じいちゃんにもう一人弟子がいたら(一発ネタ)   作:白乃兎

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蝶、羽化の時

しのぶが藤の花の毒を完成させた。

以前から形になっていた毒を珠世さんと協力させたことで多種類の強力な毒を生成。

俺たちが今まで狩ってきた十二鬼月の血を珠世さんが研究した結果として理論上では十二鬼月の上弦にも通用する毒が出来上がっているらしい。

 

あと、なぜか兪史郎としのぶが一触即発の空気になっていたのは不思議だった。

 

つまりそれによって何が起こるかというと、しのぶが最終選別に出かけてしまうということなのである。

 

「纏楽くん、わかってるわよね」

 

「あぁ、もちろんだ」

 

俺とカナエの意思は完全に一致している。

俺たちの怪我は完治した。そして今回復帰後初の任務それは――

 

「「しのぶの最終選別についていく」」

 

「絶対にダメです!!!」

 

俺たちの前に立ちはだかったのはアオイである。

 

「おいおい、しのぶが万が一にでも怪我したらどうするんだ」

 

「そうよ、転んでけがして泣いちゃうかもしれないのよ」

 

「なんでそんな過保護なんですか!」

 

分かっている。

しのぶは俺たちの継子といっても差し支えないほどに俺たちから剣技の指導を受けてきた。

鬼と対峙した時の心構え、仲良くできない鬼との戦い方、戦況を見渡す戦術眼、それらすべてを教えてきたつもりだ。

そんなしのぶが万が一にでも傷つくなんてことはありえない。

でも、不安なものは不安なのである。

 

「しのぶ様は纏楽様と一緒に鬼を狩ったこともあるじゃないですか」

 

「それとこれとは話が違う」

 

「そうよ、しのぶが強いことは分かってるの。でも不安なものは不安なのよ」

 

「それはお二方にも言えることだと思いますよ。万が一にでもお二人が死んでしまうことなんてないでしょう。でも不安なんです。それでも私たちにできることは信じて待つことだけなんです。ですからお二人もしのぶ様を信じて待っていてください」

 

待っている側の心の内を聞いてしまっては揺らいでしまうではないか。

 

「でもでも」

 

「でもじゃないです!お二人にできることは無事に帰ってくることを願うことだけなんです」

 

「それ以外にもしのぶは可愛いから男除けとか必要だと思うんだ」

 

「しのぶ様は普段から男性のお誘いをバッサリ斬ってますから大丈夫です!」

 

「しのぶは可愛いから女の子からもお誘いされるかもしれないじゃない!」

 

「大丈夫なものは大丈夫です!」

 

しのぶはおしとやかになったように見えて心に強い意志をもっているし所々で昔の毒舌だったり気の強いところを発揮するので、たとえどんな男女に言い寄られようとも大丈夫だろう。

でも、俺たちとしては言い寄られている時点で嫌というか、不安というか。

 

「纏楽さんも姉さんも、最近大騒ぎしすぎじゃないですか?」

 

出発の準備を終わらせたしのぶが自室から出てきた。

腰には特注の日輪刀。俺たちのコネと権力を総動員して作らせた色変わりの刀。

本来ならば入隊後に支給されるのだけれどしのぶの戦い方の問題もあってお館様に頼み込んで先んじて作ってもらったのだ。

 

「「しのぶへの愛ゆえに!!!」」

 

「うれしいですけど、皆さんが困ってしまいますよ」

 

「これを持っていって」

 

本当はいかせたくない。でもしのぶの意思も尊重したいとも思うからしかたなくしのぶのために荷物を俺とカナエが荷造りをした。

 

「……あの、大きすぎませんか?」

 

しのぶが背負えばその大きさが明らかに異常なものだとわかる風呂敷。

すでに全集中・常中を会得しているしのぶからしたら余裕で背負うことができる。

 

「藤の花のお香とか、予備の刀とか、食料とか、着替えとか、おやつとか、布団とかいろいろ入ってるから」

 

「余計なもの入ってませんか!?」

 

「アオイは分かってないな、準備はいくらしていても余計なんてことはないんだぞ」

 

「布団なんて山の中じゃあ敷くところないじゃないですか」

 

これでもかとぎゃいぎゃい噛みついてくる。

こういうところ、本当に昔のしのぶのようである。

 

「ふふっ、纏楽さん、姉さんありがとう。でも、布団だけは邪魔だから置いていきますね」

 

