辺りは日が落ちすっかり暗くなってモンスターが活動するにはうってつけの時間帯。シーンと静まり返り虫の音ひとつ聞こえない共同墓地、不思議とじっとりとした怪しげな雰囲気が漂っている。妖怪などの影の者には居心地のいい環境だろう。そんな人の気配以前に生き物の気配すらしないような場所に潜む者達が5人。それはカズマのパーティーメンバーそして紫。
カズマが先頭になり『敵感知』スキルで索敵をして標的の『ゾンビメーカー』が現れるのを今か今かと待っている。
「冷えてきたわね。ねえカズマ、引き受けたクエストってゾンビメーカー討伐よね?私そんな小物じゃなくて大物のアンデッドが出てくる気がするんですけど」
「おい、そういった事を言うなよ、それがフラグになったらどうするんだ。今日はゾンビメーカーを一体討伐、取り巻きのゾンビも土に返してやる。それが終わったら馬小屋に帰ってとっとと寝る。いくらユカリさんがいるからと言ってイレギュラーな事が起こったら即刻帰る。いいな?」
アクア達はうんと頷いているけどよく考えればそんなイレギュラーが起こるだろうか?もしも規格外の大物アンデッドなんかが現れていたのなら何らかの痕跡とかが残っているはず。
明るい内にサッと墓地を見たときにはそんなものはなかった。それに万が一私が対処できないような大物ならこの街は既に滅んでいるはず。そこまで心配はいらない、そう言いたいのだけどさっきのアクアの一言が気がかりなのよね。 『小物じゃなくて大物のアンデッドが出てくる気がするんですけど』 不思議とこの言葉には説得力がある。何故かは分からないけど私も同じように思ってしまった。なにか別の、普通のモンスターとは格が違うようななにか。
カズマ達には言うべきかもしれない。でもまだ確証が取れたというわけでもない。今は息を潜めて待つしかない。
「ん?....このピリピリ感じるのは。どうやら敵感知に引っかかったらしい、感じるぞ..1体、2体、3体....5、6、7..?ちょっと待ってくれ多くないか。まだ増えるぞ!?10、11....20近くいるッ!?嘘だろ、ゾンビメーカーの取り巻きはせいぜい2、3体だって」
「ねえ!ねえカズマ!?なんかすごい量なんですけどッ!?」
「ああ!確かにすごい量だ、あんな大量のゾンビに突っ込んでいったら....一体、どんなっ....!いつ突っ込む?」
頬を赤らめソワソワし始めるダクネス。この騎士こんな状況でも平常運転し続けるらしい。ただ確かにこの量は異常ね。明らかになにかに反応して沸きだしている。
その時、墓地の中央が青白い光を放ち始めた。そこにまるで呼ばれているかのように集まっていくゾンビ。よく見れば青白く発光しているのは円形の魔法陣。明らかに自然にできたりはしないもの。その魔法陣の隣、ゾンビの中に一人だけ黒とも紫ともとれるようなローブを着た人物が立っている。
........ん?何故だろう。あの感じ何処かで見たような....それにあの魔力に人とは違う境界の持ち主......あー、なんか覚えがあるような.....。
「あのー、あれゾンビメーカー....ではない....ような気が..するんですが....」
「奇遇ね、めぐみん。私もそんな気がするわ」
めぐみんが自信なさげにそう言うのも分かる。というよりも今の私の顔、平静を保てているのだろうか。すごく覚えのある境界を見てしまったばっかりに少し動揺している自分がいる。
「ここは一度撤退した方が――「あ―――――――っ!!」
カズマが撤退しようといいかけたその時アクアが大声を上げてローブの人物目掛け駆け出していった。
「あっ!おいちょっと待て!!」
私も後を追うようにしてそちらへと歩みを進める。アクアとは違ってゆっくりと。
「あっ!ユカリまで!!」
カズマ、そんなに焦らなくても平気....なはずよ。私の予想が正しければ出ていってもなんの問題もない。ゾンビも多分襲っては来ないはず。
「うおおおおおお!リッチーがノコノコとこんな場所に現れるとは不届きな!成敗してくれる!!」
リッチー、出来ればその言葉は聞きたくなかった。でもまだそうと決まったわけではない。もしかすると突然現れた野良リッチーかも知れない、もしくは人違いならぬリッチー違いという可能性も。第一あの娘がなにか悪意のある事を企むようには見えなかったし。
「やめ、やめてええええええ!誰ですか!?いきなり現れて何故私の魔法陣を壊そうとするんですか!?やめて、やめてくださああああい!!」
あー....すっごい聞き覚えのある声。なんだろう顔みなくても分かりそう。とりあえずアクアとリッチーのやり取りを手頃な墓石を肘掛けにでもして眺めていよう。
「黙ってなさい!このクソアンデッド!どうせこの魔法陣でろくでもないこと企んでるんでしょ!こんなものこうしてやる!この!この!」
「ああああっ!やめて!やめて!魔法陣を壊さないでください!この魔法陣は未だ成仏できない迷える魂達を天へと還してあげるためのものなんです!ほら見てください魂が天に上っていっているでしょ?」
なるほどね。確かに白い人魂が天へと消えていっている。それにゾンビが多いから気がつかなかったけどちらほら人魂も集まってきているようね。共同墓地の魂浄化、特に報酬も出ない完全に無料の慈善活動。泣ける話じゃない?
