神々が愛した幻想郷 ~ Fantasia Variants Dreamed.   作:左右手

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教習所通いにも慣れてきました。MTは難しいですね。

本文が10000文字を超えてしまいました。ナンテコッタイ。
根気良く読んで頂けると助かりますノシ


-あらすじ-
門番である美鈴を破った魔理沙。しかし、同時に彼女も脱落となった。
魔理沙の代わりにパートナーを任された柴芭。彼は霊夢と共に紅き館へと足を踏み入れる。
そこで彼らを待ち受けていたモノは…


メイドと血の懐中時計

紅魔館のとある一室、そこは静寂に包まれていた。

空を覆う霧の狭間から差し込む紅い月の光が、古い時計が針を刻む音だけが静かに鳴り響く部屋へと差し込む。

 

窓辺に腰掛け、窓を眺めながら沈吟に耽る吸血鬼が一人。

名をレミリア・スカーレット。今回の異変の首謀者であると言える。

遥か彼方を見据える彼女の紅い瞳は、気高くも何処か寂しげに映って見えた。

 

「…お嬢様、よろしいでしょうか?」

 

数度扉を叩く音と共に、そんな声が扉の向こうから響く。

 

「…入りなさい」

 

「失礼致します」

 

扉を開き、部屋へと入ってきたのは一人の従者(メイド)

紅魔館のメイド長を務める瀟洒な従者、十六夜(いざよい)咲夜(さくや)である。

 

「先程、博麗の巫女と…もう一人は見慣れぬ人物ですが、その二名が門を超えたようです。

途中まで同伴していた白黒の服の魔法使いらしき者は、美鈴との戦闘で再起不能かと思われます」

 

淡々と現状を報告する咲夜。その表情には、焦燥も激情も見られない。

 

「美鈴は負けたのね…まあ、仕方ないわ。もう一人の方も気にかかるけど…そうね、咲夜」

「はい、お嬢様」

「そのもう一人の方の相手は、貴方に任せるわ。巫女の方は…そうね、魔法使いが相手よ」

「了解しました」

 

レミリアの指示を受けた咲夜は、次の瞬間にはその場から消えていた。

 

 

再び静寂に包まれる室内。レミリアは静かに立ち上がり、部屋の片隅に置かれた花瓶を手に取る。

細い花瓶に一本だけ挿された紫の薔薇を眺め、小さな溜息を一つ付く。

 

「…ねぇ、貴方は今何処にいるの?…まだ、道に迷っているの?」

 

手にした薔薇に語りかけるように、ぽつり、ぽつりと呟くレミリア。

 

「…大丈夫、きっと辿りつけるわ。だって…」

 

花瓶を手にしたまま、再び窓辺に腰掛け、空を眺める。

 

「こんなにも、月が紅いのだから」

 

紅々とした月が遥か高くに上り詰め、霧に覆われた地上を妖しく照らす。

暫しの間空を眺め続けていたレミリア、やがて花瓶を元の場所に戻し、部屋の外へと向かう。

 

「この月が、きっと貴方を導いてくれるから。…だから、心配しないで」

 

 

()()

 

 

 

------

 

館の内部へと侵入した二人は、先ずその内観に嫌悪感を示した。

 

紅、紅、紅。見渡す限りの血のような紅。床も、壁も、天井も、何もかもが紅で統一されていた。

外観から内観に至るまで、とにかく目に悪い配色の館である。彼らは心の中で同じ意見を抱いた。

 

「さて、さっさと元凶をぶっ潰して、この趣味の悪い館からはオサラバしたいわね」

 

「…同感だ」

 

霊夢の意見に柴芭が賛同する。館に足を踏み入れた段階で、既に彼らは臨戦態勢に入っていた。

広間を抜け、紅々とした廊下を突き進む二人。奥に進ませまいと立ちはだかるは、この館でメイドを務める『妖精メイド』と呼ばれる妖精達。多少は知能があるが、所詮妖精故に個々の実力は低い。他の妖精とは違う点を上げるとすれば、一致団結した時が厄介という程度か。

既に彼らはその妖精達を眼中に入れてはいなかった。霊夢は、敵を追尾する札を大量にばら撒きながら、柴芭は、色鮮やかな8色の弾幕を討ち続けながら、主が待つ館の奥へと進み続ける。

 

「…この程度の相手じゃ話にならないわね。守るにしたって、普通はもう少しマシなのを置くと思うんだけど」

 

