鬼滅の刃 鳴神の鬼殺隊   作:清廉四季

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冷たい目の男

陽が沈み、あたりが暗くなる。

 

 

 

約束の時間だ。

 

 

 

何時ものように柿の木から飛び降りて来た十兵衛。辺りを警戒しながら窓に近づいてくる。

 

 

 

「蝶花!」

 

 

 

「十兵衛」

 

 

 

十兵衛が手を伸ばしてくる。僕はその手を掴むとそのまま窓の枠に足を掛けた。

 

十兵衛が勢い良く引っ張る。

 

勢い余って二人はそのまま地面に十兵衛を下敷きに僕が上に乗る形で倒れてしまった。

 

 

 

「......」

 

 

 

「ごめん!」

 

 

 

顔を赤くする十兵衛。僕は謝ると直ぐに上から退く。

 

立ち上がり、身体に付いた砂を叩き落とすと今度は僕が十兵衛に向って手を伸ばした。

 

 

 

「行こう! 十兵衛」

 

 

 

「......そうだな」

 

 

 

十兵衛はその手を掴み立ち上がる。そして、その流れで十兵衛が腕を引っ張りながら走り始めた。

 

 

 

「いたっ!」

 

 

 

「すまねぇ! でも早くここから出ないとお前の家の人達に見つかっちまうからな!」

 

 

 

「ううん。良いの。私は気にせずに走って!」

 

 

 

僕はふと空を見上げた。そこには自分を遮るものはなく、唯暗い空だけが見えた。何処かから吹いた風は僕の身体を包むように通り抜け。後ろにある柿の木の枝を揺らす。

 

 

 

やっと......やっとあの蔵から抜け出せた! これで僕は自由だ!

 

 

 

その事実が嬉しく。目の前の少年が凄く頼りがいのあるように見えた。

 

ここを切り抜けたら、自分が男ということを話そう。全てを話して、改めて友達になろう。

 

 

 

そう考えながら必死に十兵衛の走る速度に合わせる。

 

足が傷だらけになろうが、何かが刺さり血が出ようが、今の僕は不思議と痛みは感じなかった。

 

背中に羽根が生えたように軽く。心の中の黒い感情はどこかに消えていった。

 

 

 

途中、何度か止まり、見回っている警備の人の目を潜り抜ける。十兵衛は見かけによらず頭がいいのかその全てを難なく潜り抜けた。

 

そして、しばらく歩いた頃。疑問が頭を過ぎった。

 

 

 

「十兵衛。おかしいよ! 今頃お手伝いさんが蔵に来る筈なのに騒ぎになってない!」

 

 

 

「―――」

 

 

 

僕の言葉を無視して十兵衛は走る速度を上げた。

 

 

 

何かがおかしい。頭の隅でそう思うようになり、その疑問は大きくなると同時に十兵衛に対して不安と恐怖を抱くようになった。

 

 

 

「ねぇ十兵衛! 十兵衛ったら!」

 

 

 

どんどん大きくなる。

 

 

 

十兵衛の気配が変わった。あの祖父達と同じような気配。ドロドロとして気持ち悪い不快な気配だ。

 

 

 

足を止めようとするが、非力な僕ではそれは叶わず。僕の意思に反して十兵衛は進み続けた。

 

 

 

そして、遂に入り口とは反対方向の屋敷に向っていることが分かった。

 

 

 

まさか、そんな筈はない。そう信じ、不安ながらも目の前の少年を信じた。きっと何か考えがあるのだと思い同じように足を速めた。

 

 

 

「......蝶花。すまねぇ」

 

 

 

「......え?」

 

 

 

僕の手を今まで以上に強く手を引きながら縁側から屋敷に入り、襖を開いた。

 

 

 

 

 

そこには何時ものように下卑た笑顔を浮かべる祖父達とその反対には小奇麗な男達が座り、僕達を見ていた。

 

 

 

 

 

その瞬間。唐突に理解した。

 

 

 

