鬼滅の刃 鳴神の鬼殺隊   作:清廉四季

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鳴神の呼吸

「全集中雷電」

 

 

 

「全集中常中は二十四時間絶えずに全集中の呼吸を行う技術。しかし、その呼吸には波がある。技を出した時は十、通常時は五といった感じにな。それを常時十の呼吸を行うのが、全集中雷電だ」

 

 

 

「その呼吸を習得すれば鳴神? てやつを使う為に修行するんですか? て言うか鳴神って何ですか?」

 

 

 

僕の疑問を囲炉裏を(つつ)きながら此方を見ずに何時もよりしっかりとした口調で話し初めた。

 

 

 

「鳴神......鳴神の呼吸は私が柱の時に生み出した呼吸法だ。呼吸を研ぎ澄まし、剣術の極致まで磨き上げ、考え出した。最強の呼吸法―――おい、傍に寄って来い」

 

 

 

「はい」

 

 

 

恐る恐る金継に近づき傍に腰を下ろす。

 

そして、僕に酒の入った瓢箪を渡してきた。

 

 

 

「注げ」

 

 

 

「え? 分かりました......」

 

 

 

金継が持っている杯に溢れないように慎重に瓢箪の中に入っているものを注いだ。それをくいっと勢い良く呷ると空の杯を僕の前に突き出してくる。

 

 

 

「最初は私も育手として鬼殺の剣士を育てていた。―――だが、全員が鳴神を継ぐには余りにも弱い者ばかり。去る者、逃げ出す者、黙って最終選別に行く者。......柱になってから人間が好きではなかったが、私は完全に人間が嫌いになっていた。だから、人が来れないこの山に移り住んだのだ」

 

 

 

「......金継さんは何で鬼殺隊に入ったのですか?」

 

 

 

「家族が鬼に殺されたから......いいや、違うな。私には鬼狩りの才能があったから入った」

 

 

 

「っ! 殺されたのですか......」

 

 

 

「ああ。だが、鬼を恨んではいない。私の家族が死んだのは弱かったからだ。そして、私が生き残ったのは私が強かったから。一晩中、太陽の光で灰になるまで包丁で切り刻んでやった。それから、騒ぎを聞きつけた鬼殺隊が私の家に来た。その時に鬼殺隊を知った」

 

 

 

「ほら。注げ」とまた僕の目の前に出してきた。話に夢中で杯を疎かにしていたことを認識し、慌てて杯に注いだ。

 

 

 

「それから育手の元で雷の呼吸を学び。十六歳で柱になった。それからのことだ―――」

 

 

 

金継の目には少し悲しみが見えたような気がした。

 

 

 

「......私は強すぎた。鬼殺隊に入ってから我武者羅に鬼を狩り、柱になってからもそれは変わらず休む事無く鬼を滅し続けた。するとどうだ。気が付くと次第に他の鬼殺隊や柱から依存されるようになってしまっていた。『金継なら出来る』『金継に頼もう』......皆が私の力に縋りついていた。それを見かねたお館様が私の思いを察してお暇をくれたのだ」

 

 

 

強すぎるから......他の人には分からない悩みだ。

 

 

 

「それから色々な所に旅をして恋人を見つけ、結婚もした―――話しすぎだな......」

 

 

 

目を瞑り何かに思いを馳せる金継。その顔を見ていると無意識に声が出ていた。

 

 

 

「私は逃げ出しません。去りません。最後まで学びきってみせます。必ず鳴神の呼吸を習得してみせます」

 

 

 

そう言うと金継さんは小さく笑い。私の持っている瓢箪を奪い取ると「もう日の出だ。寝ろ」と呟いた。

 

 

 

「おやすみなさい」

 

 

 

「ああ」

 

 

 

納戸の戸を開くと一度振り返り、布団の間に潜り込んだ。

 

 

 

金継も苦しんでいるのか。

 

 

 

「私と一緒......かな」

 

 

 

布団の中で身体を丸めると、そっと目を閉じ呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見ていろ」

 

 

 

「はい」

 

 

 

息を大きく吐き、大きく吸う。すると、金継の周りには技を放っていないにも関わらず、稲妻が走っているのがはっきりと見えた。

 

 

 

