※この作品はXfolioにマルチ投稿しています。
明日、世界は真っ黒になるらしい。
少しずつだけど、一部地域では道路が黒く染まり、ビルが黒く染まり、サラリーマン達も黒く染まっている。
数年前から予兆はあったのに金を持った自称上級階級の肉塊達は今日もくだらない議論で日銭を稼いでいる。
当然の報いだと思ってる。
こんな世界黒く染まって当然だと考えてる。
仕事をサボり、バイクを走らせてる僕が言うのもどうかと思うけど、こんな日にまで馬鹿真面目に過ごす必要もない。
世界に影響され、僕も心から黒く染まり始めてるのかもしれない。
─なんてくだらない世迷言なのだろう。
休憩に立ち寄ったパーキングは既に黒く染まった後だったようだ。
形だけを残して真っ黒である。 近づけば吸い込まれてしまいそうなくらい、まるでブラックホールだ。
しかし、不思議なことに真っ黒に染まるのは見た目だけで物の本質は一切変わってないのである。
『イラッシャイマセ』
黒く染まった店員の声がノイズのように響く。
休憩がてらコーヒーでも買おうと思ったのだが、どれもこれも真っ黒に染まってるせいで種類が一切わからない。
あまり気は乗らなかったが、真っ黒になっても品出しをしてる店員に聴いてみることにする。
「すみません、BOSSのブラックってどこに並んでます?」
『…コチラニナリマスガ?』
「ありがとうございます」
小首を傾げた店員の目は冷ややかなものなのか、好奇の目を向けられたものなのか僕にはわからない。
人間の輪郭はあるのだが、それ以外は絵の具でベタ塗りをしたような、それはもう見事に真っ黒だからだ。
辛うじて店内の様子はわかる、こういうところにでもまだ人間はいるのだ。
僕みたいな物好きとかじゃないと、真っ黒が移るとか巻き込まれるとか言い出すのが過半数になってくるから、ここにいる人間は皆物好きだと思ってるのは僕の偏見だ。
世界が真っ黒に染まるまであと七時間ちょっと、そもそもこの予報自体が正しいのかもわからない。
ノストラダムスの予言だってマヤ文明の人類消滅予言だって当たった試しはない、まだ天気予報の方が正確である。
この令和の時代では科学技術こそが正義だ。
街は少しずつ真っ黒になっていくけど、空の色は変わらず絵に描いたように青だ。
もはや男女の区別がつかなくなった公衆トイレで用を足してから、真っ赤なボディを光らせる相棒に跨がる。
走る真っ黒な塊とトラックの間を縫うように走る、このスリルが堪らないのだ。
真っ赤なボディを乗り回す僕のことを赤い彗星なんて呼ぶやつらもいたけど、生憎と僕は人間を辞めていない。
所々が真っ黒になった山や道路を見ていると失笑さえ出てくる。
結局のところ一番怖いのは人間でも自然でもない、未知という名の無邪気な侵略者だ。
考えなしに縦横無尽に暴れまわる姿は幼稚な思想を待ち合わせた肉塊だろうが子供だろうが変わりない。
僕の住む世界はどうやら随分と前から無邪気な侵略者によって見えないところから黒く染められていたのかもしれない。
そうでなきゃ、人間誰でもイエス・キリストにでもマザー・テレサにも上杉鷹山にもなることができる。
少しずつだけど、黒い面積が増えてきている。
過黒地域に突入したのかもしれない、封鎖されていないところから侵食はまだ中枢には至ってないのかもしれない。
黒くなった街に取り残されたように色を失っていない小さな公園があった。
珍しいこともあるものである。
真っ黒になる現象や法則は解明されてないが、四方八方公園の周りを囲うように真っ黒に染まってるのに。
オセロのようなもので本来であればあり得ないことだった。
僕も何を根拠に本来であれば、なんて思ったのかはわからない。
先入観に囚われすぎているのかもしれない。
公園を囲うように鮮やかな色をしたサザンカの花に目を奪われてしまう。
まさかここまで真っ黒になった場所でこんなにも色鮮やかなサザンカを見れると思ってなかったからだ。
フェンスで囲まれた公園のベンチの側にバイクを停める。
こんな世界なんだ、違法駐車なんて怖くない。
