The Elder Scrolls:Souls Wind   作:まむかい

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(獅子)”の騎士長

 

 闇霊の振り上げを上段に掲げた大剣で打ち下ろし、続くなぎ払いはわずかに後退して躱す。

 蹴りから大剣同士の打ち合いに変更して数分ほど。

 

 闇霊の攻撃にある程度対応することのできたリクは、その実、決定打を打つことができずにいる。

 理由は単純なもので、腕が一本ないために、一手先んじることが非常に難しいというものだ。

 

 大剣の重量と耐久性に任せて勢いをつけることで打ち合いに拮抗することだけは出来ているものの、戦いはすでに千日手の様相を呈していた。

 

 攻防の間隙に放たれる矢弾が闇霊の背中を貫かんと進むが、見切られた一矢はもはや僅かな動きで躱され、動きを多少制限する程度の効果しか得られない。

 

 闇霊との接触から時間にして十分にも満たない程ではあれど、これから戦いが長引くほど、砦を包む炎は勢いを増し、不穏な黒竜への対処はおろか、寒暖を感じる能があるのかも怪しい闇霊へと戦況は傾いていくだろう。

 

 ──だとするならば、と。

 

 いま、ここで戦況を変えうるべく、リクは大きな一手を打つことにした。

 

 リクは大地を蹴り、甲冑を物ともせずに大きく跳躍すると、近くの足場となりそうな瓦礫へと飛び乗った。

 鎧に加えて重量のある大剣を持つリクの重さに瓦礫が耐え得るのは十秒に満たない時間に過ぎなかったが、リクにとってそれは問題にならなかった。必要なのは、闇霊がこちらに来るまで保ってくれる足場だったからだ。

 

 直後、見計らったかのように砦上から号令が飛び、闇霊へ矢の雨が降り注ぐ。

 闇霊はそれらすべてを避け、走り、大剣で打ち落として躱しながら、リクの方へと向かってくる。

 

 弓兵らが行ってくれた足止めの隙をつき、大剣を素早く、やや緩く納めたリクは、炎への畏敬を込めて祈る。

 すると、手のひらからパチパチと火花が散り、呪術の火がその手に燻り始めた。

 

 闇霊がこちらの間合いに接敵し大剣を振り上げる一瞬の隙に、瓦礫を蹴り込むことで闇霊を越えるほどに跳躍する。

 そして、闇霊の頭部に勢いを付けた掌底をねじ込まんと、落下しながら迫っていった。

 

 闇霊はそれを察知し、最小限で躱すために身をよじろうとする。だが、その行動すらもリクは織り込み済みであった。

 

 この一撃で倒せるならば良し。

 そうでなければ本命の一手を打つだけだ、と。

 

 リクは掌底を納め、落下の勢いのままに背中の大剣を手に取った。

 やや緩めに納めていたその剣を剛力によって居合にも似た神速で抜き放ち、重力に従うままに刃を下にすると、そのまま地面に突き刺すように、自身ごと闇霊に向かって落下した。

 

 闇霊は至近距離に居たリクに大剣では対処することができず、為すがままに地面に縫い付けられる。

 そして、結晶すらも思いのままに砕くロスリックの大剣から雷電がほとばしり、

 

 ────闇霊の内側から、雷が炸裂する。

 

 ビクビクと痙攣する闇霊の姿はまさに、落ちた雷に打たれたようだった。

 

「……これで、終わりだ! 」

 

 呪術の火が、柄に伝播するほどに熱を帯びていく。

 リクが大剣を手放すと、柄には焦げついた手形が表れていた。

 

 そして、仰向けに貫かれ隙を晒した闇霊の、ソウル体故に境界の曖昧な鎧の隙間に腕を差し込んだ。

 

 『なぎ払う炎』

 

 蛇のように流れる炎の鞭が、体内に直接流し込むように放たれる。

 その火勢のひとつひとつは矮小だが、こういった状況で放つこの呪術は、ソウル体といえど致命傷は免れないだろうことは想像に難くなかった。

 

 ────しかし、この世界に来たばかりのリクには、これまでに知った情報のうちに入らなかったばかりに見落としていた、闇霊のある"特徴"があった。

 

 今回の闇霊の正体は、ダークエルフ。

 先祖の炎をその身に宿す、元来火に親しい種族であったことを、リクは見落としていたのだった。

 

「────ッ! 熱っぅ……!!! 」

 

 闇霊の全身から、炎が吹き荒れる。

 リクは、完全に予想の外であった反撃に、腕を焼かれながらもなんとか離脱することに成功するが、特に呪術を展開していた腕について、大きな火傷を負う結果となる。

 

 闇霊の方を見やると、炎は闇霊の胴体を貫く大剣を焦がし始めており、特に身体に近い刀身の半ばほどに至っては、すでに融解が始まっていた。

 

 闇霊は自身を縫い付けるその剣の柄を握り、まるで小枝のように折り取った。

 そして、ゆっくりと、操り人形が持ち上げられるかのように、足の力のみで悠然と立ち上がった。

 

 背中に突き刺さったままの幅広の刀身が炎に負け、ゴトリと地面に落ちる。

 もう一度放たれた弓兵の矢は炎に阻まれて鏃が意味を成さず、もはや避ける必要すらもなくなっていた。

 

 闇霊は大剣の切っ先をリクに向け、折れた大剣の柄を、その腕に十字に重ねるように構えた。

 

 ────それは、本来二刀流であるこの"獅子"の騎士長が得意とした戦術の最初の型であり、独特なその構えは同時に、リクのよく知る構えのひとつでもあった。

 

 その構えの名は『不死隊の戦礼』。

 ファランの不死隊における開戦の合図であり、大小異なるサイズの剣を使う彼らにとって最適の構えであった。

 

 リクは、炎の鎧を纏う戦士を前に、ひどい火傷を負った自身の腕がまだ辛うじて動くことを確認しながら、独りごちた。

 

「これじゃあ、"獅子"じゃなくて──」

 

「──"狼"だ」

 

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