神々が愛した幻想郷 ~ Fantasia Variants Dreamed. 作:左右手
最後なので、と色々詰め込んだ結果がこれですよ。
…展開は二転三転すると思うので、流し読みでも読んでいただければ幸いです。
今回は少々シリアスな部分がありますので、ご注意をば。
-あらすじ-
盟友の契りを交した河童に道具を貰いました、やったねジークちゃん。
厄神がお友達になりました。そして、妖怪の山で天狗に眼を付けられました。
妖怪の山の内部には、立派な建物や集落等が点在していた。
以前日本のナラ旅行で見たゴジュウノトウみたいな建物もある。
この妖怪の山は天狗を中心としたコミュニティを形成しており、その文明レベルは人里等とほぼ変わらないらしい。…まあ、雛に聞いただけだから実際何のことかは良く分からないけど。
最も、その景色をゆっくり眺める暇は無かったけどね。
手枷らしき物を両手に付けられ、ボクをは完全に天狗に取り押さえられている。
その状態のまま、天狗達はボクを連れて空を飛んでいく。
…はっきり言って、余りに脆すぎるなぁ、この手枷。こんなんじゃ、吸血鬼のパワーじゃあっという間に壊されちゃうだろうねぇ…。
まぁ、暴れないようにと雛に念を押されているから、そんな真似はしないけどね。
…見張りの天狗の突き刺すような視線が痛いねぇ。
特に、あのリーダー格の天狗……時折此方を見ては、殺意紛いの視線を投げかけてくる。
そんな恨まれる事をした覚えは無いんだけど…もしかして、過去に吸血鬼関係で何かあったのかな?
詳しい話を聞いてみたかったけど、流石に切り出せるような雰囲気じゃ無かったのでやめておいた。触らぬ神に祟りなし。クワバラ、クワバラ。
暫くして、何やら大きな建物についた。
ちょうど山の中腹辺りに位置するこの場所、どうやら天狗達にとっての要所であるらしい。
周囲にはこれまで以上に大量の天狗が飛び交っている。皆随分と忙しそうだねぇ。…ひょっとしたら、ボクのせいかもしれないけど。
「来い」
淡々とそう告げるリーダー天狗、ボクはそれに引っ張られるままに中へと入る。
広間を抜け、廊下を渡り、とある部屋の前へと連れられる。
「白狼哨戒○八部隊長
『……通せ』
扉の向こう側から低い声が響く。男性の声だろう。
リーダー天狗が扉を開け、ボクは中へと連れられる。
天狗と思しき大柄な男が、椅子に腰かけて机の上の書類を読み漁っていた。
恐らく、彼はエライ天狗なのだろう。…他の天狗達よりも数段気迫が違うものね。
「…犬走部隊長、その者は?」
「先程、この妖怪の山の領地に侵入した吸血鬼です。
以前の異変での生き残りの可能性もあります。 危険因子と判断し、捕らえました」
「……」
リーダー天狗…改め、犬走部隊長がそう告げると、その天狗の男は黙り込んだ。
以前の異変ねぇ…本当、一体何があったんだろうね。
天狗の男は此方を品定めするようにじっと見つめている。
…目があったので、とりあえず笑っておいた。…無視された。
「…相分かった、一先ず牢に入れておけ。
その者の処遇は後ほど決める。 …下がってよい」
「了解しました。 では、失礼致します」
やり取り自体はごく簡潔に終わった。要するに『ボク牢屋行き決定☆』ってだけの話だね。
…それにしても、あの天狗は本当に天狗なのかい?まるで、神サマみたいな存在感だったけど…。
「さっさと来い、吸血鬼!」
後ろから犬走部隊長の怒声が響く。どうやら、もう退場らしい。
はいはい、分かりましたよ…そんなに強く引っ張らなくても、別に逃げたりしないって。
部屋を出る際に、横目に天狗の男を垣間見た。
視線を書類に落とした彼の表情は、酷く難しい物に見えた。
暫く連れられると、今度は薄暗い洞穴のような場所に来た。
申し訳程度に蝋燭の火が照らしているが、それでも十分暗い。
…最も、
天狗達の歩みが止まる。着いたのかな?
