「おじゃまします」
「ちょ、ちょっと!待ちなさい!なに当たり前のように入っていこうとしてんのよ」
「?」
そんな、え?なんで?みたいな顔されても...。それに待ってなさいって言ったのにつけてきたのね。まあ戻る気はなかったけど。
「紫苑、待ってなさいって言ったじゃない」
「紫は戻ってこなさそうだったから着いてきただけだけど」
....なかなか鋭いじゃない。確かに戻らないけど時々様子を見るくらいはしようと思ってたわよ。
「それじゃあ、おじゃまします」
「いや、ダメよ。ここは私で定員オーバーなの」
「......うわ~ん、せめて敷地にだけでもいれてよぉ~...もうワガママ言わないからお家にだけでもいれてよぉ」
またその手か、でもこの辺には住民はいないわよ。残念だったわね。
「なんだ、なんの騒ぎだ?」「おいおい、なんでも自分の家にもいれてもらえないらしいぞ」「服もあんなに....ひどい奴もいたもんだな」
「.....紫苑、行きましょうか!まずは一緒にご飯でも食べましょう!さぁ行くわよ!」
紫苑の手を引き屋敷へ駆け込む。
こいつ本当に不運なの?本当は運いいんじゃないの?さっきまで人通りなんてなかったのにわらわら集まってきたわよ。
「久しぶりの屋内だ...紫、ご飯は?」
なんか図々しくないかしら、この紫苑。今は彼女のことは少し放置しとくとして私は今、紫苑を貧乏神を屋敷へと招き入れてしまった。このままではせっかく稼いだエリスも屋敷も失いかねない。早急に紫苑の能力の対策を練らなくては。
「...やっぱり私なんかのためにご飯なんてくれないか...どうせ皆私のことなんて...」
なんだろう、私の隣から凄い負のオーラ的なものを感じる。....招き入れてしまったものは仕方ないわよね。このまま隣で不のオーラ出しまくられても困るし少しは施しをあげましょうか。それに元の紫は嫌っていたのかも知れないが私としては特にそんなことはない、けどその能力はあんまり好きじゃないけどね。
「紫苑、こっちよ」
半目でうつむきぬいぐるみを見ている紫苑を呼び着いてこさせる。そのまま近くにある椅子に座らせておく。
「はい、これでも食べなさい。ジャイアントトードの唐揚げ」
「!...いいの?」
私の顔と唐揚げとを交互に見て....いや、9:1で唐揚げのほう見てるわね。遠慮なんてしなくていいから食べなさい。意外とこのジャイアントトードの唐揚げはいける。見た目があんなだけど味はしっかりしているのよね。
唐揚げを見て目を輝かせている紫苑は年相応の少女に見える。でも彼女、貧乏神なのよねぇ...。
「いただきま~...ああっ!!」
紫苑が唐揚げに手をつけようとした時、閉まっていたはずの窓が開き数羽の鳥がサッと唐揚げを持ち去っていってしまった。さっきまではそれなりにあったのに残ったのは既に最後の一つ。しかも大きさは小さい。
「あんた、本当に運ないわね。というかどうやったらこんな...」
「うぅ...さっきまであんなにあったのに...」
ちびちびと残った小さい唐揚げを食べる紫苑。やっぱりこれは少し考える必要があるわね。となれば早速取りかからなくては。
「紫苑、その辺の空いてる部屋使っていいから休んでなさい」
「えっ...私なんかがいてもいいの?私がいるとどんどん貧乏に」
「出ていっても行くところないんでしょ?それに門の前なんかにいられたら私に善からぬ噂が立つじゃない」
それならここに置くしかないでしょ。もう、本当に厄介な能力ですこと。ほら、今日はもう休みなさい。これ以上不幸なことが起きないうちにね。
◆
―――紫苑回収から数日後
うーん、見事なまでにボロくなったわねぇ...私の屋敷。庭からかるく見渡しただけでも酷さがよくわかる。数日前までは壁にあんな大量の蔦は絡まってなかったし、あの場所にも苔は生えてなかったでしょ。屋根も傷んで端の方にヒビがはいっている。
見た目が完全にアウトだけど内装は変わっていないのよ。ちょちょちょっと境界を弄って綺麗にはしてある。ただ何故かいくつかの家具が差し押さえされそうになったけど追い返して二度と来ないようにちょっとだけオハナシしておいた。
さてと今頃ぐっすり眠っているであろう貧乏娘を起こしに行きましょうか。玄関の扉を開け...あけ..ちょ、開かないっ!建て付け悪くない?よっと...!?
