The Elder Scrolls:Souls Wind   作:まむかい

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不死から最も遠い者達

 準備が整い、監視塔にて整列するストームクローク兵士の前に立ったウルフリックは、息を吸い込み、声を大きく張り上げる。

 

「俺について来るがいい!! 」

 

 声だけで人間を殺してみせたというのも納得するような、恐ろしく通りの良い声で号令を響かせたウルフリックは、監視塔の扉をその手に持った斧で打ち壊すと、彼らの旗印である熊にも劣らぬ勢いで、ストームクローク達がなだれ込んでゆく。

 

 リクが彼らに続いて扉をくぐると、そこは焦熱と断末魔の響く、地獄のような戦場が広がっていた。

 

 焼けた木材、鉄、肉の悪臭に黒煙。

 戦場の片隅には、蛇のごとく影響力を伸ばす炎の勢いに巻き取られたのであろう焼死体がいくつも転がっていた。

 

「民間人を避難させろ!! 帝国軍が邪魔をすれば殺せ!! ドラゴンには手を出すな!! 」

 

「応ッ!! 」

 

 ウルフリックの号令に、ストームクロークが揃った雄叫びを返す。

 ストームクロークの第一目標はここからの脱出だが、それを実行する前に、目的がもうひとつ存在していた。

 それは、ヘルゲンに取り残された生存者を救出し、ストームクロークの支持層に帝国領の人間からなる新たな層を取り込むことを狙う、というものだ。

 

 つまるところ、帝国軍がいずれ崩壊するであろう厳しい戦況を維持している間に、彼らの護る人々を先に救出してやろうという事だった。

 

 もちろん、帝国軍からしてみれば広義の火事場泥棒のような所業に等しい。

 しかし、それによって救けられる人々にとっては、帝国もストームクロークもない。

 少なくとも、命を救けられる人々の数が大きく増えることだけは確かだった。

 

 ウルフリックは軽装を活かした身のこなしで焼け落ちていない民家の屋根に飛び移り、出来るだけ視界を広く取る。

 戦場を俯瞰したことで彼はより的確な指示をストームクロークらに飛ばすと、リクとその側に付かせていたレイロフへ向けて、

 

「お前たちは遊撃だ、好きに暴れておけ! 」

 

 と、戦場の渦中を指で差した。

 そこには、鈍器で打たれたのか腫れ上がった足が折れ曲がり、痛みと恐怖に泣き叫ぶ子供と、いったい何処から現れたのか、火事場泥棒にやってきたのであろう山賊たちが民家を物色している様子が見えていた。

 

「俺たちも行こう、友よ」

 

「ああ」

 

 初めて手を組み、共闘する相手であるリクを励ますべく、レイロフは声を掛ける。

 しかし、リクは励ますには及ばず、既に臨戦の気合と共に、感覚を張り詰めさせていた。

 

 

 

 

 二人での共闘は円滑に進んでいった。

 

 崩落した民家や塀に阻まれ行き場を失った民間人のために道を空け、帝国軍の兵士と無闇にトラブルを起こさぬよう避けつつ脱出への道順を手引きするストームクローク兵に引き渡す。

 引き渡しが終われば次へ、また次へと繰り返す。

 時に、家族の死に耐えきれず暴徒と化した民間人や、火事場泥棒にやってきた山賊たちを息の合った連携によって迅速に鎮圧し、民間人は救助し、山賊はとりあえずの対処として、気絶させられる程度の者は気絶させて戦場の外へと放り出し、時には刃を交える中で彼らを殺すこともしばしばあった。

 

 戦いの中で殺しを行っているのはレイロフだった。

 ノルドらしい斧術は当てどころによっては致命傷で済まないことも多いためだ。

 

 しかし、斧よりも単純な威力が劣るとはいえ、同じ鋼鉄の塊である剣で斬っておきながら死者を出さず、むしろ、確実にとどめを刺せる場合においてもなお致命打を与えないリクにレイロフは若干の懐疑を覚えていた。

 

 レイロフの考えでは、修羅場に自ら望んで入った以上、自分だけは死なないと高を括って略奪を敢行した彼らに問題があったことは明白であると考えているし、リクも戦士として在る以上、互いの命を奪い合うことなど覚悟の上であろうと思っていた。

 

 だが、言葉に出さぬ迷いは、澱のように僅かずつリクの心へ積み重なっていった。

 

 ────重い鋼鉄の剣を事も無げに扱い、風を切りながら二人の剣を弾き、一方の首と肩を一気に袈裟斬りにする。

 咄嗟に盾を構えたもう一人を蹴り込んで体勢を崩し、皮製の鎧を細身から出るとは思えない筋力によって突き通し、腹部から脇腹にかけて斬り払うことで致命の一撃を与えた。

 

 見るも鮮やかな立ち回りを演じ、鮮血によって赤く染まる灰の騎士。

 レイロフは残りの一人を始末してからそれを観戦していたが、歴戦の勇士であるレイロフから見ても、その戦いぶりは相当な技量と経験を感じさせるもので。

 いまは兜に隠された、青年に差し掛かったばかりにも見える容姿にそぐわぬ熟達した立ち回りにレイロフは都度、舌を巻くばかりであった。

 

 だが、当の本人であるリク自身は、倒れ伏し、ピクピクと痙攣する山賊たちを見下ろしながら、静かに憂いを帯びていた。

 

「……人間同士、か」

 

 殺し切ることは難しく、命を奪い合うこと自体がある種不毛とも言える不死人の戦いとは勝手の違う、殺し殺される人間の戦い。

 その僅かな差に意識を掻き乱されるリクの背中を、レイロフが軽く叩き、流れるように肩を組んだ。

 

 戸惑うリクに、レイロフはまるで兄弟に話すように優しく、あえて冗談めかしたように励ましの言葉を掛けた。

 

「命は一つしか無い、使い方は俺たち次第だ。────それに、ドラゴンと正面切って戦うよりはマシだろう? 」

 

 レイロフがニヤリと口を歪め、親指で上空を差す。

 リクは手を組んだ男レイロフの、戦場における胆力と気負いのなさに感嘆する。

 こと人間同士の戦いにおいての覚悟は、レイロフの方が一枚上手のようだった。

 

 リクは浮ついていた意識を戦場に戻すと、深く頷く。

 

「ありがとう、レイロフ。この調子で、脅威に晒された人々を救けよう」

 

「そいつは良い。まるで子供の頃に婆さんから聞かされた騎士様のような清廉さだ」

 

 レイロフはからかうような口調でリクに言葉を返す。

 リクは、レイロフを先導するべく次の目標へと向かう道すがら、それに答えた。

 

「……僕は、人間を殺したり、死なせたりすることは苦手なんだ。怪物退治のほうが気楽でいい」

 

「そいつは良い。ドラゴンを撃退すれば、この戦場もいますぐ落ち着くだろうさ」

 

「だが、今は命を奪われかけている人々を救けるのが優先だ」

 

「同感だ、友よ。……さあ、次の不届き者がお出ましのようだな」

 

 レイロフがアイコンタクトのみで左の焼け落ちた家屋を指す。

 すると、ボロボロと屋根を崩しながら山賊の一団が奇襲を仕掛けて来る。

 

 だが、二人はその奇襲を示し合わせることなく躱すと、リクは鮮やかな剣撃、レイロフはノルドらしい片手斧の剛撃で返すことで、同時に二人の山賊たちを斬り伏せ、背中合わせに武器を構えるのだった。

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