神々が愛した幻想郷 ~ Fantasia Variants Dreamed.   作:左右手

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もうそろそろ、仮免許が取れそうです。

結局10000文字超えてるじゃないか(憤怒)短く纏めるとは何だったのか。
今回も少々長いですが、根気良く読んで頂けるのであれば幸いです。


-あらすじ-
咲夜との死闘の末、戦いを制した柴芭。戦いを終えた彼らの間には、不思議な友情が芽生えた。
それから暫しの時を遡る。連れてこられてた霊夢を待ち受けていたのは、見渡す限りの本。
そして…


七曜の魔法使い

…ここは、一体何処なのかしら。

あのメイドがいきなり現れたと思ったら、気が付いたらこの場所に…。

 

…少なくとも、先程の廊下ではない事は確かね。でなければ、ここまで薄暗くは無いもの。…この部屋には窓が無いのかしら?

それに…随分埃っぽくて、ジメジメしてるわ。…カビ臭いし、あんまり長居はしたくないわね。

周囲を見渡せば、天井近くまで積み上げられた本棚が所狭しと並べられている。どうやら此処は書斎のような場所らしい。…凄い量ね、一体誰がこれだけの本を集めたのかしら?

 

それにしても、柴芭は大丈夫かしらね…。

いきなりあの得体の知れないメイドとやり合うのは重荷だったかしら…?

 

…そうじゃないでしょ、私。魔理沙に言った事、忘れたの?

 

信じて待つ、それだけよ。

 

 

…さて、まあ先ずは何にせよ、

 

「さっさと親玉の所に行って、ブッ潰さないとね」

 

『…随分と物騒な話ね』

 

本棚の奥の方から気だるそうな喋り方でそんな言葉が返ってくる。

 

薄紫と濃い紫色の縞模様が入ったゆったりとした感じの服、その上から更に薄紫の上着を羽織っている。先端を赤と青のリボンで結んだ非常に長い紫色の髪、頭には三日月を象った飾りの付いた不思議な帽子。

彼女の半分だけ見開いた眠たそうな瞳と相まって、一種の寝間着姿のようにも見える服装であった。

 

「誰よアンタは」

 

「私はパチュリー・ノーレッジ…日陰が好きなただの魔法使いよ」

 

パチュリーと名乗ったその魔法使いは、それだけ答えると上げていた顔を下げ、ページを開いてあった手元の本に視線を落とす。

 

「恐らく、あのメイド(咲夜)に連れてこられたのでしょうね。お気の毒に」

「あら、憐れんでくれるのかしら?」

「ええ、そうね。少なくとも、目的(お嬢様)を目の前にしてこれ以上進めない貴方は、傍から見て気の毒に思えるわ」

 

気の毒、とはね…。大した自信だこと。

 

「ふーん……で?誰が止めるって言うの?」

「貴方の眼の前には何が見えているかしら?」

「本」

「…読み手が居なければ本は意味を為さないわ」

 

そう言うと、読みかけていた本を閉じ、ゆっくりと立ち上がるパチュリー。

深淵を覗くような紫の双眼が私をじっと見つめる。何とも妖しさを感じさせるな、等とくだらない事を考えてみる。

 

「つまり、アンタが立ちふさがる…と」

「そういうことになるわね。…それで?貴方はどうするのかしら」

「決まってるわよ」

 

邪魔をするんなら、

 

「倒すわ」

 

 

「そう…」

 

特に興味も無さ気な短い返答だったが、此方を見据え続ける瞳には戦意が宿って見えた。

パチュリーが手に持っていた本が自分からページを開き、光を纏って宙に浮く。それと同時に、パチュリー自身も宙へと浮かび上がる。

 

「けど、そう易々と通す気は無いわ。

…空を覆う紅き霧は(しるべ)。今は()の為にも…この(ひかり)を掻き消させはしない」

 

彼…?一体誰の事かしら。まあ、どうでもいいか。

此方にスペルカードを付きつけるパチュリー。…ざっと見ただけでも5枚以上はあるわね。

…長期戦になりそうで嫌だわ、全く。

 

「そんなに光が恋しければ、日の光でも照らしていなさいよ」

「吸血鬼相手に随分と酷な話ね」

「知らないわよ、そんなの」

 

「…なら、その日の光の恐ろしさを、身を持って知るが良いわ。日符『ロイヤルフレア』!」

 

パチュリーの背後に魔法陣らしきモノが出現し、そこから巨大な火球のような物が大量に放たれる。

此方目掛けて放たれた火球の一つを飛んで回避すれば、着弾地点が爆発し、炎がドーム状に燃え広がる。…これ本燃えるわよね?

