The Elder Scrolls:Souls Wind   作:まむかい

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二人の不死者

「ふーん、吸血鬼……それで? あなたが結局何者なのか、その吸血鬼とやらについて聞かせてみなさいよ」

 

「結構いい度胸をしてますのね。無意味に子どもを震え上がらせる趣味はありませんが、それなら……」

 

 アルドゥインはセラーナと名乗ったその吸血鬼と、かろうじて原型を保っている適当な石段へ向かい合わせに座りながら、彼女の言う"吸血鬼"について話を聞いた。

 セラーナの明晰な解説にふむふむと頷きつつ幾度かその瞳を輝かせたのち、最後には気の抜ける感嘆の相槌を漏らした。

 

「へ~、吸血鬼ねぇ。そんなのが居るんだ、今のムンダスって」

 

「まさか、わたくし達について何一つ知らない者がいるとは思いもしませんでしたわ……。わたくし以上の箱入り娘とは、流石に予想もつきませんでしたわね」

 

「むぅ……知るわけないでしょ? 私の封印より後に生まれた種族なんて」

 

 セラーナは半ば呆れたように目の前の少女を見た。ぷらぷらと足を揺らして口を尖らせる彼女は、どうやら吸血鬼であるセラーナの危険性をしっかり理解した上でなお、まるで自然体を崩していないようで。

 

 しかし、目の前の少女の来歴も聞いた今はこの反応も無理からぬことだろうとセラーナはすでに納得をしていた。

 

「吸血鬼の歴史より長い封印なんて、壮大な話ですわね。眉唾ものの話ではありますけれど、もしそうだとしたら、この星霜の書から現れたのも頷けますわ」

 

 セラーナは背負っていた身の丈ほどの大きな巻物を後ろ手にコツンと叩いた。

 アルドゥインも吸血鬼を知らずとも、その巻物の存在はよく知っている。

 

 かつての忌々しい封印の要にして、今は彼の世界との別れの象徴。

 大きな麺棒のような見た目と裏腹に、世界で最も読解の難しく、最も博識な書物。

 それは今も昔も誰知らず『星霜の書(エルダースクロール)』と呼ばれている。

 

 その書物から自身が現れたと聞いたアルドゥインは興味深そうに目を丸くした。

 

「荒唐無稽な話ではありますが、わたくしの棺がその内側から破壊されたのは記憶に新しいことですから」

 

 セラーナは嘆息し、自身の立てた推測を目の前の少女につらつらと話し始める。

 

「貴女の名前はアルドゥイン。伝説に名高い『世界を喰らう者』と同名ですわね」

 

「本人よ」

 

「確かに、今更それを疑う意味も薄いですわね。あなたはかの竜そのものであることを前提として話を進めましょう。……まず、かの竜は遙か古代の竜戦争の折に星霜の書に封印されたと伝えられていますが、しかし彼はいつか封印を食い千切って必ず舞い戻り、その悠久の拘束の綻びこそ世界の終わりと同義であるとされる、というのがあなたにまつわる伝説の概要ですわ。……実際の所、あなたがわたくしの前に現れるまではよくある子供の寝物語か陳腐な終末論だと思っていましたのよ」

 

「でも、私はもう世界を滅ぼすつもりはないわよ。……約束もあるしね」

 

「そこに興味はありませんわ。わたくしは不死者となってむしろ滅びはいずれ来る必定なのだと言うことを強く感じていますから」

 

 不死者が滅びを受け入れるとは珍しいわね、とアルドゥインはセラーナの意見を心中で評した。

 荒廃しきったロスリックでさえ滅びを避けるべく動くものが大半だったことから考えて、火継ぎを拒否した兄弟王子のごとく超然とした価値観を持つ者は、実際に滅びの危機に瀕していないという条件を加えればどこの世界を探してもそうそう居ないだろう。

 

「……そこで、なのですが」

 

 含みを加え言葉を切ったセラーナの冷たい満月色の双眸は、アルドゥインのルビーの瞳を柔らかく覗き込むように向けられている。

 

「あなたは星霜の書から現れた世界を喰らう者、アルドゥイン。……ですが、わたくしは滅びを忌避しない。だから、あなたに恐怖を感じることはありません。そして、あなたも同じく吸血鬼たるわたくしに恐怖することもない。……そこでどうでしょう。同じ棺桶で寝たよしみで、まずはわたくしとお友達になってみるというのは」

 

 立ち上がり、アルドゥインへと歩み寄ったセラーナは彼女にそっと手を差し伸べていた。

 

 アルドゥインは意表を突かれたのか、きょとんと目を丸くする。

 世界を喰らう者を捕まえて友達になろうとは、不死者はやはりどこかズレているなと感じた矢先、いつのまにか、セラーナの姿に長く寄り添ったとある青年の影法師が重なり、いつの間にか口許が綻んでいた。

 

「……ふ、ふふ……ふふふ、あはははっ!」

 

「あら、笑っていただけて何より。ジョークのつもりはありませんでしたが」

 

「いえ、違うのよセラーナ。ただ、懐かしいなって思ってね」

 

 嬌笑に伴った涙を指で拭ったアルドゥインは、セラーナの妙に生真面目なその姿にすらもう一度彼の姿が重なり、さらにこみ上げる笑みを会話のために一旦留めた。

 

「懐かしいとは、竜か人のお友達が前にも?」

 

「……そうね。竜であり人でもある、変なヤツよ。ちょうど、今の私と同じようにね」

 

 アルドゥインは、セラーナを見ながら誰かを懐かしむように微笑んだ。先ほどよりわずかに潤んでいたルビーの瞳の真意は、埒外の怪物としておよそ尋常な生い立ちを経ていないセラーナには少し計りかねるものだった。

 

 そして、アルドゥインは石段から立ち上がると、差し伸べられていたセラーナの手を取り、いつかに彼と考えたお決まりの常套句(ジョーク)をその声に乗せる。

 

「よろしくね、セラーナ。

 

 ────世界が滅びるまでは一緒にいてあげる」

 

「どうぞよしなに、ミス・アルドゥイン。

 

 ────なら、ご機嫌伺いは不要かしら」

 

 アルドゥインとセラーナは互いの軽口に微笑みあった。

 こうして、竜人と吸血鬼という二人の不死者は邂逅し、互いに奇妙な縁を繋ぐ事となったのだった。

 

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