神々が愛した幻想郷 ~ Fantasia Variants Dreamed.   作:左右手

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何とか10000字以内です。
もうすぐ新学期が始まりますね。皆さん準備はお済みですか?
本免獲得までの道のりが長い…。


-あらすじ-
レミリアに人間が向ける視線は厳しい物であったが、そんなレミリアを理解する者もいた。
そんな者達と出会えた喜びを、レミリアはジークに語るのだった。



Argent Magic

数刻に及ぶ人里への冒険を終え、レミリアは帰路に就いた。行きと同じく徒歩で。

レミリアが紅魔館に辿りつく頃には日はほぼ沈み、彼方西の空を飛ぶ鴉の鳴き声が、幻想郷の逢魔が時の訪れを克明に告げていた。

 

折り畳んだ右手に携え、楽しげな表情を浮かべながら扉へ向かうレミリア。

その気配を察した美鈴は、閉じていた瞳を開き、笑顔でレミリアを迎え入れる。

 

「おかえりなさい、お嬢様」

 

「ただいま、美鈴」

 

そう挨拶を交し、レミリアは館の中へと消えて行った。

 

「…嬉しそうだったなぁ、お嬢様。 何か良い事でもあったのかな?」

 

静かに閉じた扉を横目に捕えながら、美鈴はそう呟くのであった。

 

 

自室に戻ったレミリアは、今日の出来事をジークに話した。

 

「なるほどねぇ…そんな事が…」

 

レミリアの話を聞いたジークは、何かを考え込むようにそう呟いた。

 

「ところで、あの阿修羅って人とは知り合いなの?」

 

考え込むジークに、レミリアは兼ねてより抱いていた疑問を投げかける。

言い淀むような素振りを見せるも、ゆっくりと口を開くジーク。

 

「ああ、まぁ…割と親しい仲だよ。 幻想郷(ここ)に来る前に知り合ったんだ」

「そうだったんだ…」

「まあ、その話はまたにしよう。 それより、君の話をもっと聞かせて欲しいな」

「そうね、それじゃあ…」

 

昼間の出来事を反芻するように、再びレミリアは言葉を紡ぎ出す。

夕食の準備を終えた事を咲夜が告げに来るまで、二人は語らい明かした。

 

 

------

 

そして陽は昇り、幻想郷に再び朝が訪れる。

門の前でうたた寝をしていた所を、咲夜のナイフの一撃の元に叩き起こされた美鈴の悲鳴が、鶏の鳴き声の代わりのように明け方の紅魔館に響いた。

 

吸血鬼であるにも関わらず、朝に起き、顔を洗い、歯を磨き、朝食を取り、人間と何ら変わらない生活を送る者、それがレミリアである。

今朝もまた、規則正しい時間に起き、一通りの事を済ませた後、彼女はジークの部屋へと向かう。

 

彼の部屋には出窓は無く、一切の光が差さない設計となっている。

部屋の中央には大きな棺桶、ベッドの代わりであるらしい。

 

レミリアはその棺桶の前まで来ると、おもむろに蓋を開ける。

 

「……まぶしいんですけど」

 

「おはよう、兄様」

 

唐突に起こされた為か、不機嫌そうに寝ぼけ眼を擦るジーク。

重々しい動きで上体を起こし、長い髪を手で軽く整える。

 

「ハァ…今日は何だい、一体…?」

「これから博麗神社に遊びに行くの」

「あぁ、そう…。 行ってらっしゃい」

 

そう告げて再び棺桶に潜り込もうとしたジークの右腕を掴むレミリア。

 

「何言ってるのよ、兄様も行くのよ?」

「…え、ナンデ?」

「良い機会だし、兄様ももっと交流を広げましょう。 ほら、早く行きましょう!」

「ちょっと待って引きずってる、引きずってるってあばばばば」

 

ジークの腕を掴んだまま部屋の外へと向かうレミリア。そのまま引きずられるジーク。

 

「お出かけですか、お嬢さ…ま…?」

 

ちょうどジークの部屋の前にいた咲夜は、レミリアが左手に持つ物体を見て言葉を失った。

咲夜の姿を見て、レミリアは何かを思いつく。

 

「ああ、咲夜。 ちょうど良いわ、貴方も一緒に来なさい」

「私も…ですか? というか、旦那様が…」

「大丈夫だよ、 もう眼ェ覚めた…あ゛ぁ」

 