目の前にはかなり分厚い鉄格子がある。恐らく、ここが牢屋だろう。
「入れ、ここで大人しくしていろ」
乱暴に押し出され、そのまま牢の中へと放り出される。
そのまま鍵を閉められ、天狗達は何処かへ行ってしまった。
あれ?看守はいないの?…っていうか、枷外してくれないの?
…まぁ、良いか。その方が此方にとっても好都合だ。
「よ…っと。 あらら、やっぱり簡単に壊れちゃった」
軽く力を込めて外側に引っ張っただけで、手枷は真っ二つに割れてしまった。
手首に纏わり付く感覚が邪魔なので、手に残った部分もまとめて外してしまおう。…なんとなくだけど、湿布をはがす時のあの感覚を思い出した。気のせいだと思いたい。
さて…見張りはいないみたいだし、雛辺りに電話でも掛けようかな。
…いや、この場合“電”話じゃないよねぇ…じゃあ、何だろう…?…“念”話?…まぁ、何でも良いか。
『あややや…やっぱり遅かったか…』
フロイントに手を伸ばそうとした時、唐突にそんな声が洞穴の中に響く。
先程まで気配が無かったのに、鉄格子の前に少女が立っていた。
黒いリボンがアクセントに入った白い半袖のシャツに黒いフリルの入ったスカートと、道中で見て来た天狗達のそれとは違い、何処かフォーマルな印象を与える。
頭には天狗達ど同様、小さな赤い帽子のようなものを被っている。黒いショートボブの髪型も相まって、活発そうな印象を与える相貌である。
その少女は、後ろ手を組んで此方に近づいてくる。
一歩、一歩と進む度に『カラン、コロン』と乾いた音が鳴る。
足元に目を向けると、彼女の履いている靴の底がゲタのように高い作りであると分かった。
「どうも、はじめまして!」
その少女は鉄格子のすぐ手前まで来たかと思うと、笑顔で挨拶してきた。
「こちらこそ、はじめまして。 …名前を伺っても?」
「ああ、これは失礼しました。 私、清く正しい
文と名乗ったその少女は、清く正しくがモットーらしい。
それに、大分社交的みたいだし…彼女なら、色々と話が通じそうだよ。
「ご丁寧に、ボクはジーク・フォン・アーカードだよ。
…雛が言っていた『知り合いの天狗』って言うのは、キミの事かい?」
「…ええ、そうよ。 さっき、雛が私の元に来たわ。 けど、いざ駆け付けてみれば…
ごめんなさい、私がもっと早くに動いていればこんな事にはならなかったのに…」
そう言って文はがっくりと肩を落とす。割と落ち込んでいるようだ。
…真面目な性格なのかもしれないね、彼女は。
「別に、気に病む事は無いんじゃない?」
「気に病むわよ……幻想郷最速と謳われたこの私が遅れを取るだなんて不覚だわ!」
あ、そっちなんだ。…っていうか、最速なんだ。すごいね。
「…けど、雛との約束を守れなかったのも、勿論責任感じてるわ。
まさかこんな事になるだなんて、予想していなかったんだもの」
口ぶりから察するに、彼女は天狗の中でも割と上の立場に居るのかもしれない。
だとしたら、ある程度の決定権みたいなのも備わっているのかな?…それとも、ただ単に顔が効く程度の話なのかな?
「みたいだねぇ。 雛の話と違って、あの犬走とかいう隊長天狗は随分と容赦が無かったもの」
「椛か…ハァ、全くあの子は…」
どうやら、犬走隊長とも面識があるみたいだ。あんまり良い関係では無いようだけど。
ひょっとして、彼女でも手を焼く程の天狗だったりするのかな?
「あの子、
あの時…やっぱり、過去に吸血鬼絡みで何かが起きたのは間違いないようだ。
それが一体何なのか、どういう事件だったのか、ボクはそれが知りたい。
…けど、まずはその前に連絡だ。
「ところで、ここってケータイOK?」
「へっ? ケータイ? …まぁ、良く分からないけど多分良いんじゃない?」
多分良いらしい。多分良いって事は良いってことだね。よっしゃー。
許可が得られた事で、ボクは改めてフロイントを取り出し、雛に連絡を試みる。
さて…鍵山雛、鍵山雛…繋がるかな~?