ヘルメットを外してベンチに座って初めて気がついた、いや、僕はまだ頭の整理がついてない。
ベンチの側に男の子が倒れていた。
危うく轢いてしまうところだった。
免許を取って随分経つから余裕が生まれたとかそんなんじゃない、そもそもここに男の子なんていなかったはずだ。
僕が見逃した、そんなハズはない。
駐車するときに細心の注意を払っていたはずなのに、まさかとは思ったがゆっくりと立ち上がった。
少年は泣いていた。
「どうした?」
子供は正直言って好きじゃない。
「うぐっ、ひっぐ、うぇ」
「泣いてばかりじゃ伝えたいことも伝わらないぞ、僕は君が何を伝えたいのか一切わからない」
「ご、ごべんな、はい」
何故謝る。
「お、俺、お父さんと、お母さんが、まっくろ、になっちゃって、俺も、少しだけ」
「そうか。 僕も少しだけ真っ黒だ」
男の子の顔が右側だけ真っ黒だ。
いわゆる、真っ黒難民だったんだな。 三日前から僕も左肩が少しずつだけど真っ黒に汚染されている。
身体を蝕むようにして領土を拡大する真っ黒は目に見えない場所であったなら救いはあったかもしれないが、少年の場合は綺麗な顔が松崎しげる以上に真っ黒だ。
まだ色のある人が見たら怖がる、しかもご両親は既に真っ黒になってしまってる。
村八分もいいところだ、この子に行く場所はない。
「僕と一緒に来るか少年」
「ふ、不審者…」
「傷つくぞ」
「お母さん言ってた、知らない人に声をかけられてもついていっちゃダメだって、大声で泣きわめいて不審者って叫び散らしなさいって」
「素晴らしい教育の賜物だな、僕の人生が終了しようとしている」
どこから嗅ぎ付けたのか、遠くからパトカーのサイレンが聞こえてくる。
色のあるのが一台、もう車体の九割が真っ黒になってしまってるのが並走してきていた。
「少年、バイクに乗って風を感じてみないか!?」
「?」
「僕の言い方が悪かったのかな!?」
しかし、直球で一緒にバイクに乗って知らない土地に行こうぜ! なんて言えるわけもない。
それこそ、ただでさえ言い逃れが難しい状況なのに余計にややこしいことになってしまう。
只でさえ真っ黒な人影達にヒソヒソとされてて居心地が悪いっていうのに─
『ネェ、アノヒトアノコヲツレテイクツモリナノカシラ?』
『ソレナラコウツゴウジャナイ、モトモトヨソモノダッタノニ、アノコガキテカラヨクナイコトバッカリツヅイテルシ』
『オカーサン、アイツマダココニイタノ?』
『コラ、ソトデソンナオオゴエデイウモンジャナイヨ!』
「………少年、ここに居て幸せか?」
「…ううん」
「─だったら、僕と広い世界を見に行かないか? どうせ明日あるかわからない腐った世界なんだ」
難民なだけじゃない、この少年の居場所はもうこの街にはないらしい。
少年にとってはこの公園だけが唯一の居場所、だったのかもしれない。 真っ黒に染まった街の中で唯一色の残るサザンカの咲くこの小さな公園が。
「行くなら行こう、じゃなきゃ僕は豚箱で余生を暮らすことになってしまう」
少年に躊躇いと戸惑いがあったようにも見えたが、どうせ世界は明日真っ黒になるんだ。
今豚箱にぶちこまれるか、少し延びるかの違いだけだ。
世界中どこを探しても世界の終わる前にしたいことで誘拐なんて答える物好きはいないだろう、僕はしたくもないけどせざるを得ない状況になってしまったことを察してほしい。
僕は人生最初で最後の誘拐、しかも加害者側になってしまった。
※
世界が真っ黒に染まるまであと四時間。
少年のヘルメットを買い、山奥までバイクを走らせていた。 少年も僕も無言で言葉を交わすことはなかった。
さっき降りたとき手袋を取ったら左手が指先まで真っ黒になっていた。
信じてはいなかったが、思いの外当たってるのかもしれない。
パトカーを振り切り、僕と少年は大きな自然公園で夕暮れを眺めていた。
青空と夕焼け空がこれで見納めになると考えると少しだけ淋しい気持ちにもなる、自然公園の芝生はまだ真っ黒に染まっていなかったのが救いだ。
「……どうして俺なんかに構うの?」
少年が口を開いた。
