒーは見つけてなかったわねぇ..今度買っときましょう。でも....
「カズマも私と同じ魔法使えてるじゃない」
「....え....えっ!?」
カズマは目を見開きこちらを見てくる。他の3人はというと。
「何いってるんですかユカリ?カズマにあんな魔法使える訳ないじゃないですか」
「ああ、めぐみんの言うとおりこの男にはそんな魔力はないと思うのだが」
「カズマが?無理に決まってるじゃない!何言っちゃってんのユカリさん」
いつの間にかこっちに来ているアクアも含めあたりまえ、周知の事実というように無理だと口々に言ってる。
「おい、お前ら黙ってれば好き勝手言いやがって..でもユカリ、不本意ではあるがこいつらの言ってるとおりあんな凄い魔法は使えないし習得してもいないんだが..」
と、カズマは言っているけど実際に自分で使っているんだから習得していないと言われても説得力がない。
「でも実際に『ティンダー』使ってるじゃない?さっきのはそれと同じ魔法よ」
「は?....『ティンダー』?」
周りの4人の顔が何言ってんだコイツ?みたいな表情をしている。実際に目の前でティンダーと言って魔法を使う。今回はさっきと違って魔力を少なめにして発動。紫の炎が指先からボウボウと燃え盛っている。
「こ、これが..『ティンダー』だってのか?」
カズマは驚いたように指先と私の顔を交互に見ている。むしろ何故そんなに驚いているのかその方が私にとっては謎だけど。
「ユカリ、ユカリ。カズマは魔法職の私よりもやたら初級魔法を上手く使っていますがユカリの使ったそれはティンダーの粋を越えていますよ。あっ、カズマ私にもお水下さい」
カズマに渡された水を飲み説明を始めるめぐみん。
「『ティンダー』というのは基本ちょっとした火を出すだけの魔法なんです。たき火に着火したりとかカズマがさっきやっていたように水を温めたりができる程度なんですよ。なので殺傷能力なんかは皆無なんです」
「つ、つまり..私のは....」
めぐみんは一拍置いてからこちらに視線をあわせてくる。その視線はどこか呆れの入ったような、でも優しくなんとも居心地の悪い視線。
「ユカリの『ティンダー』は異常です。なんなんですか?なんでそんな火力が出てるんですか?炎も紫でしたし....あれはもはやまったく別の魔法でしたよ。殺傷能力バリバリあります。異常です!」
「なっ!?」
い、異常..この私が異常?う、嘘でしょそんなはず....!
いや、そういえば少し前にギルドで初級魔法を見せてもらったときその場で覚えて使ったけど教えてくれた子が引いてたように見えたのはそのせいだったの?
あの時はまた加減を失敗してしまっただけだと思っていたのに....
それとあの火力で初級魔法とかこの世界の初級魔法、怖い..とも思ってたけど....私が..異常だったってこと..よね。
「..........」
「ユカリ?あ、あの流石に言い過ぎたかもです」
カズマやダクネス、めぐみんも心配して元気付づようとして近づくがすぐにその気も失せてしまった。なぜなら――
「フフ..フフフ、異常だって..わたしが....異常。頭のなか爆裂魔法のことしか考えてない頭のおかしい紅魔族の子に異常って言われる私って....」
「おい!頭のおかしいってどういうことですか!」
紫は虚ろな目でぶつぶつと呟き続ける。
「しかも攻撃がろくに当たらないドMの変態騎士も表情からして同じように異常って思ってる....異常はそっちでしょ..変態」
「へ、変..態ッ!!んんっ..んくっ....しょ、しょんなんじゃにゃいぞ!わ、私は..はぁはぁ..ん!?....っ」
突然紫に罵倒されびくんびくんとし始めるダクネスをガン無視して紫は呟き続ける。それがまたダクネスを喜ばせていく、今は「うぇへへ!」と気持ち悪い声をあげて体をくねらせている。