床にぶつけた頭を擦りながらゆっくりと起き上がるジーク。

 

「それで、何処に行くんだっけ?」

 

レミリアの後ろに居た筈の彼は、気が付いた時には彼女の数歩手前にいた。

眠た気だった表情は普段の飄々とした物に戻っており、彼が完全に覚醒した事は明白だった。

 

「博麗神社よ、兄様」

「ああ、そこだったね。 …ところで、フランはどうする?」

「フランならまだ寝ているわ。 やっぱり、昼型には慣れないみたいね」

「…じゃあ何でボクは叩き起こしたんだい」

「心配しなくても、遅くはならないわ。 美鈴もいるから、遊び相手には困らないでしょう」

「無視せんといて」

「(美鈴…ご愁傷様)」

 

ジークがレミリアに確認を取る最中、咲夜はこの場に居ない美鈴の身を案じるのであった。

 

「差し入れも持ったし、フラン達のお昼も用意したし(咲夜が)…じゃ、そろそろ行きましょうか」

「場所は分かるのかい?」

「任せておいて。 …咲夜、日傘を」

「此方に、お嬢様」

 

咲夜はレミリアの為に日傘を差しながら、レミリアは荷物が入った籠を小脇に抱えながら、ジークは日傘を差さずに館の外へと出る。

彼らの気配に気づいた美鈴は、門扉越しに彼らに対応する。

 

「あ、お嬢様に旦那様。 それに咲夜さんも…お出かけですか?」

「ええ、留守番頼んだわよ美鈴」

「了解です! それでは、いってらっしゃいませ~」

 

咲夜の確認を受けた美鈴は、門を開いて彼らを通す。

門の前で手を振る美鈴に見送られながら、三人は紅魔館を出発した。

 

 

------

 

ここは博麗神社、幻想郷の最東端に位置する山の上にある神社である。

そこに住まう巫女である博麗霊夢は、現在異変で負った怪我の療養に努めていた。

 

「はぁ…不便だわ」

 

布団の上で上体を起こし、不機嫌そうな顔で腕に巻かれた包帯を睨みつける霊夢。

 

「そう言うな、霊夢」

 

そんな霊夢の言動を諌めるように口を開くは、同じく神社に住まう天月柴芭。

 

「大体、なんでアンタは既に完治しているのよ。 アンタだってあの時は随分とボロボロだったじゃない。 …なのになんで今は傷一つ無い訳よ?」

「…分からん」

「なによそれ…なんか、理不尽だわ」

 

そんなやり取りを繰り広げる二人の元に、舞い降りる影が三つ。

 

「はろー、霊夢ー」

「一週間ぶりね。 怪我の具合はどうかしら?」

「へぇー…こんなところに神社なんてあったんだね」

 

軽いノリでそう挨拶するレミリア。霊夢の容態を気遣う咲夜。明後日の方向を向きながら感嘆の声を漏らすジーク。

三者三様のアクションを取り、境内に降り立った。

 

「アンタは…」

「覚えてるかしら? 私、レミリアよ」

「知ってるわよ」

 

そんなやり取りを交した霊夢が、次に視線を向けたのはジーク。

 

「アンタは誰? 見た所吸血鬼っぽいけど…」

「ああ、初めまして。 ボクはジーク・フォン・アーカード、レミリア・スカーレットの兄だよ」

「…なるほど、アンタがレミリアの言ってたお兄さんだった訳ね。 …ふーん、あんまりレミリアには似てないわね」

「まあ、その辺は気にしないでよ」

 

頬を人差し指で掻きながら苦笑するジーク。

霊夢もそこまで興味が無かった為、それ以上の追及はしなかった。

 

「それで、何しに来たのよ?」

 

レミリアの方に向き直り、改めてレミリアに問いかける。

 

「何って…まあ、お見舞いみたいなモノよ。 大分酷い傷だったからねぇ」

 

レミリアとの戦いを思い出し、次第にその顔を歪めていく霊夢。

 

「そんなに怖い顔しないで…私、怖いの苦手なのよ」

「恐怖を植え付ける側の存在が何言ってんのよ」

「冗談よ…だから、そんな顔しないでってば」

 

レミリアが放ったジョークは、霊夢にとっては火に油に過ぎなかった。

 

「あ、そうだ。 ハイ、これ差し入…」

 

『れ』と言い切る前に、既に籠はレミリアの手元を離れていた。

 

「へぇ…これ中々美味しそうね、どうもありがとうね」

 

