神々が愛した幻想郷 ~ Fantasia Variants Dreamed.   作:左右手

12 / 49
試験が難しィィィ

大分長くなった為、2話に分割しました。
また、少々グロテスクな描写が在る為ご注意ください。


-あらすじ-
パチュリーを倒した霊夢。進んだ先に待ち受けていたのは、吸血鬼のお嬢様。
圧倒的な力を誇る吸血鬼を前に、霊夢はどう立ち向かうのか…


永遠に紅い幼き月

紅い月に照らされた紅い屋敷の屋上に、訪れる人間が一人。

夜の帳に覆われたこの幻想郷で、一際目立つ紅と紅。二つの紅が交差する場所へと霊夢は訪れた。

 

紅に彩られた月を見上げ、霊夢はおもむろに言葉を投げかける。

 

「……そろそろ姿、見せたらどうかしら?」

 

「お嬢さん?」

 

その問いに答えるかのように、上空を大量の蝙蝠が飛び回る。

そして、それらの蝙蝠が一か所に集まって行き、やがてそれは一つの生物の形になっていった。

 

レースが入った薄桃色の服、くるぶし辺りまで届きそうな長い薄桃色のスカート、服の上から腰に巻いた紐を後ろで大きくリボンのように結んであり、全体的にふわりとした印象を与える服装である。頭にはナイトキャップを被っており、ともすれば寝間着とも取れるような見た目である。

だが、一番に目に付くのは、その背から生えた大きな翼であろう。蝙蝠のような形をしたその翼は、彼女を吸血鬼たらしめる紛れもない証拠であった。

恐らく、霊夢よりも数段低いであろうその身長から、見た目には幼い印象を与えるが、その背中の翼や、全てを見透かすような深紅の瞳も相まって、得も言えぬプレッシャーを感じさせる佇まいであった。

 

姿を現した吸血鬼は、閉じていた目をゆっくりと開き、地に立つ人間を品定めするように見下ろす。

 

「…やっぱり、止められなかったか」

 

あたかも()()()()()()()()()()かのような口ぶりで、吸血鬼はそう呟く。

その言葉に若干の疑問を抱くも、他愛の無い事と直ぐ様興味を失う霊夢。

そして、霊夢は一歩前へ出て、天に浮く吸血鬼を睨みつける。

 

「アンタは何者? 何故空を霧で覆ったの? …それと、あの魔法使いが言っていた『彼』ってのは、一体誰の事?」

 

矢継ぎ早に言葉を紡ぎ、質問を投げかける霊夢。

 

「質問が多いわよ……まあ良いわ、答えてあげる。

 

まず一つ目の答えね。 私の名はレミリア・スカーレット。見ての通り、種族は吸血鬼。こう見えても、貴方よりも長生きなの。今年で500歳になるわね。

そして、二つ目の答え。 今言ったように、私は吸血鬼。日の光に弱いの。…だから、空を霧で覆う事で、忌々しい日の光を遮っているのよ。紅い霧万歳、ってね。

 

三つ目は…。 ……貴方が知る必要は無いわ」

 

三つ目の質問に答える事は無かったが、その質問に差しかかった時、レミリアがふと見せた寂しげな表情が霊夢には気になった。だが、彼女はこれ以上の追及は無用と判断し、改めて質問する事は無かった。

 

全ての質問に答え終えたレミリアが、ゆっくりと口を開く。

 

「…質問は以上かしら? …なら、今度は此方が質問する番よ。

……貴方は、何をしに来たのかしら?」

 

その言葉が発せられると同時に、凄まじいプレッシャーが霊夢を襲う。

レミリアの紅く妖しく光る瞳が、獲物を狙う獣のように鋭くなる。見る者全てに恐怖を植え付けるような、吸血鬼の圧倒的なまでの力強さを感じさせる瞳であった。

 

「…何をしに来たかって? …そんなの、決まっているわ」

 

「この異変の元凶を、ブッ潰しに来たのよ」

 

呑み込まれそうな重圧に屈する事無く、凛とした目を見開いてはっきりとそう告げる霊夢。

 

