鬼滅の刃 鳴神の鬼殺隊   作:清廉四季

5 / 13
復讐の無垢なる涙

「お父さん......お父さん......」

 

 

 

蔵から出ると、再び屋敷に向って歩き出した。

 

夜の風は心地よく、僕の肌を撫でる。

 

着物は肌蹴ており、もう少しずれたら胸部が見えてしまう。傍から見ればその容姿と相まって妖艶な雰囲気を出しており、それを見たら最後目が離せないだろう。それぐらい女性的な美しさがあった。

 

何度も何度も呟いている間に連れて来られた部屋の襖の前に立っていた。

 

部屋の中では祖父が言っていた通り宴を楽しんでいるのか、男達の笑い声と歌声が外まで響いている。

 

 

 

「おいお前。どうしてこんな所にいる!」

 

 

 

廊下の前に立っていると見回っていた屋敷の人が僕を見つけ、激しい剣幕で近づいてくる。

 

 

 

「っ!」

 

 

 

その顔を見た瞬間僕は思わず後ずさってしまった。しかし、自分に言い聞かせるように何度も何度も呟いた。

 

 

 

「......私は変わった......変わった......変わった」

 

 

 

「何ぶつくさ呟いてるんだ!?」

 

 

 

肩に手を置き、僕の顔に目掛けて腕を上げた。

 

 

 

「私に触るな!」

 

 

 

「ぎゃっ!」

 

 

 

置いた手を払おうと腕を振るう。すると、見回りの男の上半身と下半身は綺麗に割れ、地面に転がった。

 

血は絶えず溢れ出し僕の身体中を赤く染める。

 

 

 

軽く振っただけなのに。こんなに簡単に人が殺せるのか?

 

 

 

自分が手に入れた力は自分の想像以上だと驚き、血塗れの赤い手をジッと見つめる。

 

 

 

「何だ?」

 

 

 

音に気付いた女衒の男が襖を開き、こちらを見た。酒を飲んで酔っているのか赤い顔で上から下に視線を下ろしていく。そして、さっきまで人間だった物・・・・・・が目に入ると途端に言葉がでず、震えた手で僕を指差した。

 

さっきまで嬉々として僕を手に入れようと競り争っていた男の一人が、僕の目の前でさっきまでの自分のように震えて声が出せなくなっている。

 

その恐怖に染まった顔を見ていると不思議とスカッとした気分になった。

 

怯えていていたあの頃とは違う。段々と開いた襖の隙間から見える男達に明確な殺意が沸く。

 

 

 

「死ね!」

 

 

 

そのまま助走をつけずに声が出ない男の首目掛けて蹴りを入れた。すると、まるで刀で切られたように綺麗に首が千切れ、明後日の方向に飛んで行ってしまった。

 

また、血が水しぶきのように周りに飛び散り、今度は部屋の中にも飛散した。

 

 

 

「何なんだこいつは!」

 

 

 

「ば、化け物だ!」

 

 

 

「ちょ、蝶花なのか?」

 

 

 

変わり果てた僕の姿を見た祖父は手に持っていた杯を落とし、僕に指を指す。零れた杯からは酒が零れ落ち畳を濡らした。

 

 

 

「死ね、死ね! 皆死ね!」

 

 

 

襖を蹴破り中に入ると近くにいる者から手当たり次第に殺していく。殴り、蹴り、千切り、裂き......。僕を手に入れようとした女衒の連中も、僕を暴行した一族の連中も皆、殺した。肉の塊に成り果てた物から絶えず血が零れ、宴の部屋は一瞬にして殺戮の部屋へと変わる。

 

生まれた時から僕のことを疎ましく思い、僕のことを長年虐げていた祖父も、僕の目の前で腰を抜かし、必死で逃げようと入り口に向って這いずっている。

 

 

 

何て滑稽なのだろう。こんな奴に僕のお母さんは殺されたのか......。

 

 

 

「ころ、ころ、殺さないでくれ! 何が望みだ!? 金か? この一族か? 全てやるから私を助けてくれ!」

 

 

 

「そんなのいらない。今、私が欲しいのはお前を苦しみの限り嬲り、地獄に送ってやりたい。唯、それだけだ」

 