『…ぁ、これってもしかして…ひょっとして、ジークかしら?』
お、繋がったみたいだ。雛の声がフロイントから聞こえてくる。
「え? 何で雛の声が…?」
文がなんか言ってる。けど、説明は後回しだ。
『心配したのよ…ついさっき、吸血鬼が捕まったって天狗達が噂してたから…』
「ああ、ボクなら平気さ。 ついでに、キミが言っていた知り合いとも合流できたし」
『えっ? 文がそっちにいるの?』
「うん。 何なら変わるようかい?」
『…いいえ、大丈夫よ。 …とりあえず、今は大人しくしておくべきね。 あんまり唐突な事だったから、山全体がかなりごたごたしている状況みたいよ。 今下手に動くのは、かえって危険だわ』
「了解だよ。 まぁ、何とかなるさ」
『…随分と気楽な物ね。 まぁ、吸血鬼なら問題ないでしょう』
「そういうことだね。 それじゃあ、また今度ね」
『ええ、それじゃあね』
通話終了。料金は当然掛からない。なんて素敵な繋がりだ。
ただ…ちょっと音量が大きいね。これ調整できるのかな?
一区切りついた所で、文の方を見る。
やはり、と言うべきか、かなり混乱しているようだ。
…無理もないよね。さっきまで話していた筈の雛の声が機械から聞こえたんだもの。
「一体何なの…それ?」
「コレはフロイントっていう、まぁ…遠くの人と話が出来る機械さ」
「遠くの人と、ねぇ…。一体どういう仕組みなのかしら?」
それはボクが知りたいくらいだ。…まぁ、その辺は盟友のみぞ知るって事だね。
「知りたいなら、にとりに聞きなよ」
「えっ…にとり? 貴方、にとりとも知り合いなの?」
「ああ、そうだよ。 今日盟友になった。 んで、これ作ってもらった」
「気難しい河童とたった半日で友だちになるなんて…」
河童は気難しい種族なのか。にとりはそんな感じでは無かったけどねぇ…。
「…さて、どうしようかなぁ」
「どうしよう…って?」
「やる事が無いんだよねぇ、ボク」
「……」
そう、処遇が決まるまで、ボクは至極退屈なのだ。
やる事と言ったら、せいぜいにとりと雛に話相手になってもらうくらいだ。
「…ところで、貴方っていつこっちに来たの?」
暫く考え込むように黙っていた文は、唐突にそう質問してくる。
「昨日だよ」
「そう、か…なら、知らないのも無理はないか…」
正直に答えれば、何やらで納得した様子の文。こっちは何の事かさっぱりだよ。
「…何が起きたのか、貴方には話しておくわ」
そう言うと、文は鉄格子の前にしゃがみこんだ。
スカートの中見えちゃうよ?…じゃなくて、一体どうしたんだろうね?
「…あんまり大きな声では言えない事なのよ」
なるほどねぇ。 …別に、こんなところで話しても誰にも聞かれないと思うけど。…けど、空気を読んで、口には出さないでおいた。
そして、文は周囲を気にしつつも、ゆっくりと話し始めた。
「…今から2年程前、幻想郷に吸血鬼がやってきたの。
その吸血鬼は、幻想郷を支配する目的で、妖怪達に対して戦争を仕掛けたわ。
これが俗に言う『吸血鬼異変』の始まりだったのよ。
幻想郷が外と隔離されて以来、妖怪達は日々衰えていた。 …そこに、吸血鬼の侵攻よ。
その吸血鬼は、多数の眷属を従えて、数と力で幻想郷中に攻め入った。
当時の妖怪達は成す術無く倒され、多くが吸血鬼の軍門に下ったわ。
…けれど、衰えつつあった妖怪達の中でも、力を失わずにいた強い妖怪達がいた。
その妖怪達の活躍によって、吸血鬼が連れ込んだ大軍勢は大半が倒された。
吸血鬼も幻想郷への侵攻を止めた事で、三日三晩続いた戦争は漸く鎮圧されたわ。
…ただ、決して無血の勝利とはいかなかった。
あの事件によって、人妖問わず、決して少なくない命が奪われた。
人里にも…当然、この妖怪の山にも、多くの被害が出たわ。
…そういう経験があるからこそ、妖怪の山は徹底して閉鎖的なのよ。
特に、吸血鬼に関しては…ね」
彼女の口から語られた過去、その異変の一部始終。
ボクにとっては信じ難かったが、この山の現状を見るに、事実なのだろう。
「あの子、椛はね…あの事件で母親を失っているのよ。
魔物に襲われ、逃げ遅れたあの子を庇って…あの子の母親は亡くなった。
あの子の母親は、今の椛と同じ哨戒天狗だった。
彼女の事は、今でも覚えている…。 …哨戒天狗にしておくには惜しいほどの逸材だと、いつも上官から昇進のお誘いを受けてる程の人だったわ。
