「姉さんも纏楽さんもゆっくりしててください」
そんな言葉を療養中によく聞く。
しのぶは俺とカナエを病室や縁側に押しやって自分は他の従業員とともにせっせと働くのだ。
俺もカナエも何か簡単なことでも手伝おうとするが、すぐにその仕事は奪い取られて手持ち無沙汰になることがしばしば。
文字通り生死をかけた激戦を潜り抜け上弦の弐を倒し、代償として大けがを負ったわけなので俺たちに気を使ってくれているのはわかるのだけれど、何もさせてもらえないというのは悲しい。
最近はカナエとくっついてばかりで労働というものをした覚えがない。
「私たち、いらない子なのかしら」
「良心が痛みすぎてゆっくりなんて出来ないよなぁ」
本来ならば俺はこの様に何もしなくていい生活を望んでいたのだけれど、しのぶがこれでもかと働いているのに俺はぐーたらとか良くないと思うのだ。
こんな形での楽な生活は望んじゃいない。
「なんで絶対に忙しいのに忙しくないなんて嘘つくのかな」
「しのぶをあんな風に育てた覚えないわ!」
「しのぶは小さいのに頑張りすぎだよな!」
「私たちも働きたい!」
しのぶはあんなに小さな体で、年齢もまだまだ子供といえる頃。
そんなしのぶがせっせと働き鬼殺隊に貢献しているというのに俺たちはその間何もしていない。
完全に悪人である。
なのでしのぶに異議の申し立てをしている真っ最中なのだ。
「あの、診察室の前で騒がないでもらえます?」
俺たちの熱い言葉に隊士の診察をしていたしのぶがたまらず顔をだした。
しのぶが怒っていることはだれの目から見てもわかるほどだけれど俺たちはその程度では怯まない。
「俺たちも働かせて!」
「姉さんさみしいなぁ」
しのぶは俺たちに非常に甘いところがあるのでこうして押せばなんとかなるのである。
「はぁ、そもそも姉さんはともかく纏楽さんはここの従業員じゃないでしょう」
「……しのぶのばかー!」
俺は涙を流しながら蝶屋敷を飛び出した。
何故かよくわからないけれど、にこにこしながらカナエも後ろについてきた。
カナエは従業員どころか蝶屋敷の代表だからのけ者にされてないよね?
「というわけなんだよ、ひどいと思わないか?」
「思わない」
「冨岡くん、いつもそんな調子なの?」
蝶屋敷を飛び出した俺たちは口下手な水柱こと冨岡義勇の屋敷に押し掛けた。
屋敷の前で「入るぞ!」と大声で叫ぶと返事も聞かずに俺たちは屋敷の中に押し入った。
俺たちが許可も取らずに勝手に入ってきたことに義勇はひどく驚いたような顔を……していたかはよくわからないけど、心なしかいつもよりも態度が冷たい気がする。
「冨岡くん、こういうこと言うのは悲しいんだけどね、そんな調子じゃみんなに嫌われるわよ」
「もう嫌われている気がするのは気のせいだろうか」
「……俺は嫌われてない」
勝手に屋敷に押し入った挙句に「お前嫌われてるよ」なんて言う俺たちのほうが嫌われそうな気がするけれどそれは気にしないことにしておく。
「なぁ義勇お前のそういう口下手というか、口数が足りていないところどうにかならないのか?」
「俺は口数足りている」
「足りてないから指摘されてるのにそこで変な意地を張ってるから嫌われるんだよ」
「不死川くんなんかとは相性悪そうよね」
「……不死川とは仲がいい」
誰もが一発で嘘とわかる発言をしてしまう義勇。
こいつの場合嘘をついているのではなく本当に仲がいいと認識しているのが悲しいところである。
「うっそだろ、あの不良と仲がいいやつとか俺と匡近くらいだろ」
「冨岡くんと不死川くんいつ仲良くなったの?」
「……」
急に黙り込んでしまう義勇。
まさか何の根拠もなく仲がいいなんてのたまったのだろうか。
「…………目が合った」
「ごめんカナエ、俺なんか話聞き逃しちゃったかな」
「ううん、たぶんだけど聞き逃してないと思うな」
長い沈黙を破った末に出てきた言葉が「目が合った」の一言のみ。
そこから義勇と実弥の仲がいいこととどう結び付ければいいのだろうか。
「えっともう少しわかりやすく説明してくれるかな?」
「……あれは、三日前のこと」
「なんかいきなり過去編始まった」
「もう少し前置きとか必要だと思うわ」