 

 

「お、おい! やめてくれ! やめっ―――ぐぁ!」

 

 

 

僕に背を向け、這っている祖父の腕を掴むとそのまま勢い良く引き千切った。痛みで叫びを上げ、苦悶の表情で手を前に出し、やめてくれと懇願する。

 

 

 

「私がやめてって言ってもやめなかった癖に! 今更何言ってるんだ! ほら言ってみろ! 私がお前に言ったように感謝しろ!」

 

 

 

「あ、ありがとう、ございます! ありがとうございます! ありがごがぁ!」

 

 

 

僕の前に翳している手を掴むと両手で掴み、曲がらない方向に曲げ折る。

 

 

 

「ぎゃああぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

「よくも。よくもお母さんをお母さんを死ね! 死ね! 死ね!」

 

 

 

何度も何度も踏みつける。祖父が呻こうが、命乞いをしようが関係ない。声がなくなるまで踏みつけ。動かなくなるまで倒れた祖父の身体の上に乗り、顔面を殴り続けた。顔が陥没し、何処に目があるのかわからなくなるぐらい殴ると、立ち上がり、次の目的の場所に足を進めた。

 

 

 

「......お父さん」

 

 

 

もう全身で赤くない所はない程血を浴びた。足の裏から感じるベタベタと言う感触が僕を不快にさせる。

 

まるで、死人のように足をすりながら父の下へと歩いていく。

 

 

 

「貴様! 当主様を如何した!」

 

 

 

「......」

 

 

 

廊下に出ると大勢の男達が鎌や鍬を携え、僕の前に立ちはだかっている。しかし、今の僕には大人の男が何人来ようが赤ん坊を相手にするように殺すのは簡単なことだった。

 

 

 

「クソ! 何だこいつ! 力が強すぎいでぇ!」

 

 

 

「化け物め!」

 

 

 

「人間じゃない!」

 

 

 

刃物は僕の肌に通らず、逆に僕に振りかざされた刃の方が欠けて、折れた。ものの数秒で十数人の男を殺し切ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆっくりとした足どりである部屋に向った。僕とお母さんの部屋だ。

 

 

 

信じたくはなかった。絶対ないと思いたかった。僕の唯一安心できる場所だった所。

 

 

 

今、正にその部屋の前に立つ。僕は絶対にないと思いながらここにいるだろうと確信していた。襖の引手を掴むと強い力で開く。

 

 

 

「蝶花!」

 

 

 

「お父さん......」

 

 

 

そこにはお父さんと知らない女性が身を寄せ合っていた。

 

 

 

「蝶花聞いてくれ! 今までお前のことを放っていたのは本当に悪かったと思っている。不甲斐ない父だった。すまない......。だからお願いだ! この女性だけは助けてくれ! 見逃してくれ!」

 

 

 

そう言うとお腹が膨れた女性の前に庇うように立つと額を地面に着け、僕に向って許しを乞うた。腹部が膨れている女性は両手で腹を庇いながら目から涙を流していた。

 

 

 

 

 

 

 

―――まるで僕が悪者みたいじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

「......なんで僕を助けてくれなかったの? どうして僕の所へ来てくれなかったの?」

 

 

 

「それはっ!」

 

 

 

お父さんは言葉を詰まらせ、唯僕に土下座をしながら謝っていた。

 

 

 

「ずっと待っていたのに......ずっとずっと待っていたのに」

 

 

 

足を進め、頭を下げるお父さんの直ぐ傍で止まった。

 

 

 

「お前に何を言っても言い訳にしかならないことは分かっている。だから私はお前に許しを請うしかない! どうかお願いだ! この子達だけは!」

 

 

 

「黙れ!」

 

 

 

「ッ!」

 

 

 

「どうしてお母さんが病気に掛かった時に祖父から守ってくれなかった! どうして私が閉じ込められた時に助け出してくれなかった! お前は臆病者だ! 母と息子が苦しんでいるのに何もしなかった!」

 

 

 

僕は足をお父さんの頭に乗せ、体重を片足にのせる。

 

 