けど、彼女はずっとその昇進を拒んできた。
『階級が上がれば仕事も増えて、自由な時間が減ってしまう』…それが彼女の、昇進を断る決まり文句だったわ。
椛と一緒にいられる時間を、大事にしたかったのでしょうね。
…それ以来、あの子は吸血鬼に対して並々ならぬ憎しみを抱いている。
けれど、その吸血鬼が直接母親に手を掛けた訳でも、自身を襲った魔物が吸血鬼の眷属だった訳でも無かった。
…不幸な事故だったのよ。 だれのせいでも無く…ね。
けれど、幼かったあの子に、そんな事実が受け入れられるはずも無かった。
怒りも、悲しみも、憎しみも…全て誰かに向けなければ気が済まなかった。
その矛先が、吸血鬼よ」
…なんというか、言葉が出なかった。
淡々と告げられる事実に、ボクは頷く事も出来なかった。
「今回の事も、吸血鬼に対する憎しみからの行動だと思っているわ。
…あれから二年が経ったけど、今でも心の整理は付いていなかったみたいね。
…あ、すみません、長々と語ってしまって」
「…いや、ありがとう。 …お陰でよく分かったよ」
漸く出せた言葉は、何とも平凡な受け答えの言葉。
いつものように、軽口を叩く事さえ、今のボクには出来ないらしい。
「アハハ…何だか、変な空気になったいましたね。
…あ、そろそろ戻る時間だ。 それじゃあ、失礼しますね」
そう言うと、文は足早に去っていった。
洞穴の中では時間の変化は分からない。だが、吸血鬼の感覚で行くと、もう夜中だろう。
だが、一切眠気は起きない。…まぁ、元々夜に寝る生き物じゃないけど。
文が話した過去の事を、今の今までずっと考えていた。
過去に起きた異変の元凶は吸血鬼…そして、その吸血鬼は外の世界から来た…。
吸血鬼自体がとこまで居るのかは把握できていない。…そもそも、今現在生きている吸血鬼なんて
もし異変を起こした吸血鬼というのが彼女の事なら、皆この世界に来ているという事になる。
…そして、犬走椛が憎しみの矛先を向けているのも、恐らくは彼女だろう。
だとしたら…“友だち”には、やっぱりなれないのかな。
…?何だろう、フロイントの画面ににとりの名前がある。
とりあえず、通話に応じる事にした。
「もしもし?」
『…あ、ジーク。 …よかった、繋がったみたいだ』
声の主はにとりだった。まぁ、当然だけど。
『あの後天狗達に捕まったって聞いたから…大丈夫だったか?』
「まぁ、大丈夫だよ。 ところで、今何時だい?」
『それ今聞く事か!? …えっと、夜の11時だよ』
「なるほど。 ボクの体内時計は正確だったワケだね」
『どういう体のつくり…? …文から、聞いたよ。…椛のこと』
受話器の向こうのにとりの声のトーンが少しだけ落ちる。
『そうそう…私と椛は友だちでさ、良くいろんな世間話をしたりする仲なんだ。
…けど、普段はあいつ、自分の過去の事なんて全然話さなかったから、さ。
私も…私達河童もさ、あの異変の時、何人かが魔物にやられちゃったんだ』
「……」
『その中に、親しかったヤツもいた…あの時は、吸血鬼の事を憎んださ。
けど…その後で、分かったんだよ。 仲間を襲った魔物は、皆異変に乗じて暴れ出した妖獣だったんだってね。
そしたら、それまで吸血鬼に向けていた憎しみが、何処かに消え失せてしまったよ。
その上、あの吸血鬼自体は、ただの一人も殺めちゃいなかったんだ。
…それが分かったらもう、あの吸血鬼を憎む事なんて、出来なかったよ。
今では、あの吸血鬼に多少は感謝しているよ』
「感謝…だって?」
『ああ、そうさ。 あの吸血鬼異変があったからこそ、幻想郷は変わったんだ。
…きっと、自分の中で整理が付いたんだと思う。あの過去の事にね。
勿論、あの事を忘れた訳じゃ無いし、その事実は変わらないよ。
けど、いつまでも後ろ向きで生きるのは馬鹿らしいって…そう思えるようになったんだよ』
後ろ向きで生きるのは馬鹿らしい…か。確かに、前向きに生きるのは大事だね。
どんな過去だろうと、過去があるからこそ今がある。そう思う事が、心の整理に繋がるのかもね。
『…私は、今の椛が気の毒で仕方がないよ。
あいつの気持ちは良く分かるさ。 それこそ、痛い程にね。
…でも、だからこそあいつには、これ以上囚われて欲しくないんだ。