 

「安心しなさい、そこにある本は全て魔法によって守られているわ。火で燃える事も水で湿る事も無い」

 

「あ、さいですか」

 

一体何を安心すれば良いのかが良く分からないけど、まあ燃える事は無いみたいね。それこそどうでもいいわ。

次々に着弾、炎上する火球。それらを全て避けて行く。…そろそろ、時間かしらね?

 

ドンッ…と何かにぶつかる感覚。後ろに目を向ければ、高く積み上げられた本棚が此方を睥睨していた。

行く手を遮られたか…。目の前には火球が迫っている、このままいけば間違いなく被弾(ピチュ)るだろう。…そう簡単に当たってやるかっつーの。

 

眼前に迫る火球に向けて手を翳す。…引きつけて…今だ!

 

次の瞬間、火球が着弾した音が響く。自分の眼の前に鎮座する本棚の()()()()で。

…何とかやり過ごせた。…それにしても便利な術だわ、この『亜空穴』。

 

私の“空を飛ぶ程度の能力”の副産物…とでも言うべきだろうか。空を飛ぶとは、何物にも囚われない事。

例え目の前に壁が立ちはだかろうと、飛び越える事が出来る。亜空間へと潜るという手段を用いて。

それを技に転用したのがこの『亜空穴』だ。攻撃性が一切ないから、スペルカードとしては扱えないけど。

 

…恐らく、私の姿を見失って慌てふためいている事でしょうね。あの魔法使い。

その姿を想像したら何とも滑稽に思えたけど、今はのんびりしている場合じゃないわね。

 

座標を調節…本棚の向こう…そこね。

再び亜空への扉を広げ、パチュリーの背後へと道を繋げる。

 

すかさず穴へと飛びこむ。…案の定、此方には気付いていないようだ。

そして、未だ気が付いていないパチュリーに向けて弾幕を放つ。博麗印のお札を弾幕用に改造、量産したホーミングアミュレットよ。追尾性のあるお札だから、そう簡単には攻略できないわ。ちなみに、一枚一枚手書きだったりする。

 

「ッ…!?何時の間に…」

 

此方から放たれたお札を察知したのか、漸く存在に気付くパチュリー。そんなぼーっと突っ立てると当たっちゃうわよ、どうするつもりなのかしら?

 

「喰らうものかッ!土符『トリリトンシェイク』!」

 

そう宣言したパチュリーが床に掌を翳した瞬間、パチュリーの周囲に巨大な土の壁が形成される。

パチュリー目掛けて飛来していたお札が、その堅牢な壁に弾かれる。…けれど、単なる防御の為にスペルを使うのかしら?少しもったいない気もするわね。

 

「甘く見ない事ね、大地の力を。…行きなさい!」

 

壁を挟んでパチュリーの声が響く。次の瞬間、彼女を覆っていた土の壁が一気に瓦解し、その瓦礫が此方目掛けて一斉に襲いかかってくる。

…!危ないわね…。まさかこんな仕掛けを用意していたとはね…。けれど、時機狙いの弾幕を回避する事は容易だわ。

 

「それで私を狙った心算なの?」

 

「いいえ、別に貴方に当たる必要は無かったわ。…もう十分、()()()()()()から」

 

時間を稼ぐ…?一体何を言って……なっ!?これって…。

 

気が付けば、辺り一帯には煌びやかに輝く大きな黄色い弾幕が大量に張り巡らされていた。

恐らく、私がパチュリーの作った土の壁や、土の弾幕に気を取られている間に、何かしらの方法で周囲に弾幕を展開していったのだろう。

全方位、360度、見渡す限りの黄金の壁。何とも素敵な光景だ。…さすがに、これは少し厳しいかもしれないわね。

 

「金符『メタルファティーグ』。眩い光に、呑まれなさい」

 

拙いわね…何とか、逃げ道を見つけないと…。

この道は…?…駄目だ、被弾する。ならば此方は…?そこも、駄目。そうこうしている間にも、弾幕は迫ってくる。

…仕方が無い、ちょっと荒っぽいけど、此処はこれで切り抜けるしかない!

 

全身に霊力を、滾らせ…一気に…放つッ!