「痛った!?」
くぅ~...少し力を入れて引っ張ったら急に開いて頭に...痛い。痛む頭を擦りながら紫苑の部屋へと向かう。扉には『紫苑の部屋』と彼女直筆の看板がぶらさがっている。
開けてみるとだらしなくよだれを垂らして眠っている紫苑の姿が。なんでも私と会う前は地面で眠っていたらしくて布団が天国に思える、らしい。
「紫苑、起きない。朝よ」
「ん~、紫ママ...あと五時間...」
......だれがママよ。それに五時間は寝過ぎよ。
「そう、じゃあ朝ごはんも昼もいらないわね」
「!?、起きました!おはようございます」
よろしい、それじゃあさっさと行くわよ。なんというか現金な子というか欲望に正直というか、扱いやすいわ。紫苑も起きたことだしリビングに戻りましょ。
振り返り紫苑の部屋を去ろうとして部屋を出る...と同時に足を押さえしゃがみこむ紫。
「んっ...くっ...!んぐぐぐ...この、扉めぇ...」
くっ...!なんで普通に部屋から出るだけなのに足の小指を扉にぶつけないといけないのよ...。
「紫、大丈夫?」
心配そうに覗きこんでくる紫苑。
「え、えぇ、平気よ。もう慣れてきてるし」
立ち上がり二人でリビングへと向かう。到着するとそこには二人分の朝食は用意されている。まあ、用意したのは私なんだけど。
席についていざ食べ始めようとすると奴らはやってくる。どこからともなく何故か閉まっていたはずの窓がいきなり開き数羽の鳥が乱入し朝食をすべて掠め取っていく....私のだけを的確に。
ふ、フフフフフフ...もう、ね、慣れたわよ。次に来たときは覚えてなさい、確実に消してやるから。
「ゆ、紫...やっぱりやめた方がいいと思う。私の
「い、いいのよ紫苑。別に平気だから、心配いらないわね」
紫苑の言った通り私は今、紫苑にふりかかってくる不幸を肩代わりしている。そのおかげで紫苑にはここ数日不幸なことは起こっていない。そのかわり全部私に来ているからここ数日は酷いものよ。
なかでも酷かったのは少し街中を歩いただけでいきなり暴走馬車にはね飛ばされるし、財布は失くすしで散々だった。
「紫、これ...一緒に食べよ」
.....あぁ、紫苑の優しさが心に沁みる。なんていい子なのかしら。お言葉に甘えて朝食を半分いただく。だが奴らはまたも容赦なくやってくる。
朝食へと狙いをすまし飛び込んでくる変な鳥たち。私は次はないと言ったわよね。スキマを変な鳥の目の前に開く。急に現れたスキマを避けることが出来ずに次々とスキマへ飛び込んでいく鳥。最後の一匹が入ったらスキマを閉じて完了。
「よし、今日は焼き鳥ね」
「あんな鳥は焼かれて当然」
ええ、まったくねその通りよ。ひとから飯を奪うなんて最低よ。
そのあとは邪魔されることなく朝食を食べ終え紫苑の能力を抑えるための結界造りを始める。実はこの結界もうほとんど完成している。あとは細部の調節となにか依代的なものが欲しい。これが意外と見つからないものなのよ。なにか紫苑が身につけられるような物がいいんだけど。最悪私がなにか作ってそれを依代にするか...。
―――更に数日後
「紫苑、ギルドに行くわよ」
「え、なんで?私は紫みたいにクエストやるよりもここで寝てたいんだけど」
「あんた、ここんところゴロゴロしかしてないでしょ。それならもういっそのこと冒険者登録でもしてクエストの一つくらいやってきなさいよ。他には妹探すとか」
最近の紫苑は路上生活の反動からかかなり自堕落になってしまっている。これじゃあ結界が完成してもただただゴロゴロするだけのニートを我が家に抱え込んでいるだけになってしまう。
「という訳で行くわよ」
「えー、めんどくさい...やらなきゃダメなの?」
ええ、勿論ダメです。我が家にニートを置くような場所はありません。嫌がる紫苑を連れてギルドへ向かう一歩を踏み出す―――
「あっ、紫危ない」
「えっ...ぐああああああぁぁっ!?ぐふぅっ!!」
突然現れた暴走馬車にはね飛ばされる紫。よろよろと立ち上がるがこれだけでは終わらない。立ち上がるとすぐに空のバケツが頭には落下してきた。
「くぅぅ~....イッタイ、頭が割れる...」
こ、これは...普段は人前ではスキマを使わないようにしているけど今回はギルドまで直通で繋げていきましょう。もう一回馬車にはねられでもしたらたまったもんじゃないわよ。
スキマを広げ...スキマを....スキ...なんで開かないのよ...これも不運てことなの?スキマってそんな運要素関係ないでしょ。このままじゃまた.....あっ。
私の目の前へ再度迫る暴走馬車.......わかってる。
「ああああああ~、なんかもう慣れてきたわぁ~....ぐへぇ!?」
はね飛ばされる地面に背中を強打した。痛い....。
「紫、死んだ?」
「生きてる」
おかしいわねすぐそこのはずなのにギルドまでは長い道のりになりそうな気がしてならない。とにかく安全第一で行くことにしましょう。紫苑も協力してね。
「紫、鼻血でてる」
あっそう、ほんとだ。
不運な二人