人を護る、それが警官だ   作:虎の虎

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1話 警官だ

「やあ、具合はどうだい?」

 

「その声は、紅かい?」

 

 外は既に夜一色に染まっている。ここ、産屋敷邸は鬼を狩る組織である鬼殺隊の本拠地、そこに入れるのは、極小数しか居ないのだが、俺は特別に許可されている。

 

「こんな夜に、よく来てくれたね」

 

「まっ、俺みたいな身分は、昼間ウロチョロできるような者でもねえからな。で? 用があって呼んだんだろ? こんな刻にいったい何の用だ?」

 

 この喋り口調を聞いたら、柱は愚か鬼殺隊全員が黙ってないないだろうが、今は俺と産屋敷耀哉以外誰も居ないので、問題は無い。

 

 実は今日の朝、俺に烏が一羽飛んできた。喋る鴉だ、確か鎹烏といっただろうか。そいつが俺に、今日の昼頃か夜頃に、産屋敷邸に来て欲しい、と伝えた。鬼殺隊でも何でもない俺が、なぜそんな所に呼び出されなければならないのだろう、と舌打ちはした、まあ、()()()()()()()()()()()()()()

 

「ああ、君が鬼と素手でやり合っているというのが噂になっているのは、君も既に知っている事だね?」

 

「なんだ、説教かい? 別に禁止されている事でもない筈だが?」

 

「いいや、そうでは無い。鬼殺隊でも無く、更には鬼を殺せなくとも、鬼に怖がることも無く、真っ先に立ち向かうその姿勢に、私達は評価しているんだ。どうだい、君も鬼殺隊に入らないかい?」

 

 なるほど、確かにそれは理にかなっている、だが……

 

「断る。俺は警官だ、鬼殺隊にはならねえよ。それに、人の生活と平和を護るのが警官だ、人を護るために、鬼と立ち向かう。何も不思議なことじゃない」

 

 産屋敷耀哉は『そうか』と、そう答えるだろうと予想していたかのような、不気味な笑みを放った。

 

「……まったく、そういう所は変わらねえな」

 

「君の、自分が決めた事はねじ曲げないという、その性根の強さも、変わりようはないね」

 

「褒めてるのか、褒めてないのか……。さて、そろそろお暇するよ。具合悪くなっちゃ、目も当てられないからな」

 

「そうか、また来るといい」

 

 俺は産屋敷邸を後にし、山を下る。鬼殺隊に入れ……と言われたのは、この人生において、何回目だろうか。

 

 最初は、小さい頃に親父から言われた。親父は元柱で、俺を鬼殺隊に入れさせる、と意気揚々していた。

 

 ……だが、俺は呼吸が使えなかった。

 

 親父は散々俺を罵ったさ、継子がいねぇってさ。そんなの知った事じゃない。俺は直ぐに家を出た、何もかも、面倒くさくなったのだろう。

 

 その後は、一人の男に出会った。

 

 ……いや、この先のことを言うのは、やめておこう。

 

「……頭が痛い、夜は鬼が出るし、さっさと帰るか」

 

 過去を思い出すと、本当にロクな事がない。この人生の中で、俺は様々な事を体験した。……嫌な人生だ、と愚痴を漏らすことも、しばしばあった。

 

 まったく、神様は理不尽だ。もっと、立場を選ばせてくれりゃ、いいのにさ。

 

 あらゆる人が、俺を望んてはくれなかった。俺に有用価値を見出してくれたのは、あの時であった男と、警官の長だった。親は何一つ、俺にしてくれないまま、鬼に食われた。無様だよな、本当に。

 

 

 〇

 

 

 山を降りる途中、不意に俺は、耳に嫌な音が響くのを感じた。

 

「なんだ? 烏か?」

 

 いや、違う。金切り声と悲鳴だ。

 

「っち、本当に嫌な人生だ!!」

 