 

「はあッ!!」

 

全身から放たれた霊力は衝撃波となって、周囲の弾幕を掻き消していく。

名付けて『霊撃』。…最も、ただ単に自分の力を外側に爆発させるだけの技なんだけど。今度柴芭にも教えてあげようかしらね。…っと、いけないいけない。また考えが別の方向に…。

 

霊撃で弾幕が掻き消されたお陰で、どうにか逃げ道を確保できた。

前進、少し上昇、右へ、左へ、少し下降、また上昇、そして一気に前進…よし、抜け出せたわ。

 

「まさか突破されるとは…。貴方の事、少し侮っていたみたいね」

 

「へぇ、そう。なら、これで評価を改めると良いわ」

 

袖に隠した封魔針をパチュリー目掛けて投擲する。放たれた針は、速度を維持しながらパチュリーの周囲を跳弾する。

放たれた針は、相手の注意を分散させた上で、時間差で相手に当たるようになっている。

それで付いた名が『パスウェイジョンニードル』とは、何ともアレな気がするけど。

 

自分に迫る針を前に、表情一つ変えず此方を見据えるパチュリー。

 

「…いいえ、残念ながら貴方の評価は」

 

そう言いかけた瞬間、突如パチュリーの体が弾けた。

爆発により生じた光で視界を塞がれる。…一体、何が…?

 

 

「まだ変わりそうに無いわ」

 

…ッ!?後ろ…!?

 

「木符『グリーンストーム』!」

 

突如、強い風が吹き荒れ、木の葉のような緑色の弾幕が渦を巻いて襲いかかってくる。

完全に意識がさっきの爆発に向いていたため、反応が遅れてしまう。拙い…!けど、気合いで避けるッ!

…ッ、ちょっと、掠った…けど、それだけよ。ほんのちょっぴり血が出てるけど、気にしている暇は無いわ。

 

暫くして、緑色の嵐が止む。スペルが時間切れになったのだろう。…まんまと一杯食わされたわ。

さっきのパチュリーは、ニセモノだったって言うの…?だとしたら、一体何時の間にすり変えたってのよ…。

 

「まあ、驚いたみたいね。アレは、私があの時トリリトンで生み出しておいたダミーの人形(ゴーレム)よ。魔法によって、ある程度は意志を持たせる事が出来るの。即席とはいえ、貴方を騙せる程度には運用が可能という事が分かったわ」

 

やはり、先程のアレはニセモノだった訳ね。それにしても、あれだけ精巧な物をあの短時間で作り出せるだなんて、大したものだわ。魔術の造詣なんて無いから知った事は言えないんだけど。

やれやれ、こうもアッサリと騙されてしまうとはね。これじゃあ、紫に『修行不足だ』なんて言われるのも、無理ないか…。

…修行不足、かぁ…わかっちゃいるんだけどねぇ…正直、面倒で……っと、そうじゃなかった。

 

「…そうね。けど、二度目はもう無いわよ。…まあ、同じ手を使ってくるとは思わないけど」

「そう、残念ね。貴方ならもう一回くらい引っ掛かってくれると思っていたのだけれど」

「あんまりナメないでもらえる?」

「貴方はあんまりおいしく無さそうだわ」

「さぁ、わからないわよ?」

 

軽口の応酬。ホントに、幻想郷の住人は捻くれ者が多いわね。…人の事言えた口じゃないけど。

 

「…それに、紅白は縁起が悪いわ」

「逆じゃない?普通は」

「…ええ、そうね。普通は、ね」

 

…?一体何を言っているのかしら…?

 

「じゃあ、何?私は普通じゃないって言うの?」

「そうなるわね。…そして、とても縁起が悪いわ。…今日の貴方は」

 

 

「ぐぅッ…!?」

 

突如、背中に凄まじい衝撃と熱が奔り、そのまま吹き飛ばされて床に倒れる。

痛ッ…!?…何?一体、何が…!?

 

『背後に注意、ってねー!』

 

ぅ…背中が、焼けるよう、だわ…。何、なのよ…いったい…。

…それに、今の声…一体、誰よ…?

 

「上出来よ、小悪魔」

 

「はいー、パチュリー様ー!」

 

顔を見上げれば、いつの間にかパチュリーの隣にもう一人増えていた。

黒いロングスカートを身に付け、同じく黒いベストを白いシャツの上に纏っている。首から胸元にかけてある長い赤い布のような物は、恐らくはネクタイだろう。

長い赤い髪もそうだが、何といっても特徴的なのは、背中と頭に生えた黒い蝙蝠の羽のような物である。

 

小悪魔と呼ばれたその生き物は、悪戯を成功させた子供のような笑みを浮かべて此方を見下ろしている。

 

「この子は小悪魔、この図書館の司書をやらせているわ」

 

「ご紹介に与りました、小悪魔でーす!」

 

舌を出し、片目を閉じながらピースサインをする小悪魔。…なんか、変な奴ね。

 