「……へぇ、そうなの…」

 

その言葉を聞いたレミリアは、さも興味無さ気にそう答え、そのまま目を閉じる。

 

 

「図に乗るなよ、人間風情が」

 

その目が見開かれた瞬間に告げられた二の句と共に、レミリアの体が弾丸の如き速度で霊夢に到達する。

その速度たるや、音速もかくやと言わんばかりであり、自身の喉元に刃を突き立てられたような感触を認知するまで、霊夢は全く気が付けなかった。

 

「アンタが私を潰すですって…?随分とナメた口を聞いてくれるわね」

「あら?私はおいしいわよ?」

「そうね…アンタの血はとてもおいしそうだわ」

 

至近距離で睨み合う吸血鬼と人間。互いの顔には、一切の動揺は見られない。

 

暫しの間睨み合いが続いた後、霊夢の喉元に突き立てていた爪を引くレミリア。

 

「…まあ、分かっているわよ。この世界での戦いのルールくらい。 …()()()、痛いくらいに学んだからね」

 

俯きながら、過去の出来事を回想するようにそう呟くレミリア。

 

「そう、なら話が早いわ」

「けれど…」

 

そこまで言うと、レミリアは霊夢の方向へと向き直り、右手を開いて前に突き出す。

すると、その手の周りに黒い瘴気のような物が集まっていき、それらはやがてスペルカードの形になる。

 

「それで私に勝てるかどうかは、別問題よ」

 

対する霊夢もまた、左手にスペルカードを構え、天に浮かぶ吸血鬼を見上げる。

 

「そんな事は、勝った後で考えるわ」

 

ふわりと霊夢が空へ飛び上がり、レミリアと同じ高さまで辿りつく。

 

「さあ、明けない夜を楽しみましょう!沈まぬ月に照らされて、幻想という名の舞台で華やかに舞いましょう!…遥か遠来の観客さえも満足させる程にね!」

「明けない夜なんて無いのよ。…たとえどんな目的があったとしても、私は必ず、この異変を終わらせる!…アンタの下らない茶番劇は、ここで幕切れよ!」

 

「こんなに月も紅いから…」

「…こんなに月も紅いのに」

 

 

 「楽しい夜になりそうね!」

 「永い夜になりそうだわ!」

 

 

互いの口上を皮切りに、戦いの幕が切って落とされた。

 

先手を取ったのはレミリア。膨大な魔力を解放し、紅い輝きを放つ巨大な弾幕を大量に放出する。

弾数だけで見れば大した事は無いが、問題はその大きさと弾速であった。

霊夢にとっての弾幕というのは、大体人間の頭程にも満たない大きさの物を指す物が大半である。

だが、目の前の()()は、大凡人間一人がすっぽりと包まれるであろう大きさであった。瞬き一つする間に一回りも二回りも大きくなっていくその弾速も相まって、凄まじい迫力である。

 

幻想郷の住人の間でも、霊夢の考える弾幕の定義が定石のように浸透していたが、それはあくまで定石に過ぎず、明確に基準として定められている訳では無い。

その為、レミリアが放った紅い球体もまた、立派な“弾幕”であると言える。ただ一点、『避ける事が可能』であるというルールさえ守っていれば、たとえナイフであろうと拳であろうと、それは“弾幕”と言えるのである。

 

迫りくる紅を前に霊夢が取った行動は、後退でも回避でも無く、前進であった。

全身に滾らせた霊力を後方から放出し、眼前の弾幕と同じ程度の速度で突っ込んでいく霊夢。傍から見れば、単なる自殺行為に過ぎないであろう。その霊夢の行動を訝しげな表情で見るレミリア。

当然、彼女の思惑に“自滅”の二文字は存在しない。彼女は、弾幕を撃ち続けるレミリアの無防備な懐に潜り込み、一気に勝負を付ける心算であった。彼女の超人的、否、絶対的とも言える勘の鋭さを以てすれば、ただ真っ直ぐに飛来するだけの弾幕を回避する事等他愛も無い行動であった。