あいつは二年前からずっと強くなった。今じゃ哨戒天狗の部隊長までなったんだもの。
あいつのお母さんと同じ階級だよ。 …もう守られるだけの天狗じゃ無いって、誰もが分かってる。
いい加減、守られてばかりだった過去に決着を付けて欲しいんだ。
…でも、それを促すような真似は出来ない。
そういうのは、自分自身で気付いて…気付いた上で、乗り越えなきゃならないんだ。
…長く生きていると、色んな事を経験する。
辛い事だって、沢山あるだろうさ。 …けど、それを乗り越えなきゃ、前は向けない。
…おまえも、そんな経験あるんじゃないか、盟友?』
「……そうだね」
失った悲しみも、奪われた憎しみも、ボクには良く理解できる。
だが、過去に囚われたままでは、変われないし、変わらない。
ボクもこの長い人生で、色んな事を経験してきた。
千年とちょっと生きてきて、何度そんな思いを味わったか…今でも、良く覚えているよ。
…けれど、その過去を忘れたい、消したい等とは思わない。
過去があるからこそ、今の自分がある。そう思っているからだ。
『…きっと、おまえも苦しんだんだろうな。
おっと、別に聞きはしないよ。 …普通は、話したくなんて無いだろうしね。
…けど、私もおまえも、そう言う経験をして、その上で乗り越えて、今、前を向いて生きている。
だから、きっとあいつだって…椛だって、きっと乗り越えられるって信じているよ』
過去は決して消えないし、過ちは無くならない。…けれど、未来を見る事はできる。
『忘れる』んじゃなくて、『囚われない』、それが『乗り越える』ってことなんだ。
椛という子が、未来を見る事が出来るようになったら…その時は、きっと『友だち』になれるのかな?…なれるといいなぁ。いや、なる。そうに違いない。うん。
「…よし、決めた。 あの椛って子と絶対友だちになろう」
『あ、あはは…なんというか、大したヤツだな…盟友。
けど、おまえが椛の友だちになってくれたら…私も、嬉しいな』
どんな過去が合ったって、分かりあう事が出来るさ。
そうすれば、友だちにだってなれる筈さ。
「フフ…応援してよね?」
『ああ、もちろんだ。 …おやすみ、盟友』
にとりとの通話が終わり、フロイントの画面が消える。
素晴らしきかな、無料通話。一家に一台フロイント。
天狗と吸血鬼、分かりあえる日が来るかどうかなんてのは分からない。
けど…もしそんな日がやって来たなら、ボクは小躍りするだろうね。
…昼間出会った文とも、友だちになりたいな。
まずは、小さなところから分かりあっていこう。
どんなに小さな事の積み重ねだって、いつかはこの山のように大きくなるのさ。
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どうやら、いつの間にか眠っていたようだ。楽しい夢を見た…気がする。
地面はゴツゴツしていたので、天井に張り付くようにして眠っていたみたいだね。完全に無意識だったね。すごいね。
「おはようございま~す! …って、あれ?」
元気な声…の直後に、疑問の声。声の主は…あぁ、文だね。
今日も来てくれたみたいだ。嬉しいねぇ…あ、落ちそう。
「おはよごふぅ」
「うわぁっ!?」
落下中に言い切るのは無理だった。顔から地面に突っ込んだ。痛い。
「ちょ…だ、大丈夫…?」
「顔歪むかと思ったよ…あぁ、大丈夫だよ」
心配して声をかけてくれる文。けど大丈夫、吸血鬼の再生能力は凄いんだ。
それが証拠に、怪我も痛みもほぼ一瞬で消えてしまった。
「はぁ…それより、貴方の処遇が決まったみたいよ」
ボクの処遇かい?随分と決まるのが早いねぇ。
何だろう…斬首刑?火炙り?どれも通用しないんだけど。
「この書簡を渡すよう、大天狗様からお達しを受けたわ」
「手紙かい? 何だろう…ラブレターかな?」
「そんなわけ無いでしょ」
冗談、冗談。とにかく、中身を確認しておかないとね。どれどれ…
『囚人に告ぐ。
此度の侵入は意図的だが、山を害する物では無いと判断した。
依って、我との決闘により咎の有無を決める。
その方の勝利を以て、その咎を免ずる。
一週の後、場所は山の頂にて執り行う物とする。
飯綱三郎』
…まぁ、要するに『オレと勝ったらお前は自由だ』的な事だね。うん。
わざわざ一週間も待ってくれるのは、心の準備をしろって事かな?
