The Elder Scrolls:Souls Wind   作:まむかい

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災禍

「ウィンドヘルム首長、ウルフリック・ストームクローク」

 

「リバーウッドのレイロフ」

 

「ロリクステッドのロキール」

 

「俺たちは反乱軍じゃない、止めてくれぇッ! ────!? 」

 

 羽ペンと処刑者名簿を携えた軍人の男に名を呼ばれたロキールが青ざめた顔と震える足取りで逃走を図り、足が縺れた一瞬に合わせて背後から急所に弓矢を射掛けられ、小さな呻き声を残して絶命した。

 

 あまりにも呆気ない最期の瞬間を迎えたロキールから人間性の混ざった黒いソウルが霧散し、空へと溶けていった。

 

 ソウルの放出が先程まで言葉を交わしていた人間の死を無慈悲に確定させる。

 不死人であるリクをして、突き付けられるようなそれには未だ応えるものがあった。

 

「他に逃げたい者は? ……では、続けましょう」

 

 囚人たちが眉を顰める中、将校らしき女性は囚人たちを一瞥すると、軍人の男に作業を続けさせた。

 そして、いくつかの人間を呼び、リクの番になった時、男は確認の手を止めた。

 

「待て、お前は……リストにないな」

 

 男がリクを見つめると、将校の女の催促に流されて名簿に何やら書き足し、憐憫を含んだ視線をリクへと向けた。

 

「すまないが、お前の故郷が俺には判断できなかった。しかし、こちらで最大限の手を尽くして故郷へ遺体を送り届けることを皇帝に誓うよ」

 

「……助かる、とは言えないな」

 

 リクは男に会釈すると、空いていたレイロフらの隣へと静かに並んだ。

 

 しばらくして、処刑台の前にずらりと人が立ち並ぶ。

 単調な旋律で行われる僧侶(アーケイという神に仕えているようだ)の祝詞が斧で首を断つ際の鈍い音で断続的に掻き消されながら、処刑は進む。

 

 リクは焦りを覚えていた。

 文字通り死んで覚えた経験の蓄積によって保たれ続けるようになった平静さとは裏腹に、リクの心臓はドクドクと早鐘を刻んでいる。

 

 生きていたい、とここまで強く思ったのは、リクが不死人になってからの長い旅路において、初めてのことだった。

 

 だが、それは死そのものへの恐怖というよりはむしろ、死ねばこの先に待つ何かに出会えなくなる、という一種の直感に近いものに基づいていたという事は、今のリクには知る由もなく。

 

 今はただ、自分に死への恐怖というものが残っていた事に静かに驚くとともに、強硬手段以外の解決策を見出せない自分の脳足りぬ有様に大きな諦念を抱えるのみだった。

 

「次の囚人、前へ! 」

 

 将校の女がリクを指して処刑台へと来るよう促す。

 

 ──オォ────。

 

 ほぼ同時に、大きな咆哮が響き渡り、みな一様に空を見上げる。

 

 やけに聞き覚えのあるその声は、長い旅路の中で度々対峙した竜たち、そして、『彼女』を想起させた。

 

「次の囚人と言った筈よ! 」

 

「ああ、わかってるさ」

 

 この世界にも竜は居るのだろうか。

 

 そんな考察に耽る間もなく、将校に呼ばれたリクは処刑台へと向かい、ゆっくりと頭を垂れた。

 頭と胴体の分かれた兵士たちの遺体が彼らの血の池に浸された、死を扱う冷たい台に横たえさせられたリクは、死亡による経験則と戦闘による問題解決能力が何より必要とされた旅路において、ともすれば只人よりも磨かれず錆びついてしまったのかも知れない自身の危機回避能力に辟易した。

 

 そして、この場を去るには最善手であり今後を鑑みれば最悪手となるであろう強硬手段による脱出をせざるを得ないと判断し、せめて被害は最小限にと手のひらに呪術の火を燻ぶらせ、気づかれぬよう内側から荒縄の手枷に火をなぞらせてゆく。

 

 ──オォ────。

 

 心なしか、先程よりも近づいた咆哮が聞こえる。

 機械的な処刑人の斧が振り上げられる直前、手枷がボロボロと焼け落ち、

 

 その、直後。

 

『────ア、ァ───ッ!! 』

 

 ヘルゲン中を揺らすほどの衝撃が、処刑人の構えを大きく崩す。

 時を同じくして手枷を焼き切ったリクは台から跳び退き、間一髪で処刑を免れた。

 しかし、衝撃は一度だけに留まらず、二度、三度と雷鳴のような咆哮が轟く。

 

「いったい、何が起こったんだ……! 」

 

 誰からともなく発されたその声が、この場の総意を代弁していた。

 

 誰も、何も理解できぬまま。

 咆哮とともに繰り出された衝撃波によって、リクを含めた人々は為す術もなく吹き飛ばされていった。

 

 リクの全身に鈍い痛みが走る。

 明滅している視界が幻のような赤を所々に映す。

 いやに耳が遠くなり、自分の周囲の空間がきっちり片半分ほど削り取られたように感じる。

 

 リクの意識は、いますぐ気絶しそうな程にぐらぐらと揺れていた。

 

 

 

 

「……い、おい、リク! 」

 

 一体、どれだけの時間が経ったのか。

 誰かに頰を叩かれ、僅かに意識の戻ったリクが痛みに耐えながら身を起こすと、そこにはレイロフの姿があった。

 

「目が覚めたか」

 

 リクを慮るように眉根を下げて声をかけていたレイロフは、次いでリクの肩を担ぎ、体を起こさせた。

 

「歩けるか? 」

 

「ああ」

 

「良かった。こんな所にいる場合じゃない、まずは建物の中に入るぞ」

 

 レイロフはちらと空を見上げると、リクを先導するように駆け歩く。

 朦朧としていた意識とぼやけた視界がある程度まで戻ったリクはレイロフに追従しながら周囲を見渡す。

 リクが意識を失っていた間に、ヘルゲンは先程までと全く異なる様相を呈していた。

 

 赤黒く染まった空から隕石が降り注ぎ、ヘルゲンの砦を容赦なく破壊していく。

 唐突に災禍へ投げ出され逃げ惑う無辜の市民、混沌とした状況の中で指揮を執る帝国軍の兵士、これ幸いと脱出を図る囚人たち、修羅場に遺された金銭を嗅ぎ付けて現れた山賊たち。

 

 そして、最たるものと言えば。

 この混沌とした戦場を作り上げたであろう存在が今も空中にて咆哮を上げ、口から炎を断続的に噴き出しながら飛翔しているということだった。

 

 竜。

 腕を翼とするその姿から、特に飛竜と形容すべき異形。

 

 世界最古の生命である古竜の子孫にして、どの生物より神秘を秘めた生ける災害のような彼らなら、なるほどこの地獄を作り出すことも容易なのだろう。

 

 対峙してきた竜の中でも、特にカラミットを思わせる黒竜は、次の目標を定めたのかリクたちの側から別の兵士たちの集団に飛び去っていく。

 その光景を尻目に、リクはレイロフの示したストームクロークの緊急の拠点、まだ破壊されていない監視塔へと駆け出していくのだった。

 

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