 

最も、レミリアにとってそれは想定の内であったのであろう。紅い弾幕の影に隠れ、霊夢からは死角となった場所から、突如として青い小型の弾幕が飛びだしてきた。

 

「なっ…!? …何の、これしき!」

 

思わぬ伏兵に意表を突かれるも、それでも霊夢は止まらない。僅かに身を捩じらせ、左右から迫る青を回避する。

その軽やかな動きに、弾幕を放っていたレミリアも思わず感嘆の声を漏らす。

 

「へぇ…やるじゃない、人間。流石に此処まで来るだけの事はあるわね」

 

弾幕を撃つ手は緩める事はせず、言葉だけを霊夢に投げかけるレミリア。

その言葉に対する答えを返す事無く、黙々と弾幕を回避しながら前進していく霊夢。

 

「このまま私に近づいて…それで、その手に持った武器で私を倒す心算なのかしら…?」

 

霊夢に聞こえるか聞こえないか程度の声でそう呟くレミリア。

弾幕を回避し切り、いよいよ彼女の目の前まで到達した霊夢の耳に、彼女の問いかけは入ってこなかった。

右手に持ったお祓い棒を振りかざし、今にもレミリアに叩きつけんとしていた。

 

「けれど、貴方は一つ間違いを犯した…。…肉弾戦でこの私に挑んだ事よ!」

 

爪を立てた右手を掌を前にする形で胸の前で構え、目視すら追いつかぬ速度で霊夢の懐に潜り込むレミリア。

 

そして、そのまま裏拳打ちをするように思い切り薙ぎ払った。

 

「ッ…!?」

 

薙ぎ払った衝撃で大きく吹き飛ばされる霊夢。一瞬の出来事に、思考が追いつかない様子であったが、数拍遅れて腹部に奔った激痛と共に、自身の体に何が起きたのかを理解する。

 

「ぁ…うああぁ!!」

 

大きく薙ぎ払われたレミリアの爪によって、霊夢は腹部を切り裂かれていた。

悲鳴にも似た声を上げながら、ドクドクと鮮血が流れ出る腹部を左手で押さえ続ける。

押さえている左手が真っ赤に染まって行き、流れ落ちた血が彼女の紅い服とスカートを赤黒く染め上げる。

 

「あぁ…やっぱり、貴方の血、とても美味しいわ」

 

右手に付いた霊夢の血を舐め取り、恍惚とした表情を浮かべるレミリア。

 

「…本当、人間って脆いのね。もう少し頑丈だと思っていたのに、がっかりだわ」

 

そして、痛みに悶える霊夢に対し、嘲るような口調で彼女はそう告げる。

そんな言葉とは裏腹に、血を流す霊夢を見つめるその顔は、何処か悲しそうな表情を帯びていた。

最も、激痛に悶え苦しみ蹲る霊夢の耳にも目にも、彼女の嘲笑も表情も入ってはこなかった。

 

「うぅっ…こんな…この、程度の傷…大した事…無いわ、よ……っ!」

 

未だ血が流れ続ける腹部を押さえていた手を離し、痛みで潤んだ瞳でレミリアを強く睨みつける霊夢。

 

「やめておきなさい。そんな状態で、これ以上動くなんて…死ぬだけよ。…諦めなさい。今なら、まだいくらでも処置ができるだろうから…」

 

「…お断りよ!」

 

降参を促すレミリアの言葉に対し、それを反故にする旨の言葉を返す霊夢。

そんな霊夢の言葉を聞き、驚いたように目を見開いた後、心底解せないと言った表情を見せるレミリア。

 

 

「私が…博麗の巫女、だからよ…。今まで、この幻想郷に異変が起きる度、私がその異変を解決してきた。

悪霊だろうと、人間だろうと、妖怪だろうと、神だろうと…たとえどんな奴が相手だろうと、幻想郷の平和を乱す奴と、これまで私は戦い、そして倒してきた。

だから…私はアンタを倒す!それが、私の使命だからよ!」

 

