纏楽さんと姉さんの帰りを待っている私、アオイ、カナヲ、きよ、すみ、なほの六人の蝶屋敷の住人。
私たちは纏楽さんと姉さんが鬼殺の仕事に出かけるたびに不安で仕方なくなってしまって中々寝付けないのである。
纏楽さんなんかは自分の家は別にあるのに私たちを安心させるためか仕事終わりには必ず蝶屋敷に寄ってくれる。
しかも蝶屋敷の従業員全員に甘い纏楽さんは高確率でお土産を持って帰ってくるので特にきよ、すみ、なほの三人からは今か今かと帰宅を望まれている。
だから夜遅くまで私たちは蝶屋敷の縁側に座って二人の帰りを待つのである。
そうして帰ってきた二人に早く寝なさいとみんなで怒られることが嬉しかった。
無事に帰ってきてくれるのが嬉しかった。
カナヲも無感情のようで時折人らしさを見せる時がある。
私や姉さん、纏楽さんが抱きしめるとごくまれにだけれど抱きしめ返してくれる時がある。
アオイもカナヲと一緒で姉さんと纏楽さんによく可愛がられている。
きよ、すみ、なほよりも年上であることから子ども扱いされることに表面上は嫌がっているが内心は喜んでいることを私たちは知っている。
つまるところ、蝶屋敷に住む私たちは姉さんと纏楽さんのことが大好きだった。
それはどんなに恥ずかしがったとしても誰も否定しない純然たる事実だ。
だからこそ、今回の報告にはみんなが驚き、慌てふためいた。
カナヲ以外のみんなは目に涙を浮かべていた。
『上弦の弐の討伐』
百年以上欠けることのなかった上弦の鬼、その一角を倒したという報告。
でも、私たちが衝撃を受けたのはそっちではなかった。
『一ノ瀬纏楽、胡蝶カナエ重症』
鎹鴉がそう口にした時私たちは何を言っているのか理解が追い付かなかったのである。
私たちは二人の強さをよく知っている。
いつも二人は怪我なんかない綺麗な体で笑顔を浮かべて帰ってきてくれる、私たちにとっての最強の二人だった。
息もぴったりで二人で戦えばどんな鬼が相手だろうと関係ない、そう思っていた。
数瞬の沈黙ののちに私は怒声ともとれるほどの声音で指示を飛ばした。
「屋敷にある薬と包帯、手術道具をありったけ持ってきて!手術室もすぐに使えるように!カナヲ、不足分を買い出しに行ってきて、早く!」
私の言葉によってみんなバタバタと屋敷内を駆け回る。
重症ということは二人はまだ生きている。なら、私たちならきっと二人を助けることができる。
「鳴柱様と花柱様をお連れしました!」
隠の方たちが担いできた二人は血みどろで意識はなかった。
喉の奥から漏れ出そうな悲鳴を噛み殺し、手術室に運ばせる。
そうだ、姉さんが倒れた今、蝶屋敷を取り仕切るのは私。
私が冷静にならないと、だれが二人を助けるというのか。
二人の容体は芳しくなかった。
骨折、出血多量、切り傷。
纏楽さんは脇腹をえぐられていて、姉さんは左肩付近を貫かれていた。
纏楽さんは熱もひどくて今にも死んでしまいそうだった。
だというのに、突然目を覚ましたのだ。
「俺は大丈夫だからカナエを先に助けてやってくれ」
正直、より危ないのは纏楽さんだったと思う。
出血に骨折、高熱。もうどこから手を付けていいかもわからないくらいだったのだから。
「熱は大丈夫なんだよ。調子がいいんだ。だから呼吸も安定してる。カナエの方が危ないんだ」
患者に優先順位を決められるなんて医者としては恥ずべきものだったが、おかげで私は姉さんも、纏楽さんも助けることができた。
ただ、不安なのは……
「纏楽さんのその痣、どういうことなんでしょう」
以前、育手の下に帰省したときにできた稲妻のような火傷痕。
そこには痣が浮き出ていた。
しかも、上弦の弐のもとから生還したときは色濃く浮き出ていたのだけれど、今は薄くなっている。
加えて、一向に下がる気配が見られない体温。
纏楽さんは大丈夫だと言っていたけれど、不安なものは不安だ。
「さぁな」
纏楽さんはたった一週間で目を覚ました。
あれだけ血を流していて、あれだけ高熱を出していて、すぐに目を覚ましすぐに機能回復訓練に取り組んでいた。
一方の姉さんも容体は非常に安定していてすぐにでも目を覚ますと思う。
「しのぶも寝たらどうだ。ずっと俺たちにつきっきりであんまり休めてないだろ」
纏楽さんはこうして私に気を使う。