「え、でもしっかり寝ないと肌とか荒れるかなって」

 

「ひどいです、纏楽さんは肌がきれいな私じゃないと好きじゃないんですか?」

 

「いや全くそんなことはないのだけれど!!!」

 

「なら、布団はいりませんね」

 

「俺が布団持ってついていこうか?」

 

「心配ご無用ですよ。私、傷一つ負うつもりはありませんから」

 

きりっとした顔で言い放ったしのぶ。

そんなたくましいしのぶの顔にいつものような愛らしさよりもカッコよさが浮き出ていた。

 

「ですから、こっそりついてくるのもだめですからね」

 

「「……わかった」」

 

「アオイ、頼みましたよ」

 

「お任せください」

 

 

 

 

 

 

 

 

藤襲山に到着するとそこには数十人もの入隊希望者がいた。

私のように風呂敷いっぱいの荷物を背負っている人は一人もいない。

 

「過保護なのはありがた迷惑なんですよねぇ」

 

あの二人が私のことを心配してくれているのはうれしいけど、いつまでも守られているだけの私ではない。

さしあたってはこの最終選別において纏楽さんが成し遂げた偉業である山中の鬼を狩りつくすのが私の目標である。

 

「あの人のように一日ではさすがに無理ですかね」

 

「おい、お前みたいなちっさい女が来るようなところじゃねぇんだ、とっとと帰んな」

 

突如私の背後に立って、そんなことをのたまう男性。

背丈は纏楽さんより一回り小さいくらい。

 

顔は世間一般では怖いと評される感じの顔でしょうか。

それに加えて乱暴な言葉遣い、よく周りを見てみると彼には近づかないように他の人たちは距離をとっている。

そんなぽっかり空いたところに私が来たからこの人は絡んできたのでしょうが……

 

「ご忠告感謝します。ですが……」

 

「あぁ?」

 

トッ

 

軽い足音だけをその場に残し、彼の背後に回る。

きっと彼の眼には突如私が消えたように映ったことでしょう。

 

「これでも私、この場の誰よりも強いんですよ?」

 

姉さんが本気で怒ったときのように底冷えする声を彼の耳元で放つと、彼だけではなく、この場にいる全員に緊張が走るのが分かった。

この人は私のことを弱いと思って声をかけたのか、自分が強いと勘違いして私を威圧したのか。

 

それにしても、今回の選別を受けに来た隊士の質は低いのかもしれません。

こんな背丈の小さな女一人に威圧されて顔を青ざめるような方たちなのですから。

 

 

 

 

 

そんな少し白けた空気の中最終選別は始まった。

私の強みは、刀で傷をつけさえすれば鬼は消滅するところ。

纏楽さんほどの速度は出せなくとも、鬼殺隊の中で最も効率よく鬼を狩ることができるのはきっと私なはず。

 

山の中を駆け回る。

地面が湿っていたり、木の根が張っていたりと足場は良好とはいえないがそれでもまったく問題はない。

だからといって油断はしない。

戦場で油断などして万が一怪我でもすればあの二人がまた騒ぎ始めるに違いない。

 

「蟲の呼吸蝶ノ舞――」

 

前方の鬼複数体を視認するやいなや臨戦態勢をとる。

私は姉さんのように、仲良くできるかどうかなんて気にしない。

 

「戯れ」

 

苦悶にあふれた断末魔。

 

「首を斬ってないのに……」

 

おや、見ていた人がいたみたいです。

 

「ふふっ、私は胡蝶しのぶ。鳴柱と花柱の継子で鬼を殺せる毒を作ったちょっとすごい人なんですよ」

 

纏楽さんが言っていた。

戦場でかっこよく名乗れるくらい余裕があれば名乗りなさいと。

そうすれば信頼を得て昇級も早くなると。

 

纏楽さんのことだから割と適当かもしれないし、名乗るのはかっこいいと思う反面ちょっと恥ずかしい。

それでも今は、心に残る不安を振り払うために、あなたたちに教えられたこと、全部出します!