「なんで、俺はあそこで暮らしちゃいけないの、なんで俺のお父さんとお母さんが真っ黒にならなきゃいけなかったの?」
「質問は一つにしてくれ少年、そして僕からも質問だ」
「…お兄さんからの?」
「そうだ、少年の名前を教えてほしい」
今にして思えば、お互いに名前も教えあったない状態で二時間近くパトカーと追いかけっこしてたのだから笑えてくる。
誘拐犯でも相手の情報はリサーチしてからするはずだ、計画的犯行なら。
僕のような突発的犯行だった場合はわからない。
「……俺は、シロ。 柊白」
「シロか」
「お兄さんの名前は?」
「僕はアレックス、田端アレックスだよ」
みんなにはアレクって呼ばれてる、何故なら長ったらしいからである。
しかし、少年の名前はシロか。
これが物語の中だったら、シロは黒く染まる世界の救世主みたいな設定がついてるんだろうな。
僕はあまり小説や漫画、童話の類いを読むことはないけど素人でも思いつく設定だ。
プロの方々はもっと捻るんだろうな。
「アレックス…」
「いきなり呼び捨てか、少年よ」
「カッ、カッケー」
そんな純粋な瞳で僕を見ちゃいけないよ少年、照れる。
実際、高校に入るまでは周りからカッコいいだとか変だとか言われてたっけ。
高校に入ってからは減ったというか、不気味なほどピタリと止んだけど。
僕と少年は世界が真っ黒に染まるということを忘れて、他愛もない話で盛り上がった。
ワンセグを繋いだテレビを携帯で見てみると、全身真っ黒に染まったニュースキャスターと真っ黒になったモニターが映っていた。
これでは何を伝えたいのか一切伝わってこない。
『セカイノシンショクリツハロクジュウパーセントをコエマシタ。 ノコリノバショガマックロニナルノモジカンノモンダイダトオモワレマス』
既に真っ黒に染まった人間が世界の心配をしてるなんて滑稽である。
「アレックスの身体はどこまで無事なの?」
「左腕以外は無事だよ」
日が落ちて誰もいなくなった自然公園では閉園のアナウンスすらも流れない。
こんな日にも真面目に働くような人間ではなかったらしい、自然公園に人の気配はない。
僕は躊躇うことなく服を脱いで少年に左腕を見せる。
少しずつだけど、右半身にまで真っ黒に染まり始めていることが改めてわかった。
「あ、顔にも広がってる」
「まじか」
バイクに乗る都合で着込んでいたから気付けなかった、少年が言うには顎のところまで真っ黒に染まってるみたいだ。
「そういう少年、シロも髪の毛が黒くなり始めてるぞ」
「うお、ほんとだ!」
シロの茶髪に黒いメッシュが入ったようになっている。
世界が真っ黒に染まるまで二時間ちょっと、どうやら真っ黒は一気に世界を塗りつぶすつもりはないらしい。
「アレックス、行きたいところがある」
「……もう時間もないから行けるところは限られるよ、僕も疲れてきたし」
一日中ツーリングをするという行為は思ったよりも疲れるものだったみたいだ、僕は世界が終わってしまう前にその事を思い知った。
「それで、どこに行きたいんだ?」
「─海!」
僕はまだ充電の残っているスマートフォンの地図アプリでここから近い海を調べた。
人工衛星はこんな日にでも動いている、もしかして宇宙は無事なのかもしれない。
黒く染まって行く地球は宇宙から一体どのように映っているのだろう。
「よし、時間もないから飛ばすぞシロ」
「おう!」
最初は豚箱行きを覚悟したが、シロと思った以上に仲良くなれたので心配はなさそうだ。
僕としても世界が黒く染まってしまうかもしれない前日だ、一人で過ごすのも悪くないと思ってたけど、誰か話し相手がいてくれるというだけで嬉しく思っている。
僕達は自然公園の真ん中を突っ切り、そのまま大通りに飛び出した。
「ちょ、アレックス!? 今の大丈夫なの!!?」
「気にするな! どうせ真っ黒になるんだったら道や金網なんざ、なくても変わらないよ!」
僕はこの世界に酔っていた。
もう後がないならどうにでもなれと、もう後がないなら好きなことをやれるだけやってしまえと笑い飛ばしていた。
こんなにも心が晴れやかなのは久しぶりだ。