「あなたもそう思わないゾンビさん?」
「アアア...アァ?...アア」
「いやこっち見ないで向こう向いててくれない?」
ゾンビの顔の向きをアクア達の方へ向ける。浄化は向こう、私の所に来たって何もならないし起きない。だからそんなに集まらないでくれない?さっきから足元に這いずってるゾンビがまとわりついてきて鬱陶しいのよ。別に噛みついてくるとかそういうのじゃなくてただ寄ってくるだけ。それだけなら我慢するんだけど這いずってることもあってなんだかスカートの中を覗かれてるみたいで落ち着かない。それに足に触れるゾンビの手もどこか、こう、いやらしいというか、なんというか変な感じなのよ。はやく浄化してくれないだろうか。私、浄化魔法は持ってないのよね。
「リッチーの癖に生意気よ!そんな善行はアークプリーストのこの私がやるからあんたは引っ込んでなさい。それにこんなチンタラやってないで墓地まるごと浄化してやるわ。『ターンアンデッド』!!」
「えっ!?ちょっと待って!?」
アクアから強烈な光が放たれどんどんその光が広がっていく。その光に触れたゾンビや人魂は一瞬で消え去っていく。なんというか浄化というよりも消滅に近いなにかを感じる。というよりもこの感じは少し不味いわね。いくらリッチーとはいえここまでの浄化をもろに受け続ければ消滅しかねない。現に――
「きゃああああ!やめて、やめてください!消えちゃいます、私消えちゃう!!成仏してしまいます!!」
「はははははっ!!この腐れリッチーめ!自然の摂理に反して意地汚く生き続けるアンデッド風情が神の意思に背いた罰よ!さっさと消え去りなさい!!あははははははは――――ッ!?」
高笑いする弱いものいじめをする女神の風上にも置けない自称女神のアクアの脳天にチョップを落とし浄化をやめさせる。
「痛!痛いじゃない!?なにするのよ!私は今この腐れアンデッドを浄化する真っ最中だったのよ!!」
はいはい、本人はそう言っていても端から見ればただの弱いものいじめ。やかましい水色を端に追いやって足元が透明になっているリッチーの側に歩み寄る。
「あっ!ユカリさあああん!!助けてください!このままじゃ成仏させられてしまいます!」
うわああああん、と鳴き声を上げて私に抱きついてくる貧乏店主でリッチーのウィズ。よしよし、怖かったわね。変なアークプリーストに絡まれて怖かったわね、よしよし。
「えっとどういう状況だ?これ」
ウィズが私の腰に腕を回して盾のようにして後ろに隠れると一部始終を見ていたカズマが訪ねてきた。
「そうよそうよ!私の浄化を邪魔してまでリッチーを守ろうなんてどういうつもりよ!」
「えっと、そのリッチー....の人?はユカリとどういった関係なんでしょうか?」
まあ気になるわよね。私が同じ立場でもまったく同じ質問をすると思う。さてどう説明したものか、ただその前に消えかけのウィズをどうにかしておかなきゃ。ドレインタッチを使ってウィズに魔力を送る。
「んっ....ど、どうもありがとうございます、ユカリさん。これで消えずに済みそうです」
と言いつつも私の背後から出てこないウィズ。
「えーと、彼女は確かにリッチーよ。そして私の行きつけの喫茶店の店主」
「喫茶店じゃないです!!」
「.....まあ、それは置いておくとしてこちらリッチーのウィズ。悪い娘じゃないわよ。何をしてたのかは本人から聞いた方が早いでしょう。それに私が言うよりも本人からの方が説得力もあるしこの状況じゃ嘘なんてつかないでしょうから」
さあ、とウィズに説明するように促すが意地でも私の背後から出ない気でいるらしい。まあそれでいいなら私は構わないけど、でも確かに出ていけないのも分かる気がする。ヤバい顔したアークプリーストが目の前にいるんじゃ出ていこうにも出ていけない。
ウィズはおそるおそる顔を覗かせ話し始める。
「そ、その....私は見ての通りリッチー、ノーライフキングなんてやってます。アンデッドの王なんて呼ばれてるくらいですから私には迷える魂達の声が聞こえるんです。この共同墓地の魂の多くはお金がないためろくな葬式もされずに毎晩墓地を彷徨っています。それで一応はアンデッドの王な私としては定期的にここに訪れ天に還りたがっている子達を送ってあげているんです」
話を聞く限りでは素晴らしい善行。ただこの街にはプリーストがいないというわけではないはず。ウィズがやらなくてもプリーストがやってくれているんじゃないだろうか。まあ、やってないからこうしてウィズが定期的に来ているんだろうけど。
「ウィズ、別にあなたがやらなくても街のプリーストに任せておけばいいんじゃない?」
「そうよ!リッチーの癖に生意気なのよ!やっぱりターンアンデッドさせなさいよ!!」
「ひぇ....あ、あの、この街のプリーストさん達は....その、拝金主義でして、お金のない人達は後回しといいますか...その....」