「…出払っているんだろう。多分」

 

「肝心な時に出払ってるってのも滑稽な話ね」

 

等と暢気に会話を交しながら進む二人。そんな中で、彼らは何処となく違和感を感じていた。

 

先程から一向に進んでいる気がしない。廊下が妙に長い。

 

事実、彼らは既に廊下に入ってから2分以上は飛び続けている。それでも尚、突き当たりは見えない。最初に見えた外観の大きさと、内部の広さが一致していない。それが彼らの感じた違和感であった。

 

「こんな広いんじゃ、掃除とか大変そうね…」

 

『ええ、全くもってその通りよ』

 

声のした方向を振り返る二人。そこに姿は無かった。

疑問に思い、再び正面に目を向ける二人。そこには、一人の人間の姿。

青を基調に白いフリルや前掛けが付いた服、月に照らされて美しく映える銀色の髪、その頭には服と同じく白いフリルのついたカチューシャを身につけている。

そんな彼女の容姿と、『掃除』という単語に対して返答を返した点からも、彼女がこの館のメイドである事は容易に見て取れた。

 

「アンタは何者なの?」

 

「私?私は十六夜咲夜、この紅魔館のしがないメイド長よ」

 

そう言って昨夜は手短に自己紹介を済ませる。

 

「メイド…ね。それじゃあ、館の主の所まで案内頼めるかしら?」

 

「…ええ、貴方達を案内するようお嬢様から仰せつかっていますわ」

 

そう問いかけた霊夢に対して返ってきたのは、意外な事に承諾の返事。

本来であれば招かれざる客である自分達を招かんとするその館の主の考えに霊夢は一瞬困惑するも、そのメイドに催促する。

 

「なら、早くして頂戴。あんまりゆっくりしてる時間は無いんだから」

 

「そう……フフ」

 

そう霊夢が言うと、咲夜は後ろを振り返り、静かに笑みを零す。

 

「な、何が可笑しいのよ」

 

後ろを向いたまま笑い続ける咲夜に対し、得体の知れない不気味さを感じながらも霊夢が問いかける。

 

「いいえ。ただ…随分気の毒だな、と思ってね」

 

「…何が言いたい」

 

尚も笑みを絶やさぬ咲夜に、柴芭は再びそう問いかける。

 

「フフ…すぐにわかるわ」

 

自分達と会話をしていた筈の咲夜は、気が付けば彼らの背後に立っていた。

 

「……!?」

 

咲夜が背後に移動した事に、二人は全く気が付いてなかった。否、()()()()()()()

 

「それでは、今からご案内しますわ」

 

その言葉を言い終わるか終わらないかのタイミングで、咲夜の体が僅かにぶれる。

 

次の瞬間には、柴芭の隣にいた筈の霊夢の姿が忽然と消えていた。

余りに突然の出来事に、二度三度と瞬きをする柴芭。

 

「最も、お嬢様の場所へ案内するとは一言も言ってませんけどね」

 

咲夜はそう呟き、困惑する彼の眼の前で悪戯な笑みを浮かべた。

 

 

------

 

一体何が起きているというんだ。あのメイド…咲夜とか言っていたが、一体何をしたんだ?

いきなり背後に現れたかと思ったら、突然霊夢が消えた。…普通、こんなこと言われても何を言っているのかさっぱりだと思うが、正直オレにも分かっていない。

今、霊夢は、一体()()()()()()()…?

 

…まあ、今はそれは置いておこう。問題は、オレ達が『敵陣で分断されてしまった』という事実。

もし霊夢が、この館の何処かへ…或いは、館の外に連れて行かれたのだとしたら、恐らくそこには、敵が待ち伏せているだろう。

そうなれば、圧倒的に霊夢は不利な状況に立たせられる。弾幕ごっこの詳細なルールとかは知らないけど、もし複数人で仕掛けられたら、いくら霊夢といえど、消耗は避けられないだろう。

()(ボス)を前に消耗は出来るだけ抑えたかったけど…どうやら、それは叶いそうに無い。

 

「…さて、これで二人っきりになったわね」

 

此方を見て笑みを浮かべていた咲夜がそう切り出す。

 

「…案内をする気は、無さそうだな」

 

「あら、出口への案内ならしてあげるわよ?」

 

つまり、お帰りくださいませ…って事か。この分だと、案内は期待できそうにないな。

…まあ、()()から案内なんて期待なんてしちゃいないけどな。

 

