鬼滅の刃 鳴神の鬼殺隊   作:清廉四季

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誤字報告ありがとうございます。自分自身見落としている所があるかもしれませんので凄く助かりました。



育てる為の条件

「お願いです! 私を育てて下さい!」

 

あれから一週間。日が沈むと小屋に通い、陽が出る前に洞窟に帰る生活をしていた。

 

まさか育手に断られるのは予想していなかった。しかも、こんなに頑固とは......。

 

「何度来ても無駄だ。帰れ」

 

「育ててくれるまで何度でも来ます!」

 

何度も何度も扉に向って話しかけ、今日もダメかなと諦めていたその時、一瞬だけ扉を開くと、こちらに向って刀を投げた。僕はそれに反応し両手で抱えるように受け取った。

 

「それで森の中にいる三匹の鬼の頸を切って持って来い。持って来れたら鍛えてやる」

 

「―――分かりました。三人の鬼の首を持って来たら教えてくれるんですね!?」

 

そう言い放つと僕は刀を抱きながら改めて、森の中に入って行った。

 

 

 

 

 

 

森の中で止まり、鞘から刀を抜く。木々の間から差し込む月光が刀の刀身に反射し、まるで刀身が光を発しているようだった。

 

鬼には悪いがこれも目的の為......。

 

そう言い聞かせるとその場に鞘を突き刺し、森の中を駆けて行った。

 

全身に風を感じながら木々を縫うように走っていく。

 

「見つけた」

 

一人の鬼が蹲り、人間の腕を貪っていた。肉を食うのに夢中でこちらには気付いていない。好機(チャンス)だ。

 

「―――何だ?」

 

鬼は食べる手を止め、僕の方に顔を向けた。その時にはもう手遅れで、僕が振った刀は相手の首を捕らえていた。

 

刀越しに手に伝わる感じ。肉を切り裂き、小さな糸を幾つも束ねた糸束を切っているような感触。

相手の頸が落ちると共に衝撃で突風が起こり、周りの木々が薙ぎ倒された。

 

「一つ目......」

 

「お前! 不干渉って約束じゃなかったのか!」

 

「貴方達を殺したい訳じゃありません。私の目的の為に鬼の頸が必要なんです。終われば貴方を解放します」

 

刀に付いた血を振り落とすと。髪の毛を掴み拾い上げると再び足を進める。

揺れる髪を払いながら駆け走る。途中、首だけになった鬼が、大きな声で僕に対して罵倒してきたから足を止めずに軽く木に叩きつけて黙らせる。

少し走った所に二匹目の鬼を見つけた。

身体は岩のような物で覆われており、重々しく動いていた。

 

まだこっちには気付いていない。

 

姿勢を低くしながら遠くから背中に回りこむように走ると、真後ろに付いた瞬間一気に接近する。

 

「気を付けろ!」

 

「―――っ! この馬鹿!」

 

一人目の鬼が回復し終わっており、大声で岩肌の鬼に注意を促した。お陰で奇襲の瞬間がずれる。

岩肌の鬼は咄嗟に反応し、顔の前で両手を交差させるように防御する。

 

「ぎゃっ!」

 

何とか腕ごと頸を切り落とすことに成功したが、今回の攻撃で刀身にヒビが入ってしまった。

 

「―――あと一人......」

 

大声を出した一人目の鬼の顎から下を地面に叩き付けて潰した。

 

「ひぃっ!」

 

「貴方も大声を出したら顎を砕きます。良いですね?」

 

「あ、ああ。分かったから殺さないでくれ!」

 

同じように二人目の鬼の髪を掴み。そして、最後の鬼を探す為に再び走り出す。

出来るだけ、足を地面に付ける時に気を遣い音が出ないように気を付けながら走った。

 

「見えた」

 

今度は胴体が異様に長く、顔が蜥蜴のように変形している鬼に遭遇した。

ギョロギョロと動き回る目は見ていて不快で思わず顔を顰める。

僕は二人の鬼が回復し切ってないのを確認すると、上に飛び、木の枝から枝に飛びながら爬虫類の鬼に接近した。

爬虫類の上にある枝に飛び移ると直ぐに落ち、真上から頸の辺りを狙い、叩きつけるように刀を振り下ろした。

 

パキッ!

