辛いことは嫌だ。楽をして生きていたい。できることなら働きたくもない。
そんな甘ったれた考え方を持ったまま、農家の一人息子としてなぁなぁで生きてきた、十三年ぽっちの短い人生。ここで俺は人生の分岐点に立っている。
「鬼を殺すための剣士になるか。ここに残るか選べ」
家に帰ると、家族は死んでいた。そしてその下手人もそこにいた。
鬼と巷で噂になっている存在だと、直感的に理解した。親の死、自らの死を悟った次の瞬間、鬼の頸がゴトリと鈍い音を立てて落ちた。
俺も帰るのがもう少し早ければきっと死んでいたことだろう。
その少しの時間が俺の命を救った。
「……一ノ瀬
「桑島慈悟郎じゃ。師範と呼べ」
救ってくれたのは俺より少し背が小さいくらいの爺さん。
その爺さんは鬼を殺す組織の人間であるらしい。
そして、爺さんは身寄りのない俺を引き取ってくれると言うのだ。他に選択肢のなかった俺は喜んで飛びついた……のだが。
「辛くても苦しくても、楽な道に逃げるな」
爺さんの一喝とともに、拳骨が俺の頭に落とされた。
痛い。それと同時に楽な生き方をしたいという俺の目標をバッサリ切り捨てられる。
爺さんには拾ってくれた恩がある。助けてくれた恩がある。
だが、何より辛い。正直選択間違えた気がしてならない。
朝起きて体力づくりの走り込み。死ぬほど走らされる。加えて謎の呼吸法を用いながらという集中力も求められる。
きっつい!しんどい!あと爺さん俺を殴りすぎ!
数刻の時間をかけて走り込みを終えれば食事の休憩を挟んだ後に木刀の素振り。足の次は腕を痛めつけに来る。加えて、太刀筋が歪めば拳骨が飛んでくる鬼畜仕様。
疲れで太刀筋が歪み殴られ、殴られた痛みで太刀筋がさらに歪み殴られる最悪のループである。
さらには特殊な呼吸法の鍛錬。全集中の呼吸というものを会得しないと話にならないらしい。また、雷の呼吸という剣技?呼吸法?を会得しなければならない。
これもきつい。肺痛い、心臓ドクンドクンする。耳から血とか心臓が出そう。
以上の鍛錬を始めて約半年。俺は爺さんのところを逃げ出した。
そして逃走を始めてすぐ捕まった。
一度では飽き足らず二度三度と逃げ出したが、爺さんは小さな体に似つかわしくない圧倒的身体能力で俺を捕らえてくる。
そしてありがたーいお言葉と拳骨を頂戴するのだ。
「泣いていい、逃げてもいい、ただ諦めるな」
いや、逃げられないんですけど。せめて逃がしてくれてから言ってほしい言葉である。
しかし、さすがは爺さん。人生経験の長さ故か、重い言葉を僕にぶつけてくる。そして、爺さんは僕と話すとき必ず目を離さず、まっすぐに向き合ってくるのだ。
「……わかったよ、爺さん」
「わかればいい。それと、師範と呼べ」
「……あの流れでもう一度俺が逃げ出すとはさすがの爺さんも思うまい」
同じ日の夜、再びの脱走決行。
「そんなことだと思ったぞ馬鹿者め」
「げっ」
拳骨と、夜が明けるまでの素振りを申し付けられた。
楽をするために逃げ出したが結局一番つらい道に突き進んでいる気がしてならない。
こうなれば、明日からは作戦変更といくとしよう。
作戦変更。全集中の呼吸を持続することで、基礎体力の向上を図り、走り込みや素振りを疲れることなく行う!これぞ楽!