「…悪いが、オレ達の目的地は、出口とは反対の方向らしい」

 

そう告げると、目の前のメイドが放つ威圧感が一気に高まる。

 

「…そう。なら、悪いけどここから先へは通せないわね」

 

いつの間に取り出したのか、投擲にでも使うようなごく短いナイフを構える咲夜。

 

「オレとやり合ってる間に、霊夢がそのお嬢様に遭うかもな…」

 

「あら、それはあり得ないわ。何せ、あの人が相手だもの」

 

あの人…?一体誰の事だろうか。それだけ言い切るって事は、実力はあるんだろうな。

 

「…なら、お前を倒して、オレが先に進めばいい」

「そういって返り討ちに会った人間は、トリウム崩壊系列の数より多いわ」

「…13は不吉な数字と聞くがな」

「ええ、不吉でしょうね。…貴方にとってはね」

 

 

「…なら、試してみると良い」

 

先手必勝、一気に相手の懐に潜り込み、腰の短剣を勢いよく抜き放つ。

手ごたえは…無い。どうやら避けられたようだ。だが、視界の端に映る事すら無く避ける事が可能なのか…?

 

「…ッ!?」

 

瞬間、左肩が熱を帯びる。直後、奔る痛みと共に血が噴き出す。

目を向ければ、そこには先程咲夜が握っていた筈のナイフが突き刺さっていた。

 

一体何時の間に…?くそっ…いきなり手痛いダメージを負ってしまった。

刺さっていたナイフを強引に引き抜く。先程よりも鋭い痛みが走り、思わず顔を顰める。

 

血が流れ出る肩口を右手で抑えながら、周囲を見渡す。

アイツは、一体何処に……いた。だが、一体何時の間に移動したんだ…?

 

「フフ…青ざめたわね。まあ、無理も無いわ。体に刃物が突き刺さって、平気でいられる人間なんている筈が無いわ」

 

全くだ。…痛みの所為で左手が動かせない。下手に動けば余計に痛みが増すだろうし、大量に失血しかねない。

 

「安心しなさい、命まで取りはしないわよ。ただ、貴方は決してお嬢様の元へは辿りつかせないわ」

 

再び手元に数本のナイフを構え、此方を睨む咲夜。

 

 

「貴方の時間も私のもの……。忌むべき数に選ばれた貴方に勝ち目は、ない」

 

咲夜の姿が消えたと思った刹那、目の前には大量のナイフが出現した。

 

「くッ…!」

 

何とかその場で転がり、ナイフを回避する。…このままでは、傷口の所為で戦闘に集中できないな。何かで、傷口を塞がなければ…。何か……そうだ、これを使おう。

ズボンのポケットに入っていた小さな布切れを肩口に巻き付け、強く縛る。簡素だが、止血が出来た。…が、やはり余り激しく動かさない方が良いだろう。

 

「傷の方はもう良いかしら?なら、その傷を増やしてあげるわッ!」

 

どうやら咲夜は止血が終わるまで待っていてくれたようだ。案外、律義な性格なのかも知れないな。最も、直後にそのを増やすのはどうかと思うが。

右手で抑える必要が無くなった為、先程よりもある程度自由に動けるようになる。後ろに跳び、迫りくるナイフを短剣で切り払う。

 

全てのナイフが床に落ちる。カランカランと軽い金属音を鳴らし、2度3度と床を跳ねたそれらは、次の瞬間には目の前から消え去っていた。

見れば、咲夜は先程と同様ナイフを構えて此方を見据えている。先程と同じナイフなのかは、分からない。

 

…また、この現象か。一体何が起きているんだ…?さっきから不可解な事だらけだ。

何故その場にあった物や人が突然消えるんだ?何故全く気付かれる事無く背後に回る事が出来るんだ?…考えてもキリが無いか。

 

「考え事をする余裕すら与えないわ」

 

今度は背後から声が聞こえる。そして、それと同時に全方位からナイフが迫る。

また、何時の間に…。ナイフを操る能力…とは考えにくいか。ともすれば、刹那に背後に移動する技の説明が付かないからな。

そう考えを巡らせている間にも、刻一刻とナイフは迫ってくる。オレを串刺しにせんと。

一つ一つの大きさ、密度を考えても、余程ギリギリで回避をしなければほぼ当たる。

…逃げ道は、恐らくほぼ無いだろう。

仕方が無い。上手く扱えるかは分からないが、試してみよう。

 

