The Elder Scrolls:Souls Wind   作:まむかい

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貧者の戦

 人を殺したり死なせたりするのはどうも苦手だ、と。

 虫も殺せぬような、戦場に似つかわしくない言葉を吐いたとは到底思えない、というのがレイロフの所感だった。

 

 だが、次に続いていた言葉も同時に思い出す。

 

 怪物退治のほうが気楽でいい、と。

 

 その言葉と合わせれば、彼の人物像が、目の前で繰り広げられている戦いの骨子が見えてくる。

 

 戦い慣れている様子ながら、どうも勝手が違うとばかりに、バランスの悪い慎重さを含んだリクの戦い。それは少なくとも騎士のように清廉でもなく、司令者のように戦場を見れているようでもなく、はたまた、傭兵のように怪我や後への影響を懸念して消極的に洗練された物でもなかった。

 

 ただ、特筆することがあるとすれば────彼のその手のすべてが、あまりに的確かつ苛烈だという事だった。

 

 一手に込めるにはあまりに強い警戒を伴った牽制の刃。

 まるで、何度も同じ仕打ちによる苦い経験を得ているとでも言いたげなそれは、結果として相手の動きを裏の裏まで読み切ることに繋がっている。

 

 三人の山賊たちの全員の動きを阻害しながら、狙いを定めているであろう一人に対して当身を掛け、もう二人の武器を空振らせた瞬間。

 

 一。

 

 二。

 

 三、四、五、六、七、八。

 

 連続して八度。

 スカイフォージ製の最高品質の剣すら小枝のように折れてしまいそうな程の膂力を込めながらも、剣筋を捻じ曲げることで骨を避け、肉のみを断つ連撃が放たれた。

 多量の出血によるショックを誘発することで死には至らぬ状態での無力化を可能にし、更には骨を避けることで剣を必要以上に痛めない配慮も見られた。……手首への負荷のみが、尋常ではなさそうだったが。

 

 先程までの華麗な剣閃とは違う愚直な剣捌きは、むしろこちらの方が本来の彼らしい剣なのだろうとレイロフは感じた。

 

 普通なら明らかに死んでいる、が。

 噴いた泡の白さから、恐らくは生きているのだろう。

 このような地獄を見る山賊は、むしろ死んだほうがマシと考えるだろうが、敗者に自身の生死を決める権限はないと考えるレイロフは、リクのやり方にノルドの戦士としての違和こそあれど、一度吐露させた彼の想いや信条に基づいて行われた物事に対して口出しをするほど野暮な男ではなかった。

 

「……一人目」

 

 血飛沫を浴びたリクは、致命的な目に降りかかる物だけを防ぐと、鋼鉄の剣を握り直し、盾に胴体を隠すようにして油断なく構えた。

 しかし、山賊たちは怖気づくことなく、リクの構えを上から崩そうと自らの武器を振り上げていた。

 

 ────リクの戦いを見て、レイロフはひとつ思い至る。

 

 苛烈な戦いとは裏腹の、殺しへの忌避感。

 戦士とも騎士とも違う、されど隔絶した蓄積を経たような、ある種の“嗅覚”の強さ。

 それに反するような、無数の敗北の上に成り立つような臆病さを武器とした、傍目に無骨ながら最大効率の戦運び。

 

 先程まで見せていた童話や寓話の騎士のように華麗な物とは違う彼の戦いに、なるほどそれなら、と納得できるのだ。

 

 リクから見える矛盾した人物像が、点と点を繋ぐように浮かび上がっていく。

 

 自分以外のすべてが自分よりも格上だと心底から思っていなければ取れないような、臆病ながら苛烈な攻勢。

 攻撃を小さく纏めることなど考えず、見えた勝機に躊躇いなく喰らいつき勝利を貪り獲るように。

 

 匹夫の勇とも違うそれは、名付けるとすれば、貧者の戦。

 

 それこそが彼の真骨頂。

 つまるところは、そう。

 

“彼の戦いは、そもそも人を敵と想定したものではない”のだ。

 

 怪物退治のほうが得意とは、おそらく冗談などではないのだろう。

 

 格上を殺し切る為に力なき者が培った力こそ、彼の本質。

 

 その研鑽と蓄積の果てが彼という存在なのだ、と。

 


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