 

呆けている彼らにニコリとほほ笑んでまた次の鬼を探して駆け出す。

 

 

纏楽さんが言っていた。

姉さんが女性ながら柱にまで上り詰めることができたのは、戦場でも笑顔を見せるからだと。

 

「つまり、笑顔で鬼を殺せるようになれってことですよね」

 

きっと笑って鬼を殺せるようになれとそういう教えだと思う。

「ちがう!」って叫んでいる纏楽さんが脳裏によぎったけれど気にしないことにする。

 

刀を鞘に納めて毒の調合を変化させる。

 

万が一毒のことが鬼舞辻を通して鬼に知られていれば解毒される可能性もあるからと、いろんな人の力を借りて何種類もの毒を作った。

 

毒の再調合を済ませると、また足場の悪い山中を駆ける。

月明かりが差すだけの真っ暗な山の中。

 

視覚だけでなく嗅覚や聴覚を総動員して鬼を探す。

木の揺らぎ、地が軋む音、枝葉がこすれる音。それらすべてから不自然なところを見つけ出し、隠れている鬼を見つけ出す。

 

私を視認した鬼は私を舐めてくれるので非常に戦いやすい。

 

「こんな小さな娘が来るなんてツイてるなぁ…あ?」

 

下卑た顔が崩れると、まずは視界から私が消えたことへの驚きが。

そして、自らの体からいつの間にかにじんでいる血に驚き恐怖する。

次に、頸が無事であることへの安堵の表情。

そして最後は絶望と苦悶に満ちた顔を浮かべ、やがてピクリとも動かなくなる。

 

鬼が動かなくなった時には私はすでに次の鬼へと毒を打ち込んでいる。

 

 

 

 

山中を駆けまわっていると鬼に囲まれて泣き出してしまいそうな受験者を遠目に見つけた。

そのそばには彼女を守るような形で構える私に絡んできた乱暴な彼の姿が。

 

――蟲の呼吸 蜈蚣ノ舞百足蛇腹

 

本来ならば複数の踏み込みによって相手をかく乱する技。

しかし今回は複数の鬼を一度に殺すために放つ。

 

強く踏み込み接敵。

 

先端以外が細く作られた特注の日輪刀を突き刺し毒を投与。

クルリと身を回転させ、刀を鬼の体から抜くと次の踏み込みでまた鬼を刺す。

 

「ぐうっ」

 

まずい!女性をかばっている彼がもたない!

今にも身を引き裂かれそうな彼の姿が目に入る。

 

百足蛇腹の踏み込みであと二足。

このままでは私が鬼を殺すよりも彼が殺されるほうが早い。

そう判断した瞬間に呼吸を切り替える。

 

――蟲の呼吸 蜂牙ノ舞真靡き

 

纏楽さんには劣るがそれでもなお鬼殺隊では上位に入ると太鼓判を押された超高速の刺突。

彼を切り裂かんとする鬼の腕を吹き飛ばす勢いで突き差す。

 

鬼の腕に深く刺さった刀を手首を返すようにクンとまわして鬼の腕を切断し刀を自由に。

 

「お、お前ッ」

 

彼が何やら言っているけれど、守ってあげたのだから文句は受け付けない。

とにもかくにもこの場の鬼を殲滅するのが最優先。

 

腕を斬り飛ばした鬼の眉間に刀の先端をずぶりと埋め込んでとどめをさすと、ほかにもこちらに迫る鬼に目を向ける。

 

その数は十数体はくだらない。

 

「まったく、どうしてこんなに鬼が集まってきてるんですか」

 

「この女が、稀血なんだよ」

 

「なるほど、難儀な体質を抱えていらっしゃるようで」

 

「オイ、チビ」

 

「……」

 

「俺は邪魔か」

 

チビとやらが誰のことだかは分からないけれど彼の疑問には答えてあげることにしよう。

 

「邪魔です。あなたは彼女を守ることだけ考えていてください。私が逃してしまってそちらに行った鬼だけお願いします。もっとも――」

 

――蟲の呼吸 蜈蚣ノ舞

 

波状攻撃、不規則にこちらに迫りくる鬼たちを順番に刺していく。

私は小さな体を活かして鬼の懐深くにもぐりこむと鬼の脇腹を軽く切り裂いて次の鬼へ。

 

地面を蹴って小さな体を空中に投げ出し、足を天に向けるように体を空中でさかさまに。

そのままの体勢で鬼の頸を上方から斬る。着地の衝撃を前方への推進力へと換え次の鬼の目を潰す。

 

どさどさ、と複数の鬼が同時に倒れる音。それを聞いて彼らの方へと振り向くと一言。

 

「一匹たりともそちらへは行かせませんので安心してもらって大丈夫ですよ」

 

そしてにこりと小さく微笑む。

これが姉さんの強さの一要素らしい。

何か圧倒的に間違っている気がするけれど纏楽さんが強く主張するのだから間違ってないはず。

 