 

―我が身に宿れ、龍翼よ。熾烈なる風放ち、降り注ぐ災厄を薙ぎ祓え。

 

そう唱えたのは自分なのか、それとも自分以外の誰かなのか、そんな言葉の羅列が脳裏に過る。

それと同時に、背中に熱が滾るのを感じる。力の奔流が全身を駆け巡り、背中に集中していくのが分かる。

 

この感覚は…初めて神社で霊夢と戦った時の、あの感覚と似ているな…。

あの時は無我夢中だったから分からなかったけど、今なら分かる。この力の使い方が。

 

「祓え…!」

 

宿った力の具現、半透明な背中の翼を内側に畳み、そして一気に広げる。

たったそれだけの動作で、オレの周囲を覆い尽くしていたナイフは全てが吹き飛ばされ、辺りに飛散していく。

廊下の窓ガラスはその音の衝撃で全て砕け散り、辺りには破片が散らばる。…危ないな。

 

「なっ…!?」

 

凄まじい風圧に耐えきれなかったのか、咲夜もまた吹き飛ばされ、廊下の端まで飛んで行き、壁に叩きつけられる。

 

「ぐぅ…!!」

 

叩きつけられた衝撃で肺の空気を押し出されたのか、苦しげにその場で蹲る咲夜。

数秒の後、息を整えたのか、顔を上げ此方を睨みつける咲夜。紛れもない闘志と、容赦の無い敵意を感じさせる目だった。

 

また、消えた。…と思ったら、また背後に現れた。…さっきから一体何なんだ?移動するにしたって、何故目で追えない程の速さで移動できるんだ…。

 

「翼、ですって…?貴方は、いったい……まあ、良いわ。どんな能力を持っていようと、私に勝てはしないッ!」

 

またしても眼前の咲夜の姿がぶれる。それと同時に、何かが掠めるような音と、突き刺さるような音がする。後ろに目を向ければ、背後の壁には大量のナイフが刺さっていた。

背中の翼に意識を向ける。どうやら、幾つもの穴が空いているようだ。…ということは、あの一瞬の内に翼をやられていた訳か。

 

「…何の反応も見せないという事は、どうやら実体は持っていないようね。まあ、それでも私のやる事は、変わらないけどね」

 

咲夜が右手に何かを構える。…あれは、スペルカードか。

直後、咲夜の姿が消える。何処に……後ろか!

 

「…何?」

 

薙ぎ払うと同時に、背後に迫っていた数本のナイフが吹き飛ぶ。…そう、ナイフ()()が。

ならばアイツは何処へ消えた?何処にも姿が見えないのは、何故だ…?

 

「ぐはッ!?」

 

次の瞬間、完全に無防備だった鳩尾に鋭い蹴りが入る。蹴りの衝撃で内臓を損傷したのか、喉の奥から血がせり上がり、そのまま吐き出す。…鉄の味がする。

膝をつき、床に蹲る。せき込む度に、紅く彩られた床に紅い血だまりが出来る。…呼吸が儘ならない、苦しいが、何とか整えねば。

 

「奇術『幻惑ミスディレクション』…貴方は私から意識を逸らした。だから貴方は私を捉えられなかった。…苦しいかしら?呼吸が出来ないでしょう?私、こう見えて体術も自信がありますの。…まあ、聞こえていないかもしれませんが」

 

頭上から響くのは咲夜の声か…。何かを言っているが、言葉が頭に入っていかない。

だが、思いの外思考は冷静でいられた。あの時は注意が背後のナイフに逸れて気が付かなかったが、ナイフが背後から飛んでくる直前、確かにアイツの姿は消えていた。

そして、振り向いたときには、既にアイツの姿は後ろにはいなかった。…そして、油断している所に蹴りを入れられた。

 

スペルを宣言すると同時に、瞬時に背後に回ってナイフを投げ、そして気を取られている間に蹴り…それでも、先ず人間の動きじゃないな。

それこそ、時間を止めでもしなければ……時間?

 

…時間を…止める?まさか……ッ!?