「私、ようやく二人の気持ちが分かったんです」
私に鬼殺隊に入って欲しくないって思っていること。
できることなら安全なところで幸せに暮らしていて欲しいということ。
弱い自分が、纏楽さんの足を引っ張っている自分が悔しくて無茶な訓練を繰り返していること。
鬼殺隊なんて早々に引退して育手として暮らしていたいということ。
鬼が憎くても、それを忘れて幸せを掴もうとすること。
鬼殺隊に所属するということはつまり、幸せを投げ捨てることと同義である。
私が二人に危険な目にあって欲しくないのと同様に二人は私に危険な目にあってほしくないのである。
「だって、私はやっぱり何もできなかった」
「しのぶは俺たちを助けてくれただろ」
違うのだ。傷ついたものを助けるという行為はすべてが遅いのだ。
私は、守りたいのだ。
誰かが傷つくのが、大切な人が怪我をして帰ってくるのがどうしようもなく悔しい。
私が無力なことが、守られているだけという感覚を加速させる。
「纏楽さん、やっぱり私鬼殺隊に入ります」
「……悩んでたもんな」
「はい。姉さんみたいに柱になります」
「大変だぞ」
そう、私には普通の隊士と同じことができない。
毒を使ってしか鬼を殺すことができない。
自ら歩むはいばらの道。
でも、そうでもしないと私は結局大好きな二人に置いていかれてしまうから。
「大丈夫ですよ、纏楽さん。私は姉さんの妹で、纏楽さんの恋人なんですから」
◯
カナエが目を覚ましたのはしのぶが決意を俺に吐露した翌日だった。
カナエにも俺と同様に後遺症は残っていなかったので無事柱として復帰できることだろう。
強いて言うのなら、俺をかばった際の肩付近の傷跡が残ってしまっていること。
俺がふがいなかったせいでカナエに一生モノの傷跡ができてしまった。
それについて俺がカナエに謝罪すると「気にしないで」と笑って許してくれたが、俺は俺を許せない。
上弦の弐だってカナエや実弥、五味がいなければ倒せなかった。
俺はまだまだ弱い。
今度こそ、何もかも綺麗にまるっと守れるようにもっと強くならなければならない。
俺もカナエも意識が戻ったので、これから元のように体を動かせるようにならなければいけない。
「纏楽くん」
「どうした?」
隣の寝台から話しかけてくるカナエ。
二人して同じ病室で寝ているので必要以上に体を動かすなといわれているけれど退屈はしなかった。
「纏楽くんの方にいっていい?」
「ああ、いいよ」
そういうとカナエは俺と二人で少し手狭な寝台に入った。
カナエはやはり暖かく、柔らかかった。
「ふふふっ、あったかいわね」
ぎゅっと抱き着いてくるカナエ。
ただその手は少し震えている。
「大丈夫、俺は死なないよ」
「……私ね、悔しい。上弦の弐を相手にして纏楽くんの足手纏いにはならなかったけど、結局私は何もしてない」
こういうところで同じ悩みを抱えているあたり流石姉妹だなと思ってしまう。
「足手纏いになったのは俺だった。カナエがかばってくれなかったら死んでたよ」
俺が先んじて倒れなければカナエが俺をかばって貫かれることなどなかったのだ。
そう考えるとカナエの俺の隣に立ちたいというかねてからの願いは叶っているといっていいだろう。
「ううん、でもそれだけ。纏楽くんが私を守りたいって思ってくれているように、私だって纏楽くんのことを守りたいのよ。だから、私も強くなるわ」
「こんな甘えてるのに?」
「これは、その、補給だから」
強さを求めているとは思えないほどにカナエはしっかりと俺に抱き着いていて一向に離れるそぶりを見せない。
でも、あんなに強い鬼と戦った後なのだから仕方ないとも思う。
いつお互い命を落とすか分からないということを今回の戦いで再認識させられた。
だから今をこうして全力で幸せと言えるようにすることは俺たち鬼殺隊にとっては重要なのかもしれない。
この幸せを壊したくないという想いが俺たちを生へとしがみつかせるのだろう。
「私、柱の座を退こうか考えたの。でも、やっぱり私は柱であり続けようと思う」
カナエも進退について考えていたようである。
俺も考えた、だって上弦の弐を討伐という偉業を成し遂げたのだから引退してもいいんじゃないかって。
でも、やっぱり俺が引退するのは獪岳や善逸に全部任せられるようになってからだと思った。