もうすぐ世界が真っ黒に染まるかもしれないというのに、世界は思ったよりもずっと静かだ。
真っ黒になった人影と追いかけっこしてるお姉さんは端から見てると面白味もある。
親子、いや恋人、姉弟なのかもしれない。
男性の背格好ではとてもわかりにくい、僕も成長期を迎えた頃には随分と身長が伸びたものだ。
シロは成長期を迎える前に世界が真っ黒に染まってしまう、そう考えると少し悲しい。
「アレックス、どこに向かってるの!?」
「海だよ海! 行きたいんだろ!?」
「そうじゃねぇよ、どこの海に向かってるのか聞いてるの!!」
「こっから一番近いところ!」
山は真っ黒に染まってるのに、海と空は不思議と色が変わることはない。
真っ黒になってしまった信号では判断ができないので、とりあえず走る。
もちろん左右を確認して、走行車両が来ていないことを確認してから全速力で走らせる。
教習所で習うような安全運転の基礎中の基礎である、シロでも知ってる。
「アレックス、星座が見える!」
「ということは随分田舎まで来たんだな」
シロの指差す方向には星々がカーテンを作るように空を覆っていた、こんな柄のカーテンがあるのなら買ってみたいものだ。
さっきの自然公園でも太陽と月を見るだけで精一杯だった。
日が落ちてきた影響も多祥なりともあるだろうが、僕もここまで満点の星空を目の当たりにしたのは初めてかもしれない。
もし、この星が真っ黒に染まったのなら宇宙から地球はどのように映るのだろう?
天下のニコンのレンズでも輪郭を映し出すことはできるんだろうか、そうであればたとえ世界が真っ黒になったとしても僕達はここにいるということをこれからも叫び続けることができるんだろうか。
世界が真っ黒に染まってしまっても僕らが生き続けていく意味なんてあるのだろうか、ただでさえ漠然と生きている僕らが生きていく意味なんて見つけることができるんだろうか。
「……なぁ、シロ。 生きていくってなんだと思う?」
「どうしたんだよ、突然」
「そういう気分なんだよ、僕達真っ黒になっても今まで通りに生きていける、いや、生きているって言えると思うか?」
どうやら僕は長時間の運転で相当参ってしまっているようだ。
早いところ海に到着して、砂浜の上を大の字で寝転びたい。
「よくわからん!」
「だな!」
若く柔軟な頭では少し早すぎる話だったようだ、実際僕らもきちんとした答えを持っているわけじゃない。
「でもさ、アレックス!」
「どうした?」
「─今、俺たちは生きている!」
ごもっともだ。
「そうだな! 僕達は生きている!」
「そうだよ、それでいいじゃん!」
「違いない!」
どうせ見た目も心も感情も間もなく真っ黒に染まってしまうんだ。
それならばまだ色の残っている今この時を楽しんで生きることの方が大切だ。
「─行くぞシロ、海に!」
「おー!」
ここまで来れば警察官もスピード違反も怖くない、法も秩序も乱れた僕の世界の暴走は止まらない。
※
世界が真っ黒に染まるまで一時間を切っていた。
僕とシロは街が真っ黒に染まった海辺の街まで来ていた。
砂浜の色はまだ残っており、ここだけが世界から取り残されたようになっていた。
適当な場所にバイクを停めて初めて気がついた、僕の相棒の真っ赤なボディが真っ黒に染まっていた。
「ありがとう」
免許を取ったときから乗り回し、色んなところに僕を運んでくれたハネウマに礼を言ってエンジンを切りキーを抜く。
やがてボディだけでなく、ハンドルまで真っ黒が侵食した。
僕のバイクも輪郭しかわからない真っ黒に染まってしまった。
時間を削ってバイトをして貯金を叩いてまで決めた相棒だ、それなりの思い入れや思い出もある。
思えば長い付き合いだった、ここまで連れてきてくれたことにも僕は感謝しなければならない、最期の旅にも付き合ってくれて感謝しかない。
「アレックスツヴァイ……」
「なんでドイツ語? しかも、いつのまに名前付けたの?」
僕の名前が入ってるのも少し気になる。
たしかに僕の相棒であることに違いないけど、僕の名前まで入れる必要はあるんだろうか?