 

「…多分、分かった、かもしれない。…お前、の…能力…ッ」

 

「何ですって…?」

 

少々声が掠れてしまっているが、喋る分には支障無い程度には回復したか。

 

 

「…お前の、能力は…時を止める…否、時を操る力…だろう」

 

「…ッ!!…ええ、その通りよ。『時を操る程度の能力』、それが私に与えられた力」

 

能力を見破られた故か、一瞬目を見開くも、再び無表情になり冷静にそう答える咲夜。

 

「けれど、それが分かった所でどうするつもりかしら?貴方に時が止められるとでも言うの?」

 

その通り。相手の能力が分かった所でどうしようも無いのだ。

オレには時間を操る力なんて無いし、止まった時間の中で動く術も持ち合わせていない。

…対抗策は、無い。

 

「…まあ、当然ね。止まった時間の中で動ける物なんて存在しないんだもの。…私を除いてはね。

時を止める私の能力は、まさに『世界を支配する』能力!どれだけ抗おうが無駄なのよ!

あらゆる時が止まった世界で、この()()()()で踊り狂いなさいッ!幻世『ザ・ワールド』!!」

 

再び、時が止まったのだろう。視界を覆い尽くす鉛色の雨を前に、そんな思考を巡らせてみる。

見渡す限りのナイフ、ナイフ、ナイフ。物量、密度共に先程の比では無い。…果たして、本当に殺す気が無いと言えるのだろうか?…怪しい物だ。

此方を目掛けて一直線に飛んでくるナイフの全てを避け切るのはほぼ不可能だろう。霊夢なら可能かもしれないがな…そういえば、霊夢は大丈夫だろうか…?…まあ、そんな事を言ったら『今は自分の心配をしろ』なんて返されそうだがな。

そんな場違いな事を考え、思わず笑みが零れる。

 

「…随分と余裕そうね?」

 

どうやら、あらぬ誤解を与えてしまったようだ。無論、今のオレに余裕なんて無い。

だが、活路は見出せた。…このナイフの雨を切り抜ける方法を、な。

 

掌に意識を集中させ、幾つかの弾幕を生み出す。角度、込める霊力の加減、慎重に調整し、その弾幕を数本のナイフに向けて時間差で放つ。

 

弾幕を受けたナイフは、別のナイフの方向に跳ね返り、そのナイフがまた別のナイフにぶつかり、弾かれてと、どんどんとナイフがあらぬ方向へ飛んでいく。一本の線が次々枝分かれしていくように、視界を覆っていた無数のナイフは、その全てがオレを避けて飛んで行き、床に刺さり、壁に刺さり、天井に刺さった。

 

「なっ…!?」

 

咲夜は『信じられない』とでも言いたげな表情で此方を見ている。まあ、あんな方法で突破されるとは夢にも思わないだろう。

…実際、こっちも結構ヒヤヒヤした。もしあの反射が成功しなかったら、今頃オレは針串刺しの刑になっていただろうな。

 

「侮っていたわ。まさかこれほどとは思わなかったけれど…。けど、もう手加減は出来ない。死にたくなければ、今の内に退きなさい。そうすれば、見逃してあげるわ」

 

…この期に及んで見逃すとはな、それがお前なりの優しさなのか。…けれど、

 

「断る」

 

このまま退く気は毛頭無い。たとえ時を操る奴が相手だって、オレは負けるわけにはいかない。

…このまま帰ったら、魔理沙(せんせい)に申し訳が立たないからな。

 

 

「…警告は、したわよ。…死んでも文句は言わない事ねッ!!」

 

直後、凄まじいスピードで此方に突っ込んでくる咲夜。先程とは違い、そこそこの長さを持つナイフを手に持っていた。鍔迫り合いか…望む所だ。

 

キィン…と、甲高い金属音が廊下に鳴り響く。…なるほど、確かに凄い力だが…それだけじゃ、無いんだろうな。

短剣を挟み、互いに睨み合う。…完全に、狩人(ハンター)の眼だよ、今のお前。

何とも恐ろしい殺気だ。本当にコイツは人間なのか…?まあ、オレが言えた義理ではないが。

 

鍔迫り合いの末、勝ったのは此方の剣だった。思いきり横に薙ぎ払い、ナイフごと咲夜を弾くも、次の瞬間には咲夜は既に視界の端から消えていた。

また時を止めたか…それとも、時を()()()のか…。

時を操る能力がどれ程応用が効くのかは知らないが、文字通りの意味に捕えるのならば、際限なく時を加速させることだって可能な筈だ。もしそんな速度で移動されれば、人間はおろか、どんな生き物にも捕える事は不可能だろう。

…考えれば考える程、恐ろしい力だ。…本当にこの世界は、何もかもが非常識だ。…幻想郷では、常識に囚われていてはダメだという事か。…まあ、空を飛んだり弾幕を撃ったりしている時点で、少なくともオレに常識の二文字は当てはまりはしないだろうが。

 

…右後ろ、そこか!