..........なんというか、こう、ついつい目頭を押さえてしまった。ようするに金のある奴にはしっかりとやってやるけど金にならない葬式はやらないって言うことでしょ。この街のプリースト、ろくな奴いない。ウィズがこうしている理由わかったわ。もともと金のない人達だし天に還してやるから代金払ってとも言えないし人知れずにやるしかないわよね。というかそれも貧乏の原因のひとつじゃないだろうか。優しい分にはいいのだけどリッチーじゃなければ餓死してるんじゃなかろうかこの娘。
ウィズの言葉にカズマ、ダクネス、めぐみんの視線に居たたまれなくなったアクアはそっと目線を反らして明後日の方向を見ていた。
「あー、それならしょうがないんだがゾンビを呼び起こすのはどうにかならないか?俺たちゾンビメーカーを討伐してくれってクエストでここに来てるんだけど、というかここまでゾンビが多いって聞いてなかったんだが....」
「あ....そうだったんですか。その、呼び起こしているというわけではなく私がここに来るとまだ形の残っている死体は私の魔力に反応して目覚めちゃうんです。えっと、いつもはもっと少ないんです。今回は私も多いなぁ、と思っていたんですがユカリさんがいてその理由がわかりました」
アクアに注がれていた視線が一気に私へと向く。
「多分ですがユカリさんの魔力が強すぎて少しでも形の残っている死体ならゾンビとして目覚めてしまったみたいです」
今度は私が視線を明後日の方向へと向ける番だった。まさか来ただけで魔力に反応してゾンビになるなんて思わないじゃない。私は悪くないわよ。でもこれでゾンビがまとわりついてきた理由もハッキリした。完全に魔力に寄ってきていたようね。
「ですがユカリさんがいたなら教えてくだされば良かったのに。なんと言ってもユカリさんの魔力は超強力ですし
ウィズの一言でただでさえ低いはずの気温がさらに低くなったようにその場が一瞬で凍りついた。カズマとアクアは驚愕して固まっている。めぐみんとダクネスは妖怪が分からずに困惑しているが剣と杖を構えいつでも動けるようにしている。......というよりもまずやらなければならないことがある。ウィズの方向へとゆっくりと体を向ける。
「ユカリさん?どうかしましたか?」
きょとんとした顔のウィズの頬を両脇へ向けておもいっきり引っ張る。うん、なかなかの弾力。
「ウィズ~?人の秘密を勝手にベラベラ喋っちゃう悪ーいお口はこのお口かしらぁ~?ねぇ、街中にあなたがリッチーだって言いふらしてもいいのよ?」
「あああ~!
腕をバタバタさせ涙目になるウィズ.......な、何かしらこの感覚、もうちょっとこうしていたい。なんだかこう、楽しくなってきた。もっとウィズの頬を引っ張っていたい。
「ユカリさぁーん!やめてください!これ以上引っ張ったらちぎれちゃいますよおおお!!」
パッと手を離すとぺちんという音でもしそうな勢いで元に戻るウィズの頬。少し赤くなった頬を涙目でさすっているウィズ。....もう一回やったらどうなるだろうか。そう思っているとある人物が声をあげる。
「やあああっぱりそうだったのね!!あんた最初からなんか胡散臭いと思ってたのよ!!今なら胡散臭いだけじゃなく臭うレベルでハッキリ分かるわ!!妖怪だかなんだか知らないけどね、その腐れリッチーごと一緒に浄化してやるわ!ターンアンデッ――ぎゃっ!?」
反射的にアクアに向けてビンタを放つ。なにが胡散臭いよ、臭くないわよ。それに私の親友を腐れ腐れって言わないでもらえないかしらね。
「うっ....うぅ....痛い..」
「ヒール」
「あっ....ありがと――ぶっ!?」
再度バチンと響く音。あえてアクアをヒールで回復させてからもう一度ビンタ。これは私を臭いと言った分。
「う....うわあああああああん!なんでぇ、なんでぇそんな酷いことするのよぉぉ!わたし何も悪いことしてないじゃない!!」
涙目でぽかぽかと胸を叩いてくるアクア。これはあえて無視しておく。時には相手にしないことの方がキツイ時もある。
「ア、アクア....なんて羨ましい!..カ、カズマ、見てみろあのユカリの蔑んだような目を。私もあんな目で見られたい!考えただけでも....あぁ、ゾクゾク、して、くるなぁっ!!」
ダクネスがいつもの如くドMを発動している。視線をダクネスへ向けると上気して赤くなった頬にだらしなく緩んだ口元。目が合うだけでごくりと生唾を飲み込むダクネス。
「さぁ、ユカリ!私にも、私にもその蔑んだ目でアクアよりもキツイ仕打ちを!さぁ!!」
「..............」
「はぁ....はぁ....ゾクゾク....はやくはやく」
これは...酷い。ここまで筋金入りのドMは初めてみる。というよりもドM自体をあまり見ない。これはどうするのが正解なのだろうか?