「そ、そう…喜んでもらえたのなら良かったわ(一体何時の間に…)」

 

気が付けば、差し入れの入った籠は霊夢の手元にあった。

中に入っていたのは、見舞い用の果物やその他の食品類であり、それを眺めている霊夢は満足気な表情を浮かべる。

吸血鬼の眼にも追えない程の速さで籠をひったくる霊夢の手腕に呆れつつも、レミリアは慈母のような笑みを浮かべて霊夢を見つめる。

 

「…何よ」

「いいえ、別に何も。 …顔付きが変わったな、って思っただけ」

「はぁ…?」

「別に気にしないで良いわよ、ただの独り言」

 

その言葉に霊夢は訝しげな表情を浮かべるも、再びその興味は手元の籠の中身へと移り変わっていった。

 

そんな二人のやり取りを余所に、ジークは咲夜と共に縁側に腰掛け、柴芭と話を繰り広げていた。

 

「なるほどねぇ~、キミも色々大変な目に遭ったみたいだねぇ」

「まあ…な。 けど、咲夜の手当てがあったから、どうにかなったよ」

「へぇ~…やるじゃない、咲夜」

「い、いえ…そんな…」

 

普段よりも饒舌な柴芭を見て、霊夢は意外そうな表情になる。

 

「何、柴芭…アンタの知り合いだったの?」

「ああ…外に居た頃からの、付き合いだ」

「ボクら結構、気の置けない仲でね。 偶には様子を身に行きたくもなるのさ」

「…アンタ、今まで知らなかっただろう」

「え~? 何のことかな~?」

 

柴芭の指摘に対し、とぼけた素振りを見せるジーク。

 

「ところで…あの()はいないのかい?」

 

「あの娘?」

 

唐突にそう問いかけたジークの言葉に、疑問符を浮かべる霊夢。

 

「いやぁ、白黒の魔法使いみたいな服着たコをこの間見かけたんだよ」

「ああ、魔理沙の事? なら、多分そろそろ来ると…」

 

『おぉーい! 霊夢ぅーーっ!』

 

「…来たわね」

「予言者か何かなのかい、キミ?」

「私は博麗の巫女よ。 それ以上でも、以下でも無いわ」

「巫女って、一体…」

 

予想をぴたりと的中させた霊夢に半ば呆れつつも感心するジーク。

そんな霊夢の突飛な力に、咲夜は自分の中の巫女像が崩れて行くのを実感した。

 

「おー、今日は調子良さそうだな……って、ん?」

 

箒から降り、境内をゆっくり歩いて来る魔理沙。

中ほどまで差しかかった所で、先客がいる事を理解する。

 

「確か、あの館の吸血鬼と、メイドと…アンタは確か、前に廊下で会ったっけ?」

 

最初にレミリアの姿を確認し、次に咲夜の姿を見、そして最後にジークに目を向ける。

 

「ああ、キミは前に一度会ったね。 …そういえば、自己紹介がまだだったね。

ボクはジーク・フォン・アーカード。 紅魔館の主で、レミリア・スカーレットとフランドール・スカーレットの兄っていう肩書きがあるんだ」

 

「私は霧雨魔理沙、普通の魔法使いだ。 そうか、アンタが“旦那様”か…」

 

まじまじとジークを見つめる魔理沙。以前フランドールと弾幕ごっこをした日の事を頭の中で反芻しながら、魔理沙は一つの事を考えていた。

 

「フランドールに弾幕ごっこを教えたのはアンタなのか?」

 

「ボクじゃなくてパチェだよ。 その時、ついでにボクも教わったけど」

 

魔理沙の問いに対し、そう答えるジーク。

 

「そうだったのか…。 それにしても、フランドールがあれだけ強かったって事は、アンタもさぞかし強いんだろうなぁ」

「いやぁ、どうだろうねぇ…。 ボクまだフランに勝てた試し無いからなぁ」

「イヤイヤ、分からないぜ? ただ単に慣れていないだけかも知れないだろう?」

「そうかなぁ…?」

「そうそう、やってみなけりゃ分からないって!」

 

「…段々ペースに持ち込んでるわね、魔理沙」

「策士…だな」

 

魔理沙の巧みな話術を傍から見て、そんな感想を抱く霊夢と柴芭。

 

「…そう言う訳だから、早速やろうぜ!」

 

「分かったよ。 …じゃあ少しやってみようか」

 

