人を護る、それが警官だ 作:虎の虎
「私達の事なんて……どうでも!!」
「警官は人を護る、それが鬼殺隊だろうがなかろうが関係ねえ!!」
操られている鬼殺隊の日輪刀の速さが斬る度に増している。最初は俺をただの人間だと……いや、ただの餌だと思い込んでいたからか、速度はまるで赤子を殺すか来ような遅い勢いだった。
しかし今は違う。まるで我を忘れて敵を斬るだけの狂戦士の様な不器用さと速さ。不器用ということは、狙いも定まらずなりふり構わず振り回しているという事だ、それは即ち、考える必要が無いからこそ、素早く"斬る"という行動に移す事が出来る最善の策だと言える。
ただ、それには当然無理な行動も伴う事になる、ましてや操られた状態でそれを行うんだ、当然"器"となった者への負担は尋常じゃない。
「こんな行動、速さ……普通の人間が出来るわけ……ああ!!」
「ッチ、これで何回目だ!!」
既に10回以上は骨を折っている事だろう、先程からボキッという音が、乱雑に響き渡っている。痛々しい音で、かなり耳障りだ。そのおかけで既に、数回俺の肩や足を日輪刀が掠めている。血飛沫が吹き出し、激痛が走る。
この感覚は……何年ぶりだろうか。
こいつらが糸で操られているという事は、既に知り得た情報だ。しかし、敵もそれを承知しているため、中々背中を見せようとしない、相手の日輪刀の
「まだいるのか!!」
「お……お願いだ、殺してくれ、楽にしてくれ」
「もういいよ、貴方は逃げなさいよ!!」
「ッチ……警官は人を殺さねえ、見捨てたりも……し、ね、ぇんだよ!!」
片足で踏ん張りをつけてから、相手の腰あたりを見当つけてから蹴りあげる。すると、体勢を整えるために、ほんの僅か相手は背中を見せる。俺はその瞬間を狙い、背中の空間を木の棒で切り裂く。すると、操られていた鬼殺隊士はバタリと地面に身体をつけた。
「てめぇもだ!!」
「……っ」
後ろにいた鬼殺隊士も、同様の手順で解放する。このまま抱えて外に出よう、といいたい所だが、俺にはやらなければならない事がある。
鬼殺隊士を楽な体勢で、大木に縛り付ける。この山の蜘蛛の糸は、何故かしら頑丈である為、紐の代用には最適であった。
「……っよし、これでいいか」
「あ、貴方は、いったい……何者なんですか」
「……ただの警官だ」
そう告げて俺は先を急いだ。
〇
「どこだ、どこにいる、十二鬼月……!!」
傷ついた足と肩を抑えながら、今出せる最高時速の速さで、山の中を駆け走る。主に足の方に激痛が走り、時々転んでしまうこともあった。上品な上着が台無しじゃないか、と愚痴を漏らしてしまう程に、もうボロボロな状態であった。
「……まじで、警官長のジジイになんて言えば……いいんだっ、つう、の!!」
走ると蜘蛛が、再び俺めがけて糸を飛ばしてくる、これが本当に面倒くさい。蜘蛛は小さいため、斬る事は容易ではないため、飛ばしてくる蜘蛛の糸を切り裂くしかない。だが、斬り方を少しでも間違えると、逆に木の棒が絡まってしまい、そのまま身体の自由を奪われかねない。
速く走り、かつ的確な切り裂き力が要求される……いや、切り裂き力ってなんだよ。
「見た感じここの鬼は、そこら辺の鬼とは違って冷静だろう……でなきゃ、あんな感じに鬼殺隊士を操るなんてできねぇ、となると呪い発動は難しい、ならば下級の鬼は鬼殺隊士に任せるとして……」
俺は足を止め、上を見上げる。
蜘蛛の糸……4、5本で張り巡らされた足場の様な所に、一体の鬼が、足を止めていた。
気配が違う……、その姿を視界に入れただけで吐き気を誘うこの邪悪感。間違いないだろう、前言撤回する、十二鬼月は数字以外にも識別する方法があった。
……その、殺気だ。
「お前が、十二鬼月か? 君みたいな子は見たこともないが、もしかして下弦の組か」
「……」
少年は喋らない、ずっと月ばかりを眺めている、無視されるのが一番嫌いなんだ、俺は。
「聞きてえことがあるんだが?」
「……誰、今忙しいんだけど」
「とてもそうには見えないぃぃ!!?」
やべえわ、常識が通じねえ、人が喋っている時は喋らないって習わなかったのか? いや、鬼だから当然か。
それに、突如飛ばしてきたこいつの蜘蛛の糸……地面に当たると、たちまち地面が避けた。どうなってんだ……それ程硬い糸、ってことか?
「常識、ぶっ飛んでやがんな?」
「なんで鬼狩り以外がここにいるの? お母さんは取り逃しちゃったの?」
「あぁ? お母さん? なんの事だ?」
「君には関係ないよ、じゃあさよなら」
再び飛んでくる例の蜘蛛の糸、しかも今度は魚を網で捉えるかの如く、逃げ場を潰した上で放出した。あの地面の様子を見るに、この糸に触れたら終わりだ、木の棒でも無理。じゃあ、どうすればいいのか……。
「……これが今の下弦か、嫌昔と何一つ変わってねえか」
俺は肩から流れる血を手で拭った、その手を前へと伸ばし、空中に晒す。息を吸い込み、当時の頃を想起する。
力は弱くなったとは言えど、多少の融通はきかせられる。使う度に、自分はまだ"完全"ではないという気持ちに陥るが、それも致し方ない、まだ努力不足だという事だろう。
……完全な人間に戻れるのは、いつになるのだろうか。
「……弱・血鬼術
プツン
刹那、俺に放たれた蜘蛛の糸は一瞬にして途切れ、散り果てた。鬼も、一瞬困惑したが、すぐに正気を取り戻した。
「……貴様、鬼か」
「認めたくはねぇな」
頭痛が走り、嫌な記憶が想起される、当時の鬼舞辻の憎き顔、それらが何度も巡りに巡る。俺は苛立ちを覚えつつも、ジッとその鬼の数字を睨みつけていた。