相変わらず話があんまり進まないのにはご容赦を。
爺さんのところに戻ってきて数日。
爺さんの下で弟弟子二人に稽古をつけようと試行錯誤している。
そう、稽古をつけているのではなくつけようとしているのである。
弟弟子の一人である獪岳くんはしっかりと稽古を受けてくれる。少し性格が悪いのが玉に瑕だが才能はあるし、少しでも思いやりをもってくれれば俺はうれしいのだが。
問題は獪岳ではないのだ。
もう一人の我妻善逸という問題児には稽古をつけられていないのである。
実際にはある程度稽古をつけることができているのだけれど、すぐ泣きごとを言い、逃げ出すのである。
善逸はとても面倒くさい奴なのである。
せっかく鳴柱である俺や元鳴柱である爺さんが稽古をつけてやろうとしているのに逃げ出すとは何事か。
……俺もかつては逃げ出し、騒いだあげくにどうにかして楽をしようとしていたわけだけれども、それはそれというやつである。
善逸がどうして育手のもとにいるのかも聞いている。やはり鬼への復讐心というものがない俺や善逸のような人間は向上心や気力がわかないのである。
だから使命感などなく、楽に生活していたいという想いがどうしても先行してしまうのである。
その結果鬼ごっこが開催される。
「いぃぃやぁぁぁ!!」
「善逸ぅ!逃げるでない!」
善逸のやつ、逃げ足が異様に速いのである。
俺も善逸を捕まえるのに加担してもいいのだが正直面倒なので爺さんに任せて俺は獪岳の面倒を見ている。
「獪岳は逃げないんだな」
「柱に稽古をつけてもらえる機会なんて然う然うないからなぁ!」
意気揚々と斬りかかってくる獪岳。
相も変わらず悪者のような笑みを浮かべている。
「敬語を使いなさい」
どごっ。
振り下ろされる木刀を回避して獪岳の鳩尾に拳を振るう。
地に伏した獪岳を踏みつけ動きを封じる。
獪岳は鍛錬には積極的なのだけれど礼儀という物を知らないのだ。
それに加えて計算高い。常に自分が有利になろうと画策して次の動きを模索している。
闘いにおいて常に考えをめぐらすのは悪いことではない。
だが獪岳はそればかりを考えすぎている節がある。
「ちょっとは馬鹿になってもいいと思うなぁ」
「踏むなぁ!」
「おっとごめんよ」
きっと獪岳が壱ノ型だけ使うことができないのもそれが原因なのだと思う。
ひねくれているからまっすぐ突き進む霹靂一閃に至らない。
神速の踏み込みからの抜刀。決まれば必殺。
しかし動きがあまりに単調すぎるのだ。線を読まれれば逆にそれに合わせた攻撃が飛んでくる。
そういうことを考えてしまうから獪岳は踏み込み切れない……のかも。
「なんだよ馬鹿になれって。アンタみたいになるのはごめんだ」
「アァン!?誰が馬鹿だ」
「アンタも善逸の奴も馬鹿だろうが」
「口悪いなこの野郎!」
そんな奴にはお仕置き張り手じゃい!