迷いなく短剣を振るう。再び、金属同士がぶつかり合う音が鳴り響く。

交す視線の先、殺気を帯びた瞳に動揺の色は見られない。向こうも迷いなく剣を振るって来ている。…殺す気で、な。

 

再び消える咲夜。…否、()()()()()()()()()()()()()でその場から移動したのだろう。

二度、三度と剣戟の音が響く。ほぼ反射的に動かした短剣と、咲夜が持つナイフがぶつかり合ったのだろう。音はすれども姿は見えないが。

 

左腕を何かが掠める。目をやれば、そこはぱっくりと切れていた。数拍置いた後、そこから血が流れ出る。

…速度と相まって、恐ろしい切れ味だな。腕なんかを持って行かれたら敵わないだろう。

 

その後も、迫りくる刃を反射的に受け止め続けていたが、やはり尋常ならざる速度故か、徐々に生傷が増えて行った。

いい加減、肩の痛みが気にならなくなってきた。…と、いうより、痛みの箇所が多すぎて最早気にする暇が無い、というべきか。

…予測に過ぎないが、恐らく咲夜は、こういう戦いに…殺しに慣れているのかもしれないな。先程から、首や心臓等の急所だけは外して狙って来ない。何処を切れば相手を殺せるか、熟知しているような動きだ。

ただ、敢えて外している辺り、アイツは未だオレを本気で殺す気は無いようだ…。そう言う意味では、スペルカードルールは浸透していると言えるかも知れないな。

 

…って、さっきからオレは一体何を考えているんだ?戦いの最中だというのに…。

そんな余裕は無い筈…だというのに、何故オレはこうも冷静でいられる?全く訳が分からない…。

 

 

苛烈に続いていたナイフの猛攻は次第に勢いを失っていき、ついには咲夜自身、時を加速させる事を止めてその場に立ち尽くしてしまっていた。

 

飽きたか…それとも、疲れたのか…。肩で息をしているのを見るに、恐らくは後者であろう。

時を加速させているとはいえ、本人の運動量は変わりはしない。…つまりは、そう言う事なんだろう。

 

「…まだ、続けるのか?」

 

目を凝らして相手の様子を伺えば、息も荒く、憔悴仕切ったその顔は汗にまみれている。…見ているだけで痛々しく思えてくる。できる事なら、もうこの辺で終わりにして欲しいのだがな。

 

「…諦めると、思うかしら?」

 

それでも尚、力強く此方を睨みつけ、スペルカードを構える咲夜。…まあ、そうなるだろうな。もしオレが同じ立場だとしたら、きっと同じように抗うだろう。

 

「まだ、私の時間は終わっていない…!メイド秘技『殺人ドール』ッ!!」

 

目の前に、大量のナイフが展開される。先程までの弾幕と何ら変わらないかと思いきや、どうやら今度はそうも行かないようだ。

突如、目の前にあったナイフが弾け飛び、それは弾幕に形を変えて目の前に迫ってくる。横にそれて回避するも、既にナイフに包囲されている。

2、3本ほど掠めるも、どうにかナイフの壁も突破する。しかし、ナイフと弾幕の勢いはどんどん苛烈になっていく。

 

…拙いな、ここまで来ると、もう避ける自信が無い。…ッ、少し、意識が薄れて来た。…血を流しすぎたのかも知れないな。…最も、床も紅だから、血と見分けが付かないが。

左の腿にナイフが突き刺さる感覚がある。けれど、痛みが無い。…最早、痛覚すら麻痺してきている。弾幕が頬を掠める。…回避すら疎かになってきた。

 

……ここまで、かな。

 

 

 

『アンタが鍛えたんでしょ。なら、信じて待つのが仕事よ』

 

 

……

 

 

『これからは、アンタが私のパートナーよ。…魔理沙の分も、しっかり頼むわね』

 

 

……オレは、

 

 

 

『なあ、柴芭。弾幕ってのは、厳密には“相手を倒す為の道具”じゃないんだぜ?』

 

『如何に相手に“魅せるか”、それが弾幕なんだ』

 

『自分も、相手も、思いっきり楽しめるんだ。それが、スペルカードルールさ』

 

 

……弾幕は、楽しむ物

 

 

 

『だからな、柴芭。…こういう時は思いっきり笑ってさ、全力で楽しもうぜ!』

 

 

……ああ

 

 

 

…そうだ、弾幕は美しく魅せる物だ。だというのに、オレは今、ただ勝つ事だけを考えている。

…楽しまなきゃ、損なのにな。

それに…アイツは、十六夜咲夜は、楽しんでいるのか…?心から、決闘を楽しめているのか…?