―――裏切られた。

 

 

 

「―――ね、ねぇどういうこと十兵衛。ねぇ! ねぇ!」

 

 

 

気が付いた時には手が離れていた。着物の袖を引きながら問い詰める僕に顔を伏せ何も言わない十兵衛。

 

それを見て確信した僕はその場に崩れ落ちる。

 

 

 

「さぁさぁ皆の衆! 今宵の商品が届いたぞ!」

 

 

 

「いやだ! 離して! 助けて十兵衛!!」

 

 

 

「すまねぇ......」

 

 

 

男達に強引に手を引かれ、人買いの前に連れ出される僕。裏切られたと知っても尚、涙を浮かべながら握られていないてを十兵衛に伸ばし、助けを求めた。

 

しかし、彼は僕と目を合わせようとせず、唯「すまない」とだけ言い残すと部屋から出て行ってしまった。

 

 

 

「大人しくしろ!」

 

 

 

「痛い!」

 

 

 

引きずられながら人買いの前に晒された。そして、祖父はしゃがみ込むと下から頬を掴み、強制的に顔を上げさせた。

 

 

 

「見てみよこの顔! 日本人とは作りが違うがまるで女性のように美しい! そして、金で出来ているような髪! ガラス玉のような瞳! どれをとってもこんな子供は一生に一度拝めるかどうか! 今夜皆の一人がこの子供を手にする。手に入れた後は煮るなり焼くなり好きにせよ!」

 

 

 

祖父がそう言うと一階の男達は口々に僕の容姿を褒め称えた。

 

その視線は全身の毛が逆立ち、震えがだした。白い肌は青白くなり、涙が溢れて止まらない。

 

 

 

「こっちは千五百出す! 俺に売ってくれ!」

 

 

 

「私は二千出そう!」

 

 

 

「私は二千五百!」

 

 

 

泣いている僕を気にも留めず、血走った目で僕を見ながらどんどん値段を吊り上げていった。

 

立ち上がった祖父は僕を逃すまいと伸びきった髪を鷲掴みにしている。

 

痛いと訴えても離してはくれず、目の前で自分の値段が上がっているのを見ていることしか出来なかった。

 

 

 

「もう良いのか? もうこれで限界か? もう誰もいないのだな? ―――よし! そこの貴様に一万五千で売った!」

 

 

 

最終的な値段が付き、祖父が一番高い値段を出した女衒を指を指した。

 

僕は親戚の男達に髪を引かれ、部屋の外へと連れ出された。

 

 

 

「値段が決まった所で今日はささやかではあるが宴会を催したいと思う! 皆の者! 存分に楽しんでくれ!」

 

 

 

外からでも聞こえるほどの大きな声。

 

何度も立ち上がろうとするが、髪を強く引かれている為、上手く歩くことが出来ず何度も転んでしまう。足や手は、打撲や擦り傷で傷だらけ。着物も砂や自分の血で汚れてしまった。

 

 

 

「蔵に入れればいいのか?」

 

 

 

「当主様が言っていただろ? ―――おい! さっさと歩けグズッ!」

 

 

 

髪を掴んだ手を離し、襟首を掴むと放り投げられた。

 

 

 

「っ!」

 

 

 

何度も転げ、着物がより汚くなる。

 

立ち上がろうとすると腹部を蹴られ、痛みで蹲ってしまった。

 

すると、視線の端にある人物が移った。

 

 

 

「お父さん!」

 

 

 

縁側に見える二人の影。お父さんが知らない女性と手を繋ぎながら歩いている。二人は幸せそうで笑い合っていた。そして、女性の腹部は不自然なほど膨らんでいるのが分かった。長年閉じ込められ、学がない僕でもそれは何なのかは直ぐに分かった。

 

 

 

信じたくなかった。しかし、目の前にある現実を受け入れるしかなかった。

 

 

 

僕の声が聞こえたのかお父さんは振り返りこちらを見た。

 

