この素晴らしいスキマ妖怪に依神姉妹を   作:片腕仙人

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 今日もいつもと同じくギルドへとやって来ている。冒険者ギルドは朝からでもワイワイと賑やかである。

 

「いらっしゃいませー!」

 

 いつも笑顔で挨拶してくれる赤毛のウェイトレスに軽く手を振りクエストボードへと向かう。どれどれ〜? 何か良さそうなクエストは⋯⋯⋯⋯ん? なんだかいつもよりクエストボードが寂しいように感じるのは気のせいかしら?

 

 

『巨大熊 ブラックファングの討伐!!』

 

 

『マンティコアの討伐』

 

 

『グレートフルジャイアントトードの討伐』

 

 

『ヒュドラ3体の討伐』

 

 

 

 

⋯⋯⋯⋯ねぇ、なんか難易度おかしくない?

 

 

 改めて思うのだけどここって本当に駆け出し冒険者の街なのだろうか。絶対に駆け出し冒険者じゃ倒せないようなものしかクエストボードに貼られていない。

 

 こんなの駆け出し冒険者が駆け出す前に頭からパクパクっとされておしまいでしょ。いつもならジャイアントトードの依頼が大半を占めているのに一枚もない。

 

「ねぇ、ルナ? このクエストボードおかしくないかしら。いつからここは駆け出しお断りの初心者殺しクエストボードになったの」

 

「初心者殺しクエストボードっ!? なんですかそれ!?」

 

 豊かな2つのメロンを携えカウンターから乗り出した受付嬢のルナ。今日も元気に北半球がお目見えしている。そしてそんなに激しく身を乗り出すと⋯⋯ほら、スゴイ。ぶるん⋯⋯いえ、ばるんっ! とでも言うべきか。すごい躍動感これは凶悪ね、早急に討伐すべき案件ですわよ。

 

「ユカリさん! 変なこと言わないでくださいよ、うちのクエストボードはそんな危険なものじゃないんですよ!!」

 

「でも見るからに危険な依頼しかないわよね。高難易度から超高難易度しかないように見えるわよ」

 

「あ~、えっと⋯⋯それは、少しですね、のっぴきならない事情がありまして。その〜、近頃、魔王の幹部らしき者が街の近くに住み着きましてですね。その幹部が原因だと思うんですが近辺の弱いモンスターは身を隠してしまいまして」

 

魔王軍の幹部らしき者が住み着いた? 駆け出しの街の近くに?

 

 それを聞いて私はどうも変だと思ってしまった。仮に魔王軍の幹部らしき者じゃなく本当に魔王軍の幹部だったとして何故ここなのか。駆け出し、未来の強者をいち早く叩き若い芽を早々に摘み取ってしまおうという魂胆なのだろうか。

 

だからといって魔王軍の幹部を派遣するだろうか?

 

 幹部と言わずとも強めのモンスターを数体放てば事足りる気はしなくもない。だって駆け出しだから。

 

 ここから導き出される答えはアレだ、アレ。その魔王軍の幹部らしき者は実は派遣されたのではなく派遣という名目の左遷では?

ただその左遷幹部、実力はあるはず。モンスターが身を隠してしまうほどなら警戒しておいて損はないはず。

 

「来月には国の首都から幹部討伐のために騎士団が派遣されるはずなんですが、それまではこの高難易度のクエストだけになります。で、でも! ユカリさんの実力なら高難易度でも平気ですよ! 数々の冒険者を見てきた私が保証します! ――ひゃあ!?」

 

「その言葉ありがたく受け取っておくわね」

 

ドヤァ〜! っと、胸を張ってきたからついでにつついておいた。

 

「もうっ! ユカリさん!!」

 

「だってルナがつついてほしそうに胸を突き出してくるのが悪いんじゃない」

 

「なっ!? そ⋯⋯そんなんじゃないですよぉ!!」

 

「ふふふ、冗談よ冗談。それでクエストだけど今は特にお金に困っているわけでも無いし遠慮しておくわね。あぁ、そうだ。もしどうしても討伐してくれって言うのがあったら女苑か紫苑、私に教えて。また今度ねルナ」

 