もちろん走り込みと素振りを終えた後だから体力もないし、なんなら走り込み前の鍛錬中も全集中の呼吸をやってたから全く楽はできていないのだが。
将来楽をするために今つらい思いなど本来したくはないのだが、今楽な思いなど爺さんが許してくれないのだ。
本当は嫌だが、呼吸法をマスターすれば鍛錬は軽くなる。あわよくば爺さんの拳骨を回避することができるようになりたい。
けれどやはり——
「——全集中の呼吸きついぃ」
肺を大きくしてより多く空気を肺に取り込むらしいのだがこれがまぁきつい。
爺さんのところに来てから半年。真面目に訓練してきたと思っているし実際努力してきた。
その結果、肺活量などは高まっているはずだが未だ全集中の呼吸を継続することができない。寝てる間も全集中とかやろうとしてるけどこれもまぁキツイ。無意識にできたらもうあとは余裕になると思うんだけどなぁ。
爺さんはどうしてこんなきついことをやっているのだろうか。現役引退したんじゃないの?育手なんじゃないの?もしかして鬼殺隊ってみんなこんなきつい訓練を乗り越えて入隊してるの?
鬼ってそんなに強いの?俺まだ全集中の呼吸だけで精いっぱいなんだけど。一日中やろうと頑張るけどどうしても途中で集中力が切れちゃうんだけど。
しかも最近は全集中の方に気を取られすぎて、雷の呼吸の型の習得をおろそかにしていたせいか爺さんは不機嫌である。
だって雷の呼吸の型って人間やめないと会得できないんだもん。なに?霹靂一閃って。爺さんの奴を見せてもらったけど速すぎて見えなかったし。
「ちゃんと見たか?」じゃないよ爺さん。速すぎて見えなかったよ。見せる気ないでしょ。
あんなの無理じゃない?しかもそれが基本の型ってどういうこと?人間やめないと雷の呼吸を会得できないの?
爺さんには後継はいないらしいんだけど、爺さんが厳しいから後継がいないのか、雷の呼吸の使い手が不甲斐ないからなのか。
でも雷の呼吸が柱になった時の鳴柱ってかっこいいなぁ。
「これ!ぼーっとするな!馬鹿者!」
爺さんの気配。全集中継続のための瞑想中に余計なことを考えたから、きっといつものように杖か拳骨が俺の頭に振り下ろされる。
しかし、いつもやられてばかりの俺ではない!感じろ、かわせっ!
ガツン。
「いってええぇえ!!」
はい無理でした。頭に振り下ろされたのをかっこよく首だけ傾けてかわそうとしたが、首より下が動いていなかったので、爺さんの杖が肩に直撃した。
「ほう。やるではないか」
「痛い!全集中の呼吸が途切れたらどうするのさ!今最高記録なんだから!」
「……ん?儂、常中なんて教えとらんぞ」
「教えてもらってないからな。俺の楽な未来のために勝手にやってるだけだから。常中っていうんだコレ」
「今、どれくらい続いておるのだ」
「朝からずっとだよ。まだ、寝てる間はできないから。今日は一回も途切らしてない」
「たった半年で、ゼロからここまで……よし!纒楽!今日からお前は儂の後継者じゃ!儂の全てを叩き込んでやるから覚悟せい!」
は?
「は?」
いやいやいやいや。ない。やだ。むり。今よりもっと辛くなるってことでしょ?無理無理無理無理。
逃げよう!
俺は瞑想をやめ、強く地面を蹴って逃げ出した。
五秒で捕まった。無理やん。結局無理やん。
常中もどきをやっているけどやっぱ爺さんには敵わないよ。なに?元柱とかだったりするの?桑島慈悟郎って知ってます?って鬼殺隊の人に聞いたらみんな知ってる強者とかじゃないよね?