「僕の名前はいらないだろ」
「いるよ、だってそうじゃないとアレックスのだって証明にならないでしょ?」
「……なるほど、そうかもな」
僕の呟きは波の音に掻き消される。
こいつは僕の物であると証明されたことによって喜んでるのかどうかはわからない、僕はそれなりに大切にしたつもりである。
「広い!」
「そりゃ海だからな」
シロの体の右半分は既に真っ黒になってしまっていた。
シロでここまで進んでいるということは、僕の方はもっと深刻なのかもしれない。
もしかしたら気がついてないだけで既に全身が真っ黒になってしまってるかもしれない。
「アレックス?」
シロが心配そうに見てくる、何も言ってくれないのはシロなりの優しさなのか、僕にはわからない。
シロの表情で僕はある程度悟ってしまった。 僕は伝わるかわからない笑顔でシロに安心しろと伝える。
波の音が響く。
目の前が少しずつ真っ黒になってくる、靄が掛かっているような不思議な感覚だ。
僕は生まれてから眼鏡ともコンタクトレンズとも縁のない生活をしてきた、もしかしたら視力の悪い世界というのはこんな風になってるのかななんてまさに世界が終わろうとしてるこの瞬間に考えることになるなんて思いもしなかった。
「ありがとうシロ、僕の最期の旅にツキアッテクレテ』
「お礼を言うのは俺だよ、見たかった海にアレックスは連れてきてくれた」
波の音ガヒビク。
『ガキガオトナビタコトイウナ、ワガママダケイッテオケバソレデイインダ』
「そりゃ、アレックスからすれば俺はガキだよ」
『ソウイウトコロハガキラシクナイケドナ』
ナミノオトガヒビク。
「……なぁ、アレックス」
『ナンダ?』
「俺達、友達だよな?」
『アタリマエダ』
「……よかった」
ナミノオトガキエル。
「─俺はこの世界で一番綺麗な景色を見ることができた」
セカイガマックロニソマル。
「みんな違ってみんないい、そんなものは所詮幻想だったんだな」
─シロノコトバガヒビイタ。
※
僕ことアレックスは言ってしまえばまだ生きている。
あの時、たしかに世界は真っ黒に染まり僕の意識も眠るようにしてどこかへといった。
しかし、次に目を覚ましてみると不思議なことにまるで夢でも見てたかのように世界は色を取り戻しており、真っ黒になってるなんてことは一切ない。
僕の身体を蝕んでいた真っ黒も消えており、久々に見た生身の左腕はこれまでにないくらい生き生きとしていた。
結局世界は何故真っ黒に染まってしまったのか、そもそもどうして染まり始めたかといったことは原因不明のまま息を潜めてしまった、モヤモヤする。
僕が目を覚ました場所は海、最期にシロと一緒に来た場所だった。
『オハヨウ、アレックス』
─昨日までのことは夢ではない。
そう言い切ることのできる理由は僕の隣で目を覚ました真っ黒な人影が動かぬ証拠となっていた。
「おはよう、シロ」
真っ黒に染まった世界で僕は生きていく。
この真っ黒な人影が何故シロとわかったのか、僕にはわからない。
不思議とそんな気がしたのだ、僕とシロはまたどこかへと行くことになるだろう。
次は、家族のもとへ、リリーのところへ帰ろう。
そうだ、シロも家に帰さないといけない。
シロの家族も今なら認識できるだろうし、何より心配されてることだろう。
誘拐紛い、というか誘拐してきたようなものなのだから。 今後の生活のことも考えると身代金を要求したいところだが、シロの顔に免じてそこは勘弁しておこう。
僕は真っ赤なボディの相棒に股がり、その後ろにシロを乗せる。
不思議と重みはなかった、まるでそこに誰もいないかのような感覚だ。
『ツギハドコニイクノ、アレックス?』
「リリー、僕の姉貴のところだ」
この不思議な旅路で出会ったシロのことも紹介しなければならない。
世界は不思議なくらい静かで昨日まで世界が真っ黒に染まるだとか叫んでいたマスコミもいつも通りだ。
季節上、砂浜には物好きなサーファーしかいないのも日常だということが感じられる。
終わってしまえばこんなものかと思ってしまう、世界が終わりかけても人間の本質は変わらないままである。
今日も平然と世界は続いていき、これからも変わることない日々を送ることになるだろう。
この世界の真っ黒な部分から目を背けて都合のいい生き方しかできない、人間なんて所詮そんなものだ。
波の音を聞きながらエンジン音を噴かしながら走る車の合間を縫うように飛ばしていく。
僕とシロを乗せたマシンは先の見えない真っ暗なトンネルの中へ進んでいった。
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