神々が愛した幻想郷 ~ Fantasia Variants Dreamed.   作:左右手

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仮免許の試験やら何やらで遅くなりましたが、続きの投稿です。

もう少し、時間が欲しいと感じるこの頃です。
学生時代にやれた事だって、いっぱいあった筈なのに。

後悔の無いよう、やりたい事は若い内にやっておくべきです。


それは置いておいて、本編です。


150年の波紋

外の雨音が静かに響く、紅魔館の大広間。

そこの玄関口のすぐ隣の壁にもたれ掛かる門番、紅美鈴。

目を閉じ、何かに集中していはいるものの、しきりに目を開いては扉に目を向ける等、何処か落ち付かない様子であった。

 

そんな中、扉がゆっくりと開き、ゆっくりと中へと足を踏み入れる影。

 

「今、戻ったわ」

 

「あ、お帰りなさいお嬢様」

 

影の正体は、レミリア。

 

「あ、ただいまー」

 

「あ、お帰りなさい旦那様…って」

 

そして、ジークだった。

 

 

「……」

 

「やあ、久しぶりぃ」

 

「……えっ…えええええええええええ!!?」

 

余りに突然の出来事に暫く固まっていたが、数秒遅れて漸く反応を返す美鈴。

 

「ほ、本当に旦那様!?旦那様なんですか!?」

「今自分で言ったじゃん」

「う…た、確かに…」

 

そう指摘され、言葉に詰まる美鈴。

美鈴にとっては信じがたい光景であったが、目の前の()()は紛れもない事実であった。

 

「はぁ~…まさかこうもあっさり帰ってくるとは…」

 

150年ぶりの再会は、美鈴にとって余りにも呆気ない物となった。

 

 

「でも、本当に良かったです…」

 

それでも、美鈴にとってそんな事は些末であった。

 

「…帰ってきて下さって…また会えて…本当に、良かった…」

 

150年待ち望んだ再会の、その喜びの前には、些末な事であった。

 

「…ほら、そんなに泣かないのよ、美鈴」

 

「うぅ…でも…お嬢様ぁ…」

 

感極まり、泣き崩れた美鈴の背中を擦りながら、レミリアは苦笑する。

そんな美鈴の様子を、その顔に浮かべた微笑を絶やす事無く眺めるジーク。

 

「フフフ…レミィも大人になったねぇ」

「そりゃあ、あれから150年経ったんだもの。 嫌でも大人になってしまうわ」

 

レミリアにそう言葉を投げかけるジーク。

その言葉に機嫌を良くしたのか、胸に両手を当てて自慢げな表情を浮かべるレミリア。

 

「でもまあ、わざわざ雨で涙を誤魔化すのはどうかと思うけどねぇ」

「なっ…!ちょ、兄様!?何言ってるのよ!!」

 

直後に評価を一気に落とすようなジークの発言に対し、顔を真っ赤にして食って掛かるレミリア。

 

「ああ、それで外に出ていらしてたんですか…」

 

先のレミリアの行動に納得が行き、暖かな視線をレミリアに送る美鈴。

 

「ううぅ~…恥ずかしいわ…」

 

その場にしゃがみ込んで、両手で帽子の端を掴むように頭を抱え、所謂『カリスマガード』と言われる状態になるレミリア。

 

 

「…そんな事は無いですよ、お嬢様」

 

「え…?」

 

目線をレミリアに合わせるように、その場にしゃがみ込む美鈴。

 

「泣きたい時は、思いっきり泣いて良いんですよ。我慢は体に良くないですからね」

 

そして、そっとレミリアの頭を撫でる。

 

「…誰だって、何時も強くいられる訳じゃないんです。 …そうでしょう、旦那様?」

「まぁ…そうだね」

 

唐突に自分に振られ、何処か複雑そうな表情を浮かべながら生返事を返すジーク。

 

「そんな時は…僭越ですが、この美鈴の胸ぐらいなら何時だってお貸ししますよ」

 

「美鈴…」

 

右手を胸に当て、レミリアに微笑みかける美鈴。

 

「頼もしいね、美鈴は」

「ふふ…旦那様も、いつでも借りて下さって良いんですよ?」

「へぇ……」

 

不敵な笑みを浮かべ、得意げにそう告げる美鈴の胸元を凝視するジーク。

その視線に気付き、顔を赤らめて胸を両手で押さえる美鈴。

 