「常に型を繰り出す瞬間の呼吸をし続ける。すると、さらに力を発揮することが出来る。そして、それをし続けることによって少しずつ呼吸の質が上がっていき、それに比例してさらに力も強くなっていくのだ。やってみろ」

 

 

 

「はい。―――すぅー「ちがう」ぶぅ!」

 

 

 

雷電の状態で勢い良く腹部を殴られた僕は、内臓が飛び出すのではないかと言うほどの衝撃が走った。今まで耐えてきたためか、蹲ることは無かったが、内股になり上半身と共に顔を地面に向ける。腹部を両腕で押さえながら、痛みが引くのを耐えた。しかし、無慈悲な僕の師はそれを許してはくれず、「ちゃんと呼吸をしろ」と無茶苦茶なことを言ってくる。

 

 

 

「ゴホゴホ! ―――はぁはぁ......。もう!」

 

 

 

「文句を言う前に身体を動かせ」

 

 

 

何時もどうり淡々と僕に激しい鍛錬を課していく。身体中の痣の回復を抑えながら覚えたての全集中常中よりさらに上の呼吸をしろと言うのだから辛くて仕方がない。でも、相手は金継だ。そんな甘えは許されないで終わってしまう。

 

金継に言われた通り、必死に呼吸を真似る。

 

結局その日は晩から日の出前までひたすら吸って吐いて、吸って吐いてを繰り返した。同じ事を何度も行うのは珍しいことではない。しかし、驚いたのは金継が何も言ってこなかったことだ。何時もは「次私が来た時までに出来てなかったら腕をへし折る」とか「間抜けめ。これぐらい出来なくてどうする足をへし折ってやる」とか言ってくる。それも本当に折りに来るから笑えない。

 

それはさて置き。

 

お小言を受けずに、それも何時もより終わる時間が早いのは初めてだ。これから先は何が起こるか分からない。もしかしたら僕を上げて落とすのが目的なのかも......。

 

 

 

「......」

 

 

 

口に出して金継に問うことは出来ず、毎日のように乱暴に木刀を投げ渡してきた。

 

それを、小屋の中に刀と一緒に立てかける。

 

 

 

「こっちへ来い......」

 

 

 

「はい。―――今日もですか?」

 

 

 

振り向くと囲炉裏の前に座り、僕に向って瓢箪を突き出している。

 

僕がそう言うと「口答えするな。はよう酌をしろ」と無愛想に答えた。

 

殴られるのは嫌なので、早足で飛び込むように金継の傍に座った。

 

 

 

「注げ」

 

 

 

「はいはい。―――で今日はどんな話をしてくれるんですか?」

 

 

 

「別に話を聞かせる為にお前に酌をさせている訳ではない」

 

 

 

注がれた酒を一口飲むと、髭を摩りながら一拍をおき話始めた。

 

 

 

「お前が継がなくてはならない鳴神の呼吸について話そう」

 

 

 

「結局話すんじゃないですか......」

 

 

 

飲み終えて空になった杯に酒を注ぐ。

 

 

 

「鳴神の呼吸には拾弐の型がある。お前は呼吸が幾つあるか知っているか?」

 

 

 

「えーと......雷と雨ぐらいしか知りません」

 

 

 

「雨はおそらく水の呼吸の派生で出来た呼吸法だろう。水、雷、炎、岩、風の基本五流派。鳴神は主に雷から派生している(・・・・・・・・・・・)

 

 

 

「主に?」

 

 

 

「ああ。主に雷の特性を取り入れているが、他の基本五流派全ての特性を取り入れている。つまり基本五流派を全て使いこなせないと鳴神は扱えない。私の他の誰も習得出来なかったのはそのせいだ」

 

 

 

「全部ですか。......私に使う事が出来るんですか?」

 

 

 

「基礎の雷の呼吸は短期間で覚えられただろ。あの早さで一つの呼吸を習得出来たのなら問題ない。......才能があればな」

 

 

 

「普通ってどのくらい習得に掛かるのですか?」

 

 

 

「一年から二年だろう」

 

 

 

「はぁ!?」

 

 

 

それを聞いて僕の顔は硬直した。

 

 

 

一年から二年って。それを二日で習得させようとしたのかこのジジイは! そりゃ逃げるわ教わる人も。

 

 

 