砂まみれの僕を見た瞬間、何か見てはいけない物をみたように目を見開くとそのまま視線を戻し、女性と二人で歩く速度を上げ、部屋の中へと消えていった。

 

 

 

「待ってお父さんま「うるせぇんだよ!」っ!」

 

 

 

膝を付き、必死で父親の元に行こうと這うが、男達に帯を掴まれ、引きずり戻られる。

 

 

 

祖父の言ったことは本当だった。お父さんは僕を見捨てて知らない人と結婚していた。お母さんを忘れて、他の女性と愛し合っていた。

 

 

 

今まで父親が助けに来てくれると信じてぎりぎりの所で耐えていた僕の心は今、完全に壊れた。

 

涙は絶えず流れ、嗚咽が止まらない。

 

僕の意思とは関係なく男達は僕を強制的にあの逃げ出してきた牢獄に連れ戻したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早く入れ」

 

 

 

「......」

 

 

 

突き飛ばされながら蔵の中に戻る。強く突かれたからか顔から勢いよく転んでしまった。不思議と痛みはなく。唯、衝撃だけが身体に走った。

 

 

 

後から二人、男達が祖父と同じような笑顔で蔵の中に入って来た。

 

 

 

「鉄格子壊しやがって。どうする? 逃げないように見張っておかないといけねえな」

 

 

 

「ああ。何楽しみはある。一晩ぐらい俺たちで味わっても良いだろう」

 

 

 

「ちげぇえねぇ」

 

 

 

腰の帯を緩め、近づいてくる人影。

 

僕も帯を掴まれながら連れてこられたからかすっかり緩んでしまい、少し歩いただけで着物が脱げ落ちそうであった。

 

一人は鍵で牢の鍵を開け、畳の上に放り投げられる。

 

 

 

「っう! やめてください! もうお願いですからやめてください!」

 

 

 

「大人しくしてりゃあ痛い目に遭わなくて済むんだぜ?」

 

 

 

じりじりと僕に近づいてくる。

 

両手首を押さえつけながら覆いかぶさってくる大きな体躯にもう少しで唇が当たるという距離に顔がある。

 

もうダメだ。いっそ死んで楽になりたい......。そう思い始めた時、あの人・・・は現れた。

 

 

 

「美しい......」

 

 

 

「あぁ? 誰だテメェッ!」

 

 

 

「何処から入ってきやがった!」

 

 

 

男は僕の身体の上から退くと、蔵の中に入って来た侵入者に威嚇をしていた。

 

その隙に僕は少しでも離れようと牢の隅に移動し、肌蹴た着物を直すと入り口に視線を向けた。

 

そこに立っていたのは青年。今の僕と同じくらい病的に青白い肌。血のような瞳の色は僕だけをじっと見つめていた。

 

そして、ゆっくりとした足取りでこちらに歩いてくる。

 

男達は何度も出て行くように脅すが、青年は全くと言って良い程聞いていなかった。

 

 

 

「このクソが。おい、半殺しにしろ!」

 

 

 

「オラァッ!」

 

 

 

そうこうしている内についに男達は我慢できなくなったのか、脱ごうとして着物を着直し、帯を締めると青年に殴りかかった。

 

だが、その攻撃は青年には通じなかった。

 

 

 

「アッ!?」

 

 

 

青年は殴りかかってきた拳を片手で掴むとその手を握りつぶした。

 

 

 

「いでぇぇぇぇっ!!!」

 

 

 

「喚くな」

 

 

 

潰れた拳を庇いながら膝を付く男の頭を鷲掴みにするとまるで紙のように首と胴体を千切りとった。

 

首のなくなった身体からは噴水のように血が溢れ出し、牢の隅にいる僕の所にも赤い液体が飛んできた。

 

 

 

「ひぃ!」

 

 

 

「お、お前何しやがった!」

 

 

 

「人とは愚かなものだ。お前の今とるべき行動は私に対して虚勢を張るのではなく、私の前に跪き命乞いをすることだ」

 