「いや~それにしても…アンタあんなにアッサリ引っかかっちゃうんだねー!アハハハ!おもしろ~い!バカじゃないの~!?」

 

思い切り此方を煽ってくる小悪魔。…あからさま過ぎて、少々反応に困る。

 

「…あれ?…なんか、思ったような反応が返って来ない…パチュリー様ぁ~」

「知らないわよ」

「あぅ~」

 

此方の反応が無くて落胆したのか、パチュリーに迫るも一蹴される小悪魔。その滑稽な姿に、思わず笑みが零れる。

 

「あーっ!?今笑ったわね!うぅ~…許さない!やっちゃいましょう、パチュリー様!」

「…そう息を荒げないの。まあ、貴方の力を借りるつもりではいたわよ」

「そうこなくっちゃ!…さあ、ここまでよ腋巫女!私とパチュリー様のコンビの前に、さっさとやられなさい!」

 

誰が腋巫女だ。…しかし、少々厄介ね。相手が二人に増えたとなると、単純に狙いが2倍に増えるって事だもの。…これまで以上に、気を付けないとね。

立ち上がり、改めて二人に対峙する。…全く、面倒ね。

 

「意地でも先に進ませる気が無いようね」

「あら、帰りたくなったかしら?」

「…そうね、意地でも突破したくなったわ」

「そう、捻くれ者ね」

 

「お互い様よ」

 

手元に仕込んでおいたホーミングアミュレットを一気に投擲する。ざっと枚数は10枚程度と言ったところかしら。勿論、全て起爆札だ。

当然、唯で喰らってくれる筈も無く、目の前にいたパチュリーと小悪魔はそれぞれ違う方向に回避し、そのまま二手に分かれて飛んでいく。

 

…分散したか。まあ、予想していた事だわ。

一応、小悪魔の方にだけ多めにアミュレットを追わせておく。なるべく早く取り巻きは潰したい。

 

「おあぁっ!?何コレ!?何でおっかけてくるの~!?」

 

素っ頓狂な声を上げながら、必死にアミュレットの追跡から逃げている小悪魔。…アレは放っておいて、と。

 

問題は、あっち(パチュリー)ね。

いつの間にか、アイツを追わせていたアミュレットが消えている。…さっき爆発音が聞こえたから、何かしらの方法で打ち消されたんだろう。…アレ、ただ弾幕を当てるだけじゃ起爆はしないように改良したんだけどなぁ。

 

「…早速役立たずみたいね、()()

 

「そうみたいね」

 

おいおい、そこは否定してやれよ。…なんて感想を抱いたりもしたが、結局は内輪の話だから気にしないでおこう。

 

「…けれど、貴方はまだ気付いていない。水符『プリンセスウンディネ』!」

 

何に気付いてないって言うのよ…なんて言う間も与えられず、大量の水球が目の前に展開される。

避けるのは簡単そうに思えた、その次の瞬間、目の前で水球が弾け、大量の青い弾幕となって此方に襲いかかる。

 

厄介な性質だわ、あの水球。なるべく距離を取って……っ!?後ろから弾幕が…!?

直感に突き動かされるままに身を捩る。次の瞬間には、背後を数個の赤い弾幕が掠めて行った。

 

「ちぇ~、避けられたかぁー。でも、次もそう上手くいくかな~?」

 

顔は動かさぬまま、ちらりと横に目をやる。弾幕を撃ってきたきたのは、小悪魔だった。

一体何時の間に…?さっきまで、アミュレットに追いまわされていた筈じゃ…?

 

「あーんなチャチなお札なんかで私を倒せると思ったの~?アンタホントバカじゃないの~!?」

 

「そう言う事よ。…また引っ掛かってくれたわね。やっぱり、貴方結構おいしいかも」

 

さっきのは演技だったって事…?また騙されちゃった…。……ハァ

 

「…冗談じゃないわよッ!」

 

怒りに身を任せ、大量の弾幕を撃ちまくる。

正確に狙い等定められていない。完全にばら撒き弾だ。あっさりと回避される。

 

「ほらほらぁ~どうしたのぉ~?そんなんじゃ当たんないよ~?キャハハハ!」

 

小悪魔が此方に向けて何か言っているが、良く聞こえない。

それでも、嘲りと煽動を含めた笑みで此方を見る小悪魔が、酷く憎たらしく感じた。

 

「うっさい!さっさと消えなさい!!」

 

封魔針を小悪魔目掛けて投げつける。今度は正確に狙った。…外す筈が無い。

 

だが、その一撃は小悪魔には届かなかった。

小悪魔の眼の前に、緑色に光る壁のような物が展開され、飛来する封魔針を全て防がれていた。

 