「…も、もう…そういう意味じゃありませんよっ」

 

Tut mir leid(トゥ メア ライト)(ごめんね). 冗談だよ」

 

頬を膨らませる美鈴に、外の世界の言語で謝るジーク。

その場にいたレミリアと美鈴にとって、それは馴染み深い言葉だった。

 

「兄様の癖よね。 いつもそうやって誤魔化すんだから」

「そうかなぁ? …って、誤魔化し様が無い気がするんだけど」

「それもそうね。 …はぁ、湿っぽいのはもうやめ! せっかくまた会えたんだもの、もっと明るく楽しく行きましょう!」

「その意気ですよ、お嬢様!」

 

レミリアがそう切り出せば、一気に辛気臭い空気が払拭される。

 

「じゃあ私、咲夜さんを呼んできますね」

「ええ、お願いね」

「ではでは、失礼します!」

 

そう言い残し、咲夜を呼びに足早にその場を去る美鈴。

遠くなって行く美鈴の背中を見送りながら、ジークは『咲夜』という名前に疑問符を浮かべていた。

 

「ああ、そういえばまだだったわね。『咲夜』っていうのは、最近ウチに来たメイドよ」

「そうなんだぁ」

「とても面白い子よ…兄様も、きっと気に入るわ」

「へぇ…それは楽しみだねぇ」

 

それを聞いてくつくつと笑うジーク、釣られてレミリアも笑みを浮かべる。

 

「…ああ、そうだ。 図書館の魔法使いは元気かい?」

「アイツもあれから特に変わり無いわ。 …けど、きっと会いたがっている筈よ」

「そう……なら、早く健在な姿を見せてやらないとね」

 

そんな会話を続ける彼らの元に、二つの人影が近づいてくる。

先程咲夜を呼びに行った美鈴と、美鈴に手を引かれ、ぎこちない足取りで歩く咲夜であった。

 

「お嬢様、咲夜さんを連れてまいりました~!」

「ちょ…ちょっと、一体何なのよ美鈴…」

「あら、早かったわね」

 

美鈴はレミリアにそう告げてジークの前に立つ。そして、自分の後ろにいる咲夜の背中を押し、ジークの前に立たせる。

 

「さあ、咲夜さん!自己紹介タイムですよ~!掴みが大事ですからねー」

「きゃっ! えっ…え…っと…」

 

前のめりに倒れそうになるも、何とか持ち直す咲夜。 改めて、ジークと対峙する。

二人の距離は50cm程度であろうか、至近距離で目の前の咲夜の顔を見つめるジーク。

 

「い…十六夜、咲夜と…申します…」

「……」

 

5秒、10秒と、見つめ合う二人の間に沈黙が続く。

辺りは不気味なほどの静寂に包まれ、その様子を見つめる美鈴とレミリアにも奇妙なプレッシャーが襲いかかる。

 

唐突に、ジークは咲夜の頬に手を触れる。

 

「ひゃっ!?」

 

「よろしくね、咲夜」

 

そして、触れていた手を戻して、ジークは咲夜にそう微笑みかける。

 

「それじゃあ、僕は図書館に向かうよ。 知己に顔を見せに行かないとね」

 

そういうと、身を翻し、地下の図書館へと歩みを進めるジーク。

 

その場に残された3人は、小さくなっていくジークの背中が曲がり角で消えるまでの間、言葉を発する事も無く固まっていた。

 

「…やれやれ、相変わらず兄様はマイペースね」

 

「全くですねぇ…」

 

暫くして、レミリアが口を開く。呆れつつも、毎度の事と半ば諦観の混ざった口調でそう呟いた。

美鈴もまた、それに賛同するように声を上げる。咲夜は、何の事かさっぱり分からずに困惑した様子であった。

 

「…けど、良かったわ」

「ええ、そうですね」

「…??」

「貴方の事、気にいったみたいよ、咲夜」

「えっ?」

「おぉ~!第一印象はバッチリみたいですね~」

「えっ、ええ?」

「ちょっと不安だったけど、やっぱり兄様は変わって無いわね」

「そうみたいですねぇ~、本当に懐かしいですよぉ」

「……」

 

そんな談笑を始めた美鈴とレミリアを前に、咲夜は口を噤まざるを得なかった。

 

 

------

 