 

ヒビが広がり、刀身が真っ二つに折れてしまう。

折れてしまった刀を一瞥すると爬虫類の鬼の頸を眺める。

 

「くそぉぉ!」

 

ギョロギョロ動き回り、長い舌をうねらせている。髪がなく、掴む所が見当たらなかった為仕方がなく折れた刀に突き刺し、運ぶことにした。

 

「これで三人目。早く帰ろう」

 

急いで進んできた道を引き返す。少しだけ速度を下げて、頭の中で何処をどう進んだかを思い出しながら戻る。途中、突き刺した鞘の所で足を止めた。

 

「......しょうがない。はむ―――」

 

しゃがみ鞘を咥えると、そのまま一直線に小屋に戻った。

 

 

 

 

 

はねふぐはん!(金継さん) ふひもっへひはひは!(頸を持ってきました)

 

片手に二人の鬼の髪を掴み。もう片方には鬼を突き刺した刀を持っていた。それに加え、鞘を口で咥えている為、傍から見れば、さぞ滑稽な姿だろう。しかし、今の僕にはそんなことは気にならず、ただ扉が開くのを待った。

少しの間。ウズウズしながら立っていると、ゆっくりと扉が開く。

 

「―――ほう。本当に持ってくるとは面白い女だ......」

 

片手で顎を摩りながら僕が目の前に出した頸を眺めている。最初に出会った時とは違い、腰には刀を挿していた。金継は一度、鼻で笑うと「入れ」と呟き、扉を開けたまま小屋の奥に消えていった。

僕も金継さんに続いて小屋に入ろうとするが、ふと頸のことを思い出す。認められた以上、この鬼達はもう必要ない、持っていても仕方ないし適当に森に向って投げよう。

さっきまで煩かった鬼達が不思議なほど静かになっていたことに気付き、手に持っている鬼を見下ろした。そこには、段々と灰と化していく鬼達がいた。

 

「え?」

 

日光には当たっていない、朝はまだ少し先だ。無惨さんから聞いたことがある。もしかして、日輪刀で頸を切ったのか? でも、そんな動作は見えなかった。

 

そうこうしている内に鬼達は完全に灰となり、夜風と共に消えていってしまった。

 

「そんな物。扉を開けた時に既に切り殺しておったわ。それよりはよ入れ」

 

金継はゆっくりと歩きながらこちらを見ずに、僕が疑問に思っていることを淡々と答える。

 

「は、はい」

 

小屋の奥に入って行った金継に言われると慌てて小屋の中に同じように入って行く。

必要最低限の物しかなく、囲炉裏の傍に座っている金継は瓢箪をあおっていた。

 

「座れ」

 

「―――お邪魔します」

 

言われた通り、靴を脱ぐと金継が座る対面に腰を下ろした。

 

「間抜け」

 

「え? ―――っ!」

 

気が付くと金継が抜いた刀の剣先が目の前にあった。

 

座る時に一瞬だけ金継が視界から消えた。その時に刀を抜いたのか? 早い。怖ろしく早い。抜く音も、刀を振る時に起きる僅かな風の動きも感じなかった。

 

「警戒もせずに座る馬鹿者があるか」

 

「は、はい。すみません......」

 

「何事も用心。敵だろうが味方だろうが信頼出来ると確信するまで見極めるまでその者を警戒し続けろ。それまで敵だと思え」

 

金継はそう呟くように言い放つと、ゆったりとした動作で刀を引くと鞘に収め、鞘ごと腰から抜き取るとそれを足の傍に置いた。そして、再び顎を摩りながら僕に問いかけるのだ。

 

「どうして鬼殺隊に入りたいのだ? あれはすすんで入るような所ではないぞ」

 

「分かっています。でも、入らないといけないんです。絶対に鬼殺隊に入らないといけないんです」

 

「どうしてだ? 親を殺されたか? 友を殺されたか? それとも全てを奪われたか?」

 