「私もいる事、忘れてもらっては困るわね」

「ざ~んねんだったね~!」

「くっ…」

 

小悪魔を狙えば、パチュリーに防がれる。パチュリーを狙おうとすれば、小悪魔に隙を突かれる。

全くと言っていい程に隙が無い。誰が見ても完璧なコンビネーションだ。…だからこそ、余計に苛立ちが募る。

 

…けれど、ここで諦める訳にはいかない。

異変を解決するのは、博麗の巫女の使命だから。

 

それに、今ここで諦めたら…魔理沙と柴芭に合わせる顔が無いじゃない。

こんな事じゃ二人に笑われるわ。…そんな形で、柴芭の笑顔は見たくない。

 

この異変が終わったら、アイツの笑顔とかも見れるかな?

…まあ、良いか。…そんな事は。

 

終わってから、考えましょう。

 

「さあ、覚悟は決まったかしら?」

「…ええ、決まったわ」

 

 

「…何が何でも勝つ!そう決めた!」

 

「…本当に、捻くれ者ね。…もう、終わりにしてあげるわ!火符『アグニシャイン』!」

 

パチュリーの背後から出現した炎の塊が、渦を巻くように部屋全体を包んでいく。

今、炎の中に私達はいる。凄まじい熱気が伝わってくる。この部屋どころか、屋敷諸共焼き尽くさんばかりに燃え盛っている。

 

小悪魔はというと、いつの間にかパチュリーの傍にいた。避難したのだろうか。

その内に、炎の渦から弾幕が出現する。囲炉裏の火が爆ぜるように、真っ赤に燃える渦の中で炎が爆ぜ、弾幕となって此方に襲いかかってくる。

 

只管に回避に徹し続ける。それでも、爆ぜる炎は止まる事を知らず、燃え盛る渦はじわじわと此方の体力を奪っていく。

避けたと思った先に、別の赤が。小悪魔の弾幕だ。…此処まで徹底した連携を見せられると、唯々溜息が出るばかりだ。

 

私を取り囲む熱は、炎は、徐々に私の体から体力を奪い、水分を奪い、そして、私の服を焦がし、皮膚を焼き、尚も激しく燃え盛り続ける。

 

「うわ~…辛そうだね~。もうやめちゃってさ、楽になっちゃったら?」

 

小悪魔がそう声をかけてくる。善意からの言葉なのだろうか、その声音には多少の同情が含まれている様にも感じられた。…だが、今の私にとって、それは悪魔の囁きに他ならなかった。

 

「…願い、下げよ」

 

何とか声を絞り出す。…喉がカラカラで、声を出すのも辛い。

熱い…苦しい…こんなに追い詰められた事なんて、今まで無かったのに…。

 

…これも、怠けていた報い、なのかな。

 

「あぁッ…!」

 

弾けた炎が肩に当たる。肩が焼ける感触がする。熱い、痛い。

 

「…見なさい、もう碌に回避すら出来ていない。…これ以上はもう無駄よ」

 

視界も段々とぼやけて来た。疲労からか、それともダメージからか…。

どちらにせよ…これは、そろそろ本当に拙いかも知れない…。

 

ここで、負けるわけにはいかない…のに…。

 

「…ここ、まで…なの…?」

 

 

 

 

 

『なに弱気な事言ってんだよ、お前らしく無いな』

 

「えっ…?」

 

突如聞こえて来たその声、私は良く知っていた。

 

 

「恋符『マスタースパーク』!!」

 

凄まじい閃光が、炎と共に二人を呑み込んだ。

その光の端に、良く知っている笑顔が輝いて見えた。

 

 

「何しに来たのよ…魔理沙…」

「助けに来たんだ」

「なんで…来たのよ…」

 

「なんでかって?そりゃあ…」

 

 

「友だちだからだよ」

 

…!

 

「友だちが苦しんでいるとあっちゃあ、放っておけないからな」

 

……

 

「だから…助けに来たんだぜ、霊夢」

 

 

…友だち、か。

 

「…勝手にしなさい」

 

「ああ、勝手にさせてもらうぜ」

 

そう言うと、魔理沙は帽子の下で力強く笑って見せる。

…ああ、やっぱり、この笑顔の方が良い。

 

 

「…まだ仲間がいたのね」

 

その声に、私と魔理沙は振り向く。

煙の中から姿を現したのは、多少煤けてはいるが、平然と立っているパチュリーの姿であった。

あの閃光の中で無事だったというの…?…!いや…そうでも無さそうね。

パチュリーの後ろに目を向ければ、黒焦げになり、服が所々裂けて扇情的な姿になった小悪魔が転がっていた。

 