「ねぇ、なんて書いてあったの?」
「難しい、読みにくい、はいどうぞ」
覗きこんできた文に、鉄格子越しに紙を渡す。
「ふむふむ、なるほど……えぇっ!?」
書かれた文字を目で追うように読んでいた文が、突然驚いたように声を上げる。
「何だい、どうしたんだい?」
「こ、これって…要するに『果たし状』じゃないですか!」
ハタシジョウ?デートの約束を書いた手紙かな?
「…つまり、大天狗様と一対一で戦えって事ですよ!」
「へぇ、そう」
「……」
「……」
「…いや、終わり!?」
「え、なにが?」
「いや、だって……ハァ、もう何かどうでも良いわ」
どうでも良いなら聞かなくても良いのに。
…そもそも、何をそんなに驚くんだい?
「この書簡を書いた大天狗様…飯綱様は、吸血鬼異変の時に活躍した一人なのよ。
数いる天狗の中でも、ずば抜けて強いわ。 多分、私以上かもしれない」
へぇ…ということは、かなり強いんだねぇ。
「いくら貴方が吸血鬼とはいえ、流石に相手が悪いわよ。
大天狗様は一体何を思ってこんな書簡を出したのかしら…?」
逢引きの為じゃない?…なんて、ボクにそんな趣味は無いよ。
「もしかして…見せしめの為に?」
「いや、それは無いよ」
「えっ?」
その飯綱って人が、もし昨日あったあの男だったとしたら、見せしめの為の決闘と言うのは、まずあり得ない。
彼を
そんな彼が、わざわざ決闘を申し込むとしたら…何か別の理由があるんだろう。
最も、それが何なのか、ボクは全く分からないけどね。
「まぁ、ボクなら大丈夫だよ。
…その大天狗サマがどんな強さかは知らないけど、ボクは負ける気は無いよ」
「大した自信ね…。 一体何を根拠に…ッ!?」
そう言いかけた文の動きが完全に固まる。
無理も無いね、いきなり
「い、今…一体、何したの?」
「分からなかったでしょう? だって、全く殺意が籠って無いものねぇ」
「そ、それだけじゃないわよっ! …動きが早すぎて、目ですら追えなかったわ」
「最速の文が目で追えないって事は、この剣は幻想郷の誰にも止められないねぇ」
まさに最速の剣…ん?待てよ…?そういえば…あっ…
「しまったぁ…止められるヤツいたよ…。 じゃあダメじゃん…」
「へっ…? そ、そう…(どんなヤツよ一体…)」
そういや…彼、今頃何処にいるのかなぁ?…まぁ、何処かで元気してるでしょう。
「…まぁ、残り一週間、のびのびと準備しますかねぇ」
「はぁ…まぁ、貴方なら多分大丈夫でしょう」
「そうそう、気負わない方が良いんだよ。
それより、ヒマだから色々とお話ししようよ」
「そうねぇ…それじゃあ…」
その日は、文と色々な事を語りあった。
ボクの思い出話も興味深げに聞いてくれていたしね。しかもメモを取りながら。
何に使うのかと聞いてみれば、どうやら彼女は新聞を作っているらしい。
その新聞のコラムや小話の欄に使えそうだという。仕事熱心だねぇ。
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そうして、一週間が過ぎた。
この一週間、殆ど文との語り合いで過ぎて行った気がする。
本当に、色々な話をした。…家族の事を話すのなんて、いつ以来だろうね。
彼女ともすっかり親しくなり、昨日はちゃっかりフロイントに登録してもらった。
最初の天狗の友だちは文でした~♪そういえば、鴉天狗なんだってね、彼女。
早い天狗の中でも鴉天狗は特に早いらしくて、文はその中でもトップなんだとか。
そんな思い出を回想している最中に、足音が近づいてくる。
そこにいたのは、椛とは違う天狗。此方は髪の色が黄色に近いが、白狼天狗なんだろうか?
