The Elder Scrolls:Souls Wind   作:まむかい

17 / 21
“獅子”の騎士長

 兜越しに見える闇霊は、身の丈ほどもある大剣を後ろ手に構えると、大地を抉るような踏み締めによってリクの懐へと一気に駆け出し、剣の間合いに届くが早いか、その勢いの乗った大質量を、前方に向かって無造作に突き出した。

 

 リクは闇霊の繰り出した神速の突きを見切ると、腕の無いぶん動きに余裕のある左側を使って体を反らすことにより、紙一重で回避した。

 そして、極めて大振りな一撃によって闇霊が硬直した一瞬を見逃さず、突き出された大剣の腹に右脚を合わせ、その脛でかち上げるように蹴りを見舞った。

 

 リクの剛力を存分に込めた蹴りによって闇霊は剣を取り落しかけたものの、両手で握りを保ちつつ構えを戻すと、かち上げられた体勢をそのまま利用して、大上段からの振り下ろしを敢行した。

 

 リクは、闇霊の強靭性に舌を巻きながら思考を加速させる。

 懐に潜られた今、闇霊の剣に同じように返すのでは上下の不利や腕を失っていることを含めて愚策と言って差し支えない。

 

 ……ならば、むしろ今は自分の剣が邪魔になる。

 

 リクは大剣の構えを解くと腰を落とし、闇霊の剣をギリギリまで惹きつけた。

 

 剛剣を体現した振り下ろしがリクに迫る。

 しかし、その一撃に完璧に合わせるように、剣の腹に、左脚が触れる。

 

 リクの放った回し蹴りが、闇霊の剛剣の軌跡を曲げた。

 大質量の剣から甲高い轟音が響き、頭から股まで断ち切らんばかりの一撃は地面へと振り下ろされ、その脅威を大きな砂埃を上げるのみに留まらせる

 更に、大きく体勢を崩した闇霊を蹴りつけて距離を空けると、リクは大剣の柄に手を掛けた。

 

 そして、闇霊が崩しきられた体勢をゆらりと整える間に、砦の上から怒号が響く。

 

「撃てェッ!!!!! 」

 

 怒号に合わせ、弓兵たちの引き絞られた大弓から無数の矢が闇霊に飛来した。

 容赦なく突き刺さるそれは体内外に点在する結晶に阻まれながら、その半数ほどが闇霊を貫くことに成功した。

 

 ────しかし。

 

 それほどの猛攻を受けてなお、闇霊は大剣を構えて立ち上がる。

 

「彼は不死身か……!? 」

 

 闇霊の壮絶な様子に、弓兵たちは大きくどよめいた。

 

 そして、リクと闇霊、両者が再び相対し、戦場に軋むような緊張が走る。

 先に動いたのは、闇霊だった。

 

 剣をまたも大上段に構え、振り下ろす。

 今回のそれは、前回よりも数段以上その速度を増していた。

 

 だが、速度はあるものの、腰の入っていない振り下ろしに過ぎないそれは、リクにとって問題となるほどではなかった。

 

 速度に対応し、難なく蹴りで打ち払う。

 対する闇霊も素早く構え直すと、もう一度同じように速度を求めた振り下ろしを行った。

 

 それを皮切りに、打ち合い、もしくは弾き合いと言える時間が続く。

 闇霊の振り下ろしは速くなり、リクも合わせてペースを上げ、打ち込む角度や逸らす位置を変えながら、まるで一種の演舞のようにすら感じられる見事な攻防へと遷移し、弓兵らの鍛えられた目は加速し続けているようにすら感じる二人の動きを十全に捉えることが出来ていたが、しかし、この体力と精神力を削り合う至近の攻防と同じことが出来るかと言えば、全員が否と言うであろうほどに凄まじいものとなっていった。

 

 ────永遠に続くように感じられた応酬は、しかし、リクが異変に気づいたことで終息へと向かっていくこととなる。

 

 闇霊の狙いは、その受けの姿勢をリクが選択することそのものであったが故に。

 

 ────打ち払ったはずの剣が、リクの身体に糸で結ばれているかのようにもう一度吸い付いてくる。

 

 もう一度、二度、三度、四度。

 

 払っても払ってもその速度は一切衰えず、むしろその速度を増していく。

 何度も、同じ箇所を、同じように。

 

 それにより、本来は怪我を防ぐ目的であり、武器として鍛えられている訳ではない足甲がだんだんと傷付き、その形を歪めていく。

 激しい攻防の中で異変に気付いた時には、すでに背中に火がついたように追い詰められているのだった。

 

 闇霊が狙っていたのは、機動力の喪失。

 片腕を落とされた中、敏捷性と筋力を武器に戦っていたリクがその敏捷性をも失えば、即ち敗北は免れないだろう。

 考えている間にも続いている猛攻に、足甲は甲高い悲鳴を上げていた。

 

「なら……! 」

 

 これ以上はラッシュを凌ぐことができない。

 それならばと、最大限の警戒と力を込めて、比較的大振りとなった闇霊の一撃に合わせ、心臓部の結晶に向かって強く蹴り込んだ。

 

 闇霊の剣よりも一歩分早く届く、衝撃を重視した押し出すような蹴り込みは、おぼろげな霊体を大きくのけぞらせることに成功した。

 が、しかし。

 その威力は片足を一歩後退させたのみで、距離を取るまでには至らない。

 

 だが、それを予見していたリクは、のけぞった隙を突いて後ろに跳躍することで、闇霊の間合いである至近から一度離れた。

 

 リクは数メートル先の闇霊を見やる。

 

 闇霊は体勢を立て直すと、ユラリと剣を右肩に担ぐようにしてリクを睨みつけ、臨戦の構えを崩さない。

 闇霊の強靭さ、耐久力は今まで戦ってきた不死人や怪物、神々たちと比べてもなお並外れているようで、まともに食らった矢弾を含め、攻撃が応えた様子はまるでないようだった。

 

 再び孤立した闇霊に弓兵たちの大矢が殺到するが、それらは大剣を回転させるように薙ぎ払うことで打ち落とされ、その一本たりとも彼に届くことはなかった。

 

「"獅子"の騎士長、よもやこれ程とは……! 」

 

「これが、獅子……」

 

 弓兵たちがどよめき、驚きの声を上げる。

 

「……獅子、か」

 

 リクは、こちらに向かって一息に距離を詰める闇霊に応じながら、本人やそれを模した鎧をも含めた都合4回に渡って鎬を削った、とある"獅子"とこの闇霊を密かに重ねていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。