「あーあー…。まあ、役に立ってはいる…わね?」

 

「そうね、役に立ったわ」

 

何とも酷い話だ。小悪魔が聞いたら恐らく泣くだろう。どっちの意味でかは知らないが。

 

「おお、何か倒したっぽいな?らっきーらっきー」

 

軽いノリでそう笑う魔理沙。…まあ、助かったのは事実だけどね。

 

「そう言えば、咲夜からの報告にもあったわね。…そう、貴方が美鈴と戦った魔法使いね。けれど、貴方はあの戦いで既に体力を消耗し切ったと報告を受けているのだけれど…?」

「ああ、そりゃ見間違いだろう。私はちょっと眠かったんで仮眠を取っただけだ」

「……ああ、そう」

 

……嘘ね。全く、魔理沙ったら…。

 

「よしっ…霊夢!ここまできたら、後は押し切るだけだぜ!」

「…わかっているわよ」

 

私は右手にお札を、魔理沙は左手に八卦炉をそれぞれ構え、唯一人残った魔法使いを見据える。

 

「覚悟しなさい、魔法使い!」

「アンタを倒して、先に進むぜ!」

 

対するパチュリーも、これまで以上に闘志に満ち溢れた紫の瞳を輝かせ、此方を見据える。

 

「…名前、聞かせてもらえるかしら?…貴方達の」

 

 

「博麗霊夢、楽園の素敵な巫女よ!」

「霧雨魔理沙、普通の魔法使いだぜ!」

 

「…覚えておくわ、その名前。…さあ、これで最後よ!月符『サイレントセレナ』!!」

 

パチュリーの足元に星を象った魔法陣が出現し、そこから無数の青い矢のような光が撃ちだされる。

撃ちだされた光の矢は天井高くまで到達する。天井に達した光の矢が集まり、まるで夜空に浮かぶ月のようになったかと思うと、天井の月から此方目掛けて一斉に光の矢が降り注いだ。

凄い…!密度も、勢いも、今までとは比べ物にならない。これが、彼女(パチュリー)の本気という訳ね…!

近付こうとしても、凄まじい量の光の矢を前に、進む事が出来ない。加えて、術者である彼女自身もまた、光の矢のような弾幕を絶えず放っている。

上と前からの挟撃によって、どうしても近付けない。…近付けなきゃ、勝てないのに…。何処かに…何処かに、道は無いの…?このままじゃ…。

 

「霊夢!」

 

魔理沙が私の名を叫ぶ。彼女もまた、光の檻に囚われていた。

 

「道が無いなら、作るっきゃないぜ!」

 

魔理沙…?一体何を言って…。

 

…!まさか…。

 

「…そのまさか、さ。…大丈夫だ、私を信じろ!」

 

…普段だったら、正直言ってこれ程信用できない言葉は無いんだけれど…何故だろう。

今は…心の底から信頼できる。それだけで、言いようの無い自信が湧いてくる。

 

 

「…わかったわ。頼むわよ、魔理沙!」

 

「おう!…行くぜ!『ブレイジングスター』ッ!!」

 

魔理沙の全身が光に包まれ、降り注ぐ光の雨にも負けぬ程の輝きを放つ彗星となってパチュリーの方向へと突撃する。

凄まじい速度で、光の矢を歯牙にも掛けずただひたすらに突っ込んでいくだけ。

…ただそれだけの、豪快で、単純なスペルなのに…

どうして、こうも美しく見えるのだろう。

 

光の矢の中を泳ぎ切った彗星は、パチュリーの眼の前へと到達する。

だが、そのまま貫く事は叶わず、回避したパチュリーの体を掠め、そのまま後ろへと飛んでいく。

 

…けれど、十分。

それだけで、十分だ。

 

道は、できた。

 

彗星が過ぎ去った光の轍を、迷う事無く突き進んでいく。

降り注ぐ光の矢も、前方から迫る光弾も無い。…チャンスは、今しかない!

 

イチかバチか…? …いや、必ず勝つ!