そう叫び、数本の封魔針をレミリア目掛けて放つ霊夢。

 

「使命…。使命、ねぇ…」

 

そう呟きながらも、高速で飛来する針を、体の軸を左右へ僅かにぶらすだけで回避するレミリア。

そして、自身の眼の前に迫った針を、レミリアは左手の指で挟んで受け止める。

 

「…使命、使命…つまらない言葉だわ」

 

「…何ですって?」

 

そうレミリアが零した言葉に、怒気を孕んだ口調で反応する霊夢。

 

「つまらない、と言ったのよ。 そんな理由で態々死にに来るだなんて…つまらない人間だわ」

 

「…ッ!!」

 

静かに告げられた冷酷な言葉を聞き、霊夢の表情は怒りに歪んでいく。

 

「使命に囚われている貴方じゃ、私には永遠に勝てはしないわ!天罰『スターオブダビデ』!」

 

レミリアの全身が紅い光に包まれる。その光は拡散し、レーザーとなって四方八方へと放たれる。

放たれたその光は、一定距離まで進むと、多面鏡に反射したかの様に拡散し、細い光の線となる。そして、線となった光があちこちに飛び交い、霊夢を囲むように六芒星のような形を描いていく。

 

「貴方は鳥…。使命と言う名の籠に囚われた、哀れな鳥…。

翼を持っているのに、羽ばたく術を知らない。…だから、貴方は囚われ続けている。

 

…その光は、貴方を閉じ込める籠。羽ばたく事が出来ない貴方は、もうここから逃げ出せない」

 

まるで物語の一文を詠み上げるかのように、レミリアがそう語る。

光の籠の中を見つめるその眼は、霊夢を見ているようで、もっと遠くを見ている様にも見えた。

 

「私が囚われているですって…?つまらない冗談ね、それこそ」

「何故そう言い切れる? …自分の本心をひた隠しにして、自分の意志を蔑ろにして、そんな貴方がどうして囚われていないと言えるの?」

「…うるさい」

「…本当は分かっているのでしょう?自分が自分自身から逃げている事に。

貴方にとっての“使命”なんて…」

「うるさいッ!!」

 

レミリアの言葉を遮るように叫び声を上げる霊夢。心を掻き乱す悪魔の言葉を聞きいれまいとする意志故か、それとも、自分自身の本心を暴かれまいとする本能故か。その答えを知る者は、誰もいなかった。

 

「…そう。あくまで、拒むのね。…なら、そうすればいい。 使命に囚われたまま、無様に消えて逝きなさい!」

 

霊夢を囲んでいた線は光の帯となり、その厚さは何倍にも膨れ上がった。

幾重にも取り囲まれていた霊夢は、光の束を前に一切身動きが取れなくなる。

 

「くっ…!こんなもの…ッ!」

 

霊力を全身に滾らせ、今日2度目の霊撃を放つ。その瞬間、霊夢の全身を疲労感が襲うが、彼女には最早形振り構っている余裕は無かった。

霊撃によってこじ開けた光の合間を縫って、一気にレミリアへと近づいていく。

 

「がっ…!?」

 

だが、右脇から飛来してきた青い弾幕により、接近は阻まれる事となった。

肩に、脇腹に、足に、次々叩きつけられる魔力の塊。その一発一発に込められた魔力が質量となって襲いかかり、体を押し潰されるような感覚を霊夢に与える。

 

「かはっ…ぁ…ッ」

 

叩きつけられた弾幕に圧迫された事で、肺の中の空気を一気に押し出される霊夢。その勢いのまま、大きく後ろに吹き飛ばされる。

今までなら確実に気付いていた筈であろう死角からの弾幕さえも眼に映らないほどに、今の霊夢は疲弊し、焦燥し切っていた。

 

「言ったでしょう?貴方は囚われたままだと。力でこじ開けようとしても、また囚われる。

…自分の心を押し殺してまで付き纏う“使命”になんて、何の価値もありはしないのよ」

 