「はぁ..こんな変なパーティーメンバーのリーダーでステータス値低い最弱職のカズマでさえ初級魔法をまともに使えるのに」
「おい?ユカリ??スティールするぞ?いいのか?」
その一言に一瞬だけビクッとしたが気にせずに....若干気にしながら呟き続ける。
「....い、今もダクネスの体をチラチラ見てるこの男でさえ初級魔法をまともに使えるのに....アクアは..まあいいわ」
「なっ!やはり感じていた視線はカズマだったのか!ああ、やはりいいな!こう、ゾクゾクする!!」
「ち、違ぇから!!み、見てなんて..な、ないしぃ~..チラッ」
「ねぇねぇ!?なんで私はなにもないの!?あっ、でもこれ無い方がいいわね。やっぱり女神であるこの私は完璧で――」
「一つあったわ、宴会芸しか取り柄の無い自称女神の駄女神様」
アクアは満面の笑みから一転して虚ろな目をした紫に組み付きぐわんぐわんと体を揺さぶる。
「うわあああああん!!いくらなんでも酷いわよぉぉぉ!私本当に女神なんですけどぉぉ!!」
墓地の近くで騒ぎだしまくる集団。現代だったら通報待ったなしの光景だが幸いかどうかは定かではないが咎めるものはいない。故にこの騒がしい集団はしばらく静かにならなかった。下手したら眠っているはずの埋葬されている彼らが文句のひとつでもいってくるレベルで喧しかった。
それからしばらくしてようやくそれぞれが落ち着きを取り戻した時めぐみんが紫にあることを提案していた。
「ではユカリ、そのへんにある手頃な岩に『クリエイト・ウォーター』を使ってみてください。加減は..まあ適度にでお願いします」
「いいけど、しっかり離れておいてよね。危ないから」
めぐみんが何か企んでいるようだけど考えがいまいちわからない。私はどうやら手加減が苦手らしくて本来攻撃に使えないはずの初級魔法でさえ攻撃に使える程の威力が出てしまっていたらしい。しっかり加減できていると思っていたのに自分が恥ずかしい。
なんにせよ今はめぐみんの言うとおりにやってみることにする。右手を目標に向けて構える。
「それ、『クリエイト・ウォーター』」
右手からまるでジェット噴射でもされるかのような勢いで水の球体が射出され岩に向かっていく。命中した岩の周りは水浸し、そして命中した岩の半分近くが砕けていた。
「........なんというかここまでとは思ってませんでした。本当に『クリエイト・ウォーター』なんでしょうかねあれは?」
うっ....やっぱり普通じゃないのね。てっきりこういう攻撃魔法だと思ったのに。
「次にカズマ、普通の『クリエイト・ウォーター』を使ってください」
「めぐみん?今のを見て俺に同じものを使えと?」
「いいから早くしてください」
カズマはしぶしぶながら構えをとる。目標は私と同じ岩。
「じゃあいくぞ。うおおおおっ!『クリエイト・ウォーター』!」
カズマの右手から発射された水は岩に命中。ビシャッという音をたて辺りを濡らす。本来はこんなものである。
「見て下さいユカリ。本来はあの程度のものなんです」
「はい....」
「そう落ち込む必要はありませんよ。さっきのショボい感じのを目標に加減していきましょう。大丈夫です!ユカリは私と同じ爆裂魔法を扱う者、いわば同士です。そんなユカリが初級魔法を正しく扱えないはずないじゃないですか!特訓あるのみですよユカリ!私は応援します」
めぐみんっ!なんて..なんてっ!いい子なのっ!さっき頭のおかしいっていったのは訂正するわ。よし!そうよね特訓すれば必ず正しく使えるようになる。めぐみんがあれだけ言ってくれてるんだからしょぼくれてる場合じゃないわね。となれば早速特訓開始よ!