 しばらくはのんびり過ごすことになるかもしれない。この時間でいくつかやらないといけないことが片付けられるやもしれない。まずは『不運貯蓄機』のタンクの置き場所考えないといけないのよねぇ⋯⋯。地下がタンクまみれでやんなっちゃう。なんて思いながらギルドを後にする。

 

「ユ、ユカリさーん! くれぐれも幹部に注意してくださいねぇぇぇ!!!」

 

 

はい、はぁ〜い、わかってますよ〜。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって外見幽霊屋敷の我が家。

 

「ただいま」

 

「ん⋯⋯紫、おかえり。早かったね、いいクエストあった?」

 

 出迎えてくれたのは最凶最悪の姉妹の姉、紫苑。今日は珍しくはやく起きていたらしい。大体は声をかけても、「ん~、もう少しぃ〜」 って言って起きてこないのに。

 

「それがね⋯⋯なんでも魔王軍の幹部なんてものが近くに住み着いたらしくて高難易度のクエストしかないらしくて、そこまでお金に困ってないから何も受けてないわよ」

 

「魔王軍の⋯⋯幹部」

 

 紫苑もそれを聞いてスッと目元が鋭くなる。確かにただ事ではない。実際いつ攻めてくるかわかったものではないのだから。

 

「紫」

 

「ええ、そうね紫苑」

 

しばしの沈黙の末、紫苑が口を開く。

 

 

「⋯⋯⋯⋯お腹減った」

 

「⋯⋯⋯⋯紫苑、それそんな鋭い目で言う必要あった?」

 

「⋯⋯魔王軍より⋯⋯空腹のほうが⋯⋯危険⋯紫お腹減った」

 

 うん、そうだった。紫苑にとっては未来の脅威より目先の空腹のほうがはるかに重要だった。若干張り詰めた空気は完全にフニャッフニャの空気になったわけだしご要望どおり準備しましょう。

 

「それで、女苑はどうしたの?」

 

紫苑は顔を少し伏せ、クワッ! と一気に顔を上げ手を頭の上に上げて――

 

「大・爆・発・!!」

 

ああ⋯⋯なるほど。すべて理解したわ。どうやら今日の女苑は大変らしい。

 

「どっかぁーん⋯⋯ってなってた。あれは時間かかるよ」

 

「なら先に用意しておきましょう。少し待って来なかったら先に済ませてしまっても問題ないでしょうし」

 

「うん」

 

女苑の髪型を見てみたい気もするけど紫苑と一緒に厨房へと向かった。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

依神女苑は苦悩していた。

 

 

「はぁ〜、もお〜っ!! この爆発頭なんとかなんないのっ!?」

 

 朝起きてすぐに洗面所に直行。寝癖で爆発した頭を鏡で確認して⋯⋯するまでもなく分かってはいる。自分の頭がソフトクリームのようにネジネジになってそびえ立っているんだから分からないわけ無い。

 

 しかもこのネジネジたちが悪いことに直しても元に戻ろうとするのだ。もぉ⋯⋯今日は一番ひどい。それに今日は姉さんと二人で朝ご飯食べる約束したのになんでよりによって今日なのよ!!

 

 せっかくあの胡散臭いのがはやく出てったのにこれじゃあ戻ってくるじゃないの!

 

「よ、よし⋯⋯ちょっとは治ってきたかな」

 

ビョイン!

 

髪が勢いよくネジネジに戻る(最初よりは僅かにマシ)

 

 

「マジなんなのよ!! 強情すぎでしょ今日の寝癖!」

 

 馴れた手付きで必死に櫛を髪へと入れる女苑。傍からはかなり荒々しくやっている様に見えるがこの髪とは長い付き合い適切な力加減、髪を傷めない梳かし方を熟知している女苑。

 

でも今日のは本気でしつこい。

 

寝癖に悪戦苦闘しているとコンコンと扉がノックされる。

 

「女苑〜、ご飯食べようよ。まだかかるの〜」

 

「あっ! ね、姉さんっ!? ちょ、ちょっと待っててもうすぐなんとかなるはずだから!」

 

「⋯⋯分かった。待ってるからね」

 

 

 はやくしなきゃ、姉さんが待ってる。女苑、気合いを入れなさい。あんたはもう何年もこの寝癖と戦ってきたんじゃない。ちょっと強情なくらいなんてことないわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらく⋯⋯