完全に義勇の言動に振り回され理解が追い付かない俺たち。
だがここで話をさえぎってしまってはそれこそ真相は迷宮入りしかねないので黙って聞くことにした。
が、結局義勇の話から読み取れたのは断片的な情報だけだった。
・まだ柱の担当領域に慣れてない実弥と偶然仕事で一緒になった
・なんか一緒に鬼を斬った
・実弥が元気に話しかけてくれた
これくらいである。
「ねぇ、纏楽くん、冨岡くんって」
「天然だし人の感情に疎いな間違いなく」
義勇の話から察するに仲は良くないしむしろ嫌われているのだと思う。
実弥が元気に話しかけてくるとか間違いなく激怒しているに違いない。
目が合ったというのは言葉にせずとも息を合わせて鬼を斬ったということなのだろう。
だがそもそも水の呼吸というのは戦況に合わせて柔軟に対応できるものだから、二人の仲がいいというよりは水の呼吸が共闘に向いているというだけではなかろうか。
だがしかし義勇はそこに気が付かず実弥と仲がいいと誤認している。
この悲しい事態に俺もカナエもどうしたものかと顔を見合わせる。
「俺とカナエと比べて義勇と実弥はどうだ?」
俺とカナエは相当仲がいいと自負するくらいには以心伝心である。
だから比較してもらうことで義勇に自分が好かれているかどうかを確認してもらいたい。
「……夫婦仲とは比較できないだろう」
「冨岡くん、あなたは嫌われてないわ」
「カナエ!?」
「だって夫婦には敵わないって言ってくれたのよ?」
夫婦ではないのに夫婦とみてもらえることに気をよくしたカナエは義勇の主張を認めてしまった。
そんなことでは周りから義勇への評価が下がっていくだけだというのに。
「いつか、お前のことをわかってくれる奴に出会えるといいな」
「……不死川とは分かり合ってる」
特に何も考えずに義勇の家に来たけれど、義勇の天然すぎる言動に振り回され疲れたので俺たちは家を出た。
「また来るな」
「お邪魔しましたー」
去り際に義勇が「もう来なくていい」とか言っていたような気がしたが気にしないことにした。
「冨岡くん、いい人だったわね。ちょこっと変だけど」
「夫婦って言われただけでいい人認定しちゃうんだ」
「だってうれしかったんですもの」
「いつか本当になることなのに?」
俺の言葉に気をよくしたカナエは俺の腕に引っ付いて離れなくなった。
非常に歩きづらいけれど幸せなので気にしないことにした。
「ところで纏楽くん、これはどこに向かってるの?」
「あ、そうだ家出してるんだった」
俺の家でもないので家でとも言えないけれど、今はしのぶのもとに帰らない。
帰りたくないわけではない。本音を赤裸々に語るのであれば今すぐしのぶを抱きしめたいのだがそこを強い意志でぐっとこらえて蝶屋敷には帰らない。
今日は試しに外食をしてこようと思う。短い家出、もはやただの外出である。
しかし特にやることもないのでどうしたものか。
こういう時に趣味なんかあればいいのだろう。でも親を亡くしてからじいさんにしごかれ、趣味なんてものはとっくのとうになくしてしまった。
しいて言うのなら女(胡蝶姉妹)に尽くすことが趣味であるために、やることがない。
「カナエはどこか行きたいところはないのか」
「纏楽くんといっしょならどこへでも」
俺と一緒ならどこへでもと言ってくれるのはうれしいのだけれども、こういう暇を持て余してるときにそれだとどうしたらいいかまったくわからないではないか。
「そうだ、匡近にご飯連れてく約束してたんだった」
「それ私も一緒に行っていい?」
「まぁ、いいんじゃないかな」
そうと決まれば匡近や実弥、下弦の壱討伐に参加した人間を集めるために鴉を飛ばした。
「ほんとに連れて行ってくれるなんて思いませんでした」
「「「ありがとうございます!」」」
「いいのいいの、上司からのご褒美ってやつだから好きに食べて」
その日の夕方にはあの時の隊士たちが集まって食事会が開催された。
集合時間に実弥は来なかったので匡近に屋敷の場所を聞いて強制連行したためにすこぶる機嫌が悪い不良が一人。
みんなそんな実弥に気を使う様子もないのが不思議だ。やはり怖い新任の柱というよりもともに戦った仲間という認識が強いからなのだろうか。