「雷電を習得したら一週間であとの四つの呼吸も覚えてもらうからな」

 

 

 

ちょっと言っている意味が分からないです。

 

 

 

「そんな短期間に覚える必要あるんですか?」

 

 

 

「阿呆」

 

 

 

「あいたっ!」

 

 

 

そう言うと上から拳骨が飛んでいた。めちゃくちゃいたい。

 

 

 

「短期間で習得出来ないのならどれだけ鍛錬を重ねても無駄だ。......それにお前さっきから雷電が時々途絶えている。へし折られたいのか?」

 

 

 

「す、すみません! ふぅーふぅー......」

 

 

 

「馬鹿者。もう今日は寝ろ」

 

 

 

「いでっ! ごめんなさい! もう寝ます!」

 

 

 

瓢箪を金継の横に置くと納戸の戸を空け、そこに飛び込んだ。 

 

 

 

「あれ? 何だろうこれ......」

 

 

 

布団の間で動いているとふと手が何かに当たる。それを掴み手繰り寄せるとそれは羽織だった。

 

その羽織は薄い青色の生地で淡い桜色の胡蝶蘭の模様が入った物だった。

 

触ってみるとかなり良いものだと分かる。

 

 

 

「これあの人のものなのかな......」

 

 

 

布団に潜っていると、直ぐに眠気が来てしまう。

 

 

 

僕は虚ろ虚ろしながらその羽織を握り締め、夢の中に旅立っていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

修行一年目。

 

 

 

雷電を使えるようになるのに二ヶ月。それから他の四つの呼吸を習得するのに一ヶ月。合計三ヶ月かかった。それが終わるとひたすら周りの村や町を回り、鬼を狩った。偶に来る金継に対してのお館様の依頼を変わりに僕が受けるようになり、まだ鬼殺隊では無いにもかかわらず、正規の鬼殺隊より鬼を殺しているのを知った時は何の為に金継に教えを請うのか分からなったが、順調に修行が進んでいた。

 

 

 

そして、遂にこの日が来た。

 

 

 

「お前に鳴神を教える。良いな?」

 

 

 

「はい!」

 

 

 

日が沈み、もはや日課になりつつある小屋の周りの掃除をしていると真剣な面持ちで出てきた。木刀は持っておらず、代わりに両方の腰に刀を挿していた。

 

 

 

「金継さん。どうして二本も挿しているんですか?」

 

 

 

「鳴神の呼吸はどれだけ技術を高めても、どうしても刀に負担が掛かる。故に折れても即座に戦闘に再開できるように二本挿しているのだ。お前にはこれから両利きになってもらうからな」

 

 

 

「はい」

 

 

 

今までの無茶に比べれば両利きになることなんて何でもない。

 

 

 

「では刀を抜け。これから私の全てをお前に叩き込む。死んでも文句を言うなよ?」

 

 

 

「分かりました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「地獄だ......」

 

 

 

身体中が痛い。身体の回復が追い付いていない。

 

ボロボロになりながら今日も金継の酒を注いでいる。

 

 

 

「何が地獄か。馬鹿者」

 

 

 

「いた! ......そう言えば金継さん今日は言わないんですか? 「出来なければお前の腕を折る」とか」

 

 

 

「流石に私も鳴神の呼吸を一日やそこらで会得できると思っていない」

 

 

 

そう言いながら杯傾けた。

 

 

 

「今日はどんな話をしてくれるのですか?」

 

 

 

修行の話をするのは不味い......。このまま話続けると絶対拳骨が飛んでくる。唯でさえ修行がキツイのに終わっても制裁を受けるのは勘弁して欲しい。

 

 

 

僕は無理矢理話を変える。金継はまた顎を摩りながら目を閉じ、何やら考えていた。少ししてからゆっくりと目を開き、話始める。

 

 

 

「......お前。あの羽織を見たな」

 

 

 

「え!? 何でそれを―――ち、違うんです違うんです! 見つけようとして見つけた訳じゃないんです。だ、だから拳骨は勘弁してください!!」

 

 

 

瓢箪を傍に置き、頭を両手で守る。しかし、金継を見ると、呆れた表情でため息を吐き、酒を飲んでいた。

 

 

 

「阿呆。そんなことで殴るか。―――注げ」

 

 

 

