The Elder Scrolls:Souls Wind 作:まむかい
リクとレイロフは砦の塀上にある幅広い渡りを駆ける。
道中にて将校の男に姿を見咎められるものの、話している時間はないとばかりに、横取りや作戦妨害の非礼へ向けた詫びを簡易的に告げながら立ち去る。
将校の男は何事かと首を傾げたが、状況の整理よりも自隊の戦況の安定を優先し、無謀な来客があろうと尚崩れぬ指揮を心がけ、再び兵らへと怒号を響かせた。
「リク、後ろだ! 」
「後ろだって? 」
走り始めて一分と経たぬ内に響いたレイロフの声にリクが振り返ると、後方正面よりもやや右から迫る、黒竜の姿を耳目に捉えることが出来た。
黒竜は翼をはためかせて加速しつつ、その高度を塀上の二人へと器用に合わせ始めており、どうやら追いつきざまに二人の身体を胴体から噛みちぎり、一息に両断する心算のようだった。
二人は足を緩めることなく走るも黒竜との距離は縮まるばかりで、到底振り切ることは出来そうになかった。
ならば、と。
リクは不意にその足を止め、黒竜に向かい合うように体ごと振り向く。
並走していたレイロフも、一拍遅れて足を止めた。
「まさか、ここで戦うんじゃないだろうな……」
レイロフの当惑を含んだ問いかけに、リクは鋼鉄の剣を腰鞘から引き抜くことで答えた。
「やっぱりか、
「時間がない。レイロフ、僕と合わせてくれ! 」
「くそ、無茶を言う! ……来たぞ! 」
会話の間隙にもぐんぐんと距離を縮めていた黒竜は、最後にひとつ羽ばたくと、咆哮を上げる。
『
「いかん、シャウトだ! 」
シャウトと呼ばれたその“咆哮”の後、黒竜の巨体を中心に、リクら二人まで伸びる、この状況においてあり得ないような、黒竜にとってあまりに都合の良い風向きをした気流がその場に生み出された。
黒竜は翼を畳んで気流に乗ると、まるで矢弾のように二人へと吶喊した。
その速度は先ほどまでの比ではなく、二人に判断の猶予も残さないほどに。
たまらずレイロフは斧を振り上げ、横目で見る余裕こそ無いものの、リクも同時に剣を構えていることを肌で感じ取り、
「右に振り抜けッ!! 」
兜越しにくぐもりながらも届くリクの指示に合わせ、レイロフは両手に持ち変えた片手斧を、左から右にかけて黒竜の側頭部に振り抜いた。
同時に放たれた剣と斧の挟み撃ちは正確に黒竜へと吸い込まれていった。
────が、しかし。
黒竜はその挟撃に対し、顔色ひとつ変えることなく即応した。
黒竜は顎を大きく開くことで挟み撃ちを空振らせて回避すると、振り抜かれた武器やその腕ごと噛み砕かんと顎を閉じ、凶悪極まる牙を打ち鳴らした。
瞬間、レイロフの斧が。
そして、リクの剣と左腕が。
それぞれ全く同時に噛みちぎられ、砕けた鋼鉄が飛び散り、特に軽装であったレイロフの身体に強くえぐり込む。
鋼鉄の飛礫を避ける中、シャウトによって生み出された勢いのある向かい風を追い討ちとして、ついにはその体勢を保てなくなり、二人はそれぞれ砦の渡りの左右から瓦礫を伴い転落した。
────見誤った。
リクの脳裏に浮かぶのは、英雄を僭称しながら慣れない蛮勇を見せた挙げ句、果てに何も為せず友を巻き込んで墜ちた自分の無思慮と、それによって払った代償のこと。
友と呼んでくれた男の誇りである斧を折らせてなお得たものはなく、無惨な敗北に寄り添うのは瓦礫と灰ばかり。
腕を失うほどの負傷による失血と、意識の混濁。
赤白い世界で、大きな鐘の音が響いている。
────竜退治は成らず、二人の妄想屋の顛末はハドバルの言の通り、呆気ない幕引きを迎えた。
黒竜の咆哮が、心なしか勢いを増しているようだった。