フハハハハハ、兄弟子様に逆らうからこうなるのだ。
「いでぇ!この野郎、口で勝てないからすぐ暴力か!」
「んだと!雑魚のくせに調子に乗るなよ!」
「アンタなんかすぐに超えて柱の座奪ってやるよ!」
「俺が生きてる間に奪えるといいなぁ!」
お互い売り言葉に買い言葉。
謎の舌戦が繰り広げられるその様は傍から見たらなんと醜い争いであることか。
醜いとわかっていながらこの戦いに手を抜くことはしない。
兄弟子として、柱として、この生意気な獪岳に負けるわけにはいかないのである。
「ねぇ、向こうで兄弟子たちが喧嘩してるよ!?止めに行ったほうがいいんじゃない!?」
善逸はいまだに騒ぎながら逃げ回っているらしい。
変なところで根性があるところは俺と似ているのかもしれない。
獪岳との口喧嘩が終わると、冷静になった頭で獪岳に俺の想いを伝える。
「獪岳、俺はお前に期待してる」
正確にはお前たちに、だがそこは獪岳の性格を鑑みて伏せておくのが吉というやつだろう。
「俺は、爺さんの弟子として爺さんの顔に泥を塗らないためにも、鳴柱を継いでいかないといけないと思う。俺に何かあれば、お前が柱の名を継げるようにしておいて欲しい」
これは本音だ。
爺さんの弟子が鳴柱の名を継いでいく。
ここまでできて本当に恩返しだと、そう思う。
俺の弟子を主張するカナエが柱に就任したからそれでよしというわけではない。
やはり、雷の呼吸の使い手を育てなければという想いがある。
獪岳の口角が吊り上がる。
優越感による笑みか、それとも承認欲求が満たされたからか。
やはり獪岳は少し歪んでいる。その歪みは危うさにつながるかもしれない。
「で、獪岳。今のお前には無理だと思ってる」
「無理じゃねぇ!」
「いいから聞け。雷の呼吸を、壱ノ型を会得できないお前に鳴柱の座は渡せないんだ」
これも本当のこと。雷の呼吸の始まりの型である霹靂一閃を会得せずして柱の座は渡せない。
一方で、霹靂一閃だけを極めようとしている善逸には渡してもいいと思っている。
「だから俺がお前に稽古をつける。それを身に着けて柱になるか。一生下っ端隊士でいるかはお前次第だ」
俺や爺さんに教えを受けたなら、柱になれるかどうかはもう当人次第である。
獪岳がどれだけ鳴柱という座に執着できるか、馬鹿になれるか。
「そのためにお前は馬鹿にならなくちゃいけない」
「だから何でそこで馬鹿になる必要があるんだよ」
「お前がお前の身をなげうって何かをなせるようになれたら、きっとお前は柱に届く」
そういった面では善逸が勝っている。
でも、獪岳がほんの少しでも馬鹿になれたのなら。
「……わかんねぇな」
「きっと鬼殺をしていたらわかるときがくる」
守らないといけない無辜の民と自分の身の安全を天秤にかけることが常である鬼殺隊。
「……まぁ、覚えとく」
うん。兄弟子の教えを胸にとどめておくその姿には好感が持てるぞぅ!
お兄さん張り切っちゃおうかなぁ!
「よし、獪岳、構えろ!」
「は?急にやる気出してどうしたんだよ」
獪岳が霹靂一閃を使えないというのなら、とりあえずはそれ以外の型を鍛えればいい!俺が作った捌ノ型も会得できるに違いない。
ぐふふ、俺の隠居生活のために頼むぞ獪岳!
あと、爺さんのことを先生って呼んで慕っているなら俺のことも尊敬して敬語で話してもらいたいのだけれども。
でも、この後どれだけボコボコにしても獪岳が俺に対して敬意を払うことはなかった。
なんて礼儀のなっていないやつなんだ!
◯
獪岳をボコボコにしたあとやりすぎだと爺さんに怒られてしまったので、獪岳との稽古は終わり善逸との鬼ごっこに参加することになった。
「ぎゃー!なんで纏楽さんも追いかけてくるんだよぉー!」
「だいじょうぶ、優しく稽古をつけてやるから」
「さっき獪岳がボコボコにされてるの見てたからね!信じられるわけないでしょ!」
この鬼ごっこも違う見方をすれば走り込みの鍛錬なので続けるのもやぶさかではない。
爺さんの稽古から散々逃げ回っていた俺が捕まえる側に回るなんて考えもしなかったなぁ。
ちょっと難易度を上げてやろうかな。
シィィィィィィ
「反則!呼吸使うのは反則じゃない!?大人げないと思わないの!?」
「雷の呼吸 壱ノ型」
「聞いてる!?聞いてないね!楽しい!?弟弟子いじめて楽しい!?」
――霹靂一閃(弱)
流石に本気で踏み込んでうっかり腕が善逸の顔に当たってしまうとシャレにならないので割と出力を抑えた霹靂一閃。それでも速度は善逸の霹靂一閃よりも速い。
これにどう対処するのか……
「木に登るのはずるじゃない?」
「アンタが言うなぁぁぁぁ!!!こんな才能も実力もない俺に壱ノ型なんて使う方がずるだわ!ふざけんな!」
「ったく」
「登ってこないでよ!やめてぇぇ!壱ノ型しか使えない弟弟子でごめん!でも無理なものは無理なので!」
近くに行けば行くほど騒ぎ出す善逸。流石にうるさいのだけれども、無理やりにでも引きずりおろさなければ修行なんてしないのは俺もよくわかっているのでここは強引に行かなければ。
「落ちるっ、落ちるからぁ!引っ張らないでよぉぉう!」
「お前は猿か!いいからさっさと枝離せ!」
木の上にしがみついて涙を流す善逸と同じく木の上に登って善逸を落とそうとする俺。
これが修行をする前段階だとはだれも思うまい。
「……お前たちは何をしとるんじゃ」
見かねた爺さんが木の下から声をかけてくる。
違うんです!俺は修行しようって言ってるのに善逸が逃げるんです!だから拳骨は善逸だけにしてください!