窓辺から差し込む光も、燭台の火が灯す明かりも、微かに周囲を照らすばかりで、最も光を届けるべき場所には届いていない。ここはそんな場所である。

断崖絶壁もかくやと言わんばかりに本棚が所狭しと並べられた、灰暗い図書館の最奥部、そこには二人分の影があった。

 

「…懐かしい気配がしたと思ったら、やっぱり貴方だったのね」

 

読みかけていた本を閉じ、顔を上げてそう呟く魔法使い。

 

Richtige Antwort(リヒティーゲ アンフォート)(正解だよ). …簡単だったかな?」

 

魔法使いの隣に腰掛け、その肩に左手を回しながら微笑む吸血鬼。

 

「簡単すぎるわ。 …忘れられる訳が無い答えだもの」

 

「フフ…手厳しいねぇ」

 

その言葉を最後に、会話は止まる。

魔法使いは顔を上げたまま、吸血鬼は俯いたまま、暫しの間、沈黙が続く。

 

 

「……寂しかったかい?」

 

「……寂しくなかったと、思うの?」

 

そう問いかけたジークの言葉に、パチュリーは同義の言葉で問い返す。

抑揚も無く、淡々と発せられたその言葉。だが、その声は、微かに震えていた。

 

瞳を閉じ、左腕でゆっくりとパチュリーを抱き寄せるジーク。

抱き寄せられたパチュリーは、一瞬目を大きく見開いたものの、抵抗するような素振りを見せる事も無く、そのままジークに身を委ねた。力強くも、何処か優しいその抱擁に、その温もりに。

 

ジークに抱かれ、瞳を閉じたパチュリーの頬には一筋の水が伝っていた。

だが、それを気に留める者は、その場には誰一人としていなかった。

 

そして、ゆっくりとパチュリーを離すジーク。

何処か名残惜しそうな表情を浮かべながらも、改めてジークの眼を見つめるパチュリー。

 

「…罪な人ね。 今日だけで、一体何人の女の子を泣かせるつもりなのかしら?」

「あはは…本当、手厳しいなぁ……。 …次で、最後さ」

「次……?」

 

その言葉をパチュリーは反芻する。その言葉の意味を問う様に。

パチュリーがそう問えば、その質問を待っていたと言わんばかりに口角を吊り上げるジーク。

 

「外の世界の土産…と言ってはアレだけど……見つけたのさ、()()()を救う鍵をね」

 

「…!」

 

そのジークの発言に、大きく眼を見開くパチュリー。その表情には、ジークが自信満々に告げたその言葉に対する、純粋な驚きがあった。

 

「…その言葉、本当なのかしら?」

 

「何なら見てみるかい? 確実な証拠とは言い難いけど…少なくとも、タダで手に入れた鍵じゃあないって説明くらいにはなると思うよ」

 

そういうと、ジークは自身の髪をかき上げ、前髪で隠れていた左目を露出させる。

 

「っ…!?」

 

「…自分で見せておいてなんだけど、見ない方が良かったかも知れないね」

 

すぐに髪を降ろし、左目を隠すジーク。

そこには何が映っていたのかは知る由も無いが、その目を見たパチュリーが言葉を失う程の物であった事だけは確かである。

 

「…けれど、本気なの?」

「ボクはいつだって、本気でやってきたさ」

「……分かったわ。 小悪魔!」

『はいはい~!』

 

パチュリーの号令がかかると同時に、本棚の奥で作業をしていた小悪魔が、文字通り『飛んで』くる。

 

「あれ、キミも新顔みたいだね?」

「どうも、初めまして! ここの司書を務めさせて頂いてる小悪魔と申します」

「ボクの事聞いてたのかな? あんまり驚かないみたいだけど」

「ええ、パチュリー様からお話は窺っております、旦那様! …こちらが、地下室の扉を開けるのに必要な鍵になります。 どうか、お気を付けて」

「どうもありがとう。 じゃ…行ってくるよ」

 

小悪魔から渡された鍵を受け取ったジークは、そのまま図書館の出口へと向かう。

 

「ねぇ…ジーク」

 

「…何だい?」

 

パチュリーに呼び止められ、振り返るジーク。

 

「貴方は…もう、いなくなったりしないわよね…?」

 

「……持っておきな」

 

パチュリーが不安げな表情でそう問いかけると、ジークは何も無い所から紫色の薔薇を生み出し、それをパチュリーに投げ渡す。

その薔薇を受け取ったパチュリーは、それ以上は不安げな表情を浮かべなかった。

 