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ⋯⋯お、お待たせ! 姉さ⋯⋯ん」

 

 勢いよく扉を開いて見えたのは姉の紫苑、胡散臭い紫が神妙な表情で座っていた。

 

「えっと⋯⋯なに、この状況」

 

「女苑、まずは座りなさい」

 

「うん、女苑。座って」

 

 

 紫にあんた帰ってきてたの? と言ってやりたかったがピリッと張り詰めた空気におずおずと席に座る。

 

沈黙、会話はない。

 

 紫と紫苑は何故か同じポーズ、手を顔の前で組み両肘をテーブルへとつけた。所謂、ゲンドウポーズと呼ばれるもの。呼び方を知っているのは紫と極々僅かな者だけだろう。

 

 女苑はいつもなら紫に対して小言の1つや2つ言っているところだが今日は不思議と何も言わない、いや言えなかった。

 

 

 日が差しているのに何故か薄暗い室内、そして何故か光っているテーブル、そしてなによりも謎なのが紫、そして紫苑が謎のバイザーのようなものをつけている。さらに何故か光っているテーブルからの光があるのに逆光のようになって表情が見えない。

 

そしてそして、正体の分からない謎の威圧感が二人にはあった。

 

 

「女苑、何故私達がこうしているか⋯⋯わかるかね」

 

「な、なによ⋯⋯その喋り方」

 

紫は答えない。紫苑も全く動かない。

 

「女苑、あなたはあれからどれ程時間が経ったかわかるかね」

 

「うっ⋯⋯それは、30分⋯⋯くらい」

 

 そぉーっと視線を反らしそう答える女苑。必死にやったがやはり時間はかかってしまうもの。寝癖を解いても次は髪をセットしなくてはならない。これでもかなりはやくセットできたのだが。

 

 

「そう、30分。それが何を招いたのかわかるかしら」

 

 紫は立ち上がり紫苑の元へと近づく。そしてバイザーを優しく取った。するとそこには――

 

「姉さんっ!?」

 

 どこか悟ったような目をした紫苑が現れた。むしろバイザーを取った瞬間真っ白に燃え尽きたように変わった。謎である。

 

「うぅっ⋯⋯紫苑、なぜこんな事に。これもすべて妹思い過ぎて女苑が来るまで待つって言った弊害。空腹なのに朝ご飯を前に耐え続けてしまった末路。女苑、なんて酷いことをっ!!」

 

「えっ!? 私のせいなの!? それだったら先に食べればよかったじゃないの!」

 

「⋯⋯⋯⋯女苑」

 

「ね、姉さんっ!」

 

真っ白になりながらもか女苑へと語りかける紫苑。

 

「女苑⋯⋯なのね。一人だけ仲間はずれは⋯⋯ダメ、だ⋯⋯よ⋯⋯うっ!」

 

「ね、ね、姉さぁぁんっ!?」

 

「女苑、エヴァに⋯⋯じゃない。紫苑に何か言うことは?」

 

「姉さん、ごめん⋯⋯でも、ありがとう待ってくれて。つ、次からはもっとはやくセットして完璧にするからぁー!!」

 

 紫苑をぎゅっと抱きしめる女苑。なんかいい話風になっているようななっていないような謎の状況である。紫はそっとスキマに仕舞っておいた料理(温かい)を並べておく。

 

「それじゃあ――「いただきます! もぐもぐ、ん? 女苑も食べよう? もぐもぐ」

 

「ね、姉さん⋯⋯」

 

 燃え尽きていた紫苑は一瞬で再起動し口いっぱいに料理を頬張っている。その変わりように女苑は嬉しいやら悲しいやら複雑な感情が湧いていた。

 

「姉さん、燃え尽きてたんじゃ⋯⋯」

 

「んぐんぐ⋯⋯あれは省エネモード」

 

「えぇ⋯⋯姉さん⋯⋯」

 

 

程なくして朝ご飯はみんなで美味しく頂いた。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「それじゃあ私は良さげな場所、探してくるわね」

 

「うん⋯⋯分かった。気をつけて」

 

「ふんっ、別に戻ってこなくてもいいんだけど」

 