 音のする方向へかけ出す。この周辺は竹林で生い茂っており、産屋敷邸に行くのにも、場所を知らなければ、辿り着けないほど、入り組んでいる。余程場慣れしていなければ、走り抜けることも出来ないだろう。

 

 音の大きさで考えると、今いる場所から250メートル程度といった所か、それならすぐに追いつけるはずだ。

 

 次第に、音の正体が視界に入ってくる。一人は青年、もう一人はやっぱり鬼か。……()()()()()()()。ただの下級鬼のようだ。だが……

 

「俺の糧となれ、血鬼術 -鶉神楽(うずらかぐら)-」

 

「嫌だ……嫌だ!!」

 

「危ねぇ!!」

 

 その少年を掴み、地面を側転する。刹那俺に気づいた鬼は機敏な動きをし、こちらに腕を振り下ろしてきた。

 

 地面を蹴りあげ、鬼の腕を掴む。

 

 骨一本でも折れるか、と思ったが、こいつらは日輪刀か陽の光でしか殺せない、本当に迷惑だ。

 

「おい餓鬼、早く逃げろ」

 

「あ、ありがとうございますっ」

 

「てめぇ、人間のクセに、鬼である俺に牙をむくきか?」

 

「いいじゃねぇか、お前の好きな人肉が死にに来たんだぜ? さっきのアレはなんだ、血鬼術だろ? 今のは言動と名前的に、人間を食べやすい物に変化するってやつかい? いい趣味してんじゃねぇか」

 

「うるせえ!! 人間風情が!!」

 

 ──【血鬼術 -闘牛猛進(とうぎゅうもうしん)-】!! 

 

 血で出来た牛のような物が、こちらに向かって突進する。血を動物に変形したり、人を食べ物に変えようとしたりと、色々多種多様だな、こいつは。

 

 ぶっちゃけ、かなり面倒臭い。

 

「へぇ、中々面白い術じゃねえか。惚れ惚れしちゃうじゃないか、でもまだ足りねえな、これでおしまいかい?」

 

「うるさい!! うるさい!!」

 

 相手もヤケになっている、術を変えないという事は、これが一番強い血鬼術なのだろうか? まあいい、これぐらいなら、朝まで避けるのは容易い。

 

 血で出来た牛も相当ワンパターンだ。出てきた方角から、一直線に走ってきやがる。なので、足場を予測して、飛躍すれば、簡単に距離をつめられる。

 

「ホレ、もうこんなに近づいちまったぞ、よっと」

 

 ドガッと勢いよく飛躍し、相手の頸に足をまきつける。引きちぎろうにも、日輪刀以外では、鬼の頸を斬ることが出来ないし、このまま跨り続けたら、鬼に足を噛まれるのも、時間の問題だろう。そうなったらば、朝日が昇るまでに、俺はお陀仏だ。……なら、方法は一つしかない。しかも、今こいつは頭に血が上っている。考える知能もないし、まあ、()()するかは賭けだが。

 

「おい鬼さんよー、一つ聞きたいことがあるんだが?」

 

「離せっ、ゴラッ、そのまま足噛み砕くぞ!!」

 

「おう噛め噛め、でもこうやって人間である俺にナメられたまま、噛み砕いてしまったら、鬼の親玉さんが、黙っていないと思うんだがなあ、あ、もしかして、親玉さんも弱いから、大丈夫かな?」

 

「黙れっ、()()()()を馬鹿に……あっ」

 

「ッハハ、図星かい?」

 

 俺はズイっと頸から足を離し、地面に着地した。鬼は涙目に鳴りながら、ワナワナと何処かへ走り去っていった。その数秒後、鬼の()()()が破裂する音と、断末魔が鳴り響いた。

 

「……っち、いつ見ても、下らない呪いだな」

 

 空に浮かんでくる朝日の方角に向かって、俺は歩き出す。

 

 また今日も、いやな一日の始まりだ。

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