「お前ら、実弥には敬語使わないのな」
「まぁ、実弥は柱になっても実弥ですし」
「口悪いけど」「お館様に歯向かったって聞いたときはさすがにビビった」「そこまで馬鹿だとは思わんかった」
「柱たちにボコボコにされたってほんとかよ」
「うるせぇ!!!」
「不死川くん、だめじゃないそんな怖くしちゃ」
「花柱さま美しいな」「強くてきれいで優しいとかどういうことだよ」「天女様じゃん」
「そうなんだよ、天女なんだよ」
今夜仕事のない隊士たちは酒も飲んでいるので饒舌である。
俺とカナエは飲酒はしない。一度蝶屋敷で二人で酒盛りで調子にのってしのぶとアオイに説教を食らったからである。
「うらやましいです」「前世でどんな徳を積んだら娶れるんですか」「加えて可愛い妹まで手籠めにするとかどうなってんすか」
カナエを褒められることは俺もうれしい。
こいつらはカナエに色目を使わず純粋にほめているので俺も制裁を加える必要がない。
「前世で徳を積んだのは私のほうだと思うけどなぁ」
「……幸せモンっすね」
「だろ?」
匡近以外の隊士たちも気のいい奴らである。
杏寿郎と天元以外に友達らしい友達もいなかった俺としてはとても楽しい。
「鳴柱様のどこに魅かれたんですか?」
「うふふ、たくさんあるから一言では言えないわ」
カナエも少ない女性隊士と楽しく談笑している。
なにやら女子会みたいなことを話している。とても内容が気になる。
「なんで実弥の周りにこんないい奴らがいるんだよ」
「実弥、口は悪いしすぐに手は出るけど頼りになるんですよ」
「実弥みたいに俺のことも敬語使わないでいいよ。たぶん俺がこの中で最年少だからな」
「あ、それすごい意外なんですよね!」
カナエとおしゃべりしていた女性隊士が話に食いついてきた。
意外というのは俺の年齢の話だろうか。
「鳴柱様って最短で柱になったって話は有名なんですけど、噂の一人歩きだってみんな信じないんですよ」
「そうそう、実は最年少っつっても俺らより年下とか嘘だろってなっちゃいます」
「でも実弥とか胡蝶様も同い年だし、一ノ瀬様と煉獄様は同い年だって話だし現実味でてきたよな」
「同い年とか年下があり得ないほど活躍してるのみるとああはなれないなって思います」
なんだなんだ、柱ってどういう認識を持たれてるんだ。
戦闘能力が異常なのと癖が強すぎること以外は普通の人間なんだけどな。
「纏楽くんの半年と少しで柱就任はちょっと格が違うわよね。煉獄くんも入隊から一年と少しかかったらしいし。私なんか二年かかってるし」
「いや、胡蝶様の二年も普通に考えたら早いんですよ」
「不死川くんはどれくらいなの?」
「どうでもいいだろぉが」
「あ、こいつも二年くらいですよ」
「匡近ァ!!!」
「まぁまぁ、落ち着けよ実弥。後で就任祝いでおはぎ買ってやるから」
「あ、じゃあ私はおはぎに合うお茶をお祝いにあげるわね」
「よかったな実弥、現役の柱の二人からお祝いだぞ」
「いらねぇよ。柱がそんなにふわふわしてて鬼を斬れんのか」
実弥のいうことは分かる。
実弥や悲鳴嶼さんなんかは常に気を張っているような感じ。
それに対して俺やカナエはやるときにやるだけ。
「大丈夫よ。悪い鬼は迷いなく斬るから」
カナエの声が少し低くなり眼光も鋭くなる。
それと同時にカナエのほんわかとした雰囲気もなくなる。
それを察知した実弥やほかの隊士は体をこわばらせる。
後輩隊士たちを引き締めるためのカナエのお茶目だ。
「気合入ってるカナエもかわいいな」
「ふふっ、ありがとう」
俺たちがべたべたしているよそで、ほかの隊士たちがこそこそと話し始める。
「やっぱ柱って怖いな」「あれを何もなかったように流せる鳴柱様もやばいよ」
普通の隊士は柱と違って群れることが多い。
それは複数人でないと鬼を狩ることができないからだ。
そして柱になるような人間は一人でもできるもんだから、単独で仕事に赴くことが多い。
そうすると自然と柱は隊士たちに良くも悪くも遠ざけられがちになる。
実弥なんかは鬼への憎悪が人一倍強いから、隊士としての成長も早く、口も顔も悪なので遠ざけられてしかるべきなのだろう。
だがこうして仲間たちが食事の場にいて気兼ねなく話せている。