 紫苑曰く女苑はちょっと素直じゃないだけだよ〜、とのこと。まあ一緒の家で生活してれば分かってくるものです。軽く手を振ってその場を後にする。

 

 そのままぶらぶら歩きアクセルを出てさらにぶらぶら歩く。森に岩場、平原、この辺じゃあ流石にまずい。私が何をしているのかといえば答えは簡単。うちの地下がもうヤバいの。不運貯蓄器こと不運タンクがもう溢れそう。

 

 早急に何処かに不法投棄⋯⋯じゃない、移動させなければ。もしもアクセルの街でタンクが破裂でもしたら⋯⋯滅びかねない。それは阻止せねば。

 

「とはいえそんな丁度いい場所⋯⋯ある、わけぇぇぇ――――」

 

 あー、何だろう凄く今いいものを見つけたような気がする。少し遠出をしてみたがモンスターはいない。圧倒的平和。そして目の前にそびえ立つのはボロい城。廃城と言うやつだろう。

 

 うん、これは良いかもしれない。これだけ街から離れていれば漏れてもなんの害もない。となればまずは敵情視察、スキマに入り城内を覗く。城内は薄暗く蜘蛛の巣や埃が多い。モンスターも結構いるわね。

 

 骨のモンスターやミイラみたいなモンスター、俗に言うアンデッドと呼ばれるもの。ただその数が多い気がする、場所はいいがモンスターが多すぎるのは問題。(不幸の)プレゼントを贈ったそばからモンスターに壊されたんじゃ意味がない。それ以前にこの城が崩れないかが心配。まず先に耐久をチェックしたほうがいいかもしれない。

 

ということで――

 

 

「控えめ、『エクスプロージョン』」

 

 ドォーン!!! と廃城の上部が吹き飛ぶ。ただ城は崩れたりしない。耐久はバッチリ、なら次はモンスターの排除。スキマでサクッと城の地下に侵入。私に気がついたアンデッドがこちらを見つめてくる。

 

「アア⋯⋯ア⋯⋯アァァ⋯⋯」 「グアア⋯⋯アァァ⋯⋯」

 

腕を伸ばしゆっくりと歩いてくる。動きは遅い、これなら楽勝ね。

 

「グヘヘヘ⋯⋯」 「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯」 「ゲヘヘへ⋯⋯」

 

 ⋯⋯⋯⋯何故だろう凄く嫌感じがする。このアンデッドたち私を見ているのだけど私を見ていない。そんな感じがする。そう、なんだか少し下⋯⋯こう、胸の辺りを⋯⋯。まさかこいつ等⋯⋯。ジトォっとした目で見ていると急にガバっと背後から組みつかれてしまった。

 

 どうやら死角に隠れていたらしい。振り払い弾幕で頭を撃ち抜こうと思ったがこのアンデッド何故か背後をとったのにも関わらず組みつくだけで何も攻撃をしてこない。だが何かされるのを待つなんて趣味もない。私は何処かの変態騎士とは違うのよ。

 

 

(はっ! 今どこかで貶された気がする!! ゾクゾクッ)

 

 

 振り払おうとしたときアンデッドがある一部に触れている、いや揉んでいることに気がついた。アンデッドの手の先を追ってみるとその手はまっすぐ私の胸へと続きしっかりと揉んでいた。

 

アンデッドからは「アア⋯⋯ア⋯ハァハァ⋯ハァハァ」となにか違う息遣いが聞こえる。

 

「ねぇ、アンデッドさん?」

 

 背後のアンデッドの頬にそっと手を触れる。アンデッドは揉むのを辞める気配はない。見つめ合う私とアンデッド。不思議とアンデッドの頬が昂揚しているように見える。

 

「ふふふ⋯⋯」

 

「ハァハァ⋯ハァハァ⋯」

 

「⋯⋯フフフ、フフフフッ⋯⋯この、変態がぁ!!」

 

 ベキバキと思いっきり首を引っぱりもぎ取る。頭部を失ったアンデッドは力なく倒れ⋯⋯⋯⋯コイツ意地でも胸から手を離さないんだけど。

 

「フンッ!」

 

腕をもぎ取って体をぶん投げる。

 

「あんたら⋯⋯覚悟はできてるんでしょうね」

 

アンデッド殺戮ショーの開幕よ。無惨に残酷にバラバラにしてやる!!