 

もし、そうじゃないんだとしたら…。そうだな…オレは…アイツを楽しませて、やりたいな。

そして、お互い楽しんで戦えたなら…それはきっと、最高だろうな。

 

誰かを傷つけるだけが力じゃない、誰かを倒すだけが強さじゃない。

それを教えてくれた()()()()の為にも、オレを信じてくれた霊夢の為にも、オレは負けられない。

 

不思議な事に、周りはまるで時が止まったかのように静かに感じた。

全ての感覚が研ぎ澄まされていくような、不思議な、ふしぎな感じがした。

 

右手には、一枚のスペルカード。

何もかもが不完全なそれは、輝きを纏い、次第にその姿を変えて行く。

本当の強さを知り、力の使い方を知った時、それは完全なる姿へと形を変えて行く。

 

 

―顕現せよ、龍腕よ。真なる力を解き放ち、光をも切り裂く刃と成れ。

 

そう唱えたのは、一体誰なのか。それは、他でも無い自分自身。脳裏を過った言葉の羅列は、気付かぬ内に己の口から零れ出ていた。

両の腕の痣が白く眩い光を放つ。そして、凄まじい轟音と共に、白が視界を埋め尽くす。

 

光が晴れた先には、初めて魔理沙に出会った時、出現した龍の腕があった。

だが、あの時は全体が半透明だった腕だが、根元以降は完全な実態を持っている。

体温も、ドクン、ドクン…と脈打つ鼓動も感じる。

 

初めて見る筈のその姿に、戸惑いは感じなかった。

 

 

改めて、対峙する咲夜を見据える。

先程まで、必死の形相であった筈の彼女は、気が付けば、最初の頃の表情に戻っていた。

 

「…随分、落ち付いたみたいだな」

 

そう投げかければ、不意に此方を見て苦笑する咲夜。

 

「…そりゃあ、そんなに楽しそうな表情、見せられちゃね」

 

楽しそうな表情…か。オレは今、笑っているのだろうか。

だとしたら、それは一体どんな表情なんだろうな。…まあ、どうでもいいか。楽しければ、それで。

 

 

「…じゃあ、行くぞ!」

 

「…ええ、来なさい!」

 

これこそが、今のオレが撃てる最後のスペル。

名前なんて考えていない筈なのに、はっきりとその言葉が脳裏に浮かんでくる。

 

脳裏に浮かんだ、このスペルの名は…

 

 

「竜符『閃光の轍断ち切る烈爪』」

 

 

天高く振り上げた腕を勢いよく振り降ろす。

その瞬間、光を纏った爪から、無数の刃が生まれ出で、飛翔する。

辺りに散らばったナイフを粉々に砕き、弾幕の光を跡形も無く掻き消し、廊下を光の刃が呑み込んでいく。

 

光の先に見えた彼女の表情は、笑顔だった。

刃の先に見えたオレの表情もきっと、笑顔だったのだろう。

 

そして、光は、時間を打ち破った。

 

 

------

 

光の刃は、決して命を奪わず、傷付けもせず、ただ、美しくあった。

刃に呑み込まれた咲夜は、暖かな光の中で、今日最も安らいだ表情をしていた。

今の彼女にとって、勝敗の行方などどうでもよく、ただ、この戦いの余韻に浸っている事が心地良かった。

 

「…私の、負け…ね」

 

誰に話しかけるでもなく、天井に向かってぽつりとそう呟く咲夜。気が付けば、戦いの疲れなど彼女はすっかり忘れ去っていたのだ。

 

「…けど、結果的には私の勝ちかもしれませんね。…こうして、立派に足止め出来たのですから」

 

そう言って、悪戯な微笑みを柴芭に投げかける咲夜。少女のようなあどけなさと、従者としての矜持を感じさせるその笑顔は、何処か奥ゆかしい魅力を感じさせた。

 