「大丈夫……大事な家族に、また会いに行くだけさ」

「…そうね、待っているわ。 …ちゃんと、()()()()()戻ってくるのよ」

「フフ…それじゃあ、そろそろ行くよ」

 

そう告げると、今度こそジークは二人に背を向け、図書館を後にした。

 

 

------

 

図書館を出て、薄暗い廊下を渡り、突き当たりにある階段を下る。

階段には僅かな明かりも灯っておらず、一歩先は暗闇に覆われている。

 

一段一段踏みしめて、ゆっくりと階段を下りて行くジーク。

先へと進む程に深まっていく闇の中で、黄色い眼光が妖しく存在感を放っていた。

 

階段を下り切り、分厚い鋼鉄で覆われた扉の前でジークは歩みを止める。

そして、その扉の中心にある鍵穴のような部分に、先程小悪魔から受け取った鍵を差し込む。

 

すると、その鍵穴を中心に魔法陣のような物が展開され、分厚い扉が大きな音を立てて観音開きを始める。

 

完全に扉が開いた先には、紅で埋め尽くされた部屋があった。

ランプの明かりのみである為、内部はとても薄暗いが、外壁から家具に至るまで殆どが紅である為、僅かな明かりでもそれを認識できた。

細かな装飾が施されたクローゼットやシェルフ、大人1人が寝そべっても尚余りそうな大きさのソファや、天蓋の付いたベッド等、それらの家具が()()()()()()()()()、正に貴族の邸宅の一室と呼べるであろう豪奢な部屋であった。

 

一歩前へ踏み出し、その部屋へと足を踏み入れるジーク。

 

 

『…だれ?』

 

暗い紅に覆われた部屋の中央から声が響く。その声音は、幼さを感じさせる少女の物。

一歩、また一歩と近付くにつれて、闇に溶け込んでいたその全容が明らかになる。

 

紅い部屋の中においても目立つ程に紅い服と短いスカート、そして同じく紅い瞳を黄色い髪の間から覗かせ、頭にはレミリアと同じ様な帽子を被っている。

一見すると年端も行かぬ少女のようであるが、その背中から生えた翼が、その考えを瞬く間に打ち砕かせる。

その翼は、一本の枝から実がなるように7つの結晶がぶら下がった特異な形状をしており、吸血鬼どころか、生き物としても『異質』であった。

 

その異形の少女は、自分に近づいてくるジークを、感情が籠っていないような瞳でじっと見つめる。

 

「ああ、ボクはジーク。 …って、覚えてる?」

 

その少女の質問に対して、少しおどけた調子でそう告げるジーク。

 

「……」

 

ジークの言葉を聞き、少女は沈黙する。

 

「ボクはキミの事、良く覚えてるんだけど……ねぇ、フラン?」

 

少女の名は、フランドール・スカーレット。

齢495の吸血鬼にして、レミリア・スカーレット、そして、ジーク・フォン・アーカードの妹である。

 

「…ほんとうに」

「ん?」

「ほんとうに、おにいさま?」

 

フランドールは、二度三度瞬きを繰り返した後、反芻するようにそう問い掛ける。

 

「ああ、本当のお兄様だよ」

 

フランドールの問い掛けに、ジークは笑いながらそう答える。

 

「…なら」

 

「『なら』…なんだい?」

 

俯いて、ジークに聞こえるか聞こえないか程度の小さな声でそう呟くフランドール。ジークがそれを反芻し、その言葉の続きを促す。

 

 

「お兄様なら、きっと壊れないよね?」

 

顔を上げたフランドールは、屈託の無い笑顔でそう告げる。

 

そして、次の瞬間、ジークの右腕が吹き飛んだ。

 

右の肩口から大量に血が噴き出し、紅い床を更に紅く染めて行く。

右腕を失ったにも関わらず、ジークは表情一つ変えずにフランドールに微笑む。

 

今度は、ジークの腹部に風穴が空く。

彼の周囲は瞬く間に血の海へと変わっていくが、それでもジークは余裕を崩さない。

 

次の瞬間には、吹き飛んだ筈の右腕も、穴の空いた腹部も、何事も無かったかのように全て元に戻っていた。

 

「あはははははは!!やっぱり本物だぁ!全然壊れない!」

 

叫び声とも笑い声とも取れるような声を上げ、狂気に満ちた笑顔を浮かべるフランドール。

 

「ああ、そうだね」

 