 

 

 

 

 

 城中のアンデッドにこんにちは死ねを繰り返し安全は確保できたし地下にはプレゼントも置いた。これでしばらくはあの地下を使うことができる。それとこの廃城、思った以上に耐久度がある。これなら魔法の試し撃ちにつかえそうだし覚えておいて損はないでしょう。

 

 

 

 

それからしばらくして事件は起こった。

 

 

 

『緊急! 緊急! 全冒険者の皆さんは直ちに武装し戦闘態勢で街の正門に集まってください!!』

 

 突如として街に響き渡る緊急のアナウンス。すぐに冒険者達は武装し正門へと集合する。依神紫苑、依神女苑も例に漏れることなく現れた。

 

 正門へと集まった冒険者達が見たものはモンスター。だが普通のモンスターではない。並のモンスターではあり得ない威圧感を放ち首無しの黒馬に乗り自分の首を小脇に抱える漆黒の騎士。

 

 

【デュラハン】

 

人に死の宣告を行い絶望を与える首無しの騎士。

 

 

デュラハンは抱えた首を片手で持ち上げくぐもった声で話しだした。

 

「俺はつい先日この近くの城に越してきた魔王軍の幹部の者だが⋯⋯」

 

「女苑⋯⋯魔王軍の幹部って」

 

「そうね、姉さん。そんな事紫が言ってたけど⋯⋯本当だったのね。って、肝心なときにアイツはどこ行ってんのよ!」

 

そう、この場に八雲紫の姿はなかった。

 

デュラハンは何故かぷるぷる震えだす。

 

「まっままままま、毎日毎日毎日毎日っ! お、おっ俺の城に毎日欠かさず爆裂魔法を撃ち込んでいく頭のおかしい大馬鹿は誰だぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ねぇ女苑、すごい怒ってるよ」

 

「爆裂魔法っていったら⋯⋯」

 

 女苑がめぐみんを見る。それにつられ紫苑もめぐみんを見る。カズマは爆裂魔法を撃てる者はめぐみんしか知らない。故にめぐみんを見る。他の冒険者も爆裂魔法狂い頭のおかしい奴を見る。

 

 

 そして当のめぐみんは⋯⋯⋯⋯何故か隣の女性を見た。全員がつられ彼女を見る。

 

「えぇ!? なんで私を見るのっ!? 私、爆裂魔法なんて使えないよぉー! 待って、私まだ死にたくないの! お願い助けてぇ!!」

 

 完全なとばっちりであった。程なくしてめぐみんが一歩前へと踏み出した。

 

 

「お前が⋯⋯お前が毎日毎日毎日俺の城に爆裂魔法をぶち込んでいく大馬鹿者か!! 俺が魔王軍の幹部だと知って喧嘩を売っているのなら堂々と攻めてくるがいい! その気がないなら街で震えていろ! なんでこんな嫌がらせするの!? しかもそれだけじゃない。数回に一回とてつもない威力の爆裂魔法撃ち込みやがって!! 城をなんだと思ってるんだ! 修理も大変なんだぞ!」

 

デュラハンはすぅっと大きく息を整えまだまだ怒りを口にする。

 

「修理し終わったらと思ったら特大威力の爆裂魔法撃ち込みやがって!! しかもなんで雷や炎、水、光魔法まで撃ち込みやがって!! 変えればいいとでも思ってんのか!! ふざけんなよ!?」

 

 めぐみんは途中から頭の上にハテナマークを浮かべていたが爆裂魔法は自分。とりあえずいつものように口上を述べる。

 

「我が名はめぐみん!! アークウィザードにして爆裂魔法を操る者!!」

 

「⋯⋯めぐみんってなんだ、馬鹿にしてんのか?」

 

「ち、違わいっ⋯⋯!?」

 

 めぐみんは何かを見て驚きの表情を浮かべる。周りの冒険者もある一点を見つめ驚きを顕にする。そしてめぐみんは気を取り直し超自信満々に名乗り始めた。

 