「お早うございます。 本日は大天狗様との決闘を執り行う日です」
わざわざ囚人相手に敬語使う辺り、この子はかなり生真面目なのかもしれない。
…ふふ、ちょっとばかり、イタズラしたくなっちゃね。
「今扉を……へ?」
その天狗が鉄格子の扉を開こうと鍵に手を伸ばした瞬間、ボクは扉の部分を手で切り裂いた。
結果、見事に扉は前に倒れ、ボクは平然とした顔で彼女の前に立った。
唖然とした顔の天狗に、ボクは静かに語りかける。
「鍵は、要らないよ?」
「…ハイ」
「それじゃあ…案内、頼むよ?」
「……ハイ」
少々涙目になっていた。やりすぎちゃったかな?
…でも、ちょっぴりスカっとした。ごめんね、八つ当たりしちゃって。
そして、決闘が執り行われる山の頂に辿りついた。
案内してくれた天狗の子は、着いた瞬間一目散に逃げ出してしまった。…残念。
朝早くだというのに、周囲には沢山の天狗達がいた。
皆見せしめの決闘だとでも思っているのか、或いは大天狗の敗北は無いと思っているのか…。
どちらにせよ、ボクを応援する眼なんて……一人だけ、いた。
文だった。此方をちらりと見て、小さくウィンクをした。
その仕草が妙に可愛らしいと思ったが、意識は既に決闘に向いていた。
ボクの眼の前に立っているあの男…彼は、確か最初に出会った男の天狗だね。
…という事は、彼が大天狗の飯綱サマだったんだねぇ。
今日は朝から曇り空だ。眩い太陽も無いし、決闘にはもってこいだね。
目の前の大天狗に聞こえる程度の声で、ボクは問いかける。
「…本当に、良かったのかい?」
対峙する大天狗は、その言葉の真意を汲み取ってくれたらしく、小さな声で答える。
「…構わん。 …これが最良の選択だ」
あくまで、そのスタンスは変えないってことかい…。
…カッコいいねぇ、本当に。もっと愛想良くすれば女の子にモテるよ、絶対。
「…では、これより大天狗様と囚人の決闘を始める! 双方、準備は宜しいか!?」
審判役の天狗が宣言する。…お互い、覚悟は決めている。
大天狗に目をやる。彼は小さく頷いた。…覚悟アリ、って事かい。
「それでは、始めッ!!」
決着は、すぐについた。
大天狗はとても強かった。けれど、それでもボクには及ばなかった。
彼は知っていたんだ、最初から。
…雛が文に掛け合った事も、ボクを捕えた椛の事も、何もかもね。
文曰く『罪人の処遇は決闘によって決めるのが古くからのしきたりで、それには誰であっても逆らえない』という事実を踏まえ、同胞たる他の天狗を傷つけまいと、自分自身が相手となることで、肩代わりしようとしたんだ。
その結果が、目の前のそれだ。
ボクもいくらか手傷を負った、彼の実力は確かに高い。
だが…ボクはそれの上を行っていた。ただ、それだけの事。
…けれど、自分の身を捧げてまで同胞を守ろうとする彼の意志には感服した。
決闘はボクの勝ちだけど…意志の強さでいえば、彼の勝ちだろうね。
「ッ…! 貴様、よくも大天狗様をッ!!」
決闘の一部始終を見ていた天狗の一人が、此方に刃を向ける。
あれは…椛だったかい?酷く殺意の籠った眼を向けている…少し、悲しくなるね。
それに引っ張られるように、次々と周囲の天狗達が怒声を上げる。
このままじゃ収集付かなくなるんじゃ…決闘の意味が無いよ…。
「やめろッ!!」
それはまさに鶴の一声だった。
その一言を受けた天狗達は一瞬にして静まり返り、椛も静かに刃を下ろした。
「大天狗サマ…立ちあがって大丈夫なのかい?」
「大丈夫だ。 …それと、俺の名は
その大天狗は、自分から本名を名乗ってくれた。
「そうかい、サブロー。 ボクの名前は…知っているよね?」
「ああ、存じている、ジーク・フォン・アーカード…。 …これで、お前は自由の身だ」
やったね、自由だ。 …少しだけ、名残惜しい気もするけどね。
「…お前を待つ者が、湖の畔の館にいる」
「…なんだって?」
今…何と言ったんだい、サブロー?