「…そう、だな。お陰さまで、大分、血の気が、引いた…。文字通り、な…」

 

そう答える柴芭の表情は、何処か青ざめて見えた。それは無理も無く、戦いの中で幾度となく傷を負った彼の体には、些かどころではない程に血が足りていなかった。

その姿を見て、一気に顔色を変える咲夜。次の瞬間には、幾つかの輸血用のパックを手に持って彼の傍にいた。

 

「貴方、血液型は何型ですか!?」

「えっ……B型、だけd」

「B型ですね!?とにかく急いで輸血を!!」

「お、おい…ちょっと待て。傷口に直接流そうとするなあ゛っ!?」

 

気が動転しているのか、突飛な行動に出る咲夜。

 

「す、すみません…でも、このままじゃ死んでしまいます!とにかく、輸血を急がねば!」

 

「…何故、オレを助けようとするんだ?…敵なんじゃ」

 

そこまで柴芭が言いかけた所で、彼の眼の前に手を翳して言葉を止める咲夜。

 

「…確かに、貴方はお嬢様の目論見を妨げる敵かもしれません。けれど…」

 

そして、ゆっくりと、柴芭の顔を見上げる。

 

()()貴方の事を『敵』だなんて思っていませんよ。

…貴方との戦いは本当に楽しかった。だから、また貴方と戦いたい……従者としてではなく、一人の友だちとして、ね」

 

太陽のように、眩しい笑顔を煌かせながら。

 

「…友だち、か」

 

「…ええ、友だちです」

 

その笑顔の向こうで、柴芭もまた破顔する。

 

「…ああ、それは良いな」

 

そして、二人は互いに笑いあう。

二人の時間は流れて行く。紅い夜空に、二つの暖かな光が煌いた。

 

 

 

 




本当の力の使い方を知る事ができました。
そして、初めてのお友だちができました。

長くなってしまいましたが、十六夜咲夜との戦い、如何でしたでしょうか。
ナイフの弾幕って、十分当たったら危険だと思うんですよ。だから、生々しい描写も必要と思い至った訳です。
そして、柴芭は戦いの最中に考え事をしていますが、別に彼、真剣で無いという訳ではないです。
感覚が研ぎ澄まされていくと、数秒程度の時間が何分にも感じる事って偶にありますよね。あれです(投げやり)
けれど、彼の場合は大分特殊かもしれません。理由は、いずれ…。

また、今回活動報告の方に解説(らしきもの)を載せてみました。
暇な時にでも気が向いたら読んでみてください。

次回、七曜の魔法使い。霊夢の相手は例の魔法使いです。


今回登場したスペルカード

今回咲夜が使用したスペルは、全てHard及びLunatic仕様となっております。
強敵である、という面を演出したかったんですが、少々ややこしくなってしまいましたね。

・奇術「幻惑ミスディレクション」
咲夜が使うスペルカード。相手の意識を逸らした上で、時間を止めて相手の反対側に回り込む。
手品における、相手の意識を逸らす技術『ミスディレクション』が由来であると思われる。
奇襲性が高く、初見では戸惑う。呆気にとられている間に被弾、なんて事にはなりたくないね。
Easy、Normalでは“奇術「ミスディレクション」”になる。

・幻世「ザ・ワールド」
咲夜が使うスタンドならぬスペルカード。「『時よ止まれ!』」
時を止めて相手の周囲にナイフを大量にばら撒く。元ネタは有名すぎる、詳細は活動報告に。
Easy、Normalでは“幻象「ルナクロック」”になる。

・メイド秘技「殺人ドール」
咲夜の最終奥義、メイドがそんな技覚えてどうする。
ナイフをばら撒く所はザ・ワールド等と同じだが、その弾幕の一部が弾けて襲いかかるのが特徴。
東方の旧作、東方怪綺談に登場する5ボスの夢子との関連性もあるとかないとか。
Easy、Normalでは“メイド秘技「操りドール」”になる。


・竜符「閃光の轍断ち切る烈爪」
柴芭のスペル。「claw-incomplete-」が完全な姿になった物。
威力、範囲、見栄え全てにおいて不完全だった頃とは比較にならない。
「轍」という言葉は、道を示す意味が含まれており、自由に飛び交う閃光の行き場さえも断ち切るという意味合いが込められたスペルである…かどうかはご想像にお任せします。


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