「なあ、いい感じにしようとしてるところ悪いんだけどあの程度とかショボいとか俺のこと貶してないか?貶してるよな?」
「........ではやりましょうユカリ」
「ええ、そうね」
「おい、なんで無視すんの?いじめ?パーティー内いじめなの?」
こうして私の初級魔法の特訓in墓地がスタートした。
「『クリエイト・ウォーター』!........でない」
「でませんね....加減しすぎですかね?」
うーむ、本当に加減が難しい..さっき見たカズマのを思い浮かべてやってるけどあまり加減しすぎると水すらでない。私にとって初級魔法の難易度が上級魔法クラスの難易度なんですが....こんなに難しいなんて。
「ウ~ン、そうですねぇ..あえて加減せずに発射する水量を絞ってみるのはどうでしょう?」
「そうね、やってみる価値はあるわね」
今度は右手をつき出すのではなく指先だけ、先端から発射するように意識する。
「お、おい、ちょっと待ってくれ。それだと――!?」
カズマは何か思い当たることがあったようで二人を止めようとする。だが間に合わなかった。
突然ではありますが皆様はウォータージェットというものをご存知だろうか。聞いたことがない人はウォーターカッターと言えばああ、あれか!となるかもしれない。
いきなり何を言っているのかと思うだろうが説明しておかないといけないんです。ウォータージェットというのは圧縮した水を0.1mmから1mmくらいの小さい穴からでている細い水流のことらしい。これで物なんかを切断して加工するらしいんだが刃のように切断するからウォーターカッターともいうらしい。そして実は切っているというよりも水の当たった部分を吹き飛ばしているとか。
なかには水流の速度がマッハ3に達する物もあるらしい。ようは何が言いたいかというとユカリが発射口を絞って加減をせずに撃ったりしたらどうなるかということ。byカズマさんの豆知識でした。
「『クリエイト・ウォーター』!」
紫の指先から放たれた水流はピュンッ!と水とは思えない音をたて止めようとしたカズマの顔のギリギリを掠め岩の中心に命中、そのまま貫通して後ろにあった鉄製の柵さえ貫通した。
「うおおおおおおいぃぃッ!?ユカリッ!!殺す気かぁぁぁ!!」
「えあっ!?そんなんじゃなくて....これは不可抗力、カズマが射線に入ってくるからっ!!」
「おいぃ!?なんで俺が悪いみたいになってるんだよ!めぐみん、ユカリに変なこと言うんじゃない!ユカリも少しは疑ってくれよ!」
うっ....た、確かに少し考えればわかる事だったわね..。
「ユカリちょっとこい。向こうで俺が直々に教えてやる。もしできなかったら.....」
「な、なんでそんなに手を握ったり開いたりさせてるの?私いったい何をされるのよ....」
「いいから行くぞ」
有無を言わさぬその態度に素直に従う紫。ここで逆らったら何をされるかわかったものではない。
それから時間はそれなりに経過して漸く二人が戻って来た。どこかやりきったような表情を浮かべるカズマと紫。
「ユカリ、お前の成長した姿見せてやれ」
「ええ、勿論よ。成長したこの私に不可能はないわ」
そういい扇子を広げる紫。そのまま空いたもう片方の腕を岩へと向ける。
「はああっ!『クリエイト・ウォーター』!」
突き出した腕に三つの腕輪の様な魔方陣が現れる。そのうちの二つが強く光ると手のひらからチョロチョロと水が流れ出した。
「いいぞユカリ!そのまま『ティンダー』だ!!」
「ええ!任せて!それっ『ティンダー』!」
今度は指先から最初の業火と比べるととてつもなく小さい弱火の様な炎が現れる。カズマと紫はどこか誇らしくしているがこれは初級魔法ということを忘れてはいけない。別段、難しいことでもないのだが馬鹿みたいな火力になってしまう紫が異常なだけで特にすごいこともしていない。
「おお、やりましたねユカリ!さすがは爆裂魔法を扱う同士。私はきっとやりとげると思っていましたよ。あっ、ついでにお水ください」
「いいわよ、はいどうぞ」
いやぁ~、カズマには感謝してもしきれないわ。これで私もしっかりと初級魔法を扱うことができるようになった。カズマの助言のおかげね。
この腕にある腕輪式の魔方陣は一種のストッパーの役割をしている。カズマが私のクリエイト・ウォーターを見て「もっと蛇口を捻るみたいに調節できないもんか?」と言われてピンっと来たのよ。
意識的に魔力を調節するのが難しいなら魔方陣で調節してしまえばいいってね。その結果がこの形、何も機能していないと最大火力、一つだと中くらいの火力、二つだと小、三つだと....本当に少し、三つ目はむしろいつ使うのかわからないけどきっといつか使う日がくるはず。
さて、まだゾンビメーカーが現れるには時間がある。私の問題も解決したことだしあとはゆっくり気長に待つとしましょう。ゾンビメーカー、面白いモンスターだといいけど。
指先の炎を見つめ楽しそうに微笑む紫だった。ただしその炎の色は紫色なのは変わらず異常なのだがもはや誰も突っ込む者はいなかった。
次回、貧乏店主再び