「我は紅魔族にしてこの街随一の魔法使い⋯⋯になる予定。我が爆裂魔法を放ち続けていたのは魔王軍幹部のあなたを誘い出すための作戦! こうしてまんまとこの街に一人で出てきたのが運の尽きです。あと爆裂魔法は私ですが他は知りません」

 

カズマ、ダクネス、アクアはヒソヒソと囁きあっている。

 

「ねぇねぇ、女苑。あれ何してるのかな?」

 

「さぁね、本当にアイツなにやってんのよ」

 

女苑と紫苑はデュラハンの横を見つめ不思議そうにしている。

 

 

「ほう⋯⋯紅魔の者か。「あっ、デュラハンさん? 頭、お持ちしますよ」 おお、済まないな」

 

スッと自分の頭部を渡し持ってもらうデュラハン。

 

 

「そのいかれた名前は俺を馬鹿にしているわけでは⋯⋯⋯⋯ん? 俺は今誰に頭を渡したんだ?」

 

 スッと頭の無い体が横を向く。そして抱えられた頭は女性が回転させて方向を変える。デュラハンの目に写ったのは金髪の美人女性。頭部は彼女に抱えられていた。

 

「うおおおおおおおぁぁぁ!? い、いつからそこにっ!? というか頭を返せ!」

 

ポイッとデュラハンに頭を投げ渡す金髪美人の女性こと八雲紫。

 

「そうねぇ、違わい! ってとこからかしら?」

 

「なんだと!? 気配がまるでなかった。ま、まあいい俺は魔王軍幹部だが元は騎士。弱者を刈り取る趣味はない、貴様もまあ、その、かなり美人だし⋯⋯できることなら殺したくはない。だがっ! これ以上俺の城に頭のおかしい紅魔族が爆裂魔法、その他の様々な魔法を撃つ迷惑行為を続けると言うならこちらにも考えがある」

 

「ちょっと待ってください。だから私は爆裂魔法しか撃っていないと言っているではないですか!」

 

 めぐみんは爆裂魔法しか撃っていないと弁解している。ただ爆裂魔法を撃ってる時点で弁解の余地はないのだがそんなことはお構いなし。

 

「嘘をつくな! 紅魔族ならば魔法は大得意のはず。お前以外に俺の城に魔法を撃ち込める奴はいない!」

 

「なっ!? 分からない人ですね!! こっちもあなたのせいで迷惑してるんですよ! 余裕ぶっているのも今のうちだけです。対アンデッドのスペシャリスト並びに最強の魔法使いがいるんです!! 先生方お願いします」

 

 

 勇ましく啖呵を切ったですめぐみん。そこまでは良かった、だがその後対アンデッドのスペシャリストことアクア、最強の魔法使い紫に丸投げした。

 

アクアはふっふん♪ っと上機嫌になっている。紫は我関せずを貫いている。

 

「ふん! 知ったことか!! 誰が出てこようと所詮は駆け出しの街程度がしれている。それよりも紅魔族のお前を苦しめてやるほうがいいかもしれんな、フッフッフッ、汝に死の宣告を! お前は一週間後に死ぬだろう!!」

 

 まるで黒い雷が意思を持つかのようにうごめきめぐみんへと向っていく。だが異変は起こった。まっすぐめぐみんへと向かっていた死の宣告は急に方向を変えデュラハンへと戻っていく。いやデュラハンではない、その横にいる紫へと向かっていっている。

 

「ね、ねえデュラハンさん? あれなんだか私の方に向って来てない?」

 

「な、何故だ!? 俺は確かにあの紅魔族に!」

 

「ね、ねえちょっと!? 止めて、止めなさいっ!? ま、待って! ねぇ、ちょっと!? こ、こないでぇー!!!」

 

 紫は全力ダッシュで呪いから逃げる。追う死の宣告。やがて一人と一つの姿は見えなくなり遥か遠くで黒い閃光が瞬いた。あ、あとついでに感覚でめぐみんを庇ったダクネスも死の宣告をくらった。

 

「⋯⋯⋯⋯な、なにかおかしかったがまあいい。よく聞け、今から一週間後にそのクルセイダーは死ぬ。そしてあの女もな」

 

「そんな! 紫が! 女苑どうしよう!?」

 

「そんなのあいつをここでぶっ殺すしかないでしょ」

 

紫苑は焦り女苑はいつでも動けるように構えをとる。

 