暫く話した後、ジークは弾幕ごっこを受ける事にした。

魔理沙に導かれるまま、ジークは境内へと足を運ぶ。

 

「…うまい事言い聞かせたわね」

「孔明…だな」

「やるわね…あの魔法使い」

「旦那様…意外と乗せられやすいんですね」

 

その場に残った四人は、畳の上で観戦する事にした。

 

 

境内で互いに向かい合う魔理沙とジーク。

魔理沙は自信に満ち溢れた不敵な笑みを、ジークは何を考えているのか分からない飄々とした笑みをそれぞれ浮かべる。

 

それぞれの手には、自身のスペルカードが握られていた。

 

「弾幕ごっこは初めてじゃないんだよな?」

「うん、何度かやったよ」

「なら、ルールの確認は要らないな。 多少は手加減してやるから、本気で掛かってこいよ!」

「お手柔らかに頼むよ」

 

互いに口上を述べると、彼らの間に一定の緊張が奔る。

魔理沙は箒に跨り、ジークは巨大な翼を広げ、空へと浮かび上がる。

 

「それじゃあ、先手は貰うぜ!」

 

両手の付け根を合わせ、そこから星型の弾幕を放つ魔理沙。

 

「へぇ~…中々綺麗じゃないの…」

 

目の前に迫る弾幕の美しさを褒め称えるジーク。

そんな感想をあげつつも、それらの弾幕は一つ一つ軽やかに回避していく。

 

「なるほど…動きは中々良いみたいだな。 流石は吸血鬼だ」

 

「それはどうも。 …では、此方からも」

 

人差し指を立て、指揮者が指揮棒を振るうような動作を取るジーク。

すると、その指の先から紫色の弾幕が放たれ、魔理沙目掛けて不規則に飛んでいく。

 

「中々面白い弾幕の飛ばし方だなぁ。 でも、まだ様子見って所か?」

 

魔理沙もまた、僅かな動きで次々と弾幕を回避していく。

 

決闘の様子を見ていた霊夢は、ジークの放った弾幕に何処か既視感を覚える。

 

「あの弾幕…確か、アンタあんな感じのスペル使って無かったっけ?」

「えっ? …ああ、あれね。 まあ、アレは元々兄様の技だったからねぇ」

「へぇ、そうだったの。 道理で色も性質も似ていると思ったわ」

 

霊夢の疑問にレミリアが応える。疑問が解消した霊夢は、再び観戦する体制に入った。

 

ジークは弾幕を撃つ手を止め、魔理沙もまた動きを止める。

 

「お互いに様子見はここまでにしようぜ…?」

「そうだねぇ。 …それじゃあ、どうぞ?」

「なら、遠慮なく行くぜ!」

 

再び魔理沙が弾幕を放つ。先程までよりも更に大量かつ、速い弾幕であった。

 

「あの量…魔理沙、本気みたいね」

「…大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。 …少なくとも、兄様は私よりも遥かに強いもの」

「アンタより強いですって…? 一体どれぐらいなのかしら…」

 

不安げな声で問う柴芭に、レミリアは自信を持ってそう答える。

霊夢はその言葉を半信半疑で受け止めながらも、この勝負を見届ける気でいた。

 

「凄い星の量だねぇ…これが夜だったらなぁ…」

 

目を輝かせ、視界を埋め尽くす星々を見て恍惚とした表情を浮かべるジーク。

 

「どんな原理で出来ているんだろう…もっとよく見てみたいなァ」

「暢気な事言っている場合じゃないと思うぜ?」

「ああ、良い事を考えた。 …()()を使うとしよう」

 

魔理沙の言葉を歯牙にも掛けず、ジークは一枚のスペルカードを取りだす。

 

「銀符『シルバーリフレクシオン』…こうかな?」

 

いまいち締まらない宣言と共に、ジークを中心に半透明な銀色の幕のような物が広がる。

その幕に包まれた魔理沙の弾幕は、次第に勢いを失っていき、ついには()()()()()()()()

 

「はっ…?」

 

余りに予想外の出来事に、弾幕を打つ手を止めて呆気にとられる魔理沙。

 

「な、何なのよ()()は…」

「いや、私に聞かれても…」

「兄様の魔法はいつ見ても凄いわ…!」

「…あの人、あんな技も使えたのか」

 