「既に壱ノ型を会得しているならそう言わぬか」
いや、してませんけど。爺さんから逃げるために全力で地面を蹴って走っただけですけど。爺さんみたいに瞬間移動できてませんけど。爺さんの機嫌がめっちゃよくなってる。やめてよ、俺まだ何もできてないのに。
「よし、今日から打ち込みも追加しよう。一度型はすべて見せたな?それで儂から一本とってみるのだ」
「え、無理だけど」
「いくぞ。雷の呼吸壱ノ型——
「ひえっ」
——霹靂一閃
初日の打ち込みは木刀を交えることすらできなかった。
ていうかあの爺さんほんとに消えるんだけど。目に見えないんだけど。
あれから二週間。全集中・常中を会得することができた。気が付いたら寝てる間もできるようになってて、そっからはとんとん拍子だった。
爺さん的には普通雷の呼吸を覚えるのが先らしいが、正直こっちのほうが難しいと思う。
爺さんの繰り出す弐ノ型稲魂とかやばいんだけど。瞬き一回の間に繰り出される高速の五連撃……らしいのだが正直見えない。なんか刀がぶれたと思ったら雷が迸って俺の体が痛くなるという技。
……だから技が見えないんだから覚えるのとか無理でしょ!爺さんはバカだよね!
と、いうことで当面の目標は動体視力の強化と、基本である(らしい)瞬間移動(霹靂一閃)の会得、斬撃の不可視化(高速化)である。
……瞬間移動が基本ってなんやねん。
ということで、足腰の強化と、呼吸の仕方を覚えよう。
爺さんが言うには呼吸を整え、足に意識を集中させるらしいが、俺がやったところで瞬間移動にはならない。
せいぜいが高速移動である。
ということで、行き詰ったので爺さんに助言をもらうとしよう。
そもそも、なんで俺今まで爺さんのやつを一回見た(見えない)だけで頑張ろうとしてたの?
そんなの無理に決まってるじゃん。初めから爺さんに聞けばよかった。教えないとか、もっかいやるからよく見とけとか言われたら今晩逃げ出そう。
「爺さん、雷の呼吸のコツを教えて」
「そうだな、もっと自分の体を意識することだ。筋肉、血管の隅から隅まで意識して、空気と血を巡らせるのだ。それができてこそ、本物の全集中だ」
「……何言ってんの爺さん。血管を意識とかできるわけないでしょ」
ガツン。
本当のことを言っただけなのに殴られた。
でもなるほど、酸素と血をもっと体に巡らせればいいのか。血管や筋肉を意識という表現も理解できないわけではない。
めざせ、瞬間移動。
——雷の呼吸 壱ノ型霹靂一閃
ぐぐっ——ずんっ!
足を壊しました。めっちゃ痛かったけど今までで一番速いのできた。
「怪我したところに意識を向けろ、そうしたら痛みも止まる。まったく、体もまだ出来上がっていないのに神速など使うからこんなことになるのじゃ」
「……痛いままでいいんですけど。修行したくないし」
ガツン
もう何度目かもわからない拳骨を頂戴する。
足を怪我しているから殴られることはないと思っていたのに。爺さんには人の心という物がないのだろうか。
「馬鹿者、さすがに二週間は身体強化訓練はやらんわい。その期間は呼吸の強化に集中する」
じゃあ何で殴ったんだよ。最近の爺さんは容赦ない。
身体強化訓練を中止にする優しさがあるなら殴らないでほしいんですけど。
「足の先から頭のてっぺんまで自分の体を把握し、血管に酸素を送る。これができれば自分の体は思い通りに動くはずじゃ。あとは体が出来上がれば儂なぞ超えられる。焦るな、お前はちゃんと成長しているぞ」
……ちょっと、いやだいぶうれしい言葉をかけてくれるじゃないか。いつもこうなら俺も逃げ出さないよ。
俺は褒められて伸びる子よ?
「よーし、爺さん。今日は気分がいいから、夕飯は俺が作るよ!」
その日から、料理の特訓が追加されました。
おかしい、いつも爺さんが作ってるの見てたのになー。
鬼滅キャラ正直誰にも死んでほしくない。
幸せな世界がいいよね。
ちなみに善逸らはまだ弟子にもなってません。
第二回需要調査(どんな話が読みたいの?)
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胡蝶姉妹とイチャイチャ
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その他原作キャラとイチャイチャ
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鬼とイチャイチャ(血みどろ)
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師匠と弟子といちゃいちゃ
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さっさと原作突入しろ