霊夢を見下ろしながら、まるで誰かに言い聞かせるような口調でそう語るレミリア。投げかけた言葉は霊夢に向けた物なのか、あるいは、自分自身に向けた物なのか。その答えは、何処にも在りはしなかった。

 

 

「ハァ…ハァ…ッ」

 

スペルカードの制限時間が終了し、漸く光の籠から解き放たれた霊夢。

弾幕に傷めつけられた身体を押さえ、肩で息をしながら、彼方のレミリアを強く睨み付ける。

 

「…まだそんな眼を出来るのね、大したものだわ。 …とは言っても、本当に殺す気は無かったけれどね。これも一応、貴方達が言う所の『弾幕ごっこ』のルールに則った戦いだから、文句は無い筈よ?」

 

対するレミリアは、未だ無傷の状態で、息一つ切らす事無く霊夢を見つめる。

彼女が霊夢に投げかけた言葉は、紛れもない彼女の称賛の意志が込められた物であった。

 

「…別に、それに関しては…文句は、無いわよ…。 …けど」

 

「けど…何かしら?」

 

レミリアがそう問えば、霊夢は飛行してレミリアとの距離を詰める。

互いの会話がしっかりと耳に入る程度の距離に差しかかった所で霊夢が歩みを止め、ゆっくりと口を開く。

 

「一つ、聞かせなさい…よ。アンタが、この、異変を…起こした…本当、の…理由を…」

 

「ッ……」

 

霊夢の問い掛けに対し、一瞬眼を見開くも、無表情で黙するレミリア。

 

暫しの沈黙の後、言葉を紡ぎ出す。

 

「…そうね、話してあげても良いわ。 …ただし、貴方が貴方自身の意志を持って、私に挑む姿勢を見せてくれたなら…ね」

「っ…!?」

「…さあ、話は終わりよ。さっさと息を整えなさい。…クライマックスには、まだ早いわよ!」

 

紡ぎ出されたその言葉は霊夢の疑問を解消させる事は無く、続く二の句によって問答はそこで打ち切られる事となった。

霊夢から距離を取るように、一気に上方へと飛ぶレミリア。紅々と二人を照らす月を背に、レミリアは新たなスペルカードを手元に出現させ、そのスペルカードを持った手で虚空を裂きながら宣言をする。

 

「貴方自身の答えを見せてみなさい!冥符『紅色の冥界』!!」

 

両腕を大きく左右に開くレミリア。すると、両腕の肘より先が血塗れたように真っ赤に染まる。直後、その腕が弾け飛び、千切れた腕の断面から彼岸花が開くかのように血が噴き出す。

その血の一滴一滴が光を纏い、レミリア自身を囲むように周囲を回転し始める。

光の正体は、レミリアの魔力。魔力によって形を固められた()()()は、一つ一つがレミリアの弾幕として機能していた。

 

「なっ…!! 自分の腕を…!?」

「あら、心配? 大丈夫よ、この程度直ぐに再生するもの。 …それよりも、自分の心配をした方が良いんじゃない?」

「…ッ!!」

 

そう告げたレミリアの言葉に反応するかのように、咄嗟に霊夢が上を見上げる。

レミリアの周囲を飛び交っていた血の弾幕が、突如として霊夢に向けて降り注ぎ、さながら血の雨のように空を埋め尽くしていった。

 

降り注ぐ血の雨を目前にして霊夢が取った行動は、防御だった。

両腕を顔の前で交差させ、両足の膝を持ち上げ、急所を守る構えを取る霊夢。降り注ぐ血の雨を全て受け切りつつ、次に備えて体力を温存しようという心算である。

 

だが、霊夢には一つ見落としている点があった。

 

それは……

 

「うぐぁっ…!!」

 

その血の雨が、レミリアの魔力を纏った弾幕であった事である。

 