 

 

「霊符『夢想封印』!!」

 

全身が浮遊感に包まれ、目の前に光が満ちて行く。

解き放たれた青白い光は、辺りに散らばり、巨大な光の球となって部屋全体を埋め尽くす。

 

そして、眼の前の魔法使いは、光の中に呑み込まれた。

 

…これで、決着、ね。

 

 

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再び、図書館に静寂が訪れる。

あれ程の激闘であったにも関わらず、彼女らを睥睨する本達は依然変わらぬ佇まいでそこに鎮座していた。

 

床の上に仰向けに倒れ、天井を見つめるパチュリー。

やがて、その静寂を打ち破るように、ゆっくりと口を開く。

 

「…私の、負けね」

 

静かに告げられたその言葉は、紛れも無い霊夢達の勝利を確信させる旨の言葉であった。

 

身に纏っていた淡い光を解き、後ろを向いたまま魔理沙が静かに笑みを零す。

 

「へへっ…どんな、もんだ…って…ん…」

 

最後まで発せられる事は無く、彼女は紅の中に倒れ伏した。

 

「魔理沙!」

 

「…だいじょうぶ、だよ…れいむ…。ちょっと…つかれた、だけ…」

 

今にも絶えてしまいそうな程に弱々しいその声音は、否が応にも霊夢に不安を抱かせた。

 

「アンタ…ホントに、無茶するわよ」

「…はは…ホント、だな…」

 

倒れた魔理沙の上半身を抱き上げる霊夢。

 

「…ありがとうね」

「…良いよ。…わたしが勝手に、やった事…だから、な…」

 

「…霊夢」

「なに、魔理沙?」

 

「勝てよ」

「…当然よ」

 

霊夢がそう答えれば、魔理沙は笑う。

魔理沙の中にもまた、霊夢への確かな信頼があった。

 

霊夢は魔理沙を抱き抱え、パチュリーが座っていたソファーに勝手に寝かせる。

そして、ゆっくりと起き上がったパチュリーへと質問を投げかける。

 

「アンタらのお嬢様は、この先にいるのね?」

「そこは私のソファーなのだけど…まあ、いいわ。…その通りよ。この先に、()()はいるわ」

 

傍の本棚以上に大きな扉、恐らくは書斎の出口であろうその扉をパチュリーは指差す。

 

「案内どうも。…それじゃ、アンタらの親玉、倒してきてあげるわ」

「どういたしまして。…せいぜい、気を付ければ良いわ」

 

そのやり取りを最後に、霊夢は扉へと向かう。

 

(待っていなさい、吸血鬼。アンタの目論見も、ここまでよ)

 

確かな闘志を胸に抱き、霊夢は闇の中へ消えて行った。

 

 

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…行った、か。

…やれやれ、全く体が動かないや。…やっぱり、無茶、し過ぎたかな…。

 

慣れないスペルだったし…その上、()()は反動もキツイし…。

そんなのを1日に2発も使えば、そりゃ反動も倍に来るって。

 

それに、美鈴と戦った時のダメージだって、無くなった訳じゃない…。

…正直、もう痛みすら分からない位だ。

 

…意識も、薄れて、きた。

…このまま、死ぬ…のかな…? …なんて、ね…。流石に、死にはしないけど…。

 

でも、このままじゃ…本当に……。

 

 

……? なんだろう…。何かが、額に…触れて…。

 

「…やっぱり。貴方、もうとっくに限界を超えていたのね」

 

声がきこえる。…この声は、あの魔法使い、か…?

 

「随分無茶をするのね、貴方」

 

はは…。れいむと、おんなじ…事…言って、ら……。

…でも、そう言われるのは…少しだけ、うれしい…かな…。

 

「…何よ、その顔は。そんな嬉しそうな顔されても、出来る事なんて、精々治癒する位よ」

 

 

「…な」

 

「ん…?」

 

「な、まえ…きかせて…くれ、る…か…?」

 

「…パチュリーよ」

 

「そう、か…。…ありがとう、パチュリー」

 

「…どういたしまして。魔理沙」

 

そっと、パチュリーの指が、私の髪を撫でる。あったかい…やわらかい…とても、心地良い…。

 

…今は、このまま…ゆっくりと…眠ろう…。

 

この心地良さに包まれて……ゆっくり…と…。

 

 

…まけるな、霊夢。…がんばれ、柴芭。

 

わたしは一足先に、ここで満身創痍(リタイア)だけど…。

 

お前達なら、やれるさ。…きっと、な。

 

 

 




厳しい戦いに勝ち、霊夢はついに吸血鬼が待つ場所へ向かいました。
疲れ果て、力尽きる間際、魔理沙は魔法使いの優しさに触れました。

パチュリー・ノーレッジとの戦い、如何でしたでしょうか。
多彩な魔法を使うというキャラの性質上、演出や描写を細かくしようとすると、どうしても時間が掛かる上に、文字数も相応に増えてしまいます。
この辺りは、要勉強という事なんですかねぇ。

霊夢と魔理沙、熱い性格になっていますが、多分その場のノリで高揚しているんでしょう(適当)