その様子を見ていた四人も、それぞれ反応を示す。

霊夢は不可解だと言わんばかりに唸り、咲夜はその特異な現象に困惑し、レミリアはジークの力に興奮し、柴芭はジークの技の豊富さに感嘆の声を上げた。

 

「ふーん…へぇ…なるほどねぇ…こうなっているんだぁ…」

 

動かなくなった弾幕を、まるで博物館の展示品を見るかのように眺めるジーク。

弾幕の細部まで事細かに眺めたり、時には手にとってみたりと好き勝手に弄り続ける。

 

「おい…これいつまで続くんだ?」

 

「え? ああ…そうだね、そろそろ返さないと」

 

痺れを切らした魔理沙がそう問うと、ジークは眺めるのを止める。

そして、魔理沙に向けて止まっていた弾幕を()()()()()()()

 

「えっ…ちょ、うわあっ!?」

 

勢いそのままに跳ね返された弾幕は、容赦なく魔理沙に向けて飛んでいく。

予想外の展開に狼狽しつつも、弾幕自体は素早く回避する魔理沙。

 

「全力で撃ったのが裏目に出たわね。 …やっぱり、あの反射えげつないわ」

 

自分の弾幕を容赦無く受ける魔理沙を、多少同情の念を込めながら見つめるレミリア。

 

「それでも、あの弾幕の中掠りもしないだなんて…魔理沙の方も凄いですわ」

「流石だな…せんせい」

「……」

 

その弾幕の嵐に晒されながらも、被弾一つしない魔理沙の腕に舌を巻く咲夜。

柴芭も同じ感想を抱き、霊夢はその戦いの様子を黙して見続けていた。

 

「危ない危ない…それにしても、一体何なんだそりゃ?」

「これはねぇ、僕の魔法だよぉ」

「…いや、でもそんな魔法は今まで見た事無いぞ」

 

そう答えたジークの言葉に疑問を抱き、自身の魔法に関する記憶を探り出しながらジークに問いかける魔理沙。

 

「そりゃそうだろうねぇ。 だって、僕が勝手に作ったんだもん」

 

「…は? 作った!? んなバカな…」

 

さらりと答えたジークの言葉に驚愕する魔理沙。

 

「まぁ…信じがたいだろうねぇ。 何なら今度パチェにでも聞いてみなよ」

「あ、ああ…そうさせてもらうぜ」

「…さて、気を取りなおして決闘の続きと行こうか」

「お、おう! 行くぜっ!」

 

多少の動揺は見せつつも、すぐさま戦意を取り戻す魔理沙。

再び、二人の周囲に弾幕が張り巡らされていった。

 

その一連の会話を聞いていた霊夢は、レミリアに問いかける。

 

「…アンタのお兄さん、本当に何者なのよ?」

「兄様は兄様よ、それ以外の何者でもないわ」

「聞いた私が馬鹿だったわ…」

 

答えになっていない答えを返すレミリアに、霊夢は大きく溜息を吐いた。

 

「今度はこっちから行くぜ! 魔符『スターダストレヴァリエ』!」

 

宣言と同時に、魔理沙の周囲に七色の星のような弾幕が展開されていく。

その様子を見ていた四人は、目まぐるしく形を変えて行く星々にすっかり魅入っていた。

 

「これがフランの言っていたスペルかぁ、随分と綺麗じゃないか」

 

「そりゃどうも、私もお気に入りなんだ」

 

その輝きを讃えるジークの言葉に、満更でもない反応を返す魔理沙。

 

「これに新たな魔力を注ぎ込むと、どんな輝きを放つんだろうなぁ…」

 

「それはやってみなきゃ分からんな。 でも、今はそんな余裕は無いんじゃないか?」

 

新たな意欲に燃えるジークに対し、そう指摘する魔理沙。

七色の星屑は、ジークの眼と鼻の先程にまで迫ってきていた。

 

「確かに…そうだね」

 

目を伏せ、静かにそう呟く。

そして、右手を手前に翳し、指先にスペルカードを出現させる。

 

「何事も、試してみなきゃ分からないね」

 

星の弾幕の向こうにいる魔理沙へ不敵な笑みを投げかけるジーク。

 

「…おいおい、正気かよ?」

 

そんなジークに対し、呆れた様子でそう問いかける魔理沙。

だが、問いかける魔理沙の口元は、ジークと同様に吊り上がっていた。

 

「そう見えるかい? 錬成『マジックアルケミーポッド』!」

 

ジークの眼の前に、人の上半身程の大きさの窯のような物が出現する。

 