雨のように線となって降り注ぐ血の弾幕は、まるで(レイ)(ピア)のような鋭さを持っていた。

それ故に、その雨粒が、交差する霊夢の手に深々と突き刺さる事は眼に見えていた。

血の雨が手に突き刺さり、短い悲鳴を上げる霊夢。咄嗟に続く雨を回避する為に行動しようとするも、突き刺さる痛みと全身の疲労感故に思うように動けずにいた。

そして、その場を動けないまま、5本、10本…と次々に針が霊夢の体に突き刺さる。

 

「ーーッ!」

 

最早声を上げる事すら出来ず、ただ只管に耐え続けることしかできない様子の霊夢。

全身に奔る痛みに、思わず眼の端から涙が零れるも、それを気に留める余裕はもう彼女には無かった。

 

やがて、降り注ぐ血の雨が止む。雨が上がった先には、まるでヤマアラシのように全身に針が突き刺さった霊夢の姿があった。

思わず目を背けたくなるような凄惨な姿ではあったが、あの雨の中を霊夢自身が動いていなかった為、その弾幕が貫通しなかったのは不幸中の幸いと言えよう。もしも霊夢がレミリアに向かって飛翔していたならば、容赦なくその体を貫かれ、今頃無残な『針串刺しの刑』になっていた事であろう。

 

既にレミリアの肉体は再生し、寸分違わず元の状態へと戻っていた。

霊夢の様子を見ていたレミリアは、右手を霊夢の方へと翳す。

すると、霊夢の全身に突き刺さっていた血の弾幕が突如として消えた。文字通り、影も形も完全に、虚空に消えたのである。

蓋をしていた物が消えた事で、霊夢の全身の傷口から一斉に血が噴き出す。

その痛みに顔を顰める霊夢。直接針を引き抜く事をしなかったのは、レミリアなりの配慮なのであろうか。それは誰にもわからない。

 

 

「…さっきの勢いは一体何処へ行ったのかしら? あの程度の弾幕、貴方なら避ける事が出来たんじゃなくて?」

 

血に塗れた霊夢にレミリアがそう投げかける。霊夢は、答えない。

 

「…いい加減、貴方の答えを見せなさい。 …でないと、本当に死んでしまうわよ。それでも良いって言うの?」

 

「…じょう、だん…じゃ、ない…わ…よ…。だれ…が……ゲホッ」

 

苛立ち紛れに問いかけるレミリアの言葉に反論するも、内臓を損傷した為か、吐血して言葉に詰まる霊夢。

レミリアを睨みつける瞳も虚ろになり、体は左右にふらついている。誰がどう贔屓目に見ようとも、戦い続けられる者の姿では無かった。

 

「ハァ……どうやら、とんだ見込み違いだったようね。 …貴方…ら……れると…思って……のに……」

 

酷く落胆した様子で頭を下げ、俯くレミリア。俯いた姿勢のまま、小さな声で何かを呟いたが、それは霊夢の耳には届かなかった。

 

顔を上げ、失望したように冷たい目で霊夢を見るレミリア。そして、そのまま右手にスペルカードを構え、振りかざす。

 

 

「…もう、良いわ。 …これで、全て終わりにしてやる!呪詛『ブラド・ツェペシュの呪い』!!」

 

 

紅い悪魔が、無慈悲な鉄槌を振り上げた。

 

 

 

 




吸血鬼の力は、余りにも圧倒的だった。
そんな力を前に、霊夢は一体どうするのか…。

レミリアとの決闘は、次に続きます。

弾幕ごっこどころか最早ガチの戦いですねぇ。


次回、意志の力。決着の時です。


今回登場したスペルカード

ネーミングセンスがアレな事で有名なレミリアのスペル。全てNormal仕様です。

天罰「スターオブダビデ」
レミリアのスペルカード。ダビデの星。
凄まじい量のレーザーで取り囲み、小さい弾幕で追い詰めて行く攻撃。
ダビデの星とは、悪魔を召喚する魔法陣にも用いられる六芒星の事。

冥符「紅色の冥界」
レミリアのスペルカード。冥府と冥符って似てるよね。
上空から血の雨が降り注ぐ。精神的に宜しくないスペル。しかも刺さる。
名前の通りに、冥界が紅色になる訳ではない。



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。