The Elder Scrolls:Souls Wind   作:まむかい

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災禍(再会)畏怖(if)

 

 空から落とされたのであろう砕け散った五体、元が人や家畜であったことだけは辛うじて分かる歪な焼け跡。

 

 この先にある苦難を克明に物語る無惨な亡骸を後目に、リクとレイロフの二人は雷鳴のような竜の咆哮へ向かい、その足を早めていく。

 

 そして、結晶の騎士のいた地点からそう遠くないうちに、門扉の崩落により半ば封鎖されていた砦へ辿り着く。

 

 うず高く折り重なる瓦礫を利用して塀をよじ登ると、そこは竜の領域だった。

 

 登りきった塀の高さは戦場の様子を確認するのに適しており、焦土の様相を呈した砦を燃え盛る火の手が包み込み、息すら灼けつくような熱気が二人に伝わる。

 

 地上を見れば、大弓を構える帝国兵が十数人と、リク等と同じく塀の上に陣取る、それなりに豪奢な異装を着込んだ巨漢の将校が、よく通る低い声で戦場の指揮を執っていた。

 

「限界まで引き絞れ、まだだ、引け、待て────今だ、逃すなァ!! 」

 

 将校の号令によって放たれる、十を超える大弓の揃った快音に合わせて放たれた大矢の目指す場所を見上げると、空を包む黒煙を掻き分けて、“それ”は姿を現した。

 

 既存のどの生物よりも大きな体躯。

 何物も通さず、傷すら見当たらぬ黒い外殻。

 大きく、硬く、鋭い爪牙。

 そして、特筆すべきは鳥たちをも優に超えた飛翔を可能とする、腕と一体化した巨大な翼。

 

 ドラゴン。

 

 その姿はまさに伝説に語られていた通りのもので。

 時の竜神アカトシュの直系にして遍く破壊と滅亡を司る黒竜は、瓦礫を含んだ黒霧を巻き上げながら地上を嘲笑うように低空を飛翔し、凶悪極まる鋭利な牙の生えた口から炎を燻らせる。

 

 その様子はまるで、災禍と畏怖に形を与えたかのようだった。

 

「あれが伝説の──」

 

 レイロフの言葉を遮るように、雷鳴にも似た“咆哮”が響く。

 

『────Yol()……Toor,Shul(猛火 、 太陽 !)! 』

 

 黒竜の口から火炎の吐息が吹き荒れる。

 弓兵たちに向けて放たれたそれにより矢の大多数が焼け落ち、鋭く届いた数射すらも、その硬い鱗を突き通すには至らない。

 

 にわかに信じがたい光景に、レイロフは臓腑の縮み上がる思いで眉をひそめた。

 

「あの強射でさえ、竜にはてんで通らないわけか」

 

「竜とは大抵そんなものだ」

 

「知ったような口ぶりだな? 」

 

「ああ。実は、竜には何かと縁深いんだ」

 

 兜越しに聞こえるリクの妙に得意げな言葉に、レイロフは怪訝そうに眉をひそめた。

 

 ……が、まあ、実際にそうなのだろう、と。

 

 会って間もないうちから身についた相方の荒唐無稽さについての慣れと許容から、意識はすぐに戦場へと戻っていく。

 

 地上に向けて放たれた豪炎を号令とともに陣形を崩すことなく躱していく兵たちを見ながら、レイロフは伝説の実在を改めて実感し、リクはかつて戦った竜との戦いを思い出しながら現状を改めていく。

 

 実力の不足した者から順当に脱落していくこの戦場では兵の数も相応に少なく、今は二十にも満たない人数の弓兵のみが辛うじて状況を維持、膠着させていた。

 

 飛翔する黒竜にとっては、ただ空を往けば簡単に突破されてしまう戦線であるが故に、機動力と射程に優れる弓兵を残して残りの兵を引き上げ、いずれ訪れる死の前に撤退作戦が整うまでの間、断続的に大弓を射つことで黒竜の注意をできる限りまで釘付けにする、というのが彼らの作戦の概要であった。

 

 そして、まともな兵なら無謀の一言で一笑に付すであろうこの作戦を進言し、あろうことか自ら殿を務める弓兵たちこそ、帝国軍の同胞にすら“妄想屋”と罵られる、竜狩り騎士たちであった。

 

 上空から降り注ぐ炎を一度でも浴びればそれで終わり。絶望的な戦力差を埋められず、たまたま吹き消されていない風前の灯。

 

 だが、そのような状況においても尚、彼らはまだ気力を失ってはいなかった。

 

 竜に挑むは騎士の誉れ。

 

 脅威を前にそう嘯く事のできる自信家と理想家で構成されたこの集団は、この場を預かる将校の号令とともに、疎らながら整った戦列がその形を崩すことなく流動していく。

 

 迅速さを念頭に置いたそれは、数瞬前には陣を置いていた場所を薙ぎ払う火炎の吐息すら余裕を持って躱し続けるほど的確で、ついにはその被害を地面のみに終わらせることに成功する。

 

 炎で焦がされ、溶かされた黒い土溜まりが埋め尽くす戦場に反し、無傷で掲げられた“鷹”の紋章旗こそが彼らの能力の高さを如実に物語っていた。

 

「よし」

 

 リクは小さく呟くと、傍らのレイロフの首肯を合図として、背にあつらえていたロスリック騎士の大剣の柄に手を掛けた。

 

 狙うは此度の元凶。

 残された時間は既に短く、雌雄を決するのであれば悠長に機を待っている暇はない。

 

 機を掴む為には、状況の維持と瓦解の遅延を旨とした異装の竜狩り騎士団の策とは別に、二人で独自の黒竜への対策を講じる必要があり、それについては既に、二人の脳裏には同じ結論が導き出されていた。

 

 最短の一手にして、致命の一撃。

 

 崩落した監視塔へあえて降り立ち、低空に甘んじる慢心しきった黒竜のその脳天へ剣を突き入れてやろう、と。

 

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