次回、永遠に紅い幼き月。いよいよラスボスとの戦いです。


今回登場したスペルカード

凄く数が多いです。そして、Easy、NormalとHard、Lunaticがごちゃ混ぜです。
これも演出の為と割り切って頂ければ在り難い、と開き直るss投稿者の屑→(作者;)

日符「ロイヤルフレア」
パチュリーのスペルカードの一つ。日の属性。
太陽のように燃え盛る火球を生み出す。何処ぞの地獄鴉のように実際に太陽を作る訳ではない。
原作では、EXステージで使用するスペルカード。

土符「トリリトンシェイク」
パチュリーのスペルカードの一つ。土の属性。
土の塊を壁のように展開する。本当は弾幕として撃つのがセオリーなんだろうけどね。
「トリリトン」は、かの有名な世界遺産「ストーンヘンジ」における石の並びを差す言葉。
下位には、土符「レイジィトリリトン」、土符「レイジィトリリトン上級」がある。

金符「メタルファティーグ」
パチュリーのスペルカードの一つ。金の属性。
金属のような弾幕を大量に展開する。金に目が無い人には使ってはいけない(戒め)
「メタルファティーグ」とは、英語で「金属疲労」の意味。
原作では、脆くなった金属が砕けるように弾幕が散るのが特徴である。

木符「グリーンストーム」
パチュリーのスペルカードの一つ。木の属性。
木の葉のように緑色の弾幕が舞う。魔力で作られた葉なので掃除の必要はないです。
「木」を象徴すると同時に、「風」も象徴していると言える。

水符「プリンセスウンディネ」
パチュリーのスペルカードの一つ。水の属性。
弾ける水の波も…ゲフンゲフン、弾幕が特徴。某青緑な波紋疾走とは何の関係もない。
ほぼ間違いなく、水を司る精霊の「ウンディーネ」が名前の由来であろう。
難易度Hard以上では、水符「ベリーインレイク」というスペルになる。

火符「アグニシャイン」
パチュリーのスペルカードの一つ。火の属性。
燃え盛る炎の渦が相手を呑み込んでいく。その輝きは、目にも体にも優しくない。
インド神話の火の神「アグニ」が名前の由来。そんな名前のミサイルが、あった気がする。
上位には、火符「アグニシャイン上級」、火符「アグニレイディアンス」がある。

月符「サイレントセレナ」
パチュリーが最後に使ったスペルカード。月の属性。
朔望の光を背に、光の矢が降り注ぐ。見惚れていたら、朝日は昇らない。
ギリシア神話に出てくる月の女神「セレーネ」が由来です。
こちらもロイヤルフレア同様、EX面で使用するスペルカードである。パチュリー、本気だね。

以上のように、日→土→金→木→水→火→月と、一週間を遡るようにスペルを使っています。
この攻略の順番を差して、パチュリーは霊夢が「普通ではない」と言ったのかもしれませんね。
だから何だと言われればそれまでですが。

霊符「夢想封印」
霊夢の代表的なスペルカード。封印って何だろうな。お櫃に仕舞うことかな。
大量の光球が相手に飛んで行って爆発する。やっぱり弾幕はパワーじゃないか(呆れ)
様々な派生形のスペルがある為、霊夢を象徴するスペルカードとも言える。
この技の初出が実は「ラクガキ王国」というゲームだったのは、意外と知られていたりする。


スペルカード以外の用語の解説

「亜空穴」
亜空間に繋がる穴を空け、瞬間移動染みた事をする。多分、霊夢にしか使えない。
座標を指定して移動する為に、限られた範囲でしか移動する事が出来ない。
初出は萃夢想。相手の背後に瞬時に回る技として登場した。
黄昏フロンティアが作る弾幕アクション(格闘)ゲームにおいては大抵登場する。

「霊撃」
全身から霊力を放出し、自身を中心に球状のバリアを一時的に張る。
弾幕で囲まれた際に使うのが効果的だが、疲れる為にそう頻繁には使用できない。
初出は妖々夢。それ以降では、風神録、緋想天、地霊殿等に登場する。
多くの場合において、無敵判定を生み出すバリアのようなものとして扱われる事が多い。

「パスウェイジョンニードル」
跳弾する針の動きで相手を撹乱し、時間差で攻撃する技。
原作においては、霊夢の通常ショットの一つとして登場する。
前方に向けて大量の針を発射する。範囲は狭いが、霊夢のショットの中では攻撃力が高め。
「パスウェイジョン」には「説得」という意味もある。封魔針片手に説得とは何とも怖い。


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