しかし、鬼単体では大したことはないがいかんせん数が多い。

彼女の血が稀血であるためその匂いを嗅ぎつけた鬼がわらわらと寄ってくる。

これではきりがないし、下手をすれば二人をかばいきれるかどうか。

 

「彼女の止血を急いでください!」

 

風呂敷を彼に投げる。

応急処置のための道具も入っていることは確認済みである。

 

止血することで少しは鬼が減るといいのだが。

 

「まぁ、いいです。どちらにせよ、殲滅する予定でしたから、手間が省けます」

 

キンッ

 

一度刀を鞘に戻し毒を再調合。

刀の先端が掠りでもすれば鬼は死に至る猛毒。

 

「夜明けが先か、私が殺しつくすのが先か」

 

鬼たちは私を殺さなければ後ろの稀血にはありつけないと判断したのか、私を殺さんと迫ってくる。

まったく、こんなに多くの鬼を隊士でもない纏楽さんは一日で狩りつくしたんですか。

 

「私の師匠は化け物ですね」

 

――蟲の呼吸 蝶ノ舞戯れ

 

再び跳躍。私を包囲しようとしていた鬼を飛び越え背後をとるような位置に着地。

それと同時に三体の鬼を斬りつける。

 

すぐに振り返った鬼は私に鋭い爪を伸ばしてくる。

その手を振り払うように手首だけで刀を振るって毒を注入。

 

背後に気配を感じた次の瞬間には私は前方に跳ぶ。

懐から取り出した注射器三本を苦無のように投擲。もちろん中に入っている液体は藤の花の毒。

 

まずい。このままでは私の剣技では怪我を免れない。

私の蟲の呼吸は複数の鬼を同時に相手にするのに適していない。

 

「こんなものを使っては纏楽さんと姉さんに怒られてしまいそうですけど……緊急事態ですから」

 

シィィィィ

 

――雷の呼吸 偽・電轟雷轟

 

見よう見まねの雷の呼吸。

もちろん私の知っている使い手である纏楽さんのものに比べれば練度や速度は劣るし、私に合っていない技だからか体が軋むようだ。慣れない呼吸に肺も驚いている。

それでもこの状況を打開するには十分だった。

八体ほどの鬼がどさりと地に伏せる。

 

フゥゥゥゥゥ

 

――花の呼吸 偽・紅花衣

 

前方に弧を描くように刀を振るう。

私の刀では有効範囲は狭いけれどそれでも複数の鬼を持っていける。

 

――蟲の呼吸 蜈蚣ノ舞百足蛇腹

 

蜈蚣の体のようにうねる軌道を描いて鬼と鬼の隙間を縫うようにして駆ける。

その際に斬り付けておくのも忘れない。

 

ゴォォォ

 

私のものではない猛々しい呼吸音が耳に届く。

炎の呼吸のものであることが煉獄さんと纏楽さんの稽古を見ていたためにすぐに分かった。

 

鬼を倒す横目で音のするほうに目をやると稀血の彼女の止血を終えた彼が刀を振るっている。

 

力量としては他の受験者と比べて少し毛が生えた程度。

それでもだいぶ楽になった。

 

――蟲の呼吸 蜻蛉ノ舞複眼六角

 

六体の鬼の眼球を順に刺していく。

返り血が私を濡らす。

 

「まったく、帰る前にお風呂に入らないといけないじゃないですか」

 

それともあえて血濡れ姿で帰宅して二人を心配させるのも面白いかもしれない。

少しのいたずら心が生まれるけれど、楽しいことは後でとっておこう。

それが私の力になるから。

 

笑みを浮かべて宙を舞う。

 

 

 

最終選別、藤襲山に綺麗な蝶がいた。

そんな噂が立つなんてこの時は考えもしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




数年ぶりになろうの方で新作を投稿したので良ければ見てってください
『蒼の魔女と黒の僕』ちょっと特異な精霊と魔法使いの話です(露骨な宣伝)


それはさておき前話投稿時には温かいコメントたくさんいただきましてモチベーションアップになりました。
ぜひ引き続きよろしくお願いいたします。

第二回需要調査(どんな話が読みたいの?)

  • 胡蝶姉妹とイチャイチャ
  • その他原作キャラとイチャイチャ
  • 鬼とイチャイチャ(血みどろ)
  • 師匠と弟子といちゃいちゃ
  • さっさと原作突入しろ

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