「鬼殺は怖いし、私は弱いし、纏楽くんのことを最後まで守れなかった」
「そんなことないよ」
「でも、最愛の妹と最愛の恋人二人が強くなりたいって思ってるなら、負けてられないでしょ?」
「カナエは強いな」
ぎゅっと俺からもカナエを強く抱きしめた。
強がっている女の子に負けたくなくて、一人にはしたくなくて抱きしめた。
「纏楽くんも甘えてるじゃない」
「俺は年下だからいいの」
「あらあら、じゃあお姉さんの私は甘えさせてあげなきゃね」
正面から抱きしめたことで俺の顔はカナエの頸元に納まる。
そうすると自然と目に入る傷跡。
そっとその傷に触れる。
「ひゃん」
「……色っぽい声出さないでくれ」
「纏楽くんが触るからじゃない。私は気にしてないって言ってるのに」
「はい、分かりましたもう気にしません!」
傷は気にしない。
でも、他にも気になるものはある。
「あんっ、なんでまだ触ってるの?」
「白くて綺麗な肌だなぁと思って」
「えっち」
「心配してただけなのにカナエが色っぽい声出したのが悪い」
「むぅ、私も触るもんね」
そういうとカナエは俺の頸の付け根にある痣付近を優しく触り始めた。
特にいやらしいことをされているわけではないのに妙にくすぐったい。
俺も負けじとカナエの頸から肩、鎖骨あたりを優しく撫でる。
はぁ、はふぅ
お互いに息が荒くなってくる。
頬は赤く染まり、互いに言葉数が減ってきた。
この部屋に俺たち以外の患者はいないために待ったをかける人間がいないのである。
そのため余計に俺たちは調子に乗ってしまうのだった。
「んっ」
そろりそろりと俺の手はカナエの着物の中に伸びていく。
カナエの体はびくっと揺れたが、俺を止めることはなかった。
俺の手はカナエの素肌を、背中を撫でる。
それに対抗するようにカナエの手も俺の着物の中に入ってくる。
俺たちの服装がいつもの隊服ではなく、しのぶが診察しやすいように着物を着ているのが俺たちの行動を加速させている。
「カナエ…」
俺はカナエの唇に吸い付いた。
お互いが生きて帰ったことを喜ぶように、これでもかと愛を表現する。
ふにっ
カナエの着物の中に入れた俺の手が何か柔らかいものに触れた。
何に触れたかすぐに理解したのちに、カナエが何も言わないのをいいことにもう一度手を伸ばす。
ふにふにと、柔らかいものを存分に堪能する。
それに対抗するようにカナエは俺の口の中に自分の舌を押し込んでくる。
……子供ができたら当分は働かなくてもよくなんないかなぁ、なんてことが頭をよぎる。
というか、こんな昼間にそういうことをするというのはいかがなものだろうかとも思う。
でももう今更止まることはできないので、このままカナエの着物を脱がせ——
「な、な、なぁっ、何してるのよーー!!!」
俺たちの診察をしにきたらしいしのぶが俺たちの暴走を止めた。
顔を真っ赤にして、口調を昔のように戻したしのぶ。完全に動揺している。
「しのぶも混ざる?」
俺とカナエの口の間にはいやらしく糸がかかっている。
「混ざらないっ!!!」
「でも、恋人同士なんだしそういうこともするでしょ?」
「そうかもしれないけど、こんな時間から病室でなんてだめよ!姉さんの着物がはだけてるのは纏楽さんがやったのよね」
「うん、カナエの全部が見たくて」
「そういうことは聞いてない!」
正直に白状しただけなのにすごい勢いで怒られてしまった。
そんなに怒らなくてもしのぶを仲間外れになんてしないのに。
「私の体どうだった?」
「まだ全部は見れてないけど最高に決まってんじゃん」
「男の子は胸が大好きなのって本当なのね」
俺が熱心にカナエの胸を触っていたことがバレていたようだ。
非常に柔らかかったです!!!
「二人の病室、離すからね!」
その後、本当に俺とカナエの病室は別々にされた。
カナエが夜中にこそこそ俺の病室に乗り込んできたけれど、しのぶに見つかってさらにお説教を喰らってしまったのはまた別の話。
R18は書きません。
というか書けません。この話も際どいけど怒られないかな。
私の文章力でR18とか需要ないしね。
この話でちょっとでもドキッとしたら感想評価を残していってください。
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