「―――全部です。全部、持っていかれました」

 

頭の中に祖父のことを思い出しながら憎悪を高めた。僕のその顔を一瞥すると溜め息を吐き、囲炉裏に視線を移した。

 

「つまらん」

 

「つ、まらない? ―――何をつまらないと言うのですか! 母も家も思いでも、全てあいつらに奪われた!」

 

「それはお前の母親が弱かったから殺されたのだ。この世は弱肉強食......強い奴が勝利し、全てを手に入れる。恨むのなら己の弱さを恨め」

 

「っ!」

 

頭に血が上り、殴りかかろうと立ち上がる。

 

「阿呆が」

 

「うっ!」

 

鞘から抜かずに刀を素早く掴むと僕の鳩尾を突いた。痛みで一瞬判断が遅れ、反応できない僕に接近すると刀を持っていない手で頭を掴み、押し倒した。そして、膝を僕の首に乗せ、動けなくしてしまった。

 

本当に八十の老人か? 動きが軽い。それに、痩せ細っているのに大きな男に押さえつけられているようだ。立ち上がれない。息が出来ない......。

 

「そら見たことか。お前は今私に負けた。お前を生かそうが殺そうがお前は文句は言えんぞ? 戦いとはそう言うことだ。それでもお前はなりたいのか? 鬼殺の剣士に」

 

そう言い終わると僕の頭から手を離し、元の位置に戻った。

 

「なりたいです! もう誰にも何も奪われたくありません。私を育てて下さい。最強の鬼殺の剣士にしてください!」

 

「―――いいだろう育ててやる。明日の朝から始める。今日はもう寝ろ。納戸に布団があるからそれを使え」

 

「朝、ですか?」

 

「何だ、問題でもあるのか?」

 

「私は皮膚の病気で日の下に出れないのです」

 

「何だと?」

 

僕の言葉を聞いた金継さんは顔を顰めた。

 

これが相手を騙す第一歩だ。失敗するな、僕は人間だと思わせろ。

 

「日光に直接当たると肌が焼け爛れてしまうのです」

 

「そんな身体で私に教えを乞おうとしているのか。呆れた呆れた......」

 

刀を引き抜き、掌を切ると僕の目の前に差し出してきた。

 

「? 何の真似ですか?」

 

今の人間の僕は鬼の特性を知らない、顔に出すな、知らない振りをしろ。

 

「......いやなに。お前が鬼ではないかと思ってな。どうやら違うようだ」

 

「明日の夜から訓練を開始する。言っておくが日が昇り始めるまで一睡もさせる気はないぞ」と言いながら傍に置いてある瓢箪の栓を抜きもう一度大きく傾けた。

ここで金継に怒ってもどうにもならない。そう自分に言い聞かせた僕は憎悪で震える手を収め、元の位置に座り直した。

それからまた彼の顔を見る、寝ているのか規則正しく寝息を立てて座ったまま目を閉じている。

 

どう考えても死を待っている老人にしか見えない。あんな細い腕でおさえていたとはいえ鬼を組み伏せるとは......。鬼殺の剣士と言うのはこんなことも出来るのか。

 

「―――っ! まずい!」

 

気が付けばもう直ぐ朝。周りを見渡し影の当たらない所を探すが、小屋が小さい為、何処に居ても日が当たりそうな気がする......。焦りだした僕はふと金継が言っていた納戸のことを思い出した。

 

「影になっている所......日が当たらない所......もう太陽が上がっちゃう! あーもう! この際、仕方がないよね―――よっ!」

 

勢い良く納戸を開くと背負っていた背嚢を投げ入れ、急いで自分も布団と布団の間に潜り込んだ。

 

「これが人間に化ける為の第一歩。......頑張らないと」

 

相手は唯の人ではなく鬼殺し専門の人間。普通の人より鬼と人間を見分ける目があるだろう。人を騙すのではなく、人に化けなければならない。全てを人として行わなくてはいけない。歩く速度、走る速度、力加減......全部、考え直さないといけない。

 

 

 

 

 

 

何故なら、一度だって失敗は許されないのだから。




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