「その館に住まう吸血鬼…名を、『レミリア・スカーレット』…という」
「なっ…!」
何だって…!?レミィが…
「…俺は、過去は決して忘れん。
だが…家族を愛する心は、吸血鬼とて変わらないと…俺は思っている。
それを奪う権利など…誰も持ち合わせてなどいない。
…さぁ、行け。 …早う元気な姿を、見せてやれ」
サブロー…キミって奴は…本当にカッコいい奴だよ、全く…。
ボクが女だったら、今頃惚れてるよ?
旅立つ前に、一通り挨拶を告げて行こう。
まずは、サブロー。
「…ありがとう、サブロー!」
「フン…」
あぁん、クール。でも、それがいい。
「文も、色々ありがとうね!」
「いえいえ~、良いって事ですよ!」
良い笑顔、良いスマイル。
こっちも元気になるね。
そして…複雑そうな顔で此方を見る椛。
やっぱり、『家族』という単語が飛び出したせいかな?
「…いつか、キミとも分かりあいたいな」
「…ッ!」
「フフ…それじゃあ、元気でね」
ちょっとビックリしたような顔。
初めて、怒っている以外のキミの表情を見れたね。
次に会う時は、キミの笑顔が見たいな。
ボクは一足先に、笑顔を届けに行ってくるよ。
そして、ボクは妖怪の山を離れ、湖へと向かった。
雨が降り出していたけれど、そんな事を気にする暇なんて無かった。
とうとう帰って来れるんだ…愛しき我が家族の元に…!
随分と待たせてしまったけど、今すぐに帰るから…待っていてね、皆。
…フフ…思わず涙腺が緩んじゃうよ…。ボクも年を取ったんだねぇ…。
まぁ、良いさ。涙は、雨で誤魔化そう。…案外、ボクもまだ子供かな?
降りしきる雨の中、ボクは湖の紅い館を目指した。
ただひたすらに、家族の事を想いながら。
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「…まぁ、こんな所だね」
やれやれ、あの時はああいったけど、これじゃ人の事言えないね。
「さて…おや?」
気が付けば、レミィはすっかり眠っていた。
「眠り姫かい? 子守唄のつもりじゃ無かったんだけどねぇ…」
…まぁ、少々退屈な話だったかもしれないね。
仕方が無い、今はゆっくり寝かせておこう。
レミィを抱き抱え、ベッドに寝かせる。
そして、頬を伝う一筋の涙を指で掬い、布団を上から掛ける。
「
辛く苦しかった事、悲しかった事…誰にだって、過去はある。
けれど、それを受け入れてこそ、本当の意味で前に進める。
人も、妖怪も、吸血鬼も、皆が皆、未来に向かって歩み始めている。
小さな一歩でも、いつかはきっと辿りつける。
未来は、誰にでもあるのだから。
ジーク・フォン・アーカードの回想、これにて終了です。
そして、ここらへんで、一旦ジーク編には一区切りとなります。
次回、幕間を挟んで新たな章へと向かいたいと思います。
ここまで読んで下さった皆様、ありがとうございました!
次回以降も、読んで下さるとうれしいです!泣いて喜びます!
活動報告で、書きたい事を色々書く予定です。
ヒマな時にでも、眼を通していただけると幸いです。