「.....ウィズ、この後――」
「んん!放置プレイ、だと!?あの目で散々期待させるだけ期待させてあえての放置。....くっ、でもこういうのもいいなぁ..はぁはぁ....ど、どうしようカズマ!私は最高の人物を見つけてしまったようだ!ここであえての放置はなかなかできないぞ!....見ろあの表情を!ここまで言っても放置、でも目は変わらず....くっ、感じてしまう自分が恥ずかしい!それがさらに興奮する....!」
マシンガンのようにとんでもない言動を口走るダクネス。もはや相手にしない方がいい。でもそうすると勝手に興奮する、どうすりゃええねん....このドM。もうキツイの一発入れて達させるか。
「ダクネス」
ダクネスへと近づき肩に手を置く。目は変わらずに相手を蔑むように。そして腹部へおもいっきり強烈な一撃を放つ。
「ふっ!!」
「んん!あああああああ!!!あふ!あひぃぃ!....うっ!」
口から涎を垂らしてビクビクと痙攣するダクネス。これでしばらくは動けまい。そのまま一人で感じていなさい。これで一番厄介な奴は片付いた。
「ウィズ、残りの魂とゾンビを天に還して帰りましょう。カズマ、私はウィズと一緒に帰るから心配しなくてもいいわよ。それとそこの泣き崩れてる青いのとビクビクしてる気持ち悪い「あふんっ!うへへ」.....ダクネスをしっかり回収していってよ」
カズマは「お、おう」となんとも頼り無さげな返事をしてめぐみんと一緒にダクネスを担ぎあげるとアクアを引っ張って墓地を後にした。私とウィズは引き続き浄化を続けてすべてが終わったことを確認してウィズの店へと向かっていった。
そして久しぶりのウィズの魔道具店、深夜ということもあって相変わらず人気はゼロ。ぶっちゃけ開店してても閉店しててもどっちでも同じなんだけどそれはあえて言わない。
「ユカリさん改めましていらっしゃいませ、そしてお久しぶりです!本当に!!お久しぶりです!!私、もう来てくれないんだと思ってましたよぉ!嫌われてなくて良かったです!」
「それはこっちのセリフよ。私も最後に会った時の別れかたがあんな風だったから嫌われたかと思ってたのよ。どうやらその心配はいらなかったみたいだけど。これなかったのは、まあ色々と忙しかったから....」
お互いに嫌われたと思っていたみたいだけどどちらもそんなことはなく一安心。でもウィズはどこか落ち着かない様子....ああ、そういうことね。ウィズの店にやって来た時は決まって頼んでいたものがあったわね。
「ウィズ、こんな時間だけど紅茶なんて貰えるかしら?」
「勿論です!!そういってくださると思ってすぐに用意してたんです!」
そう言ってウィズは嬉そうに店の奥へと入っていき紅茶を持って戻ってきた。久しぶりのウィズの紅茶、相変わらずの美味しさ。やっぱり喫茶店にした方が儲かると思う。
「ところでウィズ、店の景気はどう?」
「え....えっと、その、ここ数ヶ月は売上はゼロです....また雑草生活してました....」
........はぁ、なんというか本当に私が来なかったら売上ないのね。今度、女苑に教えてみようかしら。あの子意外とこういうところ好きかもだし。
「それでウィズ決心は着いたの?」
「えっと、なんのですか?」
そんなの決まってるじゃない。
「道具屋をやめて喫茶店にするのに決まってるでしょ!」
「イヤです!!私は道具屋が好きでやってるんです!ユカリさんもいい加減に諦めてくださいよ!?私のお店を喫茶店にしようとするの!」
ウィズの必死の叫びが朝日が差し始めた空に木霊したのだった。そして今度からはもっと頻繁に来ようと心に決めた紫だった。