「なんだぁ?」

 

「さぁ、なんだろうね? …答えは、見てのお楽しみさ!」

 

そう高らかに宣言し、ジークが指を鳴らす。

乾いた音が境内に響き渡ると同時に、目の前の窯が小刻みに振動し始める。

 

次の瞬間、目の前に迫っていた星の弾幕が、全て窯の中へ()()()()()()()()()

 

「うえぇっ!?」

 

「答えは、錬金窯。 こうやって、弾幕を吸い込むのさ」

 

全ての弾幕が吸い込まれ、驚嘆と困惑の声を上げる魔理沙。

そして、その窯の中に紫色の弾幕を数発放つジーク。その全てが、窯の中へ消えて行く。

 

「そして…ここからが本番だ。 良く見ててごらん」

 

宙に浮く錬金窯に注目するようにジークは言う。

魔理沙に向けてか、或いは決闘の様子を眺めていた四人に向けてかは分からない。

 

すると、錬金窯が淡い紫色の光を放ち始める。

 

「な、なんだ…?」

 

その様子を見て、魔理沙が声を発する。

観戦していた四人もまた、口には出さずとも同じ言葉を想い浮かべた。

 

「さて、どうかな…」

 

窯が放つ光が更に強まって行き、術者以外のその場にいた者達は目を覆った。

 

その光が晴れると同時に、窯の中から何かが飛び出てくる。

 

「おおぅ、どうやら成功したみたいだ」

 

飛び出てきた物を右手で掴み取り、それを眺めては満足気に頷くジーク。

一方、何が起きたのかが理解できない魔理沙は首を傾げる。

 

「オイ、そりゃ一体何なんだ?」

 

「コレかい? コレはスペルカードだよ。

錬金によって生まれた、ボクの新たなスペルカードさ」

 

そう言ってジークは右手に持った物を魔理沙に見せる。

 

ジークがその手に持っていたのは、紛れもないスペルカードであった。

目を凝らしてそのカードを見る魔理沙は、次の瞬間、大きな目を更に大きく見開く事になる。

 

「ま、まさか…私の『スターダストレヴァリエ』か!?」

 

細部は違えど、魔理沙の持つ『スターダストレヴァリエ』に酷似したデザインのカードであったからだ。

 

「元になったのはそれだけど、コレは全くの別物だよ。

この錬金窯が吸収したスペルや弾幕の内容によって、出来あがる物も変わってくるのさ。

元になったスペルよりも更に強力になったり、逆に弱くなったり…或いは、錬成自体が失敗する事もある。

…結局、運任せになるけど、そこらへんがボクとしては面白いんだよね」

 

「へぇ…」

 

ジークの説明を聞きながら、興味深そうに数度頷く魔理沙。

 

「今回は見事に成功。 …元より強くなっているかどうかは、君自身の眼で確かめてみな」

 

「面白い…試してやるぜ、そのスペル!」

 

錬成したスペルを水平に構え、横に薙ぎながら宣言する。

 

「魔符『シンセティックスター』!」

 

宣言と同時に、ジークの背後から七色の星のような弾幕が拡散する。

一度虚空に散らばった星屑は、そのまま一斉に魔理沙目掛けて集結していく。

 

「こう改めて見ると、本当に綺麗だ……けど、オリジナルは負けないぜ!」

 

迫りくる七色の星の中に、魔理沙は勢いよく突っ込んでいく。

傍から見れば、それは自滅行為にも見えただろう。しかし、彼女の場合は違った。

 

飛来する弾幕一つ一つの『特徴』、そして自身の技が元である故に弾幕に生じる動きの『クセ』、それを魔理沙は見逃さなかった。

それらを見抜き、無駄の無い動きで弾幕を回避していく魔理沙。

その姿は、まるで星の海を突き進む一筋の彗星のようにも見えた。

 

七色の星の海を泳ぎ切り、ついに魔理沙ははジークの目の前まで辿りついた。

 

「へへへっ…まだまだ、オリジナルには及ばないな」

 

「あらら、それは残念」

 

ジークの喉元にスペルカードを突きつけ、ニヤリと笑う魔理沙。

それでもジークは笑みを崩す事無く、おどけた様子で肩を竦めてそう言った。

 

「もうスペルカード使いきっちゃった。 …ボクの負けだねぇ」

「そう言う割に、随分と楽しそうじゃないか」

「フランと戦った時よりは善戦できたし…何より、錬金が上手く行ったからねぇ」

「お、おう…まあ、私も貴重な体験ができたから良いか」

 