 

「フフフ、ハアッハハハ!! 俺の言うことを素直に聞いていればこんな事にはならなかったのだ。そこのクルセイダーとあの女は死の恐怖に怯え続けるのだ! お前のせいでなぁ」

 

 高笑いをし颯爽と去っていこうとしたデュラハンだったがダクネスがそれに待ったをかけた。

 

「な、何ということだ! つ、つまり⋯⋯ごくり⋯⋯貴様は私と紫にかかった呪いを解いてほしくば俺の言うことを聞けと、そういうのだな!!」

 

「⋯⋯⋯⋯は?」

 

デュラハンは完全に素でそんな声が出た。

 

 

「クゥ~! 呪いくらいで私は屈しないが⋯⋯っ! 屈しはしないが⋯⋯っ! どうしようカズマ! 見ろあのデュラハンの兜のいやらしい目を! あれはどう考えても私と紫を手籠めにして超スーパー変態ハードコアプレイを要求する変質者の目だ!!」

 

 

「うわぁ⋯⋯」

 

「ゲッス⋯⋯」

 

「最低⋯⋯」

 

デュラハンは大層困惑されておいでです。

 

 

「この私の体は好きにできても心までは好きに出来ると思うなよ! 城に囚われ仲間にために魔王軍の手先に理不尽な要求をされるの女騎士とか予想外に燃えるシチュエーションだ、カズマ!!」

 

俺に言うな、俺に。

 

「わ、わかったぞ⋯⋯うぇへへ」

 

なにがわかったぞ?

 

「紫の分まで頑張って抵抗してみるから邪魔しないでくれ!! じゃあ、いってくりゅうぅぅぅぅ!!!」

 

「おい!! バカバカバカバカ! 行くな馬鹿!! デュラハンの人困ってんだろ!!」

 

「カズマ離せぇ!!」

 

 デュラハンの人は完全にヤバいクルセイダーに怯えてしまっている。カズマが羽交い締めで押さえるととてつもなく安心したように息をついた。

 

「と、とにかくこれに懲りたら――――」

 

「うおおおおおおおお!!」

 

どこからともなくドドドドッという地響きが聞こえてくる。

 

「今度はなん――「どっせぇい!!」――ぐぉあああ!?」

 

 帰ろうとしていたデュラハンは超全力疾走で帰ってきた紫にドロップキックを食らわされ落馬。紫は無理やりデュラハンの首を体に固定して襟を掴み吠えた。

 

「こんの!! 腐れデュラハンがぁ!! 私になんの恨みがあるってのよ!! なんで死の宣告とかいう訳のわからんものが私をしつこく追いかけ回してくんのよ! ブチ転がすわよっ!! この死にぞこないが!!」

 

八雲紫ブチギレ。あまりの剣幕にデュラハンの人はガタガタ震えている。

 

「ちょっと紫!! デュラハンの人もわざとじゃないよ!」

 

「ちょっとあんた一回落ち着きなさいよ! キレすぎでしょ!!」

 

「そうだぞ紫、いくら待ち遠しいからって抜け駆けは――んんっ⋯⋯あっ、あへぇぇああぁあっ♡ うっ⋯⋯ビクンビクンッ♡」

 

 止めに入ったのは女苑と紫苑。必死に抑えなんとか耐えている。サラッとやってきたダクネスは紫の弾幕を受け逝った。女苑はさっさと行けとデュラハンに目で合図する。

 

デュラハンは一目散に逃げだしすぐに姿が見えなくなった。

 

 

「あああああああっ!! 待てぇぇぇデュラハンンンン!! お前の城に魔法撃ちまくってやるぅぅぅ!! 覚悟しろぉぉぉ!!」

 

 

「「ってお前の仕業かよっ!!」」

 

 

 カズマと女苑の鋭いツッコミが入った。ただし女苑はメリケン付きの拳で紫を殴るという鋭すぎるツッコミだった。もれなく紫は気絶した。

 

 

 

 

 その後めぐみんとカズマ、紫苑と女苑がいい感じに決意を固めたところでアクアが二人の死の宣告を解除。死の宣告騒動は呆気なく幕を閉じた。

 

 

 

 

 




デュラハンの人可哀想
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