「は、はい。ありがとうございます。......ふぅ」

 

 

 

震える手を必死で押さえて、瓢箪を掴むと杯にこの上なく丁寧に注ぎ込む。

 

 

 

「......あれは私の嫁から送られた羽織だ」

 

 

 

「............え? え!? 金継さん結婚していたんですか!?」

 

 

 

「していた。死んだがな......」

 

 

 

「それはその......すみません」

 

 

 

「何でお前が謝る。嫁とは旅の途中で出会ったのだ」

 

 

 

「どんな人だったんですか?」

 

 

 

「そうだな―――」

 

 

 

彼女は何時も明るかった。口癖は「何とかなる」だった。彼女は......山桜八重は名家の一人娘だ。ある時。屋敷の中の生活に嫌気が差したのだろう。八重は屋敷から逃げ出した。そして、従者に連れ戻されそうになった時気まぐれで助けてやったのが出会いだった。八重の身体を抱え、屋根の上を飛び移りながら逃げた時の彼女の笑顔は今も鮮明に覚えている。追っ手から巻いて、八重から事情を聞いた。屋敷の中の事。顔も知らない人と結婚しなければいけない事。やりたくもない習い事をしなければいけない事。

 

それらを聞いた時、私は思った。

 

 

 

―――こいつを連れて行こうと。

 

 

 

「え? 連れて行くって......」

 

 

 

「旅に連れて行った。ちょうど一人では飽きていたからな」

 

 

 

「それって駆け落ちじゃないですか! 追っ手から逃げたり隠れたり、刺客から命を狙われたりしたんですか!?」

 

 

 

「落ち着け」

 

 

 

「いだっ!」

 

 

 

何故か駆け落ちと言う言葉が脳裏を過ぎった時、えも言えぬ高揚が身体から溢れ出した。詰め寄る僕に身体を引くようにしながら額にデコピンを食らわした。

 

 

 

「話を続ける―――」

 

 

 

当然、屋敷から追っ手が来た、殺してでも八重を奪い返そうと暗殺者を送ってきたこともあった。普通の人間なら死んでいたかもしれない。しかし、私は元は鬼を狩る組織、それも最強の柱だった男だ。襲ってきた追っ手も暗殺者も片手で返り討ちにしてやった。

 

嗚呼......。思えば八重と色々な所を旅をした......。膝まで雪が積もる寒い田舎道も......倒れそうなほど暑い都会の活気溢れる通りも......海に行った時の八重は凄くはしゃいでいたな。

 

彼女と一緒にいる長い時の中。私は彼女に彼女は私に惹かれていた。それから誰にも見つからない山奥に家を建て、二人で暮らし始めた。子供も出来た。初めて私は幸せと言うものを味わった。

 

八重と過ごした毎日は私にとっての宝と言えるだろう。

 

 

 

―――しかし、そんな幸せな日々は長く続かなかった。

 

 

 

私が家を留守にしている間に私のことを恨んでいる鬼に八重は殺された。最後まで子供を守ろうとしていたのだろう、小さな子供に覆いかぶさるように亡くなっていた。

 

私は泣いた。私が弱かったせいで八重は死んだのだ。

 

私はどんな物であろうと奪われることがなかった。初めて私の物を奪われた。それも一番大切なものを。

 

そして、私は気付いた。幸せは人を弱くするのだと。それから初めて鬼が憎いと思った。だから育手として鬼殺隊を育てた―――。

 

 

 

「一人として鬼殺隊になることはなかったがな」

 

 

 

「......何て言うか。その......大変でしたね」

 

 

 

「全ては私の弱さが招いたことだ」

 

 

 

「あのー。今こんなこと言うのはどうかと思うんですが......。金継さんの考えなら八重さんが死んだのは八重さんが弱かったからなのでは......」

 

 

 

「何を言っている。家族を守るのは夫の務めだろう」

 

 

 

「でも金継さんの家族が死んだ時は家族が弱かったからって......」

 

 

 

「私の家族に父は居なかった。父が居ないのなら自分自身が強くならないといけない」

 

 

 

なんだその理屈は......。いいや、今そこを掘り下げると時間が掛かりそうだ。今日はやめておこう。

 

 

 

「―――もう日が出ます。寝ますね」

 

 

 

「ああ......」

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