「どんだけ努力してもダメなんだよ!壱ノ型以外は全く使える気配がないの!最近全く寝てないからね!俺!」
善逸がなぜ壱ノ型以外の型を使えないのかは分からない。
だけど、それだから才能がないと考えるのは早計である。
壱ノ型が使えるのならば漆ノ型や、玖ノ型も使えるかもしれない。
「善逸!いったん降りて話をしよう!大丈夫!型の稽古じゃないからボコボコにはしない!」
「俺を騙そうとしたって無駄だもんね!話ならここでもできるでしょ!」
「こんな木の上で大事な話をする奴があるか!」
「あるかもしれないじゃん!そうやって否定から入るのはいけないと思う!」
「じゃあお前もできないって否定から入るのはやめ――」
ピカッ
一瞬視界が白く光ったかと思えば次の瞬間には体に迸る異様なまでの熱と痛み。
体がしびれ、掴んでいた枝から手を放してしまう。
視界の端に映る善逸も同様だった。
俺は強引に呼吸で体を動かすと、落下する善逸を抱き込むようにして二人で仲良く地面に落ちた。
俺と善逸が登っていた木が燃えている。
こんな天気のいい日に突如雷が落ちたとでもいうのか。
「大丈夫か、善逸」
「う、うん。痛いけど」
胸の中の善逸も意識があるようで大事には至っていないようだが、何やら善逸の髪の毛の色が黒から金色に変わっている。
雷に打たれてこれで済んだのだから不幸中の幸いというやつであろう。
俺も自分の体を確認してみたが問題はない。
強いて言うのなら首元から肩にかけて稲妻のような火傷ができてしまったくらいだろうか。
「善逸、壱ノ型だけしか使えないのならそれを極めろ。一つの刃を極限まで叩き上げるのだ」
無事なことを確認したかと思えば爺さんの説教のお時間である。
善逸はポカポカと頭を殴られているため涙目である。
「善逸、壱ノ型だけしか使えないなんてこともないんだ」
「壱ノ型を昇華させた漆ノ型。玖ノ型だってある。諦めるな」
「でも……」
「俺は漆ノ型で女を落とした」
「教えてください纏楽様!」
善逸はすぐさま飛びついた。
……結局男なんてこんなものである。
「それにはやっぱり壱ノ型だけしか使えないことに腐らずに、爺さんの下で鍛錬を積むんだな」
爺さんはきっと善逸の努力や才能を認めているのだろう。
善逸と出会ってそんなに時間のたっていない俺にはわからないけれど、爺さんは根気よく善逸に付き合って修行をつけているのである。
爺さんは本当に才能のない人間に強くなる見込みがないのに努力をさせるような人間ではない。
「爺さんについていけば、お前も柱になれるくらいの強さを手に入れられるよ」
「いいことを言うようになったではないか」
「いや、別に柱になるつもりはないんで」
……ちょっといい話をしたのにそれをぶち壊すようなことを宣った善逸。
ちょっと、いや、だいぶ腹が立った俺は善逸の稽古に手を抜かないことを誓ったのであった。
もうすぐ鬼滅の刃終わりそうで寂しいです。
そして誰も死なないでくれ。
感想評価というエネルギーを欲しているのでどうぞ宜しく。
第二回需要調査(どんな話が読みたいの?)
-
胡蝶姉妹とイチャイチャ
-
その他原作キャラとイチャイチャ
-
鬼とイチャイチャ(血みどろ)
-
師匠と弟子といちゃいちゃ
-
さっさと原作突入しろ