 

 

真っ赤になった腕を先ほどと同じように恐怖で震えるもう一人の男の首に伸ばし、掴んだ。

 

そのまま、片手で上に持ち上げる。男は足が宙に浮き、締められた手を解こうとするがピクリともしない。空気を取り入れようと苦しみ悶え、遂には男は力尽きた。

 

 

 

 

 

―――僕も殺される。

 

 

 

 

 

口に手を当て、声が出ないようにしながら泣いている僕に近づいてくる。

 

もうダメだと目を閉じ、訪れる死をじっと待つ。

 

しかし、幾ら待ってもその時は来ることはなく。しばらくして僕は恐る恐る目を開いた。

 

するとそこには血塗れの青年が僕を見下ろすように立っていた。しかし、祖父達のような気持ち悪い視線ではなく冷たい瞳で僕をジッと見ていた。

 

 

 

「......私も殺すのですか?」

 

 

 

「どうしてそう思う?」

 

 

 

「あの人達を殺しました。私もあの人達と同じように―――」

 

 

 

それを言い終わる前に僕の目の前に膝を付き、頬にそっと手を添えた。

 

 

 

「殺すのならとっくに殺している。私はお前に話があってここに来た」

 

 

 

 

 

―――お前をここに閉じ込めた人間達に復讐したくはないか?

 

 

 

 

 

「......え?」

 

 

 

「お前をここに閉じ込め。虐げられ、辱められ、今、犯されかけている。......もう一度言おう。お前をそんな目に合わせた人間達に復讐したいと思わないのか?」

 

 

 

「......したいと思っても私には力がありません。何年も蔵に閉じ込められて、録に読み書きも出来ない学のない私に何が出来ると言うのです」

 

 

 

「お前が復讐したいと思うのなら。その為の力を与えよう」

 

 

 

「力?」

 

 

 

青年はそう言うと自分の手でもう片方の掌を裂き、その裂いた手を僕の口元へと近づけた。

 

 

 

「私の血を飲めば。奪われる側だったお前は奪う側になる事が出来る。誰もお前を止める事は出来ない。誰にも虐げられることはない」

 

 

 

不思議と彼の手に視線は吸い込まれていった。無意識に青年の手を握ると溢れ出した血を一気に飲み干した。

 

 

 

「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

血が喉を通るその瞬間、身体中に想像を絶するほどの痛みが走った。身体の中で巨大な何かが這い回っているような感覚。手や足、胴体に顔が膨らんだり萎んだり急速に変化する。どれだけ時間がたったか分からない。やがて、身体の変異は収まり、元の身体に戻った。

 

 

 

「素晴らしい。これは思いがけない者を拾ったものだ!」

 

 

 

青年は少しだけ目を見開きながら蹲っている僕を見下ろし驚愕の表情を露わにしている。しかし、一番驚いているのは自分自身だ。鉛が絡みつくように重かった身体ははっきりと分かる程軽くなり、不思議と気分が良かった。涙は止まり、震えが収まる。

 

 

 

「私はどうなったんですか?」

 

 

 

「私の血が上手くお前に定着した。大抵の者はアレだけの量を一度に摂取すると身体が耐え切れず死んでしまうのだが―――」

 

 

 

そう言いながら青年は僕の頭に手を置き優しく撫でた。

 

 

 

「あ......の。えっと」

 

 

 

「お前は強力な力を手に入れた。これでお前はこの屋敷から自由になったと言えるだろう」

 

 

 

身体の底から力が溢れてくるようだ。気分の良い原因はこれか。

 

 

 

「さあ。復讐を果たしてくると良い」

 

 

 

「―――ありがとうございます。......あの、貴方の名前はなんと言うのですか?」

 

 

 

突然訪れた。救いの手に心の底から感謝をし、僕は彼に名前を聞く。

 

そうすると青年は僕の腕を掴み立ち上がらせると小さな、しかしはっきりと答えた。

 

 

 

「鬼舞辻無惨」

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