口数はあまり多くないし、つっけんどんな口ぶりではあるがそれが実弥だと仲間たちは受け入れているのだろう。
ならきっと実弥は悪い奴じゃない。
心根は優しい奴なんだろう。
上弦の弐の時も俺を追いかけてきて助太刀してくれた。
なら、俺も実弥の力になってやろうではないか。
「実弥、お前が柱のみんなと打ち解けられるように協力するからな」
「不死川くん、柱合会議では印象悪かったものね」
「余計なお世話だ」
「そうだな、手始めに義勇なんかどうだ」
「そうね、冨岡くんも不死川くんと仲良くなりたがってたわ」
「なんでよりにもよってアイツを選んだ!!!」
義勇、お前やっぱり嫌われてるわ。
「「ただいまー」」
「おかえりなさい、二人とも遅かったですね」
蝶屋敷に戻ると出迎えてくれたのはアオイだった。
しのぶがカナエの力を借りずとも蝶屋敷の運営をできているのはこの子の力が大きいと思う。
「これ、お土産のおはぎ」
「買いすぎちゃったの。明日みんなで食べましょう」
あの後実弥とその仲間たちを連れまわし、おはぎを購入。
隊士たち、とくに実弥には大量におはぎを持たせたのだがそれでも余ってしまったのでお土産として持ち帰ってきたのだ。
調子に乗ってカナエと二人でそこそこ高級な和菓子屋のおはぎを根こそぎ買ってきてしまったので少し反省している。
「しのぶはどこにいる?」
「たぶん、まだ資料室にいると思います」
「あの子はまた頑張りすぎて」
「……これはあれだな」
カナエと顔を見合わせた俺たちは口をそろえて
「「抱きしめにいかなきゃ」」
アオイがあきれたような顔をしていたけれど無視しておいた。
スパァンッ!と勢いよく扉を開ける。
集中して何か書物を読み漁っていた様子のしのぶだったがさすがに驚いた表情を見せる。
「今日は二人で纏楽さんの家に泊まってくるとおもっていたのですが。せっかく二人きりにしてあげたのに、纏楽さんに根性がなかったんですか?」
「おいおいなんでそんなに毒舌なんだよ」
「うちでそういうことをされても困るからわざわざ追い出したのに。最近の二人はいつも以上にべたべたしていましたし、恋人としてそういうことをする時期になったのかと」
……そういうことを割と真剣に考え始めたのは事実だけれどもそんなにはっきり言わないでほしいなぁ。
そもそも、しのぶも恋人なのだから、そこに自分が入っていないみたいな言い方はよろしくない。
確かにしのぶはまだ体が小さくてそういうことはできないけれど、だからと言って愛していないなんてことは絶対にありえないのだから。
「気を使ってくれるのはありがたいけど、気にしなくていいよ」
「気にしますよ。姉さんの血が付いた寝具を庭で干すのは嫌ですから」
「さすがにここでそういうことはしないってば」
「嘘です、この前また二人で着物の中に手を入れてまさぐりあってたじゃないですか」
「しのぶ、覗いてたの?そんなことをここで暴露されたら姉さん恥ずかしいんだけど」
むむむ、最近のしのぶはとても強かで俺もカナエも頭が上がらない。
こういう時は実力行使に出るに限る。
「今からでも纏楽さんの家にっ!?」
柔らかな唇を俺の唇で無理やりにふさぐ。
しのぶは驚きはしたものの抵抗はしなかった。
それによって調子に乗った俺はしのぶの口の中に舌を侵入させる。
いやらしい水音が少しの間部屋に響いていたがそれもすぐに終わった。
顔を赤くして息を荒くしたしのぶを抱える。
それをみてカナエも大体察したのか立ち上がった。
「三人で川の字になって寝ましょうか」
しのぶを真ん中にして俺とカナエがその両側から抱き着く形で眠りについた。
くっつきすぎて川の字の真ん中の棒しかなかったがそれもしのぶが可愛いのが悪いのだ。
朝の俺たちの布団や着物は特に乱れてはなかったことだけ明言しておく。
本格的に(一発ネタ)というタイトルが生命活動を始めました。
童磨倒してからというもの書きたいこともめっきり減りましたので筆がなかなか進まんのです。
つまり言いたいことは分かるね?
感想ください!!!!
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