 

「きゃああぁぁぁぁぁぁぁ! 貴方ぁぁぁぁ!」

 

 

 

顔が潰れたお父さんに女は駆け寄り肩を抱いた。

 

 

 

「お前も死ね」

 

 

 

僕がそう呟くと爪先から干乾びていき、痩せ細り、まるで餓死したような身体で倒れる。

 

 

 

「あ、なた......」

 

 

 

その言葉を最後に女は事切れた。

 

 

 

全ては終わった。生まれてずっと終わらないと思っていた地獄のような日々は終わったのだ。煙の匂いがする。どこからか火がついたのだろう......。

 

窓を開き、月を見上げる。

 

煙交じりの夜風が肌を撫で、長い髪が揺れる。

 

 

 

「復讐は終わったのか?」

 

 

 

扉の方から声が聞こえる。彼の声だ。

 

振り返り、僕に復讐の機会をくれたことを感謝しようと彼の、鬼舞辻無惨の前に立つ。

 

 

 

「ありがとうございます。このご恩どうやって返せばいいのか......」

 

 

 

「恩を感じているのなら、一つ私の願いを聞いてくれないか?」

 

 

 

「願い、ですか?」

 

 

 

頭を下げる僕に無惨はそう言った。

 

 

 

「あぁ。ある者を殺して欲しい」

 

 

 

その目は憎しみで染まっていた。

 

 

 

「私に出来るのでしょうか」

 

 

 

「私には出来ない。しかし、お前のように無垢な者ならあるいは私の殺したい相手に手が届くかもしれない」

 

 

 

「無垢? この私がですか?」

 

 

 

自分の姿を見る。夥しいほどの人の血で身体中が染まっており、その匂いは部屋の中に充満していた。見えはしないが、顔もきっと酷い有様だろう。

 

 

 

こんな僕が無垢? 人を殺して、両親も妊娠している女性にも手を掛けた。そんな人間が穢れがないと言うのか。

 

 

 

「確かにお前は人間をその手で殺した。だから何だと言うのだ。人間を百人殺そうが、千人殺そうが、穢れはしない。―――その証拠に私から見てお前はとても美しく、無垢だ」

 

 

 

そう言いながら僕の頭に手を乗せる。その手は不思議と心が安らいだ。この人の為なら何でもやれると思える。

 

 

 

「私に出来るかどうか分かりません。―――でも、貴方の為なら頑張ってみます。一度死んでいたかもしれないこの命。全部無惨さんに上げます」

 

 

 

「良い返事だ。さぁ、ここは直ぐに火に包まれる。私が安全な場所に連れて行ってあげよう」

 

 

 

「......はい」

 

 

 

頭から手を離すと僕に向って手を伸ばす。その手を掴み後ろを振り向かずに部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋敷の外に出る。門から外に出る時にふと後ろを振り向く。屋敷全体は炎に包まれ、骨組みは砕け、屋根の重さに耐え切れなくなり大きな音を立てながら崩れ落ちる。多くの人の悲鳴や叫び声は外にいる僕まで聞こえてきた。

 

 

 

お母さんとの思い出が燃えていく。そう思うと自然に涙が出た。

 

 

 

「......最後に泣いておきなさい。お前はもうこの場所に来ることはないのだから」

 

 

 

「―――は、い」

 

 

 

僕は泣いた。膝から崩れ落ち、屋敷を前にしながら泣き叫んだ。炎の音が天高く響き、僕の泣く声を掻き消す。枯れるまで涙を流した。やがて涙は止まり、立ち上がる。

 

それを察した無惨は門の外へと足を進める。僕はその横に小走りで駆け寄り、同じ速度で足を進めた。そして、無意識に無惨の手を握る。

 

自分でも何故そうしたのか分からない。彼の手を握っていると安心するのだろう。無惨も僕の顔を一瞥すると手を握り返してしてくれた。

 

僕はまた泣きそうになってしまう。

 

 

 

「お前は強くなった。そしてこれからもっと強く強靭になる......。その流している涙も悲しみも、いずれ止まるだろう。―――だから前を見て歩きなさい」

 

 

 

「はい」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。