フランとの戦いがどんな物であったのか魔理沙には知り得ないが、『フラン』という単語を発した際にジークの表情が一瞬歪んだのを見て、なんとなく察した。

 

 

縁側で戦いの一部始終を見ていた四人は、途中から完全に無言であった。

ジークの奇想天外なスペルに、皆言葉を失っていたのである。

 

「…戦いの最中にスペルを作るなんて前代未聞よ、全く」

 

スペルカードルールの発案者である霊夢は頭を抱えてそうごちる。

 

「旦那様のスペルを攻略するとは…魔理沙も侮れないわね」

「一応入っておくけど、兄様は全く本気なんて出していなかったわよ?」

「えっ?」

 

咲夜の言葉を否定するように、レミリアがそう告げる。

 

「だって、兄様は自分で攻撃するようなスペルを使っていなかったもの」

 

「…言われてみれば」

 

レミリアの言葉を聞き、柴芭は先の決闘の内容を反芻する。

 

ジークが使用したスペルカードは、『反射』と『吸収、合成』のスペルのみ。

魔理沙のように、自分自身で弾幕を放つようなスペルは一度も使用していなかった。

 

単に用意していなかっただけなのか、或いは、魔理沙の実力を測る為に敢えて使用しなかったのか。その答えはジーク本人にしか分からない。

 

「何百年と連れ添ったけど、まだまだ兄様は謎が多いわ…」

「旦那様の事…少しだけ分かったような気がします」

「なんというか…色々と型破りなヤツね」

「……」

 

境内に降り立つ二人を眺めながら、彼らは思い思いにそう呟くのであった。

 

 

 

------

 

一方その頃、紅魔館では―

 

 

「いっくよ~!めーりーん!!」

 

「フ、フラン様それは危ないですってうわああああああ!?」

 

「あははは! すごいねぇ~! それじゃ、もっといくよぉ~?」

 

「ひいぃっ!? ま、まだやるんですかぁ~!?」

 

「とーぜんだよ! 今日は一日中遊ぶのっ!」

 

「そ、そんなぁ…」

 

 

「…三人とも早く帰ってきてえええぇぇっ!!」

 

 

美鈴の悲痛な叫びは、フランドールが放った弾幕の爆音に掻き消された。

 

 

 




ふしぎなふしぎな錬金窯、混ぜて合わせてふしぎなスペル。
成功するかは気分次第、ポッドはいつでも気まぐれさん。

↑5秒で思いついたフレーズ。(特に意味は)ないです。


ジークの初の戦い、如何でしたでしょうか。
彼は相手の意表を突いたりして、相手を翻弄する戦法が大好きです。
正攻法を好まない彼は、ある意味吸血鬼らしい吸血鬼と言えるかもしれません。

美鈴の扱いが酷い…美鈴ファンの方すみません許して下さいなんでもしますから!

やっぱり日常の延長線上にある戦いは基本的に軽いノリですね。
まあ、それが東方らしいっちゃらしいとは思いますが。


次回、吸血鬼の幻想旅路。ジークが幻想入りしてからの出来事を語ります。


今回登場したスペルカード

原作に登場するスペルの紹介が無いという…。

銀符「シルバーリフレクシオン」
ジークのスペルカード。銀の属性という未知の属性の魔法。
銀幕を周囲に展開し、そこに触れた弾幕は全て勢いを失って止まってしまう。
一定時間経つと全て元の勢いのまま相手に返ってくる。自分の弾幕にやられるのはイヤだよね。
『リフレクシオン』はドイツ語で『反射』という意味。

錬成「マジックアルケミーポッド」
ジークのスペルカード。魔法の錬金窯。
相手が使用したスペルカードと自分の弾幕とを窯で合成し、自分の新たなスペルに変えてしまう。
成功するかどうかは運次第な上、仮に成功しても元のスペルより強くなるかは分からない。
何とも不安定なスペルだが、ジーク本人は気に入っている模様。

魔符「シンセティックスター」
錬金窯によって生み出されたスペルカード。合成の星。
魔理沙の『魔符「スターダストレヴァリエ」』を元に合成された物で、本家同様七色の星を放つ。
尚、錬金窯で生み出したスペルカードを使えるのは一度きりで、それ以降はただのカードになる。
魔法の媒体には使える…かもしれない。



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