The Elder Scrolls:Souls Wind 作:まむかい
リクは意識を失っていた。
それは数秒か、数分か。いずれにせよ、さほど時間が経っていないことは未だ戦火に見舞われるヘルゲンの様子から理解できた。
リクの身体は同時に崩れた砦の瓦礫がクッションとなり、打ち身を除いて新たな負傷は見られない。
しかし、左腕を丸々失ったがゆえの失血が酷く、意識は朦朧としたままで、未だ本調子ではなかった。
左右に分かれて落ちたためかこの場にレイロフの姿もなく、その安否は不明。
そして、戦場には竜狩りの弓兵たちと、彼らを蹂躙するように特大剣を振り回す、赤い霊体が現れていた。
「────赤い、霊体? 」
古くは世界蛇カアスに唆された闇の王を目指す不死人の総称であり、はじまりの火の消えた今、火の簒奪者を目指した彼らも同時に姿を消したはずだった。
「なぜ、ここに」
リクの口から、疑問が吐いて出る。
リクは絶望に近い、ある種の脱力を感じていた。
それは、唐突に現れた彼らの存在についてもそうだが、それ以上に。
闇霊は戦いの最中、兵を1人殺すごとに、霧散するソウルを胸、より正確にいうならば心臓に当たる部分に嵌め込まれた魂石へと吸収しながら、その力を増していた。
「……まるで、」
まるで────不死人だ。
万物の源、ソウルを吸収し、蓄え、継承し、際限なくその力を増していく。
その有り様は細部が異なれど、まさに不死人そのもので。
終わらせたはずの不死の呪い。
断ち切ったはずの因果が未だ存在することが、リクの当惑をいっそう強めていた。
────しかし、惚けている暇もまた、無かった。
噛みちぎられた腕の疼痛がリクの意識を引き戻し、皮肉にもその痛みによって現状を正しく認識する機会を与えられる事となる。
リクは、自身が無力感と悪しざまな郷愁に呑まれていたことを自覚すると、失った左腕に着いていた噛み跡のある肩当てを外し、戦場に点在する煤けたボロ切れを押し当てることで応急処置を施した。
鼓動に合わせてドクドクと溢れる血は汚れた布切れから滲み出すほどであったが、リクにとってそれは些細な問題だった。
不死人であった経験から、耐えると決めた痛みには滅法強い方であり、出血そのもので死に至らない限り、痛みそのものはある程度まで抑えられれば問題なく戦闘を続行することが可能だったからだ。
外した肩当てを嵌め込んで処置を済ませる頃には何とか戦闘をこなせる程度には復調したリクは、黒竜を探すために辺りを見回した。
結論から言えば、黒竜の姿はすぐに発見できた。
しかし、その様子は極めて不可解であった。
上空を覆う白い濃霧。
その中にいるため影法師のようにしか姿を確認できない黒竜が、揺蕩うように浮遊し、赤ん坊のように蹲っていたからだ。
それはあまりに不可解だった。
空中に居ることで有利であるとはいえ、戦場であれほど明らかに隙を晒すのだ。
暫くのちに何かが起こることは間違いがないだろうとリクは確信していた。
────しかし、と。
数秒の逡巡の後に、リクは一時的に黒竜を思考の隅にやり、意識を戦場に戻すことにした。
装備しているロングボウも腕を失った現在では扱えないために上空への攻撃手段を持たないリクは、現状において黒竜よりも直接的な影響の大きな存在である闇霊へとその狙いを定めた。
リクは散漫な集中力を整えるべく、一拍の間のみ呼吸を整えると、未だ痛む失った左腕を庇いながら、背に提げた特大剣を引き抜くのだった。