笑い続けるフランドールに応えるように、ジークもまた笑顔を浮かべる。

 

それから、幾度となくフランドールがジークの肉体を破壊しては、その都度ジークは何事も無く再生させる事を繰り返した。

最初の方は楽しげに笑い狂っていたフランドールも、次第にその表情に疲れの色を見せるようになり、ついには力無くその場にへたり込んでしまった。

 

「…フラン」

 

「あははは…なあに…?」

 

先程とは打って変わって、乾いた笑い声を上げながらそう問いかけるフランドール。

 

 

フランドールの体を、ジークはおもむろに抱き寄せた。

 

「えっ…?」

 

突然の事に困惑するフランドールを余所に、ジークは自身の髪をそっとかき上げる。

 

隠れていた左目を露わにし、フランドールをじっと見つめる。

 

「あっ…」

 

露わになったその左目は、フランドールと同じく深紅の色をしていた。

それだけならば紅い色をした普通の瞳だが、彼の左目はそれには当てはまらない。

 

彼が持つ左目の正体は、魔眼、若しくは、それに近い物である。

 

「ボクの眼が、見えるかい?」

 

「え…あ…」

 

その瞳は、人の心を映し出す。

その者が抱える闇や苦悩、本当の想い、その全てを。

 

「ボクの事が、わかるかい?」

 

「あぁ…っ」

 

その瞳からは、決して逃れられない。

どれだけ抗おうとも、自分の本当の心には決して嘘を付けない。

 

 

「…ボクは、ちゃんとここにいるよ」

「キミの持つ破壊の力は、容易く人を壊してしまうけれど…」

「ボクは、壊れないよ」

 

「…ずっと、独りで自分の力に苦しんでいたんだね」

「けれど…もう、苦しむ必要なんて、無いんだよ」

「もう、狂う必要なんて、無いんだよ」

「もう、独りで戦う必要なんて、無いんだよ」

 

「…ボクが、一緒にいるからね」

 

 

「ぉ…にい…さまぁ…」

 

フランドールを想うジークの優しき言葉とその瞳は、彼女の本当の想いを、深い心の内から引きだした。

 

己を守る為に塗り重ねられた、『狂気』と言う名の壁さえも打ち壊して、

 

 

「あぁ…ほんとう、に…おにい、さま…なの…?」

 

「…さっき、自分で言ったじゃん」

 

再びそう問いかけたフランドールの言葉に、ジークは苦笑しながら応える。

 

「ぅん……そうだったね…。 ほんとう、だったね…っ」

 

ジークの胸に抱かれ、泣きながらも笑顔を浮かべるフランドール。

大粒の涙が零れて、ジークのコートを黒く染める。

それを気にも留めず、ジークは優しくフランドールを抱き締め続けた。

 

 

やがて、心の整理が付いたのか、ジークから離れるフランドール。

自分を覆っていた狂気が無くなり、本当の心を取り戻したフランドールは、少しだけ俯いて不安げな表情を浮かべる。

 

「…まだ、怖い?」

 

そうジークが問えば、フランドールは弱々しく頷く。

 

「うん…少し……でも」

「ん?」

 

「大丈夫、だよ。 …お兄様が、お姉さまが…皆がいるから」

 

俯いていた顔を上げ、力強くジークを見つめるフランドール。

その潤んだ紅い瞳の中に、『狂気』の二文字は欠片も存在しなかった。

 

互いに瞳を見つめ合い、やがて二人は笑顔を浮かべる。

 

フランドールは、幼子のように屈託の無い、太陽のように明るい笑顔を。

ジークは、母親のように優しい、月のように穏やかな笑顔を。

 

 

「おかえり、お兄様!」

 

「…ああ、ただいま。 …そして」

 

 

「“おかえり”、フラン」

 

「…ただいま、お兄様!」

 

 

 

 




待ち望んだ150年越しの会話は、存外普通な物であった。
彼が歩んだ150年の波紋は、孤独に震える少女を救った。


フランドールの狂気設定が今、消える。
ジークが左目に持つ瞳は、『相手にも影響のあるさとりのサードアイ』みたいな物だと思って頂ければ。

ありのままの自分を受け入れてくれる存在、それが『家族』なんだと、私は思います。


投稿ペースが落ちつつあるので、少し執筆頑張らないといけませんね。


次回、U.N.オーエンは彼女